#10 第9話 血の雨を降らす・生き血を吸う
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入り口から職員室内にだれもいないのを確認した梅佳は付近を見渡す。教師はおろか、生徒さえひとりも見あたらない。
「『チマナコニナル』」
梅佳は両手の人差し指で同時にこめかみを軽く押さえる。
すると梅佳の目に少し前のカリンの残像が浮かぶ。カリンの残像は職員室を出たあと、向かいにある部屋に入っていった。
「よし。この部屋の中じゃな」
スキル『血眼になる』は、探している人や物の少し前の位置が残像で分かるのだ。カリンが部屋の中にいることを確信した梅佳はドアに耳を当ててみる。
──おかしい……。物音ひとつしないぞ……。
部屋をノックしてみるも応答がない。梅佳はそっとドアに手をかける。
──なぜじゃ!? 鍵がかかっておる。カリンは中におるはずじゃ。まさか……。
「やむを得ん。『シュニマジワレバアカクナル』」
梅佳が唱えると、梅佳の全身が周囲の風景に同化する。梅佳はそのまま開かないドアを通り抜けた。
「おおぉ!」「にゃっ!」
目の前にカリンがいて驚いたのも束の間、涙目になっているカリンの表情と、その後方にいる青い顔をした女性に気づく。
「なっ、なにやつ。お前は伊集院か?」
「あらら、もうひとりお客様ね。どのみち抹殺しないといけないリストの一人だから手間が省けたわ。弥生梅佳ね。最後に殺そうと思っていたのだけれど」
「なんじゃと? カリン、大丈夫か?」
「ウメたん、助けに来てくれたの?」
「まぁ、そういうことになるのぉ。こやつは何者じゃ?」
「あたしもよくわからないにゃ。さっき言ってた名前は……せれな? せれね?」
「フフフッ。セレネ・レセよ。ギリシャ神話に出てくる月の女神のひとり、セレネの末裔。あなたたちを抹殺します」
「なにを申すか。わらわがお前なんぞに殺られるものか。カリンも殺させん」
梅佳はカリンを抱き寄せながら、不敵な笑みを浮かべ、戦闘態勢に入った。
「楽に死なせてあげるからあばれないでね。かわいい猫耳のおふたりさん。『カチョウフウゲツ』『セツゲッカ』」
セレネが唱えながら両腕を広げると五指の先が白く光り、部屋の中に美しい風景を描いていった。
狭い室内とは思えぬほどの山々の遠景に、花が咲き乱れ小鳥たちがさえずる。暗い空に美しい月も出ている。
「き、きれいにゃ……」カリンはとろんとした表情で呆然とし始めた。
「こ、これは幻惑の効果か……まずいのう。カリン、しっかりするのじゃ。『シンケツヲソソグ』」
紅色の光に包まれた右手をカリンにかざすと、光はカリンの全身を包み込んだ。それを見届けてから梅佳は自身にも右手を向ける。
「はっ! あれ? なんだか気持ちよくなって……眠たくなってたにゃ……」
「カリン、しっかりするのじゃ。こやつはわれらを殺す気じゃ」
「にゃっ!?」
梅佳の『心血を注ぐ』スキル──本来集中力を上げる効果だが、幻惑スキルを解く効果もあり、カリンを正気に戻した。
「そなたは隅っこに下がっておれ」
「ウメたん、大丈夫にゃ?」
「わらわに敗北の二文字はないぞ」
「ほう、さすがね。判断が迅速で正確。でも過信しすぎね。能力を与えられたとて、人類ごときが私に勝てるわけがない」
セレネが右腕を前に突きだし、スキルを唱える。
「『サイゲツヒトヲマタズ』」
セレネの言葉とほぼ同時に梅佳も叫びながら右手をセレネに向ける。
「『チデチヲアラウ』!」
両者の右手から放たれた光──セレネの白い光と梅佳の赤い光がぶつかって桃色に混ざり膨張する。破裂する勢いで膨らんでいくがバランスボール大くらいの大きさでシュンと消失した。
「相殺するとはね、あぁ、面倒な子ね、弥生梅佳……」
セレネはカーディガンのボタンをすべて外し、乱れる髪をかき上げた。
「わらわはこれ以上貴様と関わる気はないぞ。『チノアメヲフラス』!」
梅佳が唱えると右手にワインレッド色をしたレーザー銃が出現し、即座に発射する。
ドゥーン、ドゥーン、ドゥーン──。
レーザー銃独特の連射音が無数に鳴り響く。
ドゥーン、ドゥーン、ドゥーン──。
セレネは避けようとするのだが、連射されるレーザーはAIによりセレネを追尾し、すべてセレネに直撃していく。
「ぐはっ。小癪な……」
顔をゆがめるセレネ。体のあちこちにできたレーザー痕から白い煙とともに青い液体が滴る。
「まだじゃぞ、『イキチヲスウ』!」
間髪入れず追い打ちのスキルを唱える梅佳。その左拳の隙間から次々に紅色の球がシャボン玉のごとく吹き出し、破裂しては吸血蝙蝠を生み出す。
そして無数の蝙蝠たちはせわしなく羽ばたきながら飛び交い、セレネの体を覆いつくしていった。
「なん……だとぉ……う……う……。う……」
セレネは口までも覆われ声を発せられなくなった。ゆえにスキルも出せない。そしてそのまま崩れるように床に倒れこんだ。
「これで終わりじゃ」
梅佳はくるりと向きを変えて、部屋の隅で立ち尽くすカリンのそばに歩み寄った。
「カリン、行くぞよ」
「……勝ったの?」
「言ったであろう、わらわに敗北の二文字はない」
「ウメたん!」
カリンは梅佳に飛びつくように抱きついた。
「こわかったにゃ……」
「もう大丈夫じゃぞ」
「ありがとにゃ……」
梅佳は顔を真っ赤にしながら視線をカリンからそらす。
「れ、礼には及ばん。わらわにはこれくらい朝飯前じゃ。それより早くここから去るのじゃ。人が来たら面倒なことになるでのぉ」
「うんにゃ……かっこいいにゃ……ウメたん」
梅佳の胸に頬をすり寄せるカリン。恐怖から解放された安堵感と梅佳への敬愛の念がこみあげていた。
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以下、語句の意味・スキル解説になります!
ネタバレ防止、考察したい方はスルーでお願いします。
□弥生梅佳のスキル
血眼になる
目を血走らせているさま。冷静さを欠いていたり、何かに必死になっている場面でよく用いられる。
ここでは、人や物を探すためのスキル。
朱に交われば赤くなる
人は周囲の人や環境に影響されやすいことのたとえ。
ここでは、周囲の背景と同化して隠れたり、通り抜けたりするスキル。量子力学が発展したこの時代ならではのスキル。
心血を注ぐ
全力で事にあたること。
ここでは集中力をアップさせるスキル。
血で血を洗う
眼には目を、歯には歯をと類義。暴力には暴力で対抗すること。
ここでは相手のスキルを相殺するスキル。
血の雨を降らす
多くの人を殺すこと
ここでは手段はともかくかなり強力な攻撃をするスキル。
生き血を吸う
生きたまま血を吸うことから、容赦なく人の物を奪うこと。
ここでは吸血蝙蝠を大量に出現させるスキル。




