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13 最後の断罪



「ミシェル、終わったぞ。スヴェン、ミシェルの警護ご苦労だったな。助かった」

「いいや、気にすんな。つーか、ミシェル殿の警護は楽しかったからまた斡旋してくれ!!」

「………考えておこう」

(へぇー、彼、スヴェンって言うんだ。………というか、セレスと仲良さげじゃなかった?)


 ミシェルはセレスティアがスヴェンと呼ばれた衛兵に気さくに声をかけ、スヴェンもまたセレスティアに気さくに話しかけていたことに小さく焦りを覚えた。

 どちらからとっても気がしれた間柄であることを容易に確認できた。


「ねぇセレス、彼とはどういう間柄なの?」

「ん?10歳の頃に入団した頃からの騎士団での同期だ」

「6年来の付き合いってこと?」

(悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!僕はまだ3日なのに!!)

「そうだが?」


 セレスティアは首を傾げて考えてこんでいたが、唐突に意地悪な表情を浮かべた。


「もしかしなくとも、スヴェンに妬いてくれたのか?」

「うっ、そ、そうだよ!狭量な僕は、さっきのたった3言だけの会話で嫉妬したんだよ!!」


 ミシェルの投げやりな叫びに、セレスティアは顔を真っ赤にした。


「………ーーだーかーら、そういうのは部屋でやれって言ってるでしょう!?」

「ふぎゃっ!」


 アリスティアに書類で勢いよく頭を叩かれたセレスティアは、珍しく皇女失格だが女らしい声を上げた。

 ミシェルはそんなセレスティアの腰に捕まって涙目でプルプルと震えている。

 凄まじい危機察知能力だ。


「わ、わたくし、仔犬を虐める趣味はございませんわ!!」

「………………僕は仔犬じゃないんだけどな………」


 仔犬に見えるからというなんとも悲しい理由でアリスティアからの暴力を逃れられたミシェルの心境は、なんとも言い難いものとなった。


(ミシェルだけずるいが、まぁこの状態の大変愛らしいミシェルはアリスの前には差し出せまい)


 そして、ミシェルに対してはある意味スパルタなことが多いにも関わらず、妙なところで甘々なセレスティアは身を挺して自分がアリスティアの獲物になった。


「セレス、ミシェルを甘やかさないで!!」


 地味にセレスティアがミシェルを庇うように立っていることに気がついたアリスティアが目くじらを立てて烈火の如く怒り出した。


「うっ、こんなに可愛いミシェルを見てどうやったら甘やかさないという選択肢が出るんだ!!」

「はあ!?可愛いのは認めるけど、飼い主の貴方がしっかりしなくてどうするっていうの!!放っておいたら駄犬に成長してしまうわよ!?」

「なっ!!こんな可愛いミシェルが駄犬になるわけないだろう!?」

「そんなものなってみないと分からないわよ!!ちゃんと躾けておきなさい!!」


 そして、見事に話が脱線していった。ミシェルの話をしているはずなのに、なぜか犬の話になってしまっている。終いには駄犬扱いだ。


「………そもそも僕は犬じゃないんだけど」

「「あ、」」


 ミシェルの呟きに、アリスティアとセレスティアはギギギっと音がしそうなくらいにぎこちなくミシェルの方を向いた。


「み、ミシェル、すまない」

「ミシェル・ライバード、悪かったわね」

「気にしていない、とは言いませんが大丈夫です。慣れてますから」


 双子の皇女は揃ってしばらくの間しゅんとしていたとさ。


「さぁ、2人のお片付けも終わったことだし、セレス、行っておいで」


 唐突にミシェルが場の空気を変えるように、手を叩き鳴らして言った。


「ミシェルはもういいのか?」

「僕は殴ってスッキリしたから。2人が手を出さないように注意しておきながら、先に殴ってごめんなさい」


 先程までの強気で公爵を断罪していた姿勢はどこにいったのやら、ミシェルは小動物を想起させる仕草と声音でぺこりと頭を下げた。


「気にするな。わたしは1度投げ飛ばしている」

「………わたくしも後で愛用の鞭で殴ってもいいかしら?」

「死なない程度にな」


 アリスティアの首を傾げて微笑みを浮かべながらの真面目な問いかけに、セレスティアは苦笑した。


「じゃあ、言ってくるよ」


 くるりと踵を返して歩みを進める姿は、『青薔薇の貴公子』の名に相応しく凛としていて、『氷の貴公子』の名に相応しく冷酷でもあった。


「グランハイム公爵、最後の断罪はわたしがさせてもらう」

「………………」

「せいぜい最後に足掻くがいい。わたしはアリスやミシェルのように発言を許さないほど狭量ではないからな」


 妖艶な笑みを浮かべてつらつらと役者のように正しい音程で紡がれる声は、完成された音楽の調べようであった。


「わたしがするのは、我が双子の姉アリスティアへの冒涜と、グートハイル男爵家についての断罪だ」

「…………………」


 何も言わない公爵に痺れを切らしたセレスティアはうざったらしそうな表情を浮かべた。


「お前は弁明もできないのか?」

「弁明もなにも、私には一切の身に覚えがありませんので」


 けろりとした表情で鼻血を流しながらひん曲がった鼻を鳴らして言い切ったグランハイム公爵に、セレスティアは宣戦布告の笑みに表情を切り替えた。


「まずアリスティアへの冒涜だが、………まぁこれは自業自得なところがあるからあまり突っ込まないことにするが、そこにいるガイセル・グートハイル男爵令息をアリスティアに勧めたのはお前だというのは誠なのか?」

「………………」


 公爵は何も言わなかった。


「………都合が悪かなったらだんまりなのか、あぁん?」

「セレス、口が悪くなってるよ」


 ミシェルが静かに口を挟んだ。


(まさか、こんなにも早くあの頼みごとを果たしてもらうことになるとは………)


▫︎◇▫︎


 今日のミシェルの登城に馬車で迎えに行ったセレスティアは、馬車の中でミシェルに頭を下げていた。


「ミシェル、わたしがもし断罪の際に暴走したと感じたら止めてくれ。この件は、君だけが頼りなんだ」

「………責任重大だね」

「あぁ、だが君にしか頼めない」


 沈痛な面持ちで言ったセレスティアに最終的に折れたのはミシェルの方だった。


「………………頑張ってはみるよ」


▫︎◇▫︎


(これはたったの6時間前のことだった筈だ)


 セレスティアはあまりに多くのことが起こりすぎて遠い記憶のこととなってしまった昼の出来事に、目を遠くしながら思いを馳せた。


「……………はぁ、………………答えろグランハイム公爵、ガイセル・グートハイルをアリスティアに勧めたのはお前か?」


 ミシェルの声もあってか平心を取り戻したセレスティアは、感情を抑え込んだ声でグランハイム公爵に問いかけた。


「………さあどうでしょうか」

「あくまでしらばっくれるのか?」


 あまりの公爵の物言いに、セレスティアの我慢の意図は断罪開始早々にこれかかり始めた。というか、ゴムのように切れる寸前までビヨ~ンと伸ばされている状況だ。


「言ったじゃないですか、この件に関してはあくまでアリスティア皇女殿下の自己責任であると」

「………そうだな」


 だが、それでも普通は質問に答えるだろう!!という声を、寸出のところで押しとどめたセレスティアは澄まし顔を作って絶対にYesという言葉を吐かせてやる、と密かに燃え始めた。セレスティアは存外困難にぶつかればぶつかるほど、燃えるタイプの人間なのだ。


「ヴォランティアン伯爵夫妻もその場にいらっしゃったという情報を持っているのだが、それはどう言い逃れするんだ?公爵」


 セレスティアは義母たるフィオナが楽しく2日もないという短い日数で集めてくれた以上な量のゴシップだらけ書類を叩きながら不敵に言った。


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