#14 第13話 人を呪わば穴二つ・足を引っ張る
またまた深夜の更新となり申し訳ありません。
推敲、挿絵等に手こずってしまいました(;´・ω・)
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方も本当にありがとうございます!
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第13話はプチホラー箇所がありますので、心臓の弱い方やホラーが苦手な人はご注意くださいm(_ _)m
昨日の下校時──。
「ねぇ、美伊ちゃん、あの子、クラスメイトの弥生梅佳さんだよね?」
「そうですね。今日は彼女のおかげで優勝できたようなものですわ」
校門を通り過ぎるときに目に留まった梅佳を、ふたりは振り返って見た。
「誰かを待ってるのかなぁ?」
「かもしれませんね」
「声、かけてみようか?」
「彼氏待ちとかだと、お邪魔じゃありませんこと?」
「それもそうよね。ちょっと様子見よ」
そういうと萌莉は美伊の手をひいて校門から少し離れたところにある木の陰から梅佳を観察し始めた。
「入学して2日目で彼氏なんてできるわけなくない?」
「中学時代からの彼氏なんていう線もございますわ」
「そうよね。先輩とつきあってるとか!?」
「あっ。校内に戻ってしまいましたわ」
「あら、ほんとだ」
梅佳を待つふたり。だが梅佳は校門からなかなか出てこない。
「遅いっ!」
「ですね」
しびれを切らした萌莉は、極薄の青い端末で下校状況を確認する。
「あれ、クラス全員下校済みになってる!?」
「あらら。別の校門から下校しちゃったのかもしれませんね」
「なんだぁ……残念……」
そのとき、梅佳とカリンが校門から出てきた。
「あっ! 萌莉さん見て! 弥生さんと、あと、あれは……たしか水無月さんが……」
「え!? 全員下校済ってなってたのにどうして?」
「水無月さん、顔色が悪いみたい。何かあったのかな?」
「弥生さんも何だか浮かない顔をしてますわ」
「あー。なんか、声かけにくくなっちゃったなぁ……」
「そうですね。また明日も会うことですし、今日はあきらめましょ」
「うん。じゃハトバ行こうよ」
「行きましょ! ハトバのラテが飲みたいですわ」
萌莉と美伊は入学式だった昨日、寄り道したハートバックスカフェにドハマりしたのだ。
「私は今日も期間限定ハートフルカフェ!」
「あれ、どういう仕組みなのでしょう。かわいいですよね」
「美伊ちゃんも同じのにすればいいのに」
「したいのはやまやまなのですけど、私はラテの味が忘れられませんの」
店に着くとふたりは座席について飲み物を楽しみながら談笑し始める。萌莉の頼んだハートフルカフェは期間限定のカフェ。一定の期間のほか自分の誕生月にしか頼めない貴重なメニューなのだ。カップからハート型の泡がわいてくる、この時代でも珍しい逸品だ。美伊は定番のカフェラテだ。
「ほんとに、とてもきれいでかわいいですよね」
「シャボン玉のようでシャボン玉ではない~」
「あぁ、どうしてこんなにおいしいの、ハトバラテ……」
「美伊ちゃんて、ちょっと大人だよね~」
「そんなことありませんわ。萌莉さんの方こそ」
「私はまだまだオコチャマっていつも親に言われてるもん」
「そんなことないと私は思いますけど……」
飲み干してからしばらくして、時計をみる美伊。
「萌莉さん、私、そろそろ帰らないと。エアバスの時間がっ」
「門限、あるんだっけ!? 帰ろっか!」
ふたりはお店を出ると小走りで駅までの道を急いだ。
この時代のバスは、旧時代のバスと異なり空中に浮き、もはや飛行機と呼ぶべき交通機関だ。
萌莉と美伊の待つ停留所にエアバスが到着する。
「きたきた!」
先に萌莉が乗り込む。美伊は端末で時刻を確認した。
──あれ? 5分早いですね……。
美伊はいつもきっちり定刻を守るエアバスの早い到着時刻を気にかけながらも後に続いた。
「私たちだけの貸し切りじゃん!」
「そ、そのようですね……」
──いつも結構人が乗っているのですけど……。
美伊の不安はふくらむ一方であった。
エアバスの扉が閉まると運転手の車内アナウンスが流れる。
「ご乗車ありがとうございます。当バスは──行となります」
「えっ!?」
美伊はどきっとして車内のバス停案内のモニターに目をやる。そしてAI運転手の座る前方を見た。いつもの白シャツに白い帽子、黒の長ズボンといった格好をした男性AIが座っている。
「美伊ちゃん、どうしたの?」
「今、このバス、どこ行きって言いました?」
「え……気にしてなかったから聞き逃しちゃった。まちがってるの?」
「そういう意味ではなくて……」
ふたりの会話を遮るように再び運転手の車内アナウンスが入った。
「当バスは、『血まみれ』経由、『あの世』行となります」
「「!!!」」
ふたりに衝撃が走る。
「ど、どういうこと!? ふざけてるの?? ドッキリ? サプライズ?」
萌莉の言葉に美伊は返す言葉が見つからず黙っている。
運転手は萌莉の言葉には反応せずに続けた。
「当バスは、『苦悶激痛』経由、『地獄』行となります。フフッ」
──なになに、マジで!?
萌莉は焦燥感にかられ、大声で叫ぶ。
「降ろしてください! 私たち降りますから!」
またもや運転手の返答はない。
美伊の顔は青ざめていた。それを見た萌莉は美伊の肩をそっと抱き寄せる。
「当バスが停車するのは、『針の山』『釜茹で』『炙り焼き』『串刺し』となりまーす。それ以外での途中下車は認められませーん。ご了承願いまーす。以上、運転手、ハーデス・デーハからのお知らせでした~」
アナウンスを楽しんでいる運転手。
美伊と萌莉は、エアバスのミラーでその横顔を垣間見た。先ほどまでの普段の装いとは異なる容姿に変わっているのに気づく。
長袖長ズボンを無理やり引きちぎったかのような黒のハーフパンツにノースリープの白シャツ。顔も髪の毛も瞳も、そしてむき出しの腕も青く、鋭い目で不敵な笑みを浮かべている。
「萌莉さん……かなり……まずそうですわ……」
「どうしよう。美伊ちゃん……」
「フハハハハ。バスの運転手ごっこ、おもしれぇな。『能力を与えられし者』たちは抹殺対象なんだよ。もう逃げられねぇぜ。泣きわめくところ見せてくれよ~」
言葉遣いが急に荒くなった運転手ハーデスが筋肉質な左腕を真横に伸ばした。
「「……!!!」」
──なになに、何する気?。
ふたりはハーデスの青い腕を見て恐怖心が増していく。
「『ヒトヲノロワバアナフタツ』!」
ハーデスが唱えると、突然、萌莉と美伊の足元がぬかるみ始める。ずぶずぶと音を立てながら少しずつふたりの足がしずんでいく。
「きゃぁ」
「なに、これ!?」
ふたりはあわてて手すりにしがみついた。
「『アシヲヒッパル』!」
さらにハデスが唱えると、ふたりの足元から十数本もの薄紫色の手が出現し、文字通り足を引っ張り始めた。
「いやぁー」
ぎゅっと全身に力をこめて手すりに抱き着く美伊。
「離して、なによ、もう」
萌莉は地面から生えてきている手の群を足で蹴って払いのける。
「フハハハハ。あぁ、マジおもしれぇ。さぁ、もっと泣け、わめけ。俺様を楽しませろ!」
ハデスの言葉が車内にこだまする。
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◇語句の意味・スキル解説
人を呪わば穴二つ……他人を呪い殺そうとして墓穴を掘る者は、その報いで自身も呪われるので自身の墓穴も掘らなければならなくなるといった話から、他人に害を与えると自身も同じような害を被ることのたとえ。
ここでは文字通りの意味から、敵2人の立つ場所を異次元空間の穴にする(=底なし沼化する)スキルのこと。
足を引っ張る……他人の邪魔をすること。
ここでは文字通りの意味から、底なし沼と化した地面から手が出現して足を引っ張るスキル。




