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92.白い塔の魔力

 街中に移動すると、通り自体が見事にユニコーン一色で、国を挙げて観光の目玉にしているのが分かる。


 スイーツの店にはパステルカラーのギモーヴやマカロン、パステルレインボーのケーキ。カフェの窓からも中でレインボーのパフェらしきものを食べている女性客が大勢見える。銀色のアラザンにクッキーで出来た角のような飾りもついていて可愛らしい。


 ブティックではパステルカラーのドレスや帽子、靴、宝石店ではユニコーンの形のペンダントトップ、薄い色の宝石が七色に並んだアクセサリー、男性のクラバットまでもパステルカラーが推されている。


 どの店にも観光客が溢れていて、人気観光地ベスト3は伊達じゃないと実感した。


 ローランドが予約していたレストランは、流石に格調高くレインボー要素はなかったけれど、デザートのケーキのお皿にユニコーンの形のアイシングクッキーが添えられていて、令嬢達は可愛くて食べられないと躊躇っている。私はすぐに美味しくサクサク頂いてしまったけれど。



「さすがに観光の一番の売りなだけあって、街全体でユニコーンを祀り上げていますね」

「これは確かに女性は喜ぶ」

「男は女性が喜ぶなら財布の紐も緩くなるしね」


 男性陣はベスティアリのビジネス戦略に感心している


「まぁ、馬だけどな」


 塁君がサラッと言った。


 女性陣は聞いていなかったようだけど、男性陣は固まった。


「……そのお話、後で聞かせていただきましょう」

「気にはなりますが、後程で」

「俺はあの魔法使いのことも聞きたいし」

「じゃあ後で俺の部屋に来てくれ」


 何それ気になる。そりゃあユニコーンは馬だよ? でも角がある特別な馬なんだよ? 塁君も一緒にシリウス見たでしょ。可愛い角があったのに。どういう意味なの。




 食事の後はブティックに行ったり、宝石店に行ったりしてるうちに、私はさっきの言葉はすっかり忘れて女の子達とのお買い物の楽しさに夢中になってしまった。


 皆はファッションショーのようにパステルカラーのドレスを次々と試着し、ソファに座っている男性陣は飽きずに『綺麗だ』『最高に似合う』『可愛い』と褒め言葉を浴びせる。本当にゲームのシナリオとは全然違うメロメロっぷりで元プレイヤーとして至福です。


 結局私も含めて皆ドレス数着を購入し、サイズのお直しが終わり次第お城へ届けてもらうことになった。会計は全て男性陣。


 前世の記憶がある私には本当にいつまで経っても慣れない習慣のひとつだ。アリスは前世でもかれぴっぴさん達にたくさん買ってもらってたらしいけど、私は欲しいものはバイトして自分で買っていた。男の子に何かを買ってもらったことがないから、いつも塁君がたくさんプレゼントしてくれると申し訳なくて仕方ない。


 私から何かお返しに贈りたくても、それはハートリー家のお金なわけで、私のお金じゃない気がして気が引ける。だからつい料理ばかりで返してしまうけど、私の料理なんて何万食作ったって釣り合わないくらい貰ってしまっている。


 はぁ、バイトしたい、って未だに思ってしまう。自分で働いたお金で塁君に何か贈りたい。王子の婚約者の私がおおっぴらに仕事なんて出来るわけがないんだけど、何か手はないかと時折本気で考える。



 お城に着いて令嬢達をそれぞれの部屋に送った男性陣は、塁君の部屋に集まってきた。何故か私もその中に入ってしまっている。何故。


「ネオの話もするから、エミリーにも念のため知っておいて欲しい」


 ネオの話。改まって何だろう。


「まず、あのシリウスの世話をしていた魔法使いの名はネオ。転生者だ。前世の中学高校で俺と同じ学年だった」

「中学高校とは魔法学園のようなものでしょうか」

「十三歳から十八歳まで六年間過ごす教育機関だ。本来は三年間ずつ中学校と高校と別の学校に通う者もいるが、俺は中高一貫校で六年間同じ学校だった」

「ではその時のご友人ということですか」

「ああ、同じクラスだったこともある。卒業してからは会っていなかった」


 特に親しかったわけじゃないって言ってたけど、何か訳ありなのかな。


「俺は成績が良くてな」

「でしょうね」

「聞かなくても分かりますよ」

「敵視でもされていたんですか?」

「逆だ」


 私も含めて皆で顔を見合わせてしまった。


「尊敬されていたということでしょうか」

「ちょっと違う」

「ちょっと……?」

「崇拝されていた」


 思わずシーンとなった空気をローランドが壊してくれた。


「ええ、分かりますよ。殿下は規格外ですから、持たざる者の中には神のように見える者もいるでしょう」

「俺と同じペンやノートを購入しては使わずに後生大事にロッカーに入れてるのを見た奴がいる。俺の写真と共にな」

「写真って以前言ってた見たままの姿を紙に焼き付けたものでしたよね。ルイ殿下の写真を彼がですか?」

「そうだ」

「それ、好意なのではないですか?」

「恋愛感情とは違うと思う。上手く言えないが、話しかけてこようともしないし、俺から話しかけると感激したような顔をして、少し話して逃げてしまう」

「恥じらう令嬢ならありえそうですけどね」

「俺の友達の成績が下がると『来栖君に相応しくない』とか言ってくるらしいし、テストが簡単だと『来栖君にこの程度の問題、失礼ですよ』とか教師に言うらしい」

「面倒な方ですね……」

「つまりだ。あいつの中身が変わってなければ、お前達にもエミリーにも何か余計なことを言ってくる可能性がある。何か言われたら俺に言ってくれ。すぐに抗議する」


 強烈な人だな……。私なんて『来栖君の婚約者として不適格だ!』ってバッサリいかれそうな気がする。言われても仕方ないから『ですよねー』って返しとこう。


 思った通り同担ではあったけれど重さが違った。あっちは同担拒否の方だった。どうしよう。


「あとシリウスの件だが」

「馬だと……」

「ああ、ただの馬だ」

「角がありましたが……」

「人間でさえ皮角といって角のような突起が生えてくる疾患がある。ほとんどは爪や髪と同じケラチン質で良性の腫瘍だ。シリウスは見たところ頭蓋骨の一部の可能性が高いが突然変異だろう。本来角を持つ偶蹄目の牛、羊、ヤギ、鹿は胃が四つある。馬は奇蹄目で胃の数もひとつだ。偶蹄目の角のように骨の一部だとしたらカルシウムが角に回される分、その馬はカルシウム不足になるだろう。胃が四つあれば効率的に栄養を取り込めるが、胃がひとつしかない馬にはそれが出来ないからだ。人を乗せないのは骨折を考慮しているのかもしれない」

「馬は骨折したら安楽死もあり得ます」

「ではベスティアリ側は馬だと分かっているということですか」

「確かに幻獣の割に魔力も何も感じないと思ってましたよ」


 ガガーン……。


「あ、エミリー嬢がショックを受けてる」

「だ、大丈夫です。元気です……」

「普通と異なる姿で生まれても、それが人気になる動物もいる。悪いことじゃない」


 そうだよね。偶然模様がハートになった猫とかだって看板猫さんになったりしていた。それと一緒……。そうだよ……。


「白い塔のことは分かったか?」

「今日ユニコーンを見に行く前に公園を通って近くで索敵しました。やっぱり魔力の大きさも位置も何もかも変わりないですね」

「少しの位置も変わっていないのなら、やはり魔石でしょうか」

「だけどね、今日近くに行って気付いたんだけど、大きな魔力の中に混じってネオ君の魔法を感じるんだよね」

「ネオ殿がその魔石を使って研究でもしてるのでは?」

「それがさ、時を止める時間魔法なんだよ」

「魔石の時を止めるとはどういうことです?」

「おかしいでしょ? 時間魔法なんて生物以外にかけるの」

「劣化しそうな魔道具の時を止めているのでは」


 ショックを受けている私はどこかボーッとしながら聞いていた。そうなんだぁと思いながら。だけど続く塁君の発言で私はハッと我に返った。


「オーレリア王女の時を時間魔法で止めているんだろう。恐らく進行性の疾患で命に関わるのだと思う。今回我が国の研修旅行先に申し出があったのも聖女を呼びたいのかもしれないな。一連の何もかもを進言したのはネオだろう」


 ご両親であるベスティアリ国王ご夫妻のあのご様子。宴に現れなかった王女。塔から動かない大きな魔力と時を止める魔法。多くの魔法使いがいる中で、まだ若いネオが王女様への魔法をかけている。一魔法使いのネオが王族に進言して我が国に招待状を送らせたのだろうか。王女の病を治すことが出来る聖女を呼ぶために。


 メインシナリオじゃない部分のシナリオが変わった背景には、間違いなく転生者であるネオがいる。


 少しずつ線で繋がっていく点と点に、私達は息を呑んだ。







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