#19 第18話 真の地球人
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!少し間が空いてしまって申し訳ありません。文章はかなり前に完成していましたが、挿絵イラストにかなり時間を取られてしまいました。挿絵イラストが9枚になります。削ってこの枚数です……。
カリン、梅佳たちの敵である、真の地球人についての回になります。約3300字で長めになりますが、挿絵と一緒に楽しんでいただけますと幸いです。
では、第18話始めます!
地球の地中奥深く──。
人類が未だ到達したことのない地球の深部(深さにして地上から2万メートルを超えるマントル層とされているところ)に、高度な文明のもとで生活している者たちが存在した。「彼ら」はかつて地上で文明を謳歌していた、いわば人類の祖先である。
「彼ら」が地中を自身の住まいとした契機は「彼ら」がまだ地上に住んでいたときの巨大隕石の落下であった。「彼ら」の当時の高度な文明レベルで隕石の落下地点やそれによる被害規模が十分に予測できたので、一部の者が地中へと移住して生き残り、現在に至っている。地上の人類とは交流せず、完全に隔離された地下の空間で生活してきていたのだ。
ところが、「彼ら」と人類の住み分けを破壊しかねない危機が生じたため、「彼ら」は人類を滅亡させることを決断した。決断に至る過程のみならず、人類を滅亡させる手段についても議論が沸き、紆余曲折を経て、2056年3月、地上では長年都市伝説扱いされてきた「彼ら」は地上の「人類一層計画」を実行に移したのである。
しかしながら、ゼロス率いる反乱分子ONZによって時は巻き戻され、時は2054年4月となった。もう一度「人類一掃計画」を実行するためのエネルギーの充填には2年ほど要する。次の実行時までにONZメンバーを抹殺することが「彼ら」にとっての急務となった。
「彼ら」とは、俗にいう地底人だが、自らを「真の地球人」と呼ぶ。地底人が存在する理由について人類側には諸説あったが、地底人の存在はここで実証されたことになる。
地底人の王として君臨するゼウス・ウゼは、ギリシャ神話のゼウスの末裔である。白銀のセミロングの髪型で、黄金に縁取りされた白銀のローブを身にまとっている。人間に擬態しているが、瞳は金色に輝き、肌は青い。
「揃ったか?」
幹部クラスに召集をかけたゼウスは玉座らしき席に腰をかけたまま低い声を発した。部屋の天井や四方八方の壁には満天の星空が映し出されている。プラネタリウムは勿論、地方の夜の星空の比ではない、まるで宇宙空間にいるかのような部屋だ。
「反乱軍ONZの連中が仕掛けたこのカラクリ。現状を説明せよ。セレネ・レセ」
ゼウスが無機質な声で命令すると、梅佳に敗れたセレネ・レセが答える。AI教師を乗っ取ったときと異なり、白いローブを身にまとい、ブロンド髪は団子に留めていない。
「はっ。ONZが実行したのは時の巻き戻しと、この度のバトル仕様の設定です」
「そうそう、このバトルがまたウゼぇんだ。本来の力を使えるなら、あんなクズども秒殺なのによぉ」
話の腰を折ったハーデスの体からは煙のごとく瘴気が立ち昇っている。
セレネは一瞬とまどうも、かまわず続けた。
「それから、人工太陽によるエネルギー充填にはあと1年11か月25日ほどかかります。ONZメンバーと能力者の抹殺ミッションの進捗につきましては、幹部のうち『3名』が能力者を仕留められず撤退しており、ほか2名によりONZメンバーの3人が抹殺されました」
「ほう。『3名』が撤退……負けたのは私だけではないとでも言いたげであるな、セレネよ」
「い、いえ、めっそうもございません」
「もとより幹部に昇格したてのお前には1ミリの油断さえ許されぬ。絶対負けてはならぬ初陣で下手をうったのだ。身の程を知れい。なぁ、ミダス、ハーデスよ」
ゼウスはセレネからミダス、ハーデスへと順に鋭い目線を向ける。
「私ハ負ケテイマセンヨ。騒ギニナルノヲ避ケタマデデ~ス」
ミダスが少しおちゃらけて片言で話しながら、左手の指を鳴らすと親指から螺旋状に金色の光が立ち上り、数個の星が出現する。
イライラを募らせたハーデスが続けた。
「ミダスよ、お前、その話し方も、その癖もやめねぇか? 超ウゼえんだよ。俺も負けてねぇし。このバトルの制約で相性が悪い奴の邪魔が入っただけだ。次は瞬殺するぜ。次は……」
「黙れ。能力を与えられたとはいえ、たかが人類に遅れをとった責任は重い」
ゼウスは語気を少し強めると、幹部たちを見渡しながら続けた。
「この現状を打破できる者は名乗り出ろ」
……。
「オレがいこう」
幹部たちの間に走った緊張を打ち破ったのは、深緑の短髪で青い肌をした筋肉質な大男だった。上半身は何も身に着けず腰かけている。下半身も分厚い筋肉で覆われ、今にもはち切れそうな深緑のズボンを履いている。
「オレは先にONZ幹部を2名殺してきたが、ハーデス殿が手を焼いたのなら能力者も只者ではないのだろう。ゼウス様、オレに能力者全員を任せてもらえないだろうか」
「私モ行キマース!」
「俺も行くぜぇえ!」
ミダスとハーデスの言葉を耳にしたゼウスはふたりを叱責する。
「お前らが足手まといになるやもしれぬ。ポセイドン・ドイセポよ。お前に任せよう」
「かしこまりました。ゼウス様」
深々とお辞儀をするポセイドンは顔を上げると、ミダスとハーデスに声をかけた。
「ミダス殿、ハーデス殿、お気持ちはありがたく。貴殿たちなら残りのONZメンバーの方が闘いやすいかもしれぬ。能力者どもはオレに任せてくれ」
「……マァ、異議ハアリマセンヨ」
「ちっ」
「ポセイドンよ。配慮は不要だ。我の命は絶対だ。気にせず行ってくるがよい、吉報をまっているぞ」
「はっ」
と言いながらポセイドンは立ち上がる。すると胸当ての青いアーマーと深緑のグローブが装着された。先ほどまでの穏やかな表情とは打って変わって戦闘モードの険しい表情に変わった。
「では」
ポセイドンは2メートルを優に超える長身を一瞬で消した。
ゼウスが残った幹部たちに伝える。
「他の者たちは、引き続きONZメンバーを抹殺せよ。不安要素はできるだけ早めにその芽を摘まねばならん。まだ2年あるのではない、もう2年しかないのだ」
「承知しました」
残りの者も次々と姿を消していった。
一人残ったのはセレネ・レセであった。
「ん? どうした?」
ゼウスが問うと、セレネはおずおずとゼウスの傍に歩み寄り、片膝をついて跪き、ゼウスを見上げる。
「ゼウス様、どうして私たちは人類ごときを抹殺しなければならないのですか? ほっておいても大した害にはならないように思えるのですが……」
「その人類に敗れたお前がいうか!? まぁ、よい。お前は新参ゆえ、知らぬだろう。ONZのリーダー『ゼロス』は……」
ゼウスが言いかけたときだった。
ゼウスの耳に、セレネ・レセの体から発せられている秒針を刻むような微かな音が入った。
「ぬっ!」
ゼウスはとっさに右手をセレネにかざすと、右手が瞬時に青く光り、セレネに放たれた。同時にゼウスは左手で体の前に青く光る壁も作り出し身を守る。
──ドゴンッ。
爆発音が鳴り響く。セレネは跡形もなく消え去った。
「なんと……」
爆発跡を見つめるゼウス。
「我らが気づかぬようにアナログ仕掛けか……こんな真似をする者は、ONZのあやつか……まさか人類の中にはおるまい……いや、そうとも言い切れんか……」
少し逡巡したのち、ゼウスは虚空に向かって呼びかけた。
「ヘスティア・イテスヘよ。戻ってこい」
ゼウスの傍らに白煙が生じ、さきほど散った幹部のひとり、ヘスティアが姿を現す。ピンク色の長い髪、青い瞳、青い肌で、真っ白な衣装を着た美しい女性だ。ゼウスの前に現れるとすぐに片膝をついて跪いた。
「ゼウス様、戻りました。なに用で……?」
と言いながら、傍らにある爆発の痕跡に気付く。
「これは……」
「セレネに時限式爆弾が仕掛けられておった」
「お怪我はございませんか?」
「あぁ。むろん大したことではない。無傷である」
「それは幸いです」
「だが、誰も気づかなかったことが気がかりだ。これを仕掛けた奴を調べよ。ONZのあやつなら十分可能だろうが、人類の能力者にこのようなことができる者がおるのか気になったものでな」
「かしこまりました。調査いたします。犯人が分かったら抹殺いたしましょうか?」
「いや、報告のみで良い。人類の中におったらポセイドンが抹殺してくれよう。では任せたぞ」
「承知しました」
ヘスティアも姿を消した。
ゼウスは深く腰をかけなおし、足を組んだ。
「一騎当千のポセイドンが万一失敗したら、本格的に手を打たねばならぬやもしれぬな……」
最後までお読みくださりありがとうございます。
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