オタクに優しいギャルなんかいるわけねーだろ、だって? ……いるんだなぁーこれが。
どうも皆さん初めまして。こんにちわ。あるいはこんばんは。
いつも教室の端っこで一人でゲームをしているボッチの中のボッチ、高校二年生の山田太郎です。
今日は学校なので、スマホでソシャゲをしています。ほんとはsw〇tchを持ってきてゲームをしたいところですが、学校にゲーム機を持ってくるのは禁止されていますからね。
僕はちゃんと校則は守りますよ。え? 授業中はどうなんだって? そら爆睡よ爆睡。
ゲーマーからしたら、授業中が睡眠時間になるからね。逆に深夜が活動時間だから。これ常識だよ。
成績は大丈夫なのかって? 大丈夫ですとも。テスト前に二徹くらいすれば何とかなる。
さて、今は昼休みのお時間です。
周りの人達は友達と一緒に弁当を食べたり、男同士で一緒にゲームをしながら談笑したりと、様々なグループがある中、僕は当然の如く一人でソシャゲ。なに? さみしくないのかって? 今はもう寂しくないですよ。
中学の頃はちょっと寂しかったですけど。ちょっとだけだよ? ちょっとだけ。
今はもう慣れて、むしろ一人の方が気楽でいい。
そして色んなグループがある中一際目立つのが、クラス、いや学校の中のカーストでもトップに君臨するグループがある。
それは、清楚ギャルや普通のギャル、不良チックなギャル。そしてチョイ悪な感じの男が数人。
まさしく陽キャなグループが存在している。この人たちは見た目は当然良い上に、コミュニケーション能力もバカみたいに高い。
まあ、僕は話しかけられたことないんだが……。
そしてこの陽キャグループの中でも、特に人気があるギャルがいる。同級生や先輩、さらには後輩までにもモテると言う。週に五回は告白されるらしい。いやそれ毎日やないか。
見た目は、ザ、ギャルみたいな恰好で、スラっとした足を出して、見えるか見えないくらいのミニスカート。髪の毛はセミロングで、もれなく茶色に染めている。
恰好は普通のギャルなのに、なんでこんな人気があるのか。
それは、その圧倒的美貌。顔はもちろん、スタイルも抜群。おまけにコミュ力も高いと来た。
そらモテるわ、って感じだ。
こんな僕でも可愛いと思えるくらい。普段は他の人に興味はないが、この人は素直に可愛いと思う。
それに普段は読書モデルのバイトをしているらしい。
なんでそんなこと知ってんのかって?
このグループは嫌でも目立つから、自然と会話が聞こえてくるのさ。特に男の声が、バカみたいにでかい。
近くに可愛い女の子がいたら、声を大きくする、目立ちたがりのテンプレの奴だな。
まあ、男子も全員イケメンなんだけどさ。制服も着崩れして、ヤンキーとまではいかないが、若干不良チックな感じの見た目をしている。それ故にモテる。あーやだやだ。
「なあー。今日帰りどうするー?」
「カラオケでもいかねー?」
「それアリだわー」
噂をすれば、その陽キャグループが教室に帰ってきた。おそらく食堂にでも行っていたんだろう。
けれど、例のギャルたちがいない。男子だけで帰ってきたようだ。
「もちろん、美奈ちゃん達も誘うっしょ?」
「あたりまだろ。イツメンだしな」
「教室に帰ってきたら、誘ってみようぜ」
彼らの言うイツメンとは、いつもの面子の事を、略してイツメンと言うらしい。
まさに陽キャの中の陽キャ。なんでも略したがる。
「おっまたせー。いやーメイク直しに時間かかったわー」
「あんた、今日バイトあるもんね」
「読モも大変だねー」
ついに現れた、噂のギャルたち。
最初に入ってきたのが超人気ギャル、その名も『佐藤美奈』。
名前もなんか可愛い。
「おっつー。なあなあ。美奈ちゃん達も、今日の帰りにカラオケ行かねー?」
「最近行けてないしなー」
男子たちが佐藤さんたちをカラオケに誘っている。
さすがのコミュ力。
僕なんか、カラオケにすら行ったことないのに。
「ごっめーん。今日読モのバイトがあるんだー。また今度ね!」
「うちもバイト」
「私もー」
みんなバイトでカラオケにいけないらしい。
ギャルたちは普段遊ぶ金も、アルバイトで賄ってるのか。すごいな。
「まじかー。じ、じゃあ、明日は? 久しぶりにみんなで集まろうぜー」
男子どもの中の一人が、ギャルたちに明日の予定を聞いている。
一応、全員を誘うようなニュアンスだが、顔は佐藤さんに向いている。
ふむ。まあ、そういう事だろう。
恋愛経験皆無の僕でも、どういう事かすぐに分かる。
「ごめーん。明日もバイトなんだー」
「うちも」
「ごめん私もー」
明日もバイトなのか。ギャルたちは、学校の中だけではなく、私生活でも忙しいらしい。
「そ、そっかー。またバイトが休みの日があったらすぐ教えてよ! こっちで計画立てるからさー」
「おっけー! また連絡するねー」
そういってギャルたちは自分の席に戻る。
そしてすぐにチャイムが鳴る。ああ……。僕の唯一のゲームタイムが終わってしまう……。
さて、あとは寝るだけだ。おやすみなさい。
「……」
そして五時間目の終わりのチャイムが鳴る。
ああ……。眠い……。
僕はひっそりとポケットからスマホを出す。
この休憩時間の十分間が僕にとって勝負所なのである。
なぜなら、この休憩時間は僕にとって、ソシャゲの周回時間なのだ。
なのでこの十分は非常に貴重な時間なのである。
「……ねえ」
ふむ。とりあえず、オートモードで周回しておくか。
この周回でガチャが回せる。あとは家に帰って、イベントが始まる時間を待つだけ。
「……ねえってば」
何やら、教室がえらい静かだが、六時間目は移動授業ではなかったはず。
みんな眠いんだろうな。ご飯食べたあとだし。
「……ねえって! 聞こえてる!?」
誰か呼ばれてるぞ。早く返事してあげなよ。
無視されるのって結構きついんだぞ。精神的に。
「ちょっと! 山田くん!」
ほら。さっさと返事をしてあげなさい。山田くんとやら。
……やまだ?
「山田太郎君!」
「……え」
「やっとこっち向いた! もう! 無視されてるのかと思ったよ!」
……なんてことだ。
呼ばれてるのはこの僕であったか。
まあ、山田太郎なんて名前このクラスで僕だけだからな。
なんとも珍しい。
この僕をクラスの中で呼ぶなんて、どこの誰だ?
声からして、女子のよう……だ……が……。
「!?!?」
「おっす!」
……え?
なんと、目の前にいたのは、かの有名な佐藤美奈さんではないか。
…………え?
「ねえねえ。なんのゲームしてるの?」
「……え、あの……」
メーデー!メーデー!
あの佐藤さんが、僕に話しかけている!! あの佐藤さんが!!
誰か! 応答頼む!
あ、僕友達いなかったわ。
え、ほんとなんで? 僕なんかに用事でもあるのか?
まさかカツアゲ? いや、そんな事をするキャラではないだろう。
だとしたら、なんで???
と、とりあえず質問に答えよう。
「……え、あの……。そ、ただのソシャゲ……」
「え? コロッケ?」
いやそれ食べ物!
なんて耳がわるいんだ。
いやこれは、僕の声が小さかったのか。
「……いや、そ、ソシャゲ……」
「あー。ソシャゲね! あれでしょ? おっぱいが大きくて可愛い女の子が剣持って戦うゲームでしょ?」
言い方!
確かに!おっぱいは大きいけども!
言い方!
「……あ、ま、まあ、そうだね……」
「へー。楽しい?」
「……え、まあ、そりゃあ……」
「もっとみせてみせて!」
「?!?!」
ち、近い近い近い!
めっちゃいい匂いするしおっぱいでかいし!
いや谷間みえとるー----!!
「あ、ごめん。ちょっと距離間バグってたわ」
いやほんとだよ。
バグりすぎだよ。
「な、なあ、美奈ちゃん。美奈ちゃんって、こいつと絡みあったっけ?」
「え? まあ喋りかけるのは初めてかなー」
「……」
そら初めてだよ。
「そ、そうだよな! あとこいつの名前なんだっけ? 山田桃太郎だっけ?」
「ぎゃははは! ひどすぎるだろ!」
陽キャグループの男子が僕をいじってくる。
いやこれはいじりなのか? 普通に間違ってる可能性もある。
なるほど。なんでこんなに教室が静かになっていたのか分かったぞ。
あの『佐藤美奈』が僕みたいな、みるからに陰キャの奴に話しかけたからだろう。
そりゃ驚くよな。僕が第三者の立場でも驚く。
「え? 違うよ? 山田太郎君だよ」
「あ、山田太郎ね! 存在感無さ過ぎて、名前忘れてたわ。どこの六人目だよ!」
「もしかして、バスケ部に入ってたりして!」
「それあるかもな!」
なんてマシンガントークなんだ。
陽キャの人たちは、いつもこのペースで会話してるのか。
一生ついていける気がしない。
「そう? 私は結構目につくけどなー。なんだったら話かけるタイミング探ってたし。そんなこんなしてたら、一年くらい経ったわ」
……さらっと、爆弾発言を……。
僕に話かけるのに一年もかかった??
この僕に??
一年も!?!?
「ハ、ハハハ……。美奈ちゃんもいじるの上手いなー。一年とかどんだけだよ」
そ、そうだよな……。
こんな陰キャに話しかけるだけで一年もかかるわけがない。
あの佐藤美奈だぞ?
学校の中でもトップに君臨するあの佐藤美奈が、こんな僕に話かけるなんて造作でもないはずだ。
「へ? ほんとの事だよ? なんだったら咲たちに相談乗ってもらってたし」
「え……」
「………え……?」
え……。
相談……?
「そうそう。美奈ったら、いつも恥ずかしがっててさー。さっさと話しかければいいのに、いざ話しかけようとすると、顔を真っ赤にして帰ってくるもんねー」
「ちょ、ちょっと咲! それは言わないでよー!」
……え、冗談じゃなかったの?
話しかけるのに一年もかかったって、マジなのか……?
思わぬ出来事にびっくりしてると、予冷のチャイムがなった。
「げ、もうチャイムなっちゃった。ごめん。また後でね!」
「……あ、はい……」
佐藤さんはそう言うと、自分の席に戻っていった。
えーー……。
いつもなら六時間目はぐっすり寝ているのだが、今日は全く寝れなかった。
先ほどの出来事で頭がいっぱいになっていた。
あの佐藤美奈が、僕に話しかけるだけではなく、話しかけるタイミングを見計らっていただって?
しかも、一年間ずっと?
だめだ……。まったく整理できない……。
そもそも僕と佐藤さんは全く接点はなかったはずだ。
中学も別の中学だったし。
ああ……。だめだ……。頭がパンクする……。
それにさっきから、すごい視線を感じる……。
あの男子だ……。僕を桃太郎と呼び間違えた人だ……。
僕の目から見ても、佐藤さんに好意を寄せているが分かるくらい、佐藤さんの事が好きな男子だ。
こわー-……。
いつも以上に端っこの席で縮こまっていると、六時間目のチャイムが鳴る。
すると、一目散にあの男子が僕に向かって歩いてくる。
なに、僕殺される……?
「おい」
「……な、なんでしょう……」
「お前、美奈ちゃんとなんか絡みあったんか?」
「……いえ、特には……」
周りがざわざわしている。
なんか僕詰められてるみたいな感じになってるけど、これ僕何にも悪くないよね……?
この男子が僕に嫉妬心を抱くのは分かる。
好きな女の子が、自分とは違う男子と楽しそうに喋ってたんだ。
そら嫌だよな。しかもその相手はこの僕。
だけど、今回は僕から話しかけたわけじゃないし、なんだったら今日初めて喋ったからね!?
この僕があんなキラキラした女の子に話しかけかられる訳がないだろう。
「悪いけど、今後一切美奈ちゃんと喋らないでくんない? 美奈ちゃん今必死に頑張ってんだよ。読モのバイトとか。勉強とかいろいろ。お前みたいなやつが、美奈ちゃんの近くにいたら、美奈ちゃんに余計な被害がいくだろ。そこんとこよろしく」
その必死に頑張ってる子に、しつこく遊びに誘っていたのはどこの誰だ。
内心イラっと来たが、ここは穏便に終わらそう。
この男子が言う事にも一理ある。
僕が返事をしようとすると、佐藤さんとその友達が僕の席まで歩いてきた。
「なあ! 美奈ちゃんもそう思うだろ? 美奈ちゃん今必死に頑張ってんの、俺分かってっから!」
「さすが智樹! モテる男はやっぱ違うなー」
あの男子は智樹と言うらしい。今初めて知りました。
それにどうも、ギャルたちの様子がおかしい。
心なしか、少し怒ってるような気がする……。
え、僕、ギャルーズにも詰められんの?
「……ほんとそうだよねー。美奈がこの一年間どれだけ頑張ってきたか……」
佐藤さんがなにか言うのかと思いきや、意外にも佐藤さんの友達が口を開いた。
確か、咲さん、だったかな。
このニュアンスからして、ギャルーズも僕に怒ってるんだろう。
理由はとんでもなく理不尽だが、これ以上長引くのもあまりよろしくない。
ほかのクラスメートにも迷惑が掛かる。
もう僕が謝って話を終わらせよう。
「……あ、あの……。すいません……でした……。今後は一切、近づかないように……するので……」
「いやほんとに。美奈ちゃんほんとに頑張ってってから。邪魔すんなよな」
「ほんとそれだわ」
「……あのさー」
「ん? どうしたの美奈ちゃん。もしかして俺に惚れちゃった? なんて」
「……なんで謝ってんの……?」
「……え……?」
佐藤さんとその友達が男子たちの間を無理矢理通り抜けて、僕の目の前にくる。
なんでって、今の一連の流れの通りだけど……。
「み、美奈ちゃん?」
「なんで山田君が謝ってんの……?」
「なんでって。美奈ちゃんが迷惑してそうな感じー-」
「おめぇは黙ってろやカス」
「……え」
……!?!?
……心臓が飛び出るかと思った……。
なんだ今のドスの聞いた声は……。
というか、なんで佐藤さんがあの男子に怒ってるんだ……?
「山田君……。大丈夫……?」
……なんか、佐藤さんがものすごく泣きそうな顔して、僕に話かけてくる。
なんで泣きそうになってるのかわからないが、これだと僕が泣かしたみたいな感じになってしまうので、一応謝っておこう。
「……あ、ぼ、僕は大丈夫です……。……あ、あの、なんかすいません……」
「だから、なんで山田君が謝んの……?」
「え、だって……。な、なんか……、さ、佐藤さんが、泣きそうになってしまっているので……」
「……優しいんだね」
「い、いやいやいや……。そ、そんなことはないと思いますはい……」
「いや山田くんは優しいよ。まあ、前から優しいことくらい知ってたけどね」
「……ま、前から……?」
「そ。前から。一年くらい前から。まあ、この話はこの後しよっ」
「……あ、はい……。あ、でも先ほどの佐藤さんの友達の方から、そ、その、近づくなと言われたので…」
「あー。さっきの奴ね。はいはい。……ごめん。咲。もう我慢できないかも」
「いいよー。なんだったらうちも我慢できないわー」
なにか、不穏な空気だ……。
「み、美奈ちゃんに咲ちゃんも、ど、どうしたー-」
「どうしたもこうしたもねぇよ!このカスが!」
……ん……??
「さっきからなに山田くんの事いじめてんの? 頭湧いてんのかこの野郎!」
「い、いじめてるって……。は、ははは……。お、俺は美奈ちゃんの事を思ってー-」
「私の事を思うんなら、今後一切私たちと山田くんに近づかないでくんない? そもそも私がこの一年間なんで頑張ってきたのか、お前分かってんの?」
「そ、それは、もっと上を目指してー-」
「そんなくだらない理由じゃないから。なんにも分かってないじゃん。さっきから『俺は分かってる』みたいな事言ってたけど。なんにも分かってない」
「で、でも美奈ちゃんが頑張ってんのずっとそばで見守ってきたし、ずっとそばに居た俺が、一番美奈ちゃんのこと、理解してるっていうか……。美奈ちゃんも、俺の事ずっと見てくれてたでしょ? それで美奈ちゃん俺の事好きなんだって分かって、俺もこの一年頑張ってきたし……」
……わーお……。なんて自信家なんだ……。
「……はぁ? いつ私があんたの事好きって言ったの? どんだけ自信過剰だよ。きもっ。それにお前が一番私の事理解してるって? じゃあなんで私がバイトで読モしたり、この一年勉強頑張ってきたのか、言ってみろよ。咲とか澪はこれくらい分かってくれてるけど? お前わかんの?」
……どんどん僕がイメージしてた『佐藤美奈』の人物像が崩れていく……。
こんなはっきり物を言う人なんだ。
……正直カッコイイと思ってしまった。
というか、なんで僕が佐藤さんに守られているのか、今だによく理解できない。
最初は、僕が佐藤さんと一緒にいたら、佐藤さんが迷惑だから、佐藤さんに今後一切近づかないでくれ、と言う話じゃなかったっけ?
あれ? 違った?
[そ、それは、いつか俺と付き合えるように、頑張ってきたんでしょ……? ほら、俺これでも結構モテるしさ。いやまあ、正直俺は他の女は興味ないっていうか……。俺は美奈ちゃんしか興味ないっていうか…」
……うーわ……。さすがの僕でもちょっと引くな……。
「……もうそこまでいくと呆れるわ。そもそも私はあんたなんか眼中にすらないわ。むしろいつもアピールしてきて正直うざかったし。なんで私がバイトなり勉強なり頑張ってきたか、この際教えてあげる。一年くらい前か、私好きな人がいんの。その人に振り向いてくれるように読モで綺麗になれるようにバイトしたり、同じ大学行けるように、毎日勉強してんの」
「「……えぇ!?」」
クラス中がびっくりしてるじゃないか。
そんなに驚く事なのか?
「す、好きな人って……。それやっぱり俺の事じゃー-」
「違うわボケ。誰がお前なんか好きになるかよカス。前から思ってたんだけど、お前さ、平気で人の嫌がる事するし、それみてヘラヘラしてるし、ほんとにうざい。女子がそれ見て、面白いと思ってんの? あんたがモテるのは顔がいいだけでしょ。最終的に、私の好きな人までいじるし。ほんとなんなの? さっさと消えてくんない?」
「あ、美奈っち……。さらっと言ってる……」
「え? ……あっ……。と、友達としてね!? 友達として!」
………なんだ友達か。
この会話から察するに、佐藤さんの好きな人は、もしかして僕なんじゃないかと、期待してしまった。
ちょっとだけだよ? ちょっとだけ。
というか、いつのまにか、佐藤さんと友達になっていたことに対してびっくりなんだけど。
「と、とにかく! 今後一切、山田くんに近づかないで。もし山田くんになにかしらの報復をしようものなら、私のバック呼ぶから。分かった?」
「……は、はい」
……智樹君。お元気で。もう死にそうな顔してるけど。
って、こうしちゃいられない。
「……あ、あの……。佐藤さん……」
「ん? なあに?」
「……あ、ありがとう、ございます……。助けていただいて……。あと……、そ、その……、かっ、かっこよかったですハイ……。すいません」
「ぐはぁ!!」
「あー。美奈っちまたやられちゃったー」
「……え、あの…」
「あー、ごめんねー。美奈っち、山田君の事見てるとたまにこうなんのよー。気にしないでー」
「……は、はあ……」
「ほら、起きて美奈っち。今日は連絡先交換まで頑張るんでしょ?」
「はっ! そうだった……。ンン! あの、山田くん!」
「……は、はい!」
「連絡先、交換してくれない……?」
この世の中には、僕みたいなオタクにも優しくしてくれる、守ってくれる、そんな優しいギャルもいるみたいだ。生涯、友達ゼロ人で過ごしていくと思っていたけど、そういうわけではないらしい。
あ、それと……
「す、すいません……。ラインはやってないし、家族以外と、連絡先交換したことないので、そ、その、やり方、教えてもらっていいですか……?」
「……えー……」
「そ、それって、私が初めてって事!? ……ぐはぁ!!」
「み、美奈っちー。またやられちゃったー」
ギャルだからといって、距離を置いていたのは、僕のほうかもしれない。
この人達は、ただ単に優しい人達なんだ。