#22 第21話 疾風怒濤・天涯海角 VS 牛鬼蛇神
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
ポセイドンとの死闘の続き、お楽しみください!
第21話、始めます(*´ω`*)
「『馬耳東風』!」
危険を察知した久愛はカリンも防御できるように純白の大きな魔法陣で防御壁を作り出す。
「『シップウドトウ』『テンガイカイカク』!」
ポセイドンは突き出した両腕の掌を前方へ広げた。黄緑色に光る両手から真っ白な光が生じ、ドンッという鈍い音とともに強烈な衝撃波が放たれる。
バシバシバシッ──。
ポセイドンの放った衝撃波を久愛の魔法陣が吸収していく。
「防御しているのにすごい圧……吸収しきれるの?」
──このままだと……まずい……よね……?
久愛の不安が募る。
「おい、お前、俺とタイマンはりやがれっ! 『ヒブタヲキル』!」
翔也が声を張り上げ、右手を振りかぶりながら、ポセイドンに殴りかかる。翔也の右拳は真っ赤に染まり、その甲から立ち昇る火炎が鮮やかに弧を描く。
ガスッ──!
ポセイドンは翔也の右拳を右肩でいなす。
ジュー……。
翔也の右拳の火炎はポセイドンの右肩で少しくすぶっただけで掻き消されてしまった。
「貴殿の火炎攻撃は効かぬぞ」
ポセイドンは久愛とカリンへの攻撃の手を止めない。
──くそっ。ハーデスとは相性が良かったはずなのに。こいつとの相性は悪いのか?
バトルの先手一発を強力に食らわすことができる『火蓋を切る』スキルが全く効かなかったことに翔也は焦りを覚える。
「翔也君、僕の火炎系スキルも通じないってことかな?」
「ん……確かなことは分からないが……おそらく……」
「俺の雷撃は効かないどころか、みんな水に浸かってるからヤバくて使えねぇし……」
アヤトも雷属性のスキル攻撃で皆を感電させるのではないかと思い、手をこまねいている。
「久愛ちゃんは防御で手いっぱいだしな……」
洸たち三人が攻めあぐねているのを見たカリンが久愛の隣で両腕を上げて身構えた。
「あ、あたしがやってみるにゃ! 『猫に小判』!」
カリンが突き出した右拳から生じた水玉が猫の肉球を描き、華麗に輝きながら久愛の魔法陣を通過してポセイドンへと向かっていった。
「「「おぉ!」」」
衝撃波の中を突き進むカリンの肉球水玉を洸たちも見守る。ポセイドンは微動だにせず、久愛への攻撃を継続している。
パチン──。
肉球水玉はポセイドンの腹部へぶつかると、風船ガムを割ったときのような間の抜けた音とともにシャボン玉のごとくはじけ散った。
「『猫に小判』『猫に小判』『猫に小判』ニャ!」
パチン、パチン、パチン──。
カリンは続けてスキルを連打するもことごとくはじけ散る。
「話にならぬな」
ポセイドンは鼻で笑った。
「「「「「……」」」」」
「ぜ、全然……ダメにゃ……」
カリンは、自身のスキル攻撃のふがいなさを嘆き、目に涙をためている。
「カリン、大丈夫だから。泣かないで」
久愛が隣で慰めるが、その表情に余裕はない。
「カリンちゃんはまだ攻撃のイメージがうまくできてないのかも」
「俺を回復してくれたスキルはバッチリだったがな」
「どうする……」
──とにかくまず久愛ちゃんとカリンちゃんを助けないとな……アレを使うか。
翔也はポセイドンに向けて身構え、静かに両目を閉じ、ゆっくりと唱えた。
「『ギュウキダシン』」
翔也の顔に蛇を模したタトゥーが浮かび上がる。インクが衣服に沁みていくようにタトゥーから滲み出た赤の色素が肌全体を赤く染めていく。赤髪の間から漆黒の角が二本生え、体格もポセイドンと並ぶほど巨大化した。
「しょ、翔也君、『牛鬼蛇神』って……」
「翔也さん! それは諸刃の剣だったはず……」
「大丈夫だ! すでに試してる。前みたいに自分が犠牲になるっていうわけじゃないっ」
翔也は、かつて『牛鬼蛇神』スキルでミノタウロスを彷彿させる人外の姿になり、自己を犠牲にして大技を放った。だが此度は人の姿を保っている。
久愛とカリンの傍へ駆け寄った翔也は、二人を両脇に抱きかかえてその場から飛びのき、洸たちのそばへ戻った。
パリンッ!
ガラスが割れるような音とともに、久愛の魔法陣は木っ端みじんになった。同時に衝撃波は弱まることなく地表をえぐりながら魔法陣の後方へ突き進んでいく。
「「「「「……」」」」」
見えなくなるまで進行方向にある障害物をすべて吹っ飛ばしていく衝撃波の威力に、五人は言葉を失った。
「観念するのだ。五人まとめて遠くまで吹き飛ぶがよい。『疾風怒濤』『天涯海角』!」
再びポセイドンが衝撃波を放つ。
「『馬耳東風』!」
久愛も再び魔法陣で防御する。
「『シントウメッキャクスレバヒモマタスズシ』!」
魔法陣の上方から、翔也がもうひとつ防御スキルを唱えながら飛び立つ。
「ぐぅ」
──『牛鬼蛇神』に、このスキルを足してもまだこの威力か……。
『牛鬼蛇神』とは本来、妖怪や鬼神を意味し、酷い容姿や怪しい作品のたとえに使われるが、ここでは鬼神のごとき攻撃力、防御力が備わるスキルであった。
翔也はさらに『心頭滅却すれば火もまた涼し』スキルを重ね、防御力をさらにアップさせたが、それでもなお感じるポセイドンの衝撃波の威力に驚愕する。
──防御が難しいなら攻撃だ。攻撃は最大の防御ってな!
「食らえッ!」
翔也は着地すると、すぐさま地面を蹴り、臆せずポセイドンに詰め寄る。そして間髪入れず左ジャブ、右ストレートと拳を突き出した。
ポセイドンは上体を後方へ反らしながら翔也のパンチをかわし、翔也の右ストレートに左フックを合わせる。
翔也もポセイドンのカウンターを読んでいたかのごとく、左フックでポセイドンの左拳を打つ。そしてそのまま流れるように半回転し、右の裏拳でバックハンドブローを打ち込んだ。
バゴンッ──。
翔也の右裏拳がポセイドンの右側頭部にヒットする。
ドバンッ──。
小さな水蒸気爆発が起こる。
同時にポセイドンの上半身が見えないくらい大量の水蒸気が立ち込めた。
「よしっ!」
「ヒットした!」
──お願い……効いて……。
──これで終わってほしいにゃ……。
見守る洸たち。
──やったか!? 頭に裏拳が直撃したはずたぜ!?
五人は息をのんだ。
ジュジュジュジュー──。
翔也は手応えを感じたのだが、次第に水蒸気が晴れていくと、手でぬぐうように右側頭部に触れているものの、大したダメージもないポセイドンの姿が目に入った。
「「「「……」」」」
唖然とする洸たち。
──くそっ……その程度かよ……固すぎだろ……。
翔也は落胆するもすぐに思考を切り替えた。
──これはもう……プランBだな。洸たちを逃がすくらいなら……。
翔也は次善の策を思案する。
ポセイドンが静かに零した。
「このオレがダメージを負うとは……我とまともに打ち合える者がまさか人類におるとはな……貴殿は相当な手練れと見た」
「そうか! じゃぁ、俺とタイマンをはれ! 一騎打ちだ」
「良かろう。しばし、貴殿との闘いに集中しよう」
最後までお読みくださりありがとうございます。
いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。
先日もブクマ、評価をいただきました。ありがとうございます。
かなり励みになっていますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
■以下、語句の意味、スキル解説になります。
◇『疾風怒濤』
本来、激しい風と荒れ狂う波という意味だが転じて、勢いがあって激しく変わるものという意味。
◇『天涯海角』!」
遠い地の果てのことを意味する。海角天涯とも書く。
疾風怒濤と天涯海角をあわせたスキルは、遠くまで敵をふっとばす極めて強力な衝撃波を放つスキル。ちなみに、この合わせ技の際は、詠唱者がやめるまで衝撃波が途切れずに放たれている。
◇『火蓋を切る』
火縄銃に点火する準備の意から転じて、なにか物事を始めることを意味する。
ここでは、バトルの開始の先手を強力に食らわせることができるスキル。
◇『牛鬼蛇神』
本来、妖怪や鬼神を意味し、酷い容姿や怪しい作品のたとえに使われる。
ここでは鬼神のごとき攻撃力、防御力が備わるスキルのこと。
◇『心頭滅却すれば火もまた涼し』
心の持ち方次第で、いかなる苦痛にも耐えられることから、ここでは、防御力をアップさせるスキルのこと。
以上になります。ここまで読んでくださった方、長文失礼しました(がとても嬉しいです(*´ω`*)※語句スキル解説は意外と時間がかかるもので(^^;)ありがとうございました♪




