#15 第14話 地獄耳・桃弧棘矢
スローペース更新で申し訳ありません。
15日木曜日第14話、16日金曜日第15話で更新します!
その次も一週間後までには投稿できるようにがんばりますm(_ _)m
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!
いいね、感想、ブクマ、評価してくださった方々、死ぬほど感謝しています(∩´∀`)∩
誤字報告をしてくださった方もありがとうございました(初めてでしたのでどなたか認識できず消えてしまいましたm(_ _)m)
というわけで、絶体絶命の萌莉と美伊をお楽しみください(*´▽`*)
──やだ……ほんとにここで殺されちゃうの……。
萌莉が思ったそのときだ。外から微かに声が聞こえた。
「『アシゲニスル』!」
同時にドゴンッという大きな音も響き、エアバスの側面に亀裂が入るや否や大きな穴が開いた。赤黒い炎がたちのぼり、バチバチと燃える音も耳に入る。
「な、なんだ?」
ハーデスが音のする穴の方へ目をやった。
ドゴンッ、ドゴンッ──。
さらに数回同じ音が続き、穴はさらに広がっていく。
──えっ? なに?
──今度は何なの……。
美伊と萌莉も穴のできたところにおそるおそる目を向けた。
炎がおさまると、穴の向こうに一人の背の高い青年男性の姿が見えた。赤髪、赤い瞳、赤の皮ジャンに、黒の皮ズボン。耳に髑髏のピアスをしている。青年は自身が作った穴からエアバス内に入って、ふたりに力強く声をかけた。
「お嬢ちゃんたち、大丈夫か?」
──え!? 救助?
──助けてもらえるの?
絶望に打ちひしがれていたふたりに一縷の望みが生じる。
「「は、はい……」」
「ちょっと待っててな! 『トビヒ』」
青年はそう唱えつつ、手の群に向かって右拳を打つ。すると、右拳から放たれた赤黒い火炎が次々に飛び火して手の群れを焼き尽くしていく。
「『能力を与えられし者』だな? だれだ、てめぇは?」
ハーデスは運転席から振り返り、背もたれを越えて座しこちらを向く。不敵な笑みを浮かべたまま、青年の頭のてっぺんから足元までをなめるように観察している。
対峙する青年は鋭い眼光でハーデスをにらみつける。
「弱い者いじめはよくねぇなぁ。お前、俺が相手してやるよ」
「ちっ。面倒くせぇ。てめぇ、極月翔也じゃねぇか。一番相性が悪そうな奴だ」
「おぉ、俺の名前、知ってんだ?」
──相性……やはり、相性もあるのか!?
青年はかつて洸たちとAI暴走事件を解決した極月翔也だった。事件後も黒幕を追いながらAIの研究に明け暮れていた翔也は、今回のスキル出現もいち早く察知して洸たちのもとへやってきたのであった。
「まぁ、冥府の神ハーデスの末裔の俺様が人間なんぞに負けるわけがないがなっ!」
ハーデスはそう言いながら腰かけていた背もたれから飛び降りスキルを唱えた。
「『アビキョウカン』」
ハーデスは青黒い炎を両拳にまとい、右、左、と連打し始める。
「ホレホレホレホレホレホレェ~」
ハーデスから放たれた青黒い炎は、髑髏を象り、不気味な唸り声や叫び声をあげながら翔也の方へ向かってきた。
「ウゥ……タスケテクレェ……」
「ギャア……」「ウゲェ……」
翔也もボクサーのごとく構え、スキルを唱える。
「『シュニマジワレバアカクナル』!」
両肘から両拳にかけて赤黒い炎が生じる。翔也は向かってくる髑髏炎ひとつひとつに対して目にもとまらぬ速度で連打を繰り出した。
ハーデスが放った青黒い髑髏炎と翔也の拳から放たれた赤黒い火炎は、ぶつかり合うとボワッと一瞬火力が増しては消えていく。
「てめぇ……マジで面倒くせぇ奴だな」
ハーデスは攻撃がすべて相殺され、イラついている。
「おふたりさん、バトル経験は?」
翔也はハーデスから目をそらさずにふたりに問う。萌莉と美伊をここから逃がすか否か、迷っていたからだ。
「な、ないです……」
「私もございません」
車内の端っこに避難していた萌莉と美伊は答えた。
「そっか。じゃぁ、君たちは逃げた方がいい。残るならスキルを使って戦うか、最低限、自分の身を守ってくれ」
「スキルって言われても……」
萌莉が小さい声で漏らす。
──逃げた方がいいよね……。
「スキルは、攻撃や防御のイメージといっしょに言葉を唱えるんだ」
「言葉? 何でもいいのでしょうか?」
美伊が尋ねるのを聞いて萌莉は焦る。
──美伊ちゃん、戦う気なの??? 言葉を唱える!?
「自分に馴染みのある漢字を使った諺とか、四字熟語とかだ。俺もこのシステムはまだ熟知できてないんだが、なんでもいいってわけじゃない。たとえば、髪の色、目の色、好きな色とかで試してみるしかない」
──ふたりには逃げてもらった方がいいか?
翔也はスキルの説明をしながらも、迷っていた。
──俺の勘が正しければ、ふたりとも……少なくとも1人は……。
そのときだ──萌莉と美伊は既視感を覚えた。
「「このバトル……」」
「「……はじめてじゃない!?」」
翔也の言葉に触発されたせいか、まだ漠然とではあるが、ふたりの脳裏に似たようなバトルをした記憶がよぎった。
「てめぇら、くっちゃべってんじゃねぇ!『ジゴクミミ』!」
ハーデスが唱えると翔也たち3人が今まで気づかなかった周囲の人の声や車の音などの喧騒が耳に入ってきた。次第にそれらの音は砲声のごとく三人の耳をつんざく。
「ぐっ」
「う、うるさい……何よ、この音……」
「耳が痛いですわ……」
三人ともに耳をおさえながらうずくまった。
「スキルの説明なんかしてんじゃねぇよ。付け焼刃が俺様に通用するわけねぇだろうがっ」
ハーデスの声も爆音で三人の耳に入ってくる。
「ぐわっ」
「だ、だめ……」
「うぅ……」
──な、何とか……しないと……。
美伊は両手で耳をふさいだままの格好で立ち上がり唱えた。
「『トウコキョクシ(桃弧棘矢)』」
すると美伊の右手から桃色の光が球体を形作り、そこから桃、橙、紫などの鮮やかな光が蛍のように舞い始める。そして、美伊の目前でハートやクローバーを描き出した。
次第に光は移動範囲を広げ、美伊だけでなく翔也や萌莉も包み込むように美しく舞った。
「お、音が止まったな。グッドだ!」
──やはり過去にバトル経験あり、だな。1人は確定か。
翔也は美伊を見ながら確信する。
「ほんとだ。美伊ちゃん、ありがと」
「う、うまくいきましたわ」
『桃弧棘矢』とは災いを払うことを意味する。ハーデスのスキル『地獄耳』の効果を消し去ったのだ。
「ちっ。覚醒しやがったか。時間をかけるとますます面倒になりそうだな。3人とも一気にぶっ殺してやる!『チミモウリョウ』『ヒャッキヤコウ』!」
ハーデスが両腕を広げて唱えると両腕に青黒い火炎が生じ、大きな火種がエアバスの床にぽとぽとと落ちていく。
落ちた箇所から立ち上る炎は文字通り、妖怪や化け物、鬼に姿を変え、翔也たちの方へ次々に向かってくる。
「ぐへへへへ」
「ウヒャヒャヒャ」
「うぉおおおおお」
薄気味悪い笑い声や怒号が萌莉と美伊の恐怖心を煽る。
──ひぃ……。な、なに、気持ち悪……。
──こ、こわい……。
青ざめた萌莉と美伊の全身にゾクゾクっと悪寒が走った。
最後までお読みくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。
かなり励みになっていますので、今後とも是非よろしくお願い致しますm(_ _)m
◇以下、語句とスキル解説となります。
足蹴にする……実際に足で蹴ること、またはその意から。酷い仕打ちをすること。
ここでは文字通り、翔也の蹴りのスキルですが、物理的威力にスキルによるパワーが加わります。
阿鼻叫喚……仏教用語の阿鼻地獄と叫喚地獄からできた語で、地獄に落ちた者が苦しみ泣き叫ぶむごい状態を意味する。そこから悲惨でむごい状態一般を意味する語としても用いられる。
ここでは、冥府の神ハーデスの末裔らしく、地獄で苦しむ者たちを象った火炎攻撃をするスキルのこと。
朱に交われば赤くなる……赤色に混ざると赤色になるように、人も関わる人や周囲の環境に影響されやすいことのたとえ。
ここでは、敵の攻撃を相殺するスキルのこと。ただ相手よりあまりに非力であれば相殺しきれず、逆に相手よりはるかに力が上回っていれば火炎攻撃となる。
地獄耳……他人の話などをいち早く耳に入れること、または、一度聞いたことをいつまでも忘れずに覚えていること。
ここでは相手の聴覚に干渉し、周囲の音が爆音に聞こえるようにして聴覚を破壊するスキル。
桃弧棘矢……災いを払うことを意味する。
ここでは敵のスキル効果を消失させるスキルのこと。
魑魅魍魎……さまざまな妖怪、化け物のこと。
百鬼夜行……さまざまな鬼が夜中に出歩くこと。
ここでは、ハーデスが鬼や妖怪を無限に召喚して攻撃させるスキル。かなり強力なスキルである。
以上です!ここまで読んでくださったらもう感謝感激雨霰です(*´▽`*)




