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95.ネオの観光戦略

「エミリー・ハートリー侯爵令嬢、突然のお願いにもかかわらずお時間を作っていただき感謝致します」


 ネオはマナー講師のような素晴らしい礼をした後、ニッコリと私に微笑みかけ、やっぱり塁君をチラッと見るとサッと目をそらし顔を赤らめている。



音尾(ねお)、気付いてるやろうけどえみりも転生者や。今ここでは日本語でええで」



 塁君がそう言うとネオは躊躇いながらも日本語で喋りだした。


「あ、あの、僕は音尾信一(ねおしんいち)といいます。転生したら苗字が名前になっていて……」

「うんうん、ヒロインのアリスも有栖羽音(ありすはのん)で苗字が名前なんだよ」

「そうなんですか!」

「だからネオだけじゃないよ。あ、じゃあ苗字を呼び捨てにされてる感じで嫌ならネオ君って呼ぶね。ごめん気が付かなくて」


 ネオ君の顔は今まで塁君を見て赤らめていた以上に一気に赤くなり、それはもう真っ赤っかだった。



「なに赤なってんねん!」



 塁君が間髪入れずにツッコむ。



「ご、ごごごめんなさい。日本語でネオ君って響きに慣れてなくて……」

「意識すな! 慣れろ! 俺も音尾君呼んだるわ!!」

「い、いや、来栖君は今まで通り呼び捨てで」

「なんでやねん!!!」

「懐かしいから……」

「な、なんやねん……」


 そう言って嬉しそうに俯いて照れているネオ君に、塁君は『調子くるうわ……』と言ってそれ以上ツッコめなくなってしまった。


「あの、私に相談というのは?」


 私が切り出すとネオ君は遠慮がちに紙を取り出して見せてきた。


「ホーンラビットの観光戦略として考えているイメージです。前世の知識を呼び起こして描いたんですけど、僕は女性じゃないので間違っているところや改善点があれば教えていただきたくて……。えみりさんなら前世でウサギをモチーフにした可愛らしい商品などをご存じかと思って声をかけました」


 紙にはホーンラビットのデフォルメされたイラストや、商品アイディア、通りやお店のコンセプト等が書き込まれていた。十分に可愛らしくて人気になると思う。



「すごい! ネオ君は前世でプロデュースの経験があるんですか?」

「ま、まさか。ネットや雑誌で見ただけです。こういうのは本当はてんで疎くて」

「それにしてはユニコーンの観光戦略は素晴らしいと思います! ゆめかわワールドに女子はキュンキュンですよ!」

「あ、ありがとうございます! ホーンラビットでも女性にそう思っていただきたいんです」


 紙にかかれたホーンラビットの商品の色使いは、パステルブルーとパステルピンクだった。うーん、若干ゆめかわと被ってしまう。


「イラストはリアルにしても可愛いですよ。それで色をもう少しスモーキーなピンクとグレーにしたらどうでしょう。サテンのリボンなんて付けたりして」

「あぁ! 確かにウサギっぽい!」


 ネオ君は紙にどんどん書き込んでいく。リアルなイラストは怖いくらいリアルで『そこまでじゃない』とツッコんだ。そういえば生物研究部だったっけ……。


「せっかくのお披露目ですから、別シリーズでイースターバニーのイメージの春らしい色味もいいかもしれませんね。それだとゆめかわワールドとも被らないし」

「イースターですね。では色は明るめの黄色、黄緑、ピンク、水色……」

「オレンジに紫もありですね。ゆめかわレインボーカラーより少し濃いめでいいと思います。それで模様も足すと華やかですね」

「あぁ、イースターエッグの模様みたいに」

「そうですそうです!」


 ネオ君は一心不乱に紙に色々な模様を描いて見せてきた。波線、ストライプ、水玉、花柄。


 私は細かいレース模様や民族っぽい模様をつけ足して描こうとしたけれど上手くいかない。そうだ、私は絵が下手なんだった……。



「貸してみ。えみりが何描きたいんか分かるから」



 そう言って塁君は私が描きたかった模様を描き込んでくれた。


「そうそう! こういうの! 上手いー! 繊細ー!!」

「来栖君は本当に何でも出来ますね……!」


 ネオ君はうっとりしながらその模様に見入っている。本当に塁君に心酔している雰囲気だ。


「そうでもないわ。話変わるけど、エッグハントは子供も遊べてええんちゃう。イースターの起源は宗教やから、こっちの世界では好きに由来作ってまえばええわ」


 塁君の提案にネオ君は瞳を輝かせてうんうんと頷く。


「ホーンラビットのエリアにイースターエッグを隠して、エッグハントイベントをしてもいいですね。見つけた卵の模様によって景品を出したりして」

「一個だけ金ピカ紛れ込ませて特賞やな。いつまでも粘る迷惑客予防に制限時間設定せなあかんで」


 日本語でこんな風に過ごせるなんて思ってもみなかった。前世の文化祭とかを思い出して楽しい。私達の言ったことがこの国の観光事業のお役に立てるなら嬉しいな。



「そうだ! フワフワのウサ耳カチューシャとかどうですか?」

「いいですね! 耳の間に角を付けましょう」

「イースターエッグと同じだけ色数あったら選べる楽しみも出てええんちゃう。複数買う客もおるやろうし、何なら全色制覇のマニアも現れるかもしれへん。ええか、ぎょうさん買うてくれる客には割引するんが基本やで」

「割引……あぁ、久々に大阪を感じます……」

「どういう理由やねん」


 ネオ君は意外な部分で懐かしさに胸打たれて、両手を胸に当て目を閉じている。そうだよね、転生して十七年くらいなのかな。久々の関西弁と大阪みだよね。たくさん塁君の関西弁を浴びたらいいよ。



 メリーゴーランドのような乗り物をユニコーンとホーンラビットで作製するアイディアが出たところで、時間も時間でお開きになった。想像しただけで再びベスティアリを訪れるのが楽しみになってしまう。いかんいかん、目的はオーレリア王女を治癒するためだというのに。


 アリスには光魔法で頑張ってもらって、王女様が治ったらご褒美にウサ耳カチューシャを買ってあげよう。




「こんな時間まで本当にありがとうございました! 頂いたアイディアを活かして魅力的な街にしていくと約束します! あと、お礼をさせて下さい!」

「なんもそんなのいいよ!」

「いえ! 前世でも事業案は貴重なものだと思います。アイディアだけ頂いて自分達だけ恩恵を受けるような真似は出来ません!」

「相変わらず真面目やな~」


 ネオ君の瞳は真剣そのもので、全く引く気は無さそうだ。


「エリアオープン後、収益の何%かをお二人の取り分にさせて下さい」

「えぇっ! ほんとにいいって!」

「税金とか面倒そうやからええわ」


 塁君がドアを開けて私を先に廊下に出してくれた。その時ネオ君は塁君に小さな声で問いかけた。





「それでは二国間の友好の印に、ユニコーンは如何ですか」





 小さな声だったけれど、私の耳にも届いたその声は、少し震えるような、だけど何かを期待しているような声だった。


 シリウスがいなくなったら立ちいかなくなるほど観光の目玉であるユニコーン。まさかそれを譲るというのだろうか。嘘でしょう? ベスティアリにとって今一番大切な存在である筈なのに。


  ネオ君のその言葉に、塁君は落ち着いた声で返事をした。







「シリウス自体がクローンなんやな」







 廊下から振り返り、扉の向こうに見えたネオ君は、塁君の返事に満足そうに美しい唇を弧にしていた。







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