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94.幻獣の真相

 気が付けば男性陣はチラチラと塁君の様子を伺っている。多分幻獣じゃなくても今は黙ってろということだろう。


 塁君は心得たとばかりに微笑みをたたえて国王陛下にお礼を言った。



「このように珍しい幻獣を優先的に見せていただき感謝します。研修旅行先に選んだとしたら、我が学園の生徒達が訪れる際には、ホーンラビットもユニコーン並みに楽しませていただける環境になっていますか」



 国王陛下はその言葉に手応えを感じたように、覇気に満ちた声で答えた。


「ええ、ええ! その時までに新しく店も増やし、必ずや楽しんでいただけるよう整えておきます! ここにいるネオは良きアイディアを出してくれるのでご期待下さい!」


 ネオは顔を赤らめ俯いて礼をした。



「楽しみにしています。本日もレディ達が大変喜んでいる姿が見れて、俺達も嬉しく思っていました。ホーンラビットもベスティアリに更なる観光客をもたらしてくれるでしょう」



 塁君の言葉に、ネオは眩しそうにアイスブルーの瞳を細めて見惚れていた。





 ◇◇◇





「る、塁君、私あれ知ってるの。速水君に写真見せてもらったことがある……! ウサギしか罹らないウイルスだって。ジャッカロープ伝説の元だろうって」


 塁君の部屋に戻ってきた私は、扉が閉まってすぐに塁君の袖を掴んだ。



「あ、(すばる)な。あいつUMAとか子供ん時から好きやったもんなぁ。ちなみにそのウイルスの話教えたのは俺や」

「やっぱり!」


 そうだと思ったんだ。速水君は『昔鬼だと恐れられた生き物の元は、病気で頭部に突起状の良性腫瘍が出来た人間だと思う』って話をしてたことがある。さっき塁君が『人間でさえ皮角といって角のような突起が生えてくる疾患がある。ほとんどは爪や髪と同じケラチン質で良性の腫瘍だ』と言った時、私の頭に速水君の言葉が過り、塁君が教えたんだと気が付いた。


 ホーンラビットを目にしてあの写真を思い出した今、もうそれは確信に変わった。ウサギのウイルスも塁君が教えたに違いないって。塁君が速水君に教えた知識が、知らずに私の元へと辿り着いているって。


 本当にお互い気付いていないところで塁君と私の過去は繋がっているのだ。




 ノックの音がして扉を開けると、ローランド達が婚約者を部屋に送り届けて戻ってきていた。三人は『なんでも来い』という表情をしている。



「では、お聞きします。あのホーンラビットの真相は」


 三人が塁君をジッと見つめる中、塁君は普通のテンションで回答した。


「あのホーンラビットはショープ乳頭腫ウイルスに罹患したウサギだ」

「病気ですか」


 ブラッドは辛そうな顔をしながら塁君に尋ねた。



「ウサギにしか罹らないから俺達は心配いらない。罹患すると25%は悪性腫瘍化し扁平上皮癌に発展するが、残りは免疫を獲得する。このウイルスは頸部より上にしかあの角化した突起物を作らない。口の中や周囲にも出来てしまうため餌を食べることが困難になり餓死するウサギが多い」


 聞いているだけで辛い。私が見た写真でも口の周りにたくさん角が生えたウサギが写っていた。あれじゃ自然の中では生き残れないだろうと思う。



「……先程のホーンラビットは頭頂部以外に角はありませんでしたが」


 ブラッドも想像したのか更にしんどそうな顔になっている。


 そうだ、確かブラッドは小動物が好きだったんだ。ゲームでは王都の森を巡回中のブラッドが、ケガをしたウサギを治癒してるヒロインに出くわして好感度を大きく上げる場面があった。



「ネオが頭頂部以外の角を除去したんだろう。氷魔法で-196℃の低温にして凍結させて除去するか、炎の魔法を突起基底部にのみ集中させて焼くかすれば除去できる。ホーンラビットとして観光に利用するなら丁重に世話もするだろうから安心しろ」


 ブラッドはホッとしたように表情を緩めて胸を押さえた。筋肉イケメンが小動物好きというギャップ萌え。そういえばレジーナも小動物っぽくて可愛いよね。



「ウサギの寿命はそう長くはありませんよね」



 ローランドは塁君にそう話しかけつつも、答えが分かっているかのように達観した表情で視線を合わせた。


「そうだな。管理されていても5年から10年だろう」

「では人為的に数を調整し続けるのでしょうね」

「そうだろうな。免疫を獲得して角が消失する可能性もあるからな」


 数を調整……。ウイルス疾患であって遺伝ではないから繁殖させてどうこうって話じゃないよね。


 じゃあ、健康なウサギに敢えてウイルス感染させ続けるってこと……?


 その答えに気付いてゾッとしてしまった。




「馬の寿命はウサギよりは長いでしょうが20年くらいでしょうか」

「シリウスは栄養素の不足でそれより短いかもしれないな」


 これだけ観光の目玉として活躍しているシリウス。亡くなってしまったらどうするのだろう。突然変異で角が生えた馬なんてそうはいないだろうし。



「シリウスの角は遺伝するの?」



 私は思わず聞いてしまった。


「しないだろうな。するのなら世の中にもっと角がある馬が、前世でも今世でもいる筈だ。シリウスしかいないという時点で、奇跡的に受精卵の時に淘汰されずに生まれてきたと見るべきだ。ベスティアリにとって、いつか訪れるシリウスの死は大きな損失になるだろう」

「可能な限りの健康管理をして長生きさせるしかないのですね」


 ローランドの言葉を聞いた塁君は、顎に手を添えてボソッと呟いた。


「いや、ネオがいるならどうにかなるかもしれないな」

「どういうことです?」


 長生きさせる以外に何がどう出来るというのだろう。ユニコーンを人為的に作るなんて無理じゃないだろうか。それが出来るなら前世でだってユニコーンはいた筈だ。




「クローンだ」




 塁君の言葉にローランドとヴィンセントがハッとした。


 二人は去年塁君から遺伝学を徹底的に叩き込まれている。この世界には無いその言葉に反応して二人は固まった。


 私もクローンは聞いたことがあるけれど、この世界には前世のような施設も器具も無いだろうし、ネオ一人が知識があったって出来ることなんだろうか。というかそもそもの方法を私は知らないから何とも言えない。



「ネオは生物に関する知識も熱意も並外れている。人間相手には医療としての魔法を上手く使えなくても、動物相手ならあいつの知識でクローンは作れるかもしれない。俺も作れと言われれば恐らく作れる」


 三人は塁君の顔をジッと見ながら数秒黙り込んでしまった。



「昨年学んだ時はあくまで知識としての言葉でしたが……」

「まさか本当に実現できる人間が、俺達の世界にルイ殿下以外にいるとはね」


 塁君も作れる? クローンを? え、作り方ってそんな簡単なの? それともまた規格外? 多分規格外なんだろうな。ははは、もう塁君相手だと驚かないな。




 解散して自分の部屋に戻った後、リリーがメッセージカードを持ってきた。


「ベスティアリの魔法使いネオ様からのメッセージです」

「え」


 そのカードには美しい文字で『ホーンラビットの件でご相談したいことがあります。ご協力いただければ大変助かります』と書いてあった。


 な、何故私??? 何故私????


 ホーンラビットについて相談されても何の力にもなれないんだけど。


 そうは思いつつも『大変助かります』なんて書かれたら無下に出来ない。仕方なく私は『夕食後に少しだけでしたら時間を作ります』と書いたカードをリリーに届けてもらった。


 一応塁君にも伝えたら、案の定『俺も同席する』と譲らない。私としてもその方が助かる。



 そして夕食後、お城の客間の一つで私達は対面した。







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