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7 皇帝の許し


▫︎◇▫︎


 謁見許可は案の定簡単に出た。というか、無表情のエミリーが皇帝を連れて帰って来たのだ。


「帝国の太陽にご挨拶申し上げます。朝からお越しいただき、至極光栄にございます」

(えぇー!?陛下来ちゃったよ!いきなり過ぎるでしょう!!というか、なんでセレスはこんなに平然としていられるの!?)

「挨拶はよい、今は皇帝ではなくお前の父親だ。セレス」

「分かりました、父上」


 いきなりの謁見でも、大慌てなミシェルと違い、セレスティアが慌てることはなかった。定型通りの挨拶を定型通りに行い、そして一蹴された。


「で?何用だ」

「わたしとミシェルの婚約についてです。書類に一筆いただきたく存じます」


 唯我独尊という言葉がぴったりに見えるセレスティアに、ミシェルは憧れを覚えた。


「………ミシェル・ライバード!」

「は、はいっ!」

(呼ばれたよ、呼ばれちゃったよ!!これって、『娘はやらん!!』とかって言われるパターンだよね!?どうしよう!僕、セレスと一緒にいたいのに!!)

「何があっても、お転婆なこの子(セレスティア)をどうか捨てないでやってくれ。見捨てないでやってくれ。ちょっと男勝りで気の強い子だが、決して悪気があるわけでもない。暖かく見守ってやってくれ」

「………は、はい?………………お、恐れながら、捨てられるとしたら無能でうじうじしていて弱虫な僕だと思うのですが………」


 頭を下げて頼み込む皇帝に、ミシェルはこんがらがっていた。思っていた結末と違っていることもあるのだろうが、自分がセレスティアのことを捨てるなど考えられなかったからだ。


「………セレス、ペンを貸しなさい」

「はい」


 セレスティアはいつもの妖艶な笑みを浮かべて自分の万年筆を父親に手渡した。父親は、疲れた嬉しそうな表情をしていた。


「彼ならばセレスを捨てないでくれそうだ」

「どうでしょうね?」

「他人事ではないと思うが?」

「捨てられても地の果て、空の果て、海の果て、この世の果てまで追いかけますから」


 セレスティアの満面の笑みに、父親は身震いした。


「お前は本当にフロンティアそっくりだ」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めておらぬ」

「そうですか」


 セレスティアは飄々とした雰囲気で、父親からサインを終えて王家の判子まで押されたセレスティアとミシェルの婚約に関する書類を受け取った。


(これでもうミシェルはアリスに取られないな)

「セレスはもうちょっと器を大きくしろ」

「何が言いたのでしょうか」

「………お前は狭量だと言いたいんだ」

(失礼な)


 セレスティアは妖艶な笑みを深くした。彼女は怒っている時ほど笑顔が深くなるらしい。


「セレス、僕は君が許してくれる限り、君の側から離れないよ」


 セレスティアの服の袖をきゅっと引いて弱々しい声音で『捨てないで!!』と訴えかけるように言った。セレスティアはそんなミシェルに、殊更優しい笑みを浮かべた。


「わたしは捨てられても側を離れない」

「それはどうかと思うぞ、セレス。ミシェル君、セレスの束縛がキツくなったら来なさい。匿ってやる」

「は、はあ」


 少し抜けた声で返事をしたミシェルに、セレスティアは満足そうに頷き、父親は不服そうな顔をした。


(わたしの勝ちだな)

「………………………」


 セレスティアはなんの勝負か分からんない勝負の勝利に男らしい微笑みを浮かべた。


「セレスティア、お前はいつ事が起こると踏んでいる?」


 唐突に皇帝の顔に戻った父親に、セレスティアはスッと背筋を伸ばした。


「確実ではございませんが、おそらく3日後に行われるわたしとあの子の誕生日パーティーではないかと思っております」

「おめでたい席でなんということをしでかそうとしているのだ………」


 今はどんなに仲が悪かろうとも、アリスティアとセレスティアは元々はものすごく仲の良い双子の姉妹だ。お互いがやろうとしていることなど、余程突飛なことではない限り、手に取るように分かってしまう。だからこそ、セレスティアはアリスティアのことを軽蔑していた。初恋を捨て、いっ時の感情に左右され、#犯罪に手を染めた__・__#一族の男と結ばれようとするなど、笑止千万だ。


「………ご心配は必要ありません。アリスの愚行を止める策はもう練ってあります」

「そうか。しっかり励むがよい」

「はっ!」

「私は次の公務がある故これにて失礼する。羽目を外さぬように」


 陛下はセレスティアとミシェルに視線を向けた後、颯爽と去っていった。


「………………………」

「………ふぁー、びっくりしたー」


 詰めていた息を一気に吐き出してぐったりとソファーに倒れ込んだミシェルに、セレスティアは優しく微笑んだ。


「そうか?父上のことだから、わたしはすぐに来ると思っていたが」

「そ、そういうことは早く言っておいてよ」

「言う必要はないと思っていた」


 セレスティアは首を傾げた。分かっていただろう?と言わんばかりだ。


「左様ですか」

「あぁ」


 諦めたようについた溜め息と共に漏れた畏まった言葉に、セレスティアは肩をすくめた。


「さぁ!本格的にアリスを止める準備に取り掛かるとするか!!」


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