#12 第11話 喪失感
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久愛とカリンはバトルフィールドの中に戻る。
「外にいると中の音は聞こえないみたい」
「静かだったにゃ」
「そうなんだ、じゃぁ、これはどうかな」
洸は体を反転させると4人のいる方とは反対の壁に向けてスキルを唱えた。
「『テヲヤク』!」
洸が軽く突き出した右拳から青紫色の火炎が生じ、1頭のライオンを象る。その火炎獅子は壁にぶち当たると通過せずに消失した。
「『手を焼く』って洸が初めて覚えたスキルだったよね」
「ライオンさん、消えたにゃ」
「ふむ。これだと周囲の一般人や建物に被害も出ないよな」
「だね、もうひとつ試したいことがあるんだけど」
洸の言葉に久愛が続ける。
「一般人がこの中に入ってきたら?ってことよね?」
「そそ。今は試せないよね」
「心配無用じゃ。仮に人が入ってきても、そやつは別の空間にいて攻撃もあたらないはずじゃて」
「ん……能力の有無で異なるのかな」
洸が疑問を梅佳にぶつける。
「おそらくそういうことになるはずじゃ。この空間だけ異次元か、パラレルワールドか、これはわらわの推測じゃがな」
「そっか。梅佳ちゃんも分からないんだね」
「能力を与えられた者だけのバトルフィールドってことか……」
「とりあえず試せたから一安心……」
そう言いながら久愛の顔が曇る。
「そうだよ、久愛。周囲から見えないなら、僕たちはあのまま負けて……殺されていたかもしれない」
「だな」
「そうよね……」
肩を落とした三人をみてカリンが口を開いた。
「ウ、ウメたんがいるから大丈夫にゃ」
「カリンのよしみじゃ、わらわを頼ってもよいぞ」
「俺たちもそれなりにバトル経験もあるし、お前といつもいっしょにいられるわけじゃないからな、学年も違うし」
冷たい声を放つアヤトに対して、梅佳はフンっとそっぽを向く。
「ひとまず、梅佳ちゃん、カリンといるときはぜひお願いね」
「僕たちは訓練してバトル慣れしておくよ」
久愛と洸の言葉に梅佳が返す。
「カリンはわらわが守ってやるから安心するのじゃ」
「うんうん、よろしく」
にっこり微笑む久愛をみて、また顔を赤らめた梅佳は端末の時計を確認する。
「そなたらもおるし、わらわはもう家に帰ることにするぞ」
梅佳はくるりと後ろを向く。
「そっか。つきあわせてごめんね」
「かなり助かったよ。また何かあれば教えてね」
「ウメたん! また明日にゃ」
カリンが右手を振ってバイバイする。
「じゃぁのぉ」
梅佳はちらっとカリンを一瞥してから、駅の方へ駆けていった。
「……悪い子ではないと思うの」
梅佳の後ろ姿を見送りながら久愛は洸たちに語り掛けた。
「だね。カリンを守ってくれたんだし」
「ふむ。あのデカい態度は好きになれんが、少なくとも敵ではなさそうだな」
「ウメたんはいい人にゃ。あたしの初めての友達にゃ」
カリンは洸たちに必死に訴えた。
「いい友達ができてよかったね、カリン」
久愛が微笑みかけるとカリンは大きく頷いた。
「せっかくだからバトル訓練もしておこう」
「あぁ、バトルシステムやスキルを確認しておきたいよな」
「私も。KAYAフィールドがあればいつでも訓練できるよね」
「カリンも練習するにゃ」
「でも、このバトル、気を付けないと危険よね」
不安になる久愛。
「あぁ、先に回復、治癒系のスキルから試しておかないとな」
「僕やアヤトも回復系スキル、使えるのかな?」
「以前のバトルと同じなら、俺達には使えないよな……」
「そうよね。ひととおり試してみましょ」
洸の「KAYA」の発声で生じたバトルフィールド内に4人とも入り訓練を始める。かつてのバトルで使った回復系のスキルを久愛は使えたが、やはり洸とアヤトは使えなかった。洸とアヤトは攻撃系スキルや支援系スキルを試し始める。
カリンも三人の見よう見まねで知っている単語をやみくもに発声する。
「早起きは三文の徳にゃ!」
「清廉潔白にゃ!」
「血の雨を降らすにゃ!」
されどスキルは一切発動しない。語尾の「にゃ」が原因ではないかと思い、「にゃ」を言わずに唱えてみても結果は同じ。次第に途方に暮れていくカリンは、とうとう座り込んでしまった。
そのときだ。洸たち三人は、ある違和感を覚えた。
──なにか、欠けている気がする……。
手を止めて考え込んでいる久愛に洸が声をかける。
「久愛も感じた?」
「えっ?」
「なんていうか、喪失感っていうのかな……」
「俺もだよ。カリンはいたような、いなかったような……」
アヤトも怪訝な顔をしている。
「おかしいよね。僕たちは過去のバトル、この三人だけで戦ったことってあったっけ? 翔也君を入れて四人。もうひとりいた?」
「ん……かといって、カリンはいなかったような気もするしな……」
「五人で戦った記憶もうっすら……。翔也君を入れたらちょうど五人……まだ違和感が消えない……」
「うん……カリンではない……私、カリンのスキル、思い出せないよ……」
「もうひとり、確かにいた……よね?」
「ふむ。似て非なるだれか……」
三人がカリンの方へ目をやると、体育座りでしょげているカリンの姿があった。
すると突如、ザザザザッ、ザザザザッと視界に旧時代のテレビやビデオカメラに入る砂嵐が乱れて入り、別の猫耳少女の闘う姿がうっすらと目に映った。髪型や色はカリンと同じだが、紺色のローブを身にまとっている。
「……だれだ?」
「カリンではないよね?」
「うん、カリンちゃんとは違う」
まもなく三人の目の前にいる猫耳少女は溶けるように消えていき、再びうなだれるカリンの姿が視界に入った。
「だめだ、思い出せない」
「カリンとは別の子が見えたのは確かなんだけど……」
「ふむ」
時間が止まったかのように四人を静寂が包み込む。あたりは日が暮れ始め、空も建物もオレンジ色に染まっていた。
「なんだか、気持ち悪いけど、今日は帰りましょうか」
「うん、もう夕方だしね。続きは明日」
「俺はもっとしたかったが」
「アヤト、明日はもう少し実践的にバトってみようよ」
「了解」
「私もいっしょにするよ」
「……カリンもにゃ。あたしもスキルを使いたいにゃ……」
「カリンは学校に行きなさい。梅佳ちゃんもいるから心強いし、また訓練につきあってあげるから」
「んにゃ……」
カリンの脳裏に、今日の梅佳とのできごとが次々に浮かんできた。
あたしに座席を教えてくれたこと。
初めて耳にした「わらわ」や「くるしゅうない」という言葉。
優勝したバスケ大会で大活躍した梅佳のプレー。
襲ってきた敵をあっという間に倒して助けてくれたこと。
カリンは明日も梅佳に会いたいと強く思っている自分に気づいた。
「わかったにゃ!」
微笑むカリンは、洸たち三人とともに駅へ向かった。
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語句の意味
手を焼く
何かにてこずる、もてあますこと。
ここからてこずる火炎獅子で攻撃するスキル。




