#18 第17話 血祭りにあげる・八方美人・灰燼に帰す
今宵もあたし、カリンがお礼を申し上げますにゃ!
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございますにゃ!
いいね、感想、ブクマ、評価してくださった方々、嬉しすぎて言葉にならないにゃm(_ _)m
やっと1つ、明鏡止水スキルを覚えたあたしですが果たして新スキルをマスターできるのか?
第17話、お楽しみくださいニャ!
萌莉と美伊は押さえていた脇腹から手を放して目をやる。
「ん……痛くない……な、治った!?」
「制服もきれいになりましたわ!」
「カリンちゃん、ありがと!」
「すごいですわ!」
──や、やったにゃ! はじめてスキルができたにゃ!
カリンは満面の笑みで自身の右手を眺めてから梅佳の顔を見る。
「そうじゃ。カリン、それを忘れるでないぞ」
カリンはこくんと頷いた。
「さぁ、続けるぞよ! 『チマツリニアゲル』!」
梅佳の右手に真紅に染め上げた日本刀らしき物体が出現する。
「「「刀!!!???」」」
「安心せい。真剣ではない。日本刀にそっくりな木刀じゃ!」
声をあげながら梅佳はワンステップで萌莉の間合いに入る。流れるような所作で木刀を水平に振るう。
「うわっ」
驚いた萌莉はバックステップで避けながら唱えた。
「『カイジンニキス』!」
萌莉の背後に2つ、右の人差し指の前に1つ、時計が出現する。
萌莉の人差し指から灰色の霧が立ち上り、梅佳の赤刀を覆っていく。同時に時計の針がぐるぐると回っていった。あっという間に木刀が灰と化し、粉々になって消えていく。
「ぬ……『灰燼に帰す』か、なるほどのぉ。やるではないか!」
──霧に包まれた木刀だけが朽ちて灰になりおった……。霧の中だけ時が加速したのか!? こやつ……時を操っておるのか!?
梅佳は萌莉のスキルに興味深々だが、それを悟られぬよう次の手を仕掛ける。
「これならどうじゃ!? 『セキシュクウケン』!」
梅佳の両手が赤く染まる。またもやワンステップで萌莉の至近距離まで詰め寄る。
萌莉もバックステップで間合いを取ろうとするが、梅佳は萌莉の動きを読んでいたかのようにさらにもう一歩間合いを詰め、萌莉のみぞうちに右拳をぶち込んだ。
『赤手空拳』とは武器を使わず素手で戦う意から誰の力も借りず独力でものごとにあたることを意味する。梅佳はこのスキルで体術能力マシマシになっていた。
「キャア」
萌莉はふっとばされ、地面にうずくまる。
「い、痛っ……」
「萌莉たん、大丈夫ニャ!?」
カリンが即座に駆けつけて『明鏡止水』で治癒させる。
「ありがと! またすぐ治ったぁ! すごい!」
「どいタマニャ!」
「次は美伊じゃ! 『コウイッテン』!」
梅佳の四方八方の地面から真っ黒な木人形が8体、ぬめっと出現した。8体の木人形は美伊を囲むように立ちはだかり、同時に美伊に襲い掛かった。
「美伊、逃げ道はないぞ」
「『ハッポウビジン』!」
美伊が唱えると、美伊の背中から真っ白な羽が生え、右手にはピンクの長い杖が出現した。杖の先端部には月を模した球体が光り輝く。美伊は右足を軸に時計回りで一回転しながら杖を振るった。すると、杖から桃、橙の光が花吹雪のごとく舞う。
光に触れた木人形は次々に動きが鈍くなり、やがて完全に静止した。動きの止まった木人形の頬は桃色に染まっている。
「おぉ。美伊、そなた見かけによらずバトルセンスが良いのぉ。これならどうじゃ!?『アカゴノテヲヒネル』!」
梅佳の両手がまたもや赤く染まる。そしてワンステップで美伊の間合いに入ると、左手で美伊の左手を、右手で美伊の奥襟を掴むや否や、両足を首と腹にまきつけるように飛びつく。倒れ込んだ時点で梅佳は腕ひしぎ逆十字を極めていた、赤子の手をひねるかのようにいとも簡単に──。
「うぅ……」
美伊の顔が苦痛にゆがむ。
──痛い……。これ、どうしたら……。
格闘技慣れしていない美伊はタップというルールに思いが及ばない。
「格闘技の試合ならタップをして試合終了じゃが、実戦ではこのまま腕を引きちぎられて終わりじゃ!」
──何か、スキルを……。痛すぎて……声も出ない……。
そのときだ。カリンが梅佳に向けてスキルを唱えた。
「『ネコニコバン』にゃあ!」
カリンの突き出した右の拳に水色の光が灯る。光がバスケットボール大の大きさまで膨張すると、ポコンポコンと分裂し猫の肉球に変形していく。
水玉肉球は、キラキラと輝きながら梅佳へと向かっていった。
「ぬ。やむをえん」
──猫に小判……侮ると痛い目をみるスキルだったはずじゃ……。
梅佳はガッツリ決まっていた腕ひしぎ逆十字を解き、素早く立ち上がりながら唱えた。
「『血で血を洗う』!」
梅佳は右手をかざし紅色の光を放ち、カリンの『猫に小判』スキルを相殺した。
それを見た萌莉がすかさず唱える。
「『シカイマタモユ』!」
するとまたもや萌莉の背後に3つの時計が出現し、今度は時計の針は反時計回りにぐるぐると回転し始めた。『死灰復燃ゆ』の意──一度失った勢いを再び戻す──の通り、相殺されて消えたカリンの水玉肉球が再び復活し、梅佳にぶちあたった。
「ぬぉおおおおお。やりおったな。今のはあっぱれな連携じゃ。『チトナリニクトナル』!」
梅佳は自身の回復系スキル『血となり肉となる』で治癒しながら萌莉とカリンを称えた。
カリンはうずくまっている美伊を治癒する。
「ありがと。カリンさん」
「どいタマですニャ!」
その後もしばらく、三人は時が経つのも忘れて特訓に夢中になった。
「だいぶ慣れてきたようじゃのぉ」
「す、少しはマシになったかな?」
「なかなか、奥の深さを感じますわ」
「スキルが2つも使えるようになったにゃ」
美伊が公園の空中時計を見て焦る。
「ご、ごめんなさい。私、そろそろ帰らなくてはなりません」
「そ、そうね。美伊ちゃん、門限があるから」
「さようか。今日はこのへんで終わりとするか。かなりレベルアップできたじゃろうて」
「また特訓したいにゃ」
「じゃぁ、またの」
「また明日ね」
「ありがとうございました」
「バイバイにゃ!」
4人はそれぞれ帰路につく。
昨日につづきまた綺麗な夕映え空だったが、カリンにとっては昨日とは比較にならない格別に美しい夕日だと思えた。
「ふふふん、ふふふん、にゃにゃにゃのにゃ~♪ ふたつ~ふたつ~ふたふたつ~♪」
ニンマリ顔で口ずさむカリン。この上なく上機嫌でスキップをしながら家に向かう。
「久愛姉にゃに~♪ 報告ニャ~♪ スキルを2つも~♪ 覚えたニャ~♪」
梅佳は今後のことに一抹の不安を覚える。
──仲間が増えたのは良きことじゃが……バトルになれば皆まだ足手まといにしかならぬ……特訓を継続するほかないか……。萌莉も美伊も筋は良いようじゃし、磨けば光るじゃろ。
──今日はなんとか門限に間に合いそうですわ。
美伊は小走りで自宅に向かった。
萌莉はどうしても気になることが1つあった。
──明鏡止水……猫に小判……。
カリンのスキル名称を反芻する。
──初めて見るスキルのはずなのに……どこかで見たことがあるような気もするのよね……これもまたデジャヴ!?……ん……なんだろう、この感覚……。
思い出せそうで思い出せない心のモヤモヤが晴れぬまま、萌莉も自宅へと向かった。
最後までお読みくださりありがとうございますにゃ!
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以下、語句の意味、スキル解説にゃ!
血祭りにあげる
戦いの序盤にたくさんの敵を殺して味方の士気、規制をあげること。
この意から、何かしら強力な武器でいきなりたくさんの敵を倒せるスキル。ただし特訓ゆえ梅佳は手加減をしている。
灰燼に帰す
跡形もなく燃え尽き、灰となること。
この意から対象物を灰にするスキルであるが、萌莉の個性から燃やすのではなく時を加速させ朽ちさせた。個性についての詳細は本編にて今後明かされていきます。
赤手空拳
武器を使わず素手で戦った話から、誰の力も借りず独力でものごとにあたること。
ここでは素手で敵を圧倒できる体術の強化サポートスキル。梅佳は基本的に体術は嫌い(というか合理的ではないと考えている)ので実戦では使う気がない。萌莉や美伊に体術系攻撃に対する防御や回復を特訓している。
紅一点
多くの男性の中に女性がひとりいること。
ここでは黒い木人形を複数召喚し、一斉に攻撃させるスキル。本来は木人形の攻撃の強度もイメージ次第でアップできるの強力なスキルだが、黒い衣装の者には通用しない(紅一点状態にならないため)。
八方美人
どこから見ても美人であることの意から、だれにでも愛想をふりまきよくみられようとすること。
この意から、大勢の敵を一気に魅了し、一定時間、戦闘不能にさせるスキル。
赤子の手をひねる
赤ん坊の手をひねることが簡単なことから、とても簡単なことのたとえ。
ここでは赤手空拳スキルで体術能力がアップしていたため、関節技をいとも簡単に決めるスキルとして発動しているが、本来はイメージした攻撃の成功率をアップさせるスキル。
※なお、美伊が梅佳から食らった技は、格闘家「青木真也」氏が使うことで一躍有名になった飛び関節技である。
猫に小判
価値が分からないものに価値のあるものを与えても無駄であることのたとえ。
ここでは、弱そうなスキルとだ思って侮ると痛い目をみるスキル。カリンの放った水玉肉球は当たるとかなりのダメージを負う。
死灰復燃ゆ
勢いを失った者が再び勢いを取り戻すこと。
この意から、一度弱まったり、消えたりしたスキルを再び復活させるスキル。
血となり肉となる
食べたものがよく吸収されて自身の栄養となることから、学んだことを十分に身につけること。
この意から、敵から食らったダメージを自身にとってプラスに変えることで治癒する回復系スキル。
以上です(長くなりすぎました。申し訳ないです(;´・ω・)




