19 皇女は皇帝となる
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数年後、セレスティアは妖艶な微笑みを浮かべて相変わらずの男装姿で、いつもの正装よりも何倍も豪奢な軍服を着込んでいた。そして、その隣には、同じく着飾ったセレスティアの愛してやまない小動物のように愛らしいミシェルの姿があった。
「皇太子、セレスティア・ルクセンブルク殿下、並びに皇太子殿下の夫であらせられる、ミシェル・ルクセンブルク殿下のご入場です!!」
大きな掛け声と共に開かれた扉の先には真っ赤な絨毯の敷かれた道があり、道の行き着く先にはセレスティアの父親たる玉座に座る皇帝と、その横で王冠と王笏が乗っている盆を持っているセレスティアの双子の姉たるアリスティアが優しい微笑みを浮かべて佇んでいた。
セレスティアは2人に向けて一瞬違う微笑みを浮かべてから、ミシェルにエスコートされてゆっくりと絨毯の上を歩き、ミシェルと共に皇帝の前で頭を垂れて跪いた。
「セレスティア・ルクセンブルク!
そなたをこの瞬間を持って皇帝とする。皇冠と皇笏を受け取り、『帝の書』に名を連ねよ!!」
「はっ!」
セレスティアは頭を上げてアリスティアの冠を被せてもらった。
「しっかりと頑張りなさい、セレス」
「うん、ありがとう。アリス」
昔のように優しい口調でセレスティアが返すと、アリスは目を見開いて潤ませた。だが、公の前で泣くわけにはいかないからか耐えるように唇を結んで笏を手渡した。
セレスティアはそれを左手で受け取り、右手で盆からペンをとって『帝の書』と呼ばれる本に新たな皇帝として名を連ねた。
春の陽気の眩しい温かな日、ルクセンブルク皇国に月のごとく美しい新たな女帝が誕生した。
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春の陽気の眩しい温かな日に即位した女帝が統治する間、帝国には1度の危機も起こらず、即位した時のように実に平和で温かだった。全ての正しい人間に寄り添った皇帝を、後に人々は『月の賢皇』と呼び、その補佐官たる優秀な美しい宰相を『太陽の賢姫』と呼んだ。
この呼び名は彼女たちの皇女時代の呼び名に関わっていたとかいないとか。
皇帝夫婦はおしどり夫婦としても有名で、3人の子供に恵まれた。女帝の度が過ぎる夫への過保護と夫の女帝への溺愛に、生涯独身を貫いた男嫌いの宰相はよくブチギレて女帝とその夫を扇子で叩いてていたとかいないとか。
家族を何よりも大事にした皇帝夫妻は、とても仲の良かった男嫌いな宰相と共に沢山の家族に見守られながら穏やかにこの世を去っていったらしい。




