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9.作戦のためじゃないの?

「このゲームでな、俺らみたいに同じ名前の奴らが転生者やとするやん? せやったらメインで可能性があるんはヒロインのアリスだけや思うねん」


 ルイ殿下は急に真剣な表情でポツリポツリと話し出した。


「確かに。平民だから苗字が無いしね。アリスって知り合いは前世でも二人いた」

「俺も一人知ってる」


 他のメインキャラクターは攻略対象も婚約者も含めて皆長めの外国人名だ。モブなら私みたいにゲーム中では名前が無くて、転生後は前世の名前をもじったような名前、ということもあるかもしれない。でもモブならあまり気にしなくていいだろうとは思う。それにモブでおかしな動きをする人が現れたら名前をチェックすればいい。もじった名前なら要相談だ。何だかそう思うと意外に簡単に対応できそうだ。


「ヒロインが俺以外の攻略対象にいくんやったら見守るつもりや。俺に来よったらイベントは全部回避して、それでもダメやったら説得して諦めてもらお思うねん。もし転生者なら話も早そうやん?」


 確かにそれならルイ殿下はゲームのシナリオから解放される。自由になれる。


「そっか頑張れ!」

「えみりちゃんも俺の隣で頑張ろな?」

「え? 何で私が……」

「俺の婚約者になるからや」

「ほ、保留って言ったよ!」

「こんな二人で過ごしとったらもう公認やで」


 ルイ殿下は私が両手で持っているコーラのグラスに自分のグラスをカチンと当てて、軽く上にあげると飲み干した。


 その直後。


「ルイ殿下ご機嫌よう! 私セリーナ・ハートリーですわ!」


 キッチンのドアをノックも無しにバーンと開けてセリーナが入ってきた。


「セリーナ失礼よ。ノックはしなさい」

「お姉様こそこんなに長い時間婚約者でもない男性と二人でいるなんて! はしたないですわよ!」


 セリーナはふん、とそっぽを向くと、ルイ殿下にすり寄った。


「お姉様のお料理を召し上がったみたいですので、口直しに私の大好きなチェリーのタルトをお持ちしましたわ。どうぞ召し上がって下さいませ」


 頬を赤らめて艶々の美しいタルトを載せたお皿をルイ殿下の前に置く。


「セリーナ嬢、突然の訪問で騒がせてすまない。今日は俺が無理言ってエミリーに頼んだんだ。エミリーの手料理は何よりも美味しかった。口直しは必要ないからこれは君が食べるといい」


 セリーナは一瞬カッと顔全体を赤くしたが、すぐに落ち着いて失礼な発言を繰り出す。


「ルイ殿下はお優しいから、料理の才能がない哀れなお姉様を気遣って下さっているのね。昨日のお茶会には私は行けませんでしたけれど、こうして今日お目に掛かれて運命を感じます。昨日お姉様とお知り合いになって今日この屋敷においでになったのは、私と出会うためではないかと思うのです」


 どこで覚えたのか八歳にして口説き文句を実践している。


 セリーナもブロンドに緑色の瞳で私と同じ色だけれど、私とは違って顔立ちは愛くるしく自信に満ちている。何でも思い通りになると思っているから、きっと自分が声を掛ければルイ殿下は自分を選ぶと確信している。


 確かにルイ殿下が私を選ぶと言ったのは、私がたまたま転生者だったからだ。決して私が好みだからでもないし、勘違いしちゃいけない。他の人がいいならそうしたらいいと思う。今ならまだ私の傷は浅い。大丈夫。


 まぁ今のセリーナを選ぶと幼女趣味の変態に見えるけれど……。



「セリーナ嬢、何か思い違いをしているようだが、俺()エミリーがいいんだ。昨日から俺が頑張ってエミリーを口説いているところなのは兄も知っていることだ。俺はエミリーを可愛くて愛おしく思っている。近々婚約者として正式な手続きをしたい」


 私は思わず顔に熱が集まった。


『こ、これはヒロイン回避作戦のためだから! 勘違いしちゃダメ!』


 必死で自分に言い聞かせる。


 前世での片思いの痛みを未だに引きずっている私はどうしても臆病で、逃げ道をたくさん用意してしまう。




 一方、セリーナは事態が飲み込めないようで目を見開いて固まっている。


「将来は俺の義理の妹になるから仲良く出来るよう望むが、姉妹といえどエミリーに無礼な言動は慎んでほしい。エミリーは俺の大切な妻になる女性だから」


 そう言ってルイ殿下は私の手を取って指先に口付けた。


 私は完全にキャパオーバーで目の前が白くなってしまった。あ、ヤバい貧血かも。


「エミリー!」

「だ、大丈夫です大丈夫です!」


 しゃがみこもうとするとフワッと浮遊感が襲う。私はルイ殿下の腕の中でお姫様抱っこをされていた。


「あ、あの……」


 見上げると、もの凄くもの凄く至近距離に、爆裂イケメンの麗しいご尊顔がある。


「ぁぅ……」

「部屋まで運ぼう」


 そう言ってセリーナをキッチンに残したままスタスタと私を運ぶルイ殿下の腕も胸板も、思っていた以上に鍛えられていて男の子だった。


 騎士達も付いてきたのでえらい大袈裟な感じで運ばれてしまった私は、恥ずかしさと居たたまれなさで両手で顔を隠したまま手を外せずにいた。


 気付けばいつのまにか私の部屋まで入っていて、フワッとベッドに横たえられる。


 私の頭をクシャッと撫でるとルイ殿下は耳元で『ほなまた明日な』と言って帰城した。




 どうしようどうしよう、可愛くて愛おしいとか大切な妻とかリップサービスにも程がある。こっちは初心者なんだから手加減してほしい。


 うつ伏せで枕に顔を埋めてうーうー言ってルイ殿下の言葉を反芻していると、何かが引っかかった。


 ん?


 ほなまた明日な?


 明日??


 明日も来るんかーーい!! と気付いたのはその日の夜だった……。







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