#21 第20話 狂瀾怒濤・海千山千
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いよいよ本格的なコトバの魔法バトルが始まります!
第20話スタートです!
洸たちが外に出ると、ふたりの男が対峙していた。ひとりは赤髪の翔也。その前には上半身が青、下半身が深緑の大柄の男がいた。
翔也は洸たちに気付くと声をあげた。
「とりあえず、バトルフィールドは設定してる。こんな住宅街でバトルになるなんて思ってもなかったから、被害が出ないようにかなり大きめに設定してるぜ」
洸が周囲に目をやる。
「こ、これ、壁が見えないよ。かなり広い? 翔也君」
先日のバトルフィールドとは異なり四方を囲む壁が見当たらない。
「あぁ、街一帯バトルフィールドにした。それより、こいつとの闘いは避けられなさそうだぜ」
四人は改めて翔也の目前で身構える大男を注視する。
「大きい……」
「おっきいにゃ……」
久愛とカリンは敵の不気味さだけでなくその巨大さに不安の色を隠せない。
「前に俺らが闘ったのとは違うやつだよな?」
「そうだね」
洸とアヤトが翔也のもとに駆けていくと、大男が口を開いた。
「貴殿方も能力者で相違ないか? それなら探す手間が省けて助かるのだが」
「だれだ、お前は?」
翔也がキレ気味に声を上げた。
「我が名はポセイドン・ドイセポ。海を司る神、ポセイドンの末裔である。能力を与えられし者は抹殺せよとの命を受けて馳せ参じた。ひと思いに殺してしんぜよう」
ポセイドンは洸たちの言葉を待たずにスキルを発した。
「『イザンゾウカイ』!」
ポセイドンは片膝をついて右の掌を地面にピタリとつける。続けざま、真一文字に地面をなぞると地響きが起こり、ところどころ地面がひび割れ、生じた狭間へと建物は沈み込んでいく。
「わ、私の家が……」
自宅が消え去ったのを目の当たりにした久愛が悲壮な声を漏らす。
建物を飲み込んだ狭間からじわりと水が溢れ出し、辺り一帯は洸たちの膝までを水面が覆うフィールドへと様変わりした。
洸も怪訝な表情で様変わりした景色を見渡す。
「こ、この水……この潮の匂い……海水……?」
「こちらの方が思う存分ヤりあえるのでな。あぁ、ご心配は無用。現実の世界は無事だ。建物も生き物もな。いずれ消失する運命の人類は余生を大事に、と考えておる」
──こ、こいつ、どんなスキルを使ったんだ? 海に関する言葉? とにかく足場に水が溜まるのはまずいな……。
洸はポセイドンの発した言葉の意味が分からない。洸だけでなく、翔也もアヤトも、勿論カリンも……だが──。
「み、みんな、これはおそらく山を移して海に作り替えることを意味する『移山造海』。フィールドを作り替えて海にしたことは明らかだわ。でも、それ以上の効果があるのかは……分からない」
久愛が難解な四字熟語を解説するのを聞き入る四人。
「ご明察。お嬢さん、なかなか物知りだ。安心せい。それ以上の効果はござらん」
と言いつつ、ポセイドンはさらにスキルを発した。
「『キョウランドトウ』!」
唱えるとポセイドンの両腕のグローブが黄緑の光を帯びる。ポセイドンはトン、トン、とステップを踏むや否や、その巨体に似合わぬスピードで翔也との間合いを潰す。そして間髪入れず渾身の右ストレートを打ち込んだ。
右腕の軌道に沿って黄緑色の波しぶきのような残像が光り輝く。
避けられないと悟った翔也は両腕をクロスに組んでガードする。
ドゴンッ!
「ぐはっ」
翔也はうめき声を上げながら後方へ吹っ飛ばされた。
──な、なんて威力……。両腕が……。
あまりのスピードに防御スキルの発声も間に合わない。
それでもなおポセイドンの攻撃は止まらない。まさしく『狂瀾怒濤』の攻撃ラッシュが始まった。
「『ウミセンヤマセン』!」
ポセイドンは重ねてスキルを唱え、左足で地面を蹴って翔也の左側にいたアヤトの方へ詰め寄った。そして上半身を回転させながら踏み込んだ軸足でアヤトの右足の甲を踏み潰す。
「がはッ」
殴打を警戒していたアヤトは不意を突かれ『海千山千』の語意のごとく経験に裏付けされたポセイドンのずる賢さにしてやられる。
突然の激痛に呻き、スキルの発声どころではないアヤトは咄嗟に右腕で頭を守るも、ポセイドンは関係ないと言わんばかりにガードの上からその巨大な左腕を振り抜いた。
ポセイドンの左フックは容赦なくガードした腕にめり込み、その衝撃でアヤトを真横に吹っ飛ばす。
「ぐあああああッ」
吹き飛ばされたアヤトは、足と腕を砕かれ、立ち上がれぬまま呻き声を漏らしうずくまる。
さらにポセイドンは洸に攻撃を仕掛けようとしたが、その手を止めた。
「ほう、さすがに三人は無理だったか」
洸は翔也とアヤトが攻撃されている間に、スキル『獅子奮迅』を唱えていた。アヤトの次に自分へ攻撃をする場合の軌道を読んでカウンターを合わせにいったのだ。洸の放った青紫色の火炎は獅子を象り、ポセイドンへ向かっていく。
「『シンロウカイシ』」
ポセイドンが唱えると、その巨体が蜃気楼のようにぼやけ、火炎獅子たちはそのまま透過して消失した。『蜃楼海市』とは気象現象の蜃気楼のことを意味する。自身の体を蜃気楼と化し、敵の攻撃を無効化するスキルだ。
──くそっ。気づいたか……。しかも攻撃が通り抜けた!?
洸は次の攻撃に備えて身構えつつも、火炎獅子があっけなくポセイドンの体を透過したことに気をもむ。
「久愛!」
「『清廉潔白』! カリンはアヤト君を!」
言われるまでもなく久愛は少し離れたところから翔也の方へ向け、既に回復スキルを唱えていた。
「はいにゃ! 『明鏡止水』~!」
カリンも覚えたてのスキルでアヤトを回復させる。
──この前の敵の比じゃない……桁違いだ……それともこれが敵の本領ってことか?
洸は焦燥と恐怖が綯い交ぜとなって胸が騒ぐ。
一方で粉砕骨折に近い重症だった翔也とアヤトはあっという間に治癒された。
「久愛ちゃん、サンキュ! すごいな、全然痛くない」
「カリン、助かった。久愛の清廉潔白と同じだ。すげぇ」
──カリンが回復スキルをマスターしてくれたのは大きいよね。私ひとりだったら大変だったよ……。
久愛はカリンに親指を立ててグッジョブのジェスチャーをする。
──あたしも役に立ってるニャ……。
初めて実戦でスキルを使ったカリンは恐怖より嬉しさが勝り、はにかみながら久愛に同じジェスチャーを返した。
一連の洸たちを静かに眺めていたポセイドンが口を開く。
「ほう、まだ三日だというのに、回復スキルもマスターし、見事な連携……。お嬢さんたちは後にしようと思っていたが、先に始末するとしようか」
そう言いながら両腕に力を込め、胸の前に突き出した。
最後までお読みくださりありがとうございます(*´▽`*)
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次話第21話は7月15日土曜日に更新予定です!強敵ポセイドンとの死闘の行く末、お楽しみに!
今後ともよろしくお願い申し上げます。
以下、語句・スキルの解説になります。
◇移山造海
……山を移動させて海に造り変えること
この意味からバトルフィールドを海に変えるスキル※海を司るポセイドンが自身に有利なフィールドに変えたのです!
◇狂瀾怒濤
……「狂瀾」「怒涛」ともに荒れ狂う波のこと、転じて酷く荒れてどうしようもない様子を意味する。
ここでは酷く荒れくるう波のような攻撃をするスキル、主に体術、格闘の能力がアップするスキルになります。
◇海千山千
……経験の豊富さからくるずる賢さのこと。ここではダーティーなズルい攻撃、不意を突く攻撃を仕掛けられるスキルのこと。
◇蜃楼海市
……「蜃楼」「海市」ともに気象現象の蜃気楼のこと、転じて、実体がないものや、根拠のない意見のように非現実的でむなしいもののたとえに使われる。
ここでは自身の体を蜃気楼と化し、敵の攻撃を無効化する=相手の攻撃をむなしく、まぼろしの攻撃と化する防御系スキルのこと
以上になります!
ここまで読んでくださった方、本当に感謝しています(*´ω`*)




