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第十五話

「これってよ。宝石を選ぶ基準ってあるのか? これは原石か? それとも削ったのか?」

「ちょっと待てよ……。あれこれ聞かれてもわかんねぇって」

 牛のような姿をした悪魔が、面倒臭そうな表情でポリポリ頭を書いた。

「おいおい……頼むぞ。これに詳しいって紹介されたのがアンタなんだぞ」

「オレは言われた通りのことをやってきただけだって。先祖代々受け継いできたんだ。すごいだろう」

 牛悪魔は大きく育った大胸筋を張って、偉そうにふんぞりかえった。

「オレもそうやって褒めてやりたいところだけどよ。それには、質問に答えろよ。今はなんで緑の宝石から抽出してるんだ」

「そんなの簡単だろう。エメラルドが掘れたからだ」

 リットがなにを言っているんだという表情で聞き返すと、牛悪魔は全く同じ答えを返した。

「つまりあれか? なにも考えてねぇってことか?」

「考えてないもなにもだ。ここは悪魔の地でも浮遊大陸だぞ? 取れる鉱石は限られてるって。強いてあげるなら、赤と黄色と緑と青が多いな」

「四大元素の色と似てるな。緑だと風の魔力がこもってるってのも嘘じゃなさそうだ」

「誰から聞いたか知らんが、嘘なんかつくわけないだろう。騙すなら、もっと盛大に騙す。じゃないと楽しくないって」

「人間のオレから見たら、騙されてる最中みてぇなもんだ。……宝石がオイルになんだからな。これって他のオイルも保管してあるのか?」

「あるぞ。なんせここじゃ光も娯楽だからな」

 リットはスリー・ピー・アロウでも同じことを聞いたと思い出していた。

 スリー・ピー・アロウも、色とりどりの炎で装飾されていた。しかし、その炎は有毒性のガスによるものだ。鉱石をオイルに変えるのとは違う。

 そして、それを可能にするには空にある雷という力が必要。

 リットはそこまでは考えていた。

 問題はその魔力を自由に取り出せるかということだ。これが解決できれば、ランプを持った天使が浮遊大陸を移動するだけで、足りない魔力供給の問題は解決できるということだ。

 それもオイルが色ごと四大元素に分かれているのなら、その都度足りない魔力だけを供給することが出来る。

 リットがそんなことを考えていると、色とりどりのオイルを両手に抱えた牛悪魔が戻ってきた。

「ほら、見ろ。こんなランプオイル見たことがないだろう?」

「本当にな……」とリットは肩を落とした。

 オイルの色が四種類なら、過去の魔女知識を使いどうにかなったかもしれないが、その倍くらいの色があったからだ。

「なんだよ……この種類は。まさかオイルを混ぜたのか?」

「そんなこと考えたこともなかった。混ぜてみたら面白いかもな」

 やってみるかと乗る気になった牛悪魔だが、リットに止められてしまった。

「魔女から受け継いだ技術なんだろ? やめとけ。勝手にいじるとろくなことにならねぇよ」

「面白そうなのに。全部混ぜたら、真っ黒なオイルになるかもしれないぞ。あべこべだ。闇を灯すランプなんて珍しいって」

 牛悪魔は楽しそうい笑うが、リットの表情は固まった。

「冗談でも言うなよ。こっちはその案件はもう受けるつもりはねぇぞ。それで、オイルは全部ランプに入れるのか?」

「いいや、これでも使える。というか、こっちが主流だって。こんな穴の中では強風も吹かないからな。ランプは出かける時だけだ」

 牛悪魔が取り出したのは、寄生植物の根を使って作った蝋燭の芯だ。

 それをオイルを張った小皿の上に落として、先端に火をつけた。

 炎の色は変わらない。だが、僅かに光の輪郭が青くなっていた。

 だが、手をかざしても青く光るわけではない。光としての効果は、普通のオイルランプと変わらなかった。

「青ってのは、四大元素で言えば水だろ? 緑のオイルじゃ風を起こして、雲を動かした。どう水に作用するんだ?」

 牛悪魔は「知らないって」と顔を歪めた。「なんで気にする?」

「それが仕事だからだ。なんも考えないで使ってるのか?」

 リットはバカな種族だと鼻で笑ったのだが、牛悪魔にその辺のランプから力が発生しているかと逆に指摘されてしまった。

「つまりランプによって力を発揮するってことか? ランプの火屋が光の反射を制御して、光と共に魔力が漏れ出す」

「ならあのフロアは水浸しだな」

 牛悪魔は、天井にぶら下げるにはランプを使っていると笑った。

「……茶化すのが仕事か?」

「事実を伝えてるだけだって。言わなかったら後で怒るだろう?」

「……まぁな。じゃあ、なんであのランプは風を起こせるんだ?」

 リットは緑色のオイルの入ったランプをもう一度見せてくれと、借りることにした。

 しかし、何度眺めても、分解しても普通のランプだ。目立った特徴と言えば、とにかく古いものだということ。この大地が空に浮かび上がる前から存在している。

「それは魔女が作ったわけでも、地上の腕利きの職人が作ったわけでもないぞ。あーだこーだ言っていないで、実際に試してみたらどうだ? そのほうが手っ取り早いだろう」

「そりゃそうなんだろうけどよ……」

 宝石のオイルには魔力がこもっている。下手に火をつけて魔力が暴走なんてことも十分にあり得る話で、リットはオイルに臆病になっていた。

「いっそ神の産物だとでも聞かされていた方が、使いやすいもんだ」

 リットはため息をついた。魔女による魔力の暴走を見てきたので、魔女と魔力が関わっていることとなると、どうしても勇みの一歩が踏み出せないのだった。

「それなら、フロアを回って見るか? みんな宝石オイルの入ったランプだ。異変があれば気付くだろう」

 牛悪魔の意見にリットは深く頷いた。まずは現存のものを見る。自分で火をつけるのは、それからでも遅くない。



 まずリットが案内されたのは、先ほどの青い宝石オイルの入ったランプに照らされたフロアだ。

 ここにあるものは特にない。上のフロアは寄生植物の生えている天井付近のフロア。

「魔族達はあまり上に来ないんだ。だから、キラービーの変異にも気付かなかった」

「そんなに広い大陸でもねぇだろう。揃いも揃ってなんで上にあがってこないんだ?」

「疲れるからに決まってるだろう。全員が下のフロアにいるんだぞ。わざわざ上に行こうなどと思うか?」

「そうだけどよ……もったいなくねぇか?」

「そうだ! ここは涼しいし、夏はここに集まろう!」

「穴の中だぞ。一年通して四六時中涼しいじゃねぇか」

「食料の保存はどうだろうか?」

「どうだろうな……涼しいけどよ……なんか湿気ってねぇか?」

「文句ばかりだな」

「事実を伝えてるだけだ。一応、もう一回寄生植物のフロアでも見るか」

 リットは一つ上のフロアに連れて行ってもらうと、ランプの真下まで歩いて行った。

「ここは黄色か。いや、橙か?」

 リットは目を凝らして暖色系の灯りを見つめた。

「ほぼ黄色だろう。それにここは問題ないはずだ。最近はハチミツが採れるから、人が出入りしている。問題の報告はない」

「さっきと言ってることが矛盾してねぇか? 疲れるから上がって来ねえって言ってただろう」

「わざわざ来ないということだ。まさかひとフロアごとに休憩しろっていうんじゃないだろうな」

「あぁ……悪い。バカ言ったよ」

 リットはそりゃそうだと納得した。わざわざ一つ下のフロアで休憩する意味はない。落ちるだけなら、一気に真下まで行ったほうが早いし疲れない。

「本当だよ。オマエはバカだ」

「本当はぶん殴ってやりてぇけど、全部に反応してたらオレの拳が壊れちまう……。それで、この寄生植物はどこに寄生してんだ?」

 寄生植物というのは、主に他の植物に寄生根を侵食させて栄養分を吸収する。

 天望の木に生えていた寄生植物は、天望の木そのものに寄生して栄養をもらい。寄生植物の森を作っていた。

 だが、ここは穴の中。寄生されるような植物は存在していなかった。

 リットは根が上に伸びているのかと思ったが、他の植物と同じで根は土に向かって下りていた。

「そんな不思議なことか?」

「あのなぁ……土から栄養を摂ってるんじゃ、普通の植物だろう。普通の植物が太陽の入らない穴の中で花を咲かせるか? 苔みてぇな植物でも太陽は必要なんだぞ」

 リットは自分で説明しながらも、その説明に自分で疑問が浮かび上がっていた。

 土から栄養を吸収するなら普通の植物だが、見た目は完全な寄生植物だ。

 なぜ言い切れるかというと、光合成をするための緑の葉がない。これは寄生植物の特徴だった。外から栄養を奪うので、自ら光合成する必要はない。葉は必要ないのだ。

 葉を持ち光合出来る半寄生植物も存在するが、ここには葉を持つような植物は存在していなかった。

 悪臭と風変わりな見た目。普通の浮遊大陸には存在しない植物だ。

 リットは不思議に思いながらも、最上階フロアを後にして、一つずつ下のフロアへと降りていった。

 最下層フロアでは、まだアルデが酒を飲んでいた。

「ご苦労さん」

 リットは片手をあげるアルデを睨んだ。

「まだ苦労中だ。いつまで飲んでるつもりだ?」

「酒がなくなるまでかな」

「ミニーはどうしたんだよ」

「狩りに出かけた。久々に空で鳥を翻弄したいんだと。おじさん楽しみ……今日の肴は鳥だ」

「おいおいまだ飲むつもりか」

「普段人から言われてることを、おじさんに言うかね」

「アンタら親子の為でもあるのを忘れるなよ。オレが仕事をしてるのは、酒を床にこぼすためじゃねぇぞ」

「こぼしたところですぐに消えていく。なんたってここは土だからだ」

 何がおかしいのかアルデは自分の言葉で、おかしくてたまらないと転げ回って笑った。

 一旦は軽蔑の眼差しを向けたリットだったが、急に思い浮かんだことがあり、寄生植物のフロアへと戻った。



「宝石オイルの色は黄色か……」

「さっきも見ただろう」

 リットを運んで飛んでいた牛悪魔はもうヘロヘロになっていた。

「黄色ってのは、四大元素で土だろう? ここは土ってことはねぇのか?」

 リットは両手を広げてフロア全体を指し示した。

「そうだ。ここは元々地上の大地だぞ。大地ってわかるか? 土ってことだぞ」

「オレが言ってんのは、土の魔力のおかげで栄養のある土になってるんじゃないかってことだ。だから寄生植物は根を下ろしたんだ。キラービー同様に突然変異を起こした可能性がある」

「おぉ……そりゃすごい」

 牛悪魔はうんざりとした表情で言った。またどこかへ連れて行けと言われそうだったからだ。

 そして、それは的中した。すぐに下のフロアへと移動させられたからだ。

「このフロアを照らしてるのは、青い宝石のオイルランプだ。つまり水。この上のフロアはたっぷり水を含んでるってことだ。それなら、根を下ろす理由がわかるだろう?」

「肝心の太陽はどうしたんだ。下には穴があいてるけど、上には穴はあいてないって」

「少ない光でも光合成できる植物ってのはあるけど、ここには強い光があるじゃねぇか。雷だ」

「意味がわからん」

「だからよ。雷の光で育つ植物があるかもしれねぇってことだ」

「そりゃいい。雷の光は時々壁から漏れてくるからな。オレが成長するのも……もしかして雷の力か!?」

「本当に茶化す奴だな……。わかったこう言えばいいか? このユニコって大陸が雨雲に包まれてるのは、ここの宝石オイルの魔力のせいだってことだ」

「オレ達はフラスコの中で生まれてきたってことか!?」

「わかった……。これからやる予定のオイルの実験は、全部アンタを使うことにする」

「ただのジョークだろう……。魔力は理解できるが、その仕組みなんて考えたこともないんだぞ。それを理解しろってのは酷だと思わないか?」

「そうだな……。なら理解出来るように、ガルベラの研究所でもうちょっと家探しをしてみるか」

「それって……また飛べってことか? それをしろってのは酷だと思わないか?」

 牛悪魔は散々飛ばせただろうと、疲労のため息を落とした。

「一番酷なことを言われてるのはオレだ。首をはねられるか、結婚か、浮遊大陸問題をどうにかしろだぞ。ただ酒を飲みに来たってだけなのによ」

「わーかった! 連れてくって……全く余所者は愚痴ばかりだ」

 牛悪魔はミニーにも散々愚痴を聞かされていると、観念してリットを担いで飛び去ったのだった。






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