18 皇女は最後を決める
「衛兵、次男以外を押さえつけろ」
次男は皇帝の言葉により、罵詈雑言や体当たりを受けなくて済むようになった。
「セレスティアは元々子爵夫人や男爵夫人の罪は問わないと言っている。それなのになぜ許しをこう」
そして、そんな次男に皇帝は平坦な声で聞いた。
「………ミーファには罪人の一族の娘という汚名が付き纏ってしまいます。ですが、彼女は何も関係ないのです!だから男爵家からの除名をお願いします!」
「除名は許しを乞うことに関係ないだろう」
「っ、罪に問われないことと許しをいただくことは違います!」
次男はか細い声で懇願するように叫んだ。
「ならばなぜ母親と妹の許しも乞う」
「お母様や妹には自力で生き抜く力がありません!ですから生活基盤が整うまで補助していただきたいのです。それに、お母様は病気を患っていらっしゃいます。働くことも叶わないのです」
「………何故それを帝国で養わなければならない」
「っ、………分かって、います。ですが、お願いです。医者にだけでも罹らせてやってください。お願いします」
床に頭を擦り付けたままの次男に、皇帝は深い深い溜め息を吐いた。
「皇家にお前の家族を養う義務はない。だが、お前には家族を養い、守る義務がある」
「?」
「ユリーク・グートハイル、そなたに母親と妹を養い守ることを命ずる!」
「!? ぼ、僕は罪人です!お母様やレーファを養い守ることなど到底できません!」
「まだ分からないのか?お前がグートハイル男爵家の後を継げ。お前の子供の代については優秀ならばそのままこれまで通り継承させよう、優秀ではなかったならば、当初の予定通り取り潰しだ。あと、グートハイル男爵領には定期的に皇家からの監査が入る。サボることは許さんぞ」
皇帝の言葉に、賛同の拍手が会場を支配した。家族思いの次男、ユリークは父親たる男爵や横暴な兄、弟に負けず弱い者を助け、賢い頭脳を持ってして国に家族の不正を告発していた。これほどまでに腐敗している領地を立て直すのに適した人材は他にいるだろうか。いや、いないだろう。
「皇帝陛下、わたくしめのお仕事をとらないでいただきたいのですが………」
「すまんな、我慢ならなかった。だが、結果オーライだろ?」
皇帝はニヤリと笑った。
(本当に、父上はいつからこうしようと画策していたのだろうか)
セレスティアは大きな溜め息を吐いた。元々は自分の断罪の番だったはずなのにも関わらず、気がつけば父親にまとめを持っていかれてしまっていた。本当に釈然としない。
「仕方がないよ、セレス。皇帝陛下は僕たちよりも何枚も上手なんだから」
「ミシェル、慰めになっていないぞ」
「仕方がないよ、だって相手があの陛下だもん」
ミシェルはセレスティアの背中を撫でながら、変な慰めを続けた。
「ほら、最後ぐらいバッチリ決めたらどう?」
「そうだな、
衛兵!!ユリーク男爵令息を除く捕らえた罪人共を地下牢にブチ込め!!」
「はっ!!」
セレスティアの大きな掛け声に、衛兵は元気よく返事をして罪人を蹴飛ばし、殴り飛ばし、罵詈雑言を浴びさせながら牢の方へ運んでいった。会場内からは割れんばかりの盛大な拍手が巻き起こり、アリスティアとセレスティアの成人を祝う盛大な誕生日パーティーは幕を閉じた。
▫︎◇▫︎
「もう、せっかくの誕生日パーティーが台無しじゃない。どうしてくれるの?セレス」
「じゃあ身内だけの温かなパーティーを開くことにしようか」
「ふふふ、それはいいアイデアね」
パーティー会場からの帰り道、仲の良い双子はじゃれあいながら居住区に向かって歩みを進めていた。そして、その背後には2人を優しく見守る父親たる皇帝とセレスティアの婚約者たるミシェル、ミシェルの両親と兄夫婦、と兄がいた。
「………やっぱり、家族とは本当にいいものだな」
「そうね、わたくしも実感しているところだわ!そして、これからは過ぎ去った10年を取り戻すくらいにあなたに構ってあげるわ!!」
「それはとっても楽しそうでいて、大変そうだ」
双子の幸せそうな笑い声は、2つの赤と青のキラキラと輝く明るい星に見守られていた。
▫︎◇▫︎
数日後、罪人たちは皆が1番恐れる刑を実行することとなった。グランハイム公爵家は当然ながらお取り潰しで、元公爵は死ぬことを恐れていたために斬首刑、グートハイル男爵家の人々は無駄に高いプライドをバッキバキにするために鉱山労働という刑が執行された。
彼らの見送りには憎悪に満ちた目を向けるアリスティアとセレスティア、そして皇帝がいた。
ユリークは一応お見送りは誘われたが、お見送りに行くのではなく、母と妹の世話を優先した。
そして、この事件を機に、皇帝一族には逆らってはいけない忠義を尽くさねばならないという教訓を、貴族諸侯はそっと胸に刻むこととなった。




