89.真剣勝負
あの白い塔の一つに王女様が……?
しかもヴィンセントの話だと移動していないと。ご病気やお怪我ならお城の中で療養するだろう。となると、自分の意志であの塔で暮らしている? でも塔とお城を移動くらいはする筈だよね。それも無いってことは、その部屋だけにずっといるのかな。は! まさか、引きこもり? それでご両親である国王陛下と王妃様が悩んでいるとか? あんなにお体を壊す程に?
いや~~無い無い。
そんな王族聞いたことがない。生まれた頃から公務も社交の場も多いから、引きこもるって手段すら思いつかないと思う。
だとしたら魔石に誰か一人の魔力を溜めに溜めて安置されているのかな。塔と王女様は特に関係無くて、単に王妃様のように魔力が無くてお城の中で療養中かもしれない。その方がよほどありそうだ。
「さて、この話は今はここまでだ。明日以降また何か分かったら報告してくれ」
「「「承知しました」」」
歓迎の宴が終わる頃、ベスティアリ国王と王妃様が塁君の元までいらっしゃって、改めてお礼をしたいと仰ったけれど、塁君はあっさりと断ってしまった。
「この視察のおかげで婚約者と久々にゆっくり過ごせます。俺にとってはそれだけで有難い。それに俺は医学を志す者ですから、治療することに理由も無いし礼は一度言ってもらえただけで十分です。これ以上の謝意は必要ありません」
「それでは、もし、研修旅行先に選んでいただけた際は、国を挙げて魔法学園の皆さんをもてなしましょう」
「明日以降、色々な場所を見せていただきます。全て総合的に見て判断しますので、その結果そうなれば、生徒達も喜ぶでしょう」
そうして私達は自分の部屋に戻ってきたのだけど、今夜はこれで終わらない。今夜は枕投げをする気満々なのだ私は。
リリーも侍従さんも退出したタイミングでコネクティングルームの鍵を開けてノックをする。
「えみり?」
「枕投げの時間ですよ!」
「おう! 沈めたる!」
「後悔しないでね」
「「ふふふ……」」
ドアを開けると部屋着になって不敵な笑みを浮かべた塁君が、枕を両手に持って立っていた。私も動きやすい部屋着で両手と左脇に計三個の枕を持っている。
前世の小学校時代、私はドッジボールでは逃げる達人だった。いつも最後までコートに残ったりしていたのだ。そう、自称ドッジえみり。ちなみにドッジとはかわすって意味だ。走るのも遅いし背も小さいから、リレーにバスケ、バレーではいまいち活躍できない私でも、唯一なんとかなったのがドッジボールだった。枕投げだって負ける気は無い。かわせばいいんだから! 得意! 大得意!
「俺は浪花の枕投げキングと呼ばれた男や」
「私だって北の枕避け部長だから」
「部長、微妙や」
「ちょっと慎ましく言ったの。本当はCEOレベル」
「北の枕避けCEOて」
「さぁさぁ! いざ尋常に勝負!!」
塁君は2分用の砂時計をセットした。砂が落ちきったら魔法で小鳥の鳴き声がする魔道具だ。枕投げは1セット2分、3セットマッチで2セット先取した方が勝ちだ。
私は右手に持った枕を思い切り塁君に投げつけた。だけどその一投目、塁君は横に移動して簡単にかわしてしまう。そしてすかさず塁君からも一投目が飛んできた。勿論私もかわす。
1セット目はお互い体力も万全なので、跳んだり反ったりしてキビキビとかわしまくって小鳥の声が聞こえても勝負はつかなかった。まぁこれは想定内。真の勝負は2セット目からだ。
「やるやないか」
「塁君もね」
2セット目では足元のちょうど太腿辺りの高さに枕が飛んできて、これは跳んでも当たると思った私が咄嗟に毛布を盾にすると、すぐにうまいこと弧を描いた二投目の枕が飛んできて前屈みだった私の背中にポスンと当たった。
「くぅぅ~~~!!」
「俺の勝ちー!」
浪花の枕投げキングめ、投げるの本当に上手いな!
3セット目は数撃ちゃ当たる作戦で塁君が避ける方向にも投げまくった。だけど全然当たらない。
「何でー!」
「まだまだやな」
手持ちの枕が全部塁君の方に行ったところで塁君の反撃が始まる。さっきみたいに太腿辺りに飛んできた枕は、椅子に片手をついて横に高く跳ぶことで回避した。もうこの勝負中は令嬢とかどうでもいいです。
しかし、着地の瞬間を狙われて床スレスレに枕が飛んでくるのが見えた。これは当たると分かったけれど、咄嗟に足を避けようとした私はまんまとバランスを崩してしまった。
「あ!」
「えみり!」
枕と一緒に塁君が飛んできて前のめりに転ぶ私を抱きとめてくれた。
「危な。どこも痛ない?」
「ぐぬぬ」
「えみり?」
「……負けました」
「ぷっ、可愛いな! 別に俺の負けでええで」
「そんなの真の勝利じゃない……」
「真の勝利て」
塁君は不貞腐れた私に毛布をクルクル巻いて抱っこでソファに運んだ。
「ベッドは流石にまずいからな」
「ソウデスネ浪花ノ枕投ゲキング」
「何で片言やねん」
「怪談話では私が勝つからね!」
「それは楽しみやなぁ」
その後部屋の明かりを消して私達はソファで怖い話を始めたんだけど、塁君の大阪心霊話が怖過ぎて私は半泣きだった。そんな怖い話前世でも今世でも聞いたことないよ!
「こ、こわ! こわぁ!!」
「それでその女が言うねん……『探してたんは……』」
「ひぃぃ! もういい! 負けましたぁ! すみませんでしたぁぁ!!」
「えみり泣いとる! 怖いんや? あー可愛過ぎやー!!」
「怖過ぎる! こういうのお化けが集まってきちゃうんじゃ」
「大丈夫や、俺の作り話やから」
「ぇええ……」
そんなことってあるの。何その才能……。
「もう怖くて寝れなそう……これで早起き選手権では私の勝ちだよ……」
「寝ぇへんのに早起きも何も」
「次は恋バナだよ、あ、これ私絶対負ける」
「恋バナに勝負関係ないやろ」
女子同士の恋バナは楽しいけれど、好きな相手と恋バナなんかして過去の彼女の話なんかされたらダメージ大き過ぎる。失敗した。
「やっぱ恋バナ無し!」
「なんでなんで? 俺言いたい」
「何を聞かせる気」
「好きな子の話に決まっとるやろ」
好きだった子じゃなくて、好きな子と言った。
「俺の好きな子はな、トランプでも枕投げでもいっつも本気で勝負してくんねん。わざと負けるのも失礼やから俺も本気でやんねんけど、負けるとめっちゃ悔しそうでな。その無意識に膨らんだほっぺもちょい潤んだ目も可愛らしくてキスしたなんねん」
恐怖で血の気が引いていた顔が一気に熱くなる。
「えみり、めっちゃ好きや」
そう言って毛布から顔だけ出ている私の後頭部に手を回した塁君は、そっと唇を重ねてきた。何度も角度を変えて与えられるキスに、もうドキドキし過ぎてお化けとか吹っ飛びました。
「これ以上はあかんな。ぼちぼち寝よか」
「う、うん」
塁君は毛布でコロコロの私を抱っこして部屋のベッドまで運んでくれた。
「明日はユニコーンやで。よう寝てな」
「う、うん」
「寝坊したら落書きやで」
「負けない!」
「ははっ、それでこそえみりや」
塁君は『おやすみ』ともう一度キスをしてから自分の部屋に戻って行った。公平を期すためにコネクティングルームの鍵は開けっ放しだから、リリーが来るまでには絶対起きて閉めなきゃいけない。
でも大丈夫、こんなドキドキしてたら眠れないから。久々の徹夜になるかな、なんて思っていたのに。
あっという間に私は心地よい眠りについてしまった。




