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86.ベスティアリ王国

 待ちに待ったベスティアリ王国の視察。


 今私達は魔術師団本部の敷地内にいて、目の前には巨大な転移魔法陣が敷かれている。こんな大きな魔法陣を見るのは生まれて初めてで、さっきから興奮が抑えられない。だってすごくかっこいいから!


 他のご令嬢達も転移魔法は初めてなようで、皆緊張してるのが伝わってくる。



「それでは皆さん、準備が出来たようなので出発しますよ」


 ヴィンセントの言葉で、私達はそれぞれ馬車数台に分かれて乗り込んだ。馬車の前後は騎士団と魔術師団に護衛されていて、ゆっくりと誘導されて魔法陣の上に移動する。


 あぁ、ワクワクドキドキする! 転移の瞬間はどんななんだろう? ワープみたいに七色の異空間とかだったりするのかな。それとも突然景色が変わるのかな。



「えみり、一瞬やけど浮遊感あるからな」

「分かった!」

「ふふっ、楽しそうやな」

「ものすごく楽しい!」

「ワクワクしとるえみりも可愛いなぁ」


 だってワクワクしないでいられない。はしたないとは分かっているけど、魔法陣がどうなるのか気になって馬車の窓に張り付いてしまう。



 ヴィンセントが魔術師団の団員達に合図を送ると、団員達からもの凄い量の魔力が一気に転移魔法陣に注がれた。一人一人が凄まじい魔力を持つという魔術師団の団員達。魔法エリートの彼ら数人分の魔力を注ぎ込まれた魔法陣はどんどん発光し始めて、カッと最大光量で閃光を放った。その眩しい光が収まった瞬間には、馬車の窓から見える景色は既に変わっていた。



「転移完了!」



 外からヴィンセントの声が聞こえてくる。



 さっきまで魔術師団本部があった場所には見たことのない真っ白な塔がいくつも聳え立っていて、私達は白い石畳の広い広い庭園の中心にいた。その庭園に植えられている木もお花も、庭園そのもののデザインも、我が国のものとはだいぶ違う。


 すごい、私もう外国にいるんだ!


 どうやら転移魔法はワープっぽくはなく、突然景色が変わるタイプだった。



「浮遊感、大丈夫やった?」

「もう、興奮でそれどころじゃなかった!」

「ふふ、そうか。楽しかった?」

「魔法陣が光るところが凄いかっこよかったけど、あっという間過ぎて楽しかったというより大興奮って感じかな」

「うぉおおって感じ?」

「うぎゃぁあって感じ」

「ははっ、なんやそれ!」


 塁君は大笑いしているけれど、他の令嬢達だってきっとそうだよ! だって凄かったもん!




 外が騒がしくなってきた。窓を覗くとベスティアリの魔術師っぽい方達が出迎えてくれている。


「私達馬車から出なくていいのかな」

「魔術師団が挨拶だけして俺らはこのまま馬車で城直行やな」



 窓から見えるベスティアリの魔術師の方達は、白地にブルーの刺繍で装飾されたローブを纏っていて、我が国の魔術師団の黒地にゴールドの刺繍とは対照的だ。


「うちの魔術師団のローブ、強そうに見えるよね」

「実際世界一強いんちゃう」

「そうなの?」

「うちの国ほど魔力持ちの人間が多い国は無いし、そん中でも魔術師団に入れるのは相当な魔力持ちやないとあかんからな。団員一人で他の国なら天下獲れる気ぃすんで」

「さっきの転移魔法も凄かったもんね。だけど団員さん達が国外に出て行かないのは何でだろう。天下獲りに行かないのかな」

「団員達は魔法の実力差に関しては徹底してリアリストやからな。今の団長とヴィンスがレベチ過ぎて崇拝されとんねん。現人神(あらひとがみ)の元でお仕えしたいくらいの気持ちになるんちゃうかな。他国で天下獲るより、うちの魔術師団におった方が腕を磨けるいうのが分かるんやろ」


 ゲームでも魔術師団長とヴィンセントの魔力の強さとセンスについては記述があったけれど、それを言うなら塁君だって強大な魔力を持っている筈で。



 小さい頃から魔力暴走を起こさないよう訓練を続けてきた塁君。きっとその魔力と技術はヴィンセントに並ぶのではないかと思うけど、塁君の興味は我が国の医療技術を上げることだから魔法の道には進まないのだと思う。




 ふいに窓の外に視線を戻すと、ベスティアリの魔術師さんの中に、私達くらいの年齢の男の子がいるのが目に入った。紺色の髪にアイスブルーの瞳の美少年。あんなに若いのにもう魔術師として勤務しているなんて優秀なんだなぁ、と思っていたら、見過ぎたのか目が合ってしまった。


「ぁっ」

「どないしたん?」


 私の後ろから塁君も窓の外を覗くと、その少年は急に目を見開き、表情が一気にパァッと明るく変化した。



「目が合っちゃった」

「俺もや。めっちゃ見てくるやん」


 少年のアイスブルーの瞳は今や塁君に釘付けになっている。私ではなく、塁君に。


 男の子相手でも、やっぱりメインキャラの輝きは健在なんだなーと感心していたんだけど、塁君は窓から離れて座り直してしまった。



「若い魔術師さんだね」

「せやなぁ」

「優秀なんだね」

「せやなぁ」


 塁君は顎に手を当てて何か考え事をしている。



「どうかしたの?」

「……いや、年の頃と今の視線で、転生者ちゃうか思てな」

「え!?」


 まさか、こんな着いてすぐに出会っちゃう!? 王族の名前で招待状出せる立場なの? 若手魔術師さんだよ?



「ただの勘や」



 塁君は鋭そうだし、本当にそうかもしれないと思ってしまう私がいる。そう思うと窓の外をさっきみたいに見るのは躊躇ってしまう。




「王城に向けて出発開始!」


 ブラッドの掛け声が響くと、馬車はゆっくりとベスティアリの王城へ向けて動き始めた。


 だいぶ進んでから振り返り、後ろの窓から外を見ると、さっきの少年だけはまだこちらを真っ直ぐに見ていた。


 私達の馬車の後にも何台も馬車は続くのに、この馬車だけを彼はずっとずっと見つめていた。


 王子が乗る王家の馬車だからというより、何か特別な感情を持っているような、他国の王族相手に向ける眼差し以上の、憧れのような眼差しをそこに感じた。





 ◇◇◇





「大国クルス王国の第二王子殿下にお越しいただきまして、ベスティアリ王国を代表して心から謝意を表し、国を挙げて歓迎致します」



 王城に着いた私達はすぐに国王の謁見の間に通され、王妃様から直々にご挨拶を頂いた。国王陛下は体調が優れずしばらく臥せっておられるらしい。王妃様も心なしか顔色が悪く、お疲れのようにも見える。それでも塁君を歓迎すべく、美しい笑顔を向けて下さっている。



「本日は歓迎の宴の準備をしておりますので、どうかそれまで城でゆっくりとお寛ぎ下さい」



 私達はお城の使用人の方達に案内されて、それぞれのお部屋に通してもらった。私と塁君の部屋は皆とは階が違っていて、最高級と思われる貴賓室が隣同士で用意されていた。


「エミリーお嬢様、いつものお城のお部屋も素晴らしいですが、このお部屋も素敵ですねぇ」

「リリーのお部屋も近い?」

「はい! すぐ隣に侍女専用の部屋もあるんです! 何かございましたらいつでも呼んで下さいね!」

「あはは、何もないよ。リリーもたくさん楽しもうね!」


 そう言って笑った瞬間に、部屋の奥にある扉が開いた。



「「え?」」



 私と声がかぶったその相手は、扉のドアノブを持ったまま固まっている塁君だった。



「もう一部屋あると思って開けたらエミリーの部屋なのか? 何だこれは、な、何で繋がってる……?」


 私達が困惑していると、塁君の侍従があっさりと教えてくれた。


「畏れながらご夫婦でもお使いになれるように設計されているのかと」

「「ごっ、ふ……!?」」


 私と塁君がむせそうになったのを気にもせずに侍従さんは続ける。


「私は殿下を信用しておりますが、エミリー様のためにもそちらの扉は鍵をかけておきましょうか」

「わ、私も対外的にもそうなさった方がよろしいかと思います!」


 リリーは顔を赤らめて両手で頬を押さえている。やめてやめて、何か変な雰囲気にするのやめて。



「と、当然だろう! 鍵をかけて鍵はエミリーに渡す! 俺からは開けられないようにしてくれ!」

「畏まりました」



 かくしてコネクティングルーム貴賓室の間の鍵は私に預けられた。







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