表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/217

93.新たな幻獣

 ローランドはあくまで落ち着いた口調で尋ねた。


「魔道具や魔石ではなくオーレリア王女だと断言する理由をお聞きしても?」


 ブラッドとヴィンセントも静かに塁君の答えを待っていた。



「研究をしてるならあの魔力の残滓がネオに残っていてもいい筈なのに感じない。一方的に時間魔法をかけるだけかけて、その強大な魔力を利用していないということだ。この国の魔法使いは少ないうえに魔力も弱い。あれほどの強い魔力の魔道具なり魔石があるなら国宝級だろう。研究もせず、ただ時間を止めて安置するだけなら宝物殿に置けばいい。なのに城から離れた魔法省の塔に衛兵を配置し、利用もせずに保管している。不自然だろう」


「確かにネオ君からはあの魔力は感じないですよね」


 ヴィンセントが言うのならほんの少しもネオはあの魔力を利用していないのだろう。何故だろう。



 この世界にある魔石と、魔石を利用した魔道具は、魔力が無い人でも魔法を使える便利なものだ。元々魔力を帯びた特殊な鉱石があり、ほとんどの魔石がこれを利用して作られている。鉱石そのままだと安価だが、魔力自体は弱く寿命も早い。対して魔力持ちがこの鉱石に魔力を注ぎ込んで作られた魔石は威力もあり長持ちするが、高価で庶民の手にはなかなか届かない。


 白い塔の魔力が一人のものだという時点で、魔石なら誰かが長年魔力を注ぎ込んだものか、強い魔力持ちが数回注いだものだろう。


 この国で一番強い魔力を研究もせずに置いておくのは逆に勿体ない。貴重過ぎて使えないなら宝物殿の方が管理の面でも相応しいと私も思う。だけど、だからといってオーレリア王女だと断言するのも極端な気がするんだけどな。


 そう思っていたらローランドも同じ疑問を持ったようだった。


「確かに不自然ではありますが、かといってオーレリア王女がご病気で時間を止めているというのも極論ではありませんか。それこそ城の王女の居室で時間を止めればいいのですから」

「治すために王女の体が研究室になければいけない理由があるのだろう」


 研究室に体がなければいけない? その言い回しが何だか怖い。


「今のネオに何が出来るか分からないが、前世のネオは生物研究部でいつも生物に関する本を読んでいた。それこそ古生物学から人類遺伝学まで。それにあいつも医学部志望だったから治療の知識があるだろう。ただし国王の病状をあのままにしていたということは、魔力を実際の医療に応用する術をあまり身に着けていないのだと思う。あとは国王自身が自分より王女の治療を優先するよう希望しているのだろう」


 国王陛下が……。ご自分だってあんなに弱っていらっしゃったのに。


 やっぱり親が子を想う気持ちは何処も変わらないのだなと思わず涙が出そうになった。でも泣いたりしたら話の腰を折るから我慢だ。



「ネオ君は随分国王陛下に信頼されているってことになりますね」


 ヴィンセントが発言しながらも、さり気なく私の膝にハンカチを置いてくれた。さすがメインキャラ随一の色男だ。気配りがすごい。


 そして塁君もすかさずそのハンカチを風魔法で吹き飛ばして自分のハンカチを私に渡した。気配りを通り越して目ざとい。



「確かに若く未熟な一魔法使いが王女に時間魔法をかけることを許されていると考えると、特別に国王ご夫妻から信頼を得ていると考えざるを得ませんね」


 ローランドはメガネを押さえて静かに呟いた。



「今日見たあらゆる観光戦略は、どれも俺達の前世ではよくある光景で、商品も色使いも見慣れたものだ。間違いなくネオのアドバイスに沿ったものだろう」

「それではこの一年でベスティアリをここまで経済回復させた立役者ということですね。それは国王ご夫妻の覚えもめでたいでしょう」


 いくら前世の記憶があったって、それを進言したり行動に移すには大変な苦労もあっただろうなと想像した。自分の国を良くするために、まだ若いネオがそこまでするなんて熱意がすごい。尊敬しちゃうよ。



「ネオとシリウスのおかげで今のベスティアリがあるということだ」



 そう言って塁君はベスティアリからの招待状を取り出した。


「ベスティアリ王室の名で我が国に招待状を出させることが可能なほど、ネオの言葉には影響力がある。そもそも国名の『ベスティアリ』は前世の言葉で『動物寓意譚(どうぶつぐういたん)』のことだ。その動物寓意譚には実在の動物の他、幻獣も怪物も登場する。まさに今のこの国に相応しい名かもしれない。国名さえもネオが提案したのは確実だ」



 その時だった。ノックの音が響き、侍従さんが入ってきた。



「ただ今ベスティアリ国王からご伝言があり、新たに見つかった幻獣を皆様にお披露目したいとのことです」



 新たに見つかった幻獣!


 ついさっきシリウスをただの馬だと断定されてショックを受けた私は、思わず嬉しくなって顔を上げた。今度こそ本当に幻獣だと思いたい。



「分かった。皆は婚約者のところに行って伝えてくれ。用意出来次第出向こう」


 皆が出て行って塁君と二人になった私は、何の幻獣だろうとウキウキしていた。



「えみり、シリウスのこと、夢壊してかんにんな」

「ううん、本当なら仕方ないもんね。シリウスは可愛いし癒されたし珍しいのは事実だからいいよ! でも新しい幻獣は本物かも!」

「どうやろなぁ」


 塁君は半信半疑どころか100%信じてない感じで笑っている。


「王女様のこと、どうするの?」

「ローランドにも釘刺されとるし、首突っ込むような真似はせんとくわ」


 内政干渉にもなりかねないし、それが無難だよね。だけど塁君なら助ける方向に動くんだろうなと確信がある。


「でも研修旅行は王女様のためにもベスティアリに決めるんでしょ?」

「せやなぁ。やっぱり気付いてもうた以上助けてやりたいのが人情やな。研修旅行先に決めたれば自然にアリスに助け求められるしな。まぁ、あいつも遺伝病じゃなければ治せるやろ」


 その言葉にホッとする。アリスが来るまで時間魔法で時を止めていれば王女様のご病気が進行することはないだろうし、光魔法で治癒出来るよね。良かったなぁ、一人娘だっていうし、国王ご夫妻のご心労が一日も早く無くなるといいな。


「塁君優しいね。王女様がご病気なら私も助けたい。ありがとう」

「えみりこそ優しいやんか。研修旅行では綿あめ半分こしよか」

「いいね!」



 ノックの音がして皆が合流し、国王ご夫妻の元へ向かった。


 お城の公開されていないお部屋に案内されると、そこには国王ご夫妻の傍らにネオも控えていた。国王陛下は昨日までのクマがすっかり改善し、更に健康的になっている。



「ルイ殿下、昨日は本当にありがとうございました。お陰様でよく眠れました。今朝は何年かぶりに体が軽く驚いています。お礼も兼ねて、我が国で先日保護した新しい幻獣を誰よりも先にご覧いただこうとお呼びしました」



 私達の前には美しい豪華な刺繍のカバーがかけられたケージがある。この中に幻獣が……!


 鳴き声も暴れる音も聞こえないから凶暴なタイプでは無さそうだ。良かった、グリフォンとかだったら腰が抜けてた。



「それではご覧下さい」


 ネオがカバーを取り去ると、ケージの中には小さなモフモフが数匹いた。



「ま、まぁ!」

「これは、ホーンラビットではありませんか」

「フワフワでなんて可愛らしい!」


 ご令嬢達は口に手を当てて頬を染めている。



 そう、私達の目の前には頭部に角の生えたウサギがいる。ホーンラビット。


 前世ではジャッカロープという鹿の角が生えたウサギのUMAの話を聞いたことがある。速水君に。


 その時にその伝説の起源になっているであろう病気の話も聞いたのだ。ウサギにしか罹らないウイルスで角が生えてくるのだと。その時に見せてもらったウサギの写真に、目の前のホーンラビットは瓜二つだ。



 この子達は幻獣じゃない。


 今回は自分でそう思ってしまった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ