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70.開花

「ジュリ、アン、何故、なの? 貴方の、好感、度は、マック……」

「MAXだとでも思ったか?」


 塁君がかぶせるように言葉を発した。


「好感度だ? お前がヒロインだとでも? 何を根拠に?」

「ば、薔薇も、農、作物、も、平民の、病も、すべ、て私が」

「そうかそうか、じゃあ今すぐ自分自身を治癒してみせろ」

「…………」

「出来ないだろう? ヒロインでも何でもないからな」

「……せ、聖女、の御業は、民、のためにこそ……」


 その言葉に六人全員が噴き出した。


「ははっ、よく言うね」

「ああ言えばこう言うとは貴女のことですね」

「あははは、面白いなー、冗談は顔だけにしてよ」

「魔女が聖女を語るとは前代未聞だ、くくっ」


 ジュリアンも蔑むようにセリーナを見下ろして嘲笑する。


「お前はいつもそう言っていたが、出来ないだけなのは知っている」

「……! ジュリアン、貴方、私を、ずっと、欺いてい、たの」

「お前は世界を欺いているだろう」

「わ、私、を、崇め、て……」

「いるわけがない。いつも俺を見るお前の懸想した目にどれだけ吐き気がしたか。化粧をした顔はそれ以上に不気味だったがな」

「!!?」


 セリーナは今までで一番ショックを受けた表情をして体を強張らせた。多分あのバブリーメイクはセリーナ的に勝負メイクなのだろう。それを完全否定されて本気で驚いている。


「あの顔笑えるよな!」


 塁君もジュリアンの話に乗っかって楽しそうに笑い始めた。


「お前、三年前に俺の部屋に夜這いに来たよな。あの化粧して。もう笑いを堪えるのに必死で苦労したぞ。『好きにしてくれ』とか『女に恥をかかせるのか』とか迫られて、あの時は本当に気持ち悪かった」


 セリーナの顔がカッと赤くなる。私もそこまで教えてもらってなかったので若干ショックではあるが、男性陣の前でバラされるのはかなりの大ダメージだろう。


「へえ、僕の腕を治すのに何年でも祈りを捧げると誓っていたのに、他にも目当ての男がいるんだね」

「ち、違い、ます!」

「しかも実の姉の婚約者に夜這いだなんて、貴族令嬢とは思えない振る舞いだ」

「わ、私は、クリス、ティアン殿下、だけを、お慕いして」

「そういえば、僕の右手って怪我なんてしたことないんだけど、何を治すの?」

「ぇ」


 青ざめたセリーナにクリスティアン殿下は残酷に微笑む。


「それとも君が僕を害するつもりだったのかな?」


 セリーナはようやく敵意に気付いたようで後ずさりし始めた。後ずさりした分、皆が少しずつセリーナを追い詰める。


「聖女でもないのに平民の病はどう治したんですか? まるで詐欺師ですね」

「魔女だから黒魔術でも使ったんじゃないのかなぁ」

「教えろ魔女、この腐った外道が」


 罵詈雑言を浴びせられ、怒りで震え始めたセリーナの手枷と足枷の鎖がガチャガチャと音を鳴らす。


「なんだ? 歯向かう気か? その手枷足枷を忘れたか? それとも炎の魔法でも使う気か?」

「ああ、炎の魔法で僕の右手を焼くのかな? それは楽しみだ」

「炎の魔法など、私の氷の魔法でねじ伏せてやりますよ。こんな子供に負けるわけがない。浅はかな」

「俺が魔術師団次期団長って言われてるの知らないの? 炎の魔法くらい俺にも使えるんだけど?」

「我が家に代々伝わるこの剣で、炎など切り裂いてお前をたたき斬ってやる」


「小、僧ども……」


 ブルブルと震えるセリーナから、聞いたことが無いような低い声が聞こえた。思わずゾクッと背筋に悪寒が走る。



「言わせて、おけば……世間を、知らない、青、二才、どもが……」



「おいおいそこのクソガキ、言わせておけば何て口聞いてんだ? 始末するぞ?」


 地下牢に繋がる通路側から、長身の男が突然現れてセリーナの真後ろで声をかける。流石に驚いたセリーナがビクッと肩を震わせて振り返り、『ゼ、ゼイン?』と呟いた。


 ゼインだ! 前世で唯一攻略出来なかったゼインがいる! 長身で、目付きが悪くて、黒いオーラの病んでるイケメン。でも、闘技場に現れたゼインは全然病んでる感じはしない。それどころか普通にちゃんとしてる。


「ゼイン! わ、私、貴方と、行く、わ!」

「はあ?」

「もう一度、私、を攫って」

「ぷっ。あはははは、全然分かってねぇのな」


 そう言ってゼインはジュリアンと共に塁君の両脇を固め、自分の手首を塁君の手首とコツンと合わせた。


「そういうことだ」


 塁君がニヤッとセリーナに微笑みかけると、セリーナはまたも呆然としている。次から次へと現れる攻略対象者達が、誰も彼も塁君の協力者だと、今一つ認識出来ていないようだ。


「頭悪いなー、早く気付けよ。ジュリアンも俺の指示。ゼインも俺の指示。二人とも俺の幼馴染。お前は俺の掌の上で遊ばれてたってことだよ! あ~面白かったわ『ヒロインになれるかなゲーム』。お前はここでゲームオーバー! ざぁ~んね~ん!!」


 塁君がものすごい煽り顔で煽っている。迫真の演技だ。


 セリーナの顔が今度は怒りで真っ赤になった。瞳には今まで見たことが無いほどの強い怒りと、凄まじい殺気が込められている。ふぅふぅと息まで荒くなっていて、これは煽り大成功だ。


 追い撃ちをかけるように、七人の攻略対象者達が全員揃ってセリーナを見下ろし嘲笑う。


「無様だなぁ」

「こんなに無様な者がこの世にいるとは」

「あー面白いねぇ」

「炎の魔法が飛び出すのか? あぁ怖い怖い」

「それにしても汚ぇな。貧民街にもこんな奴いねぇ」

「ゼインお前こいつ運ぶとき首根っこ捕まえて引き摺ってただろ。ウケるわ~」

「触りたくもない気持ちは分かる」


 わははははと笑い声が響く。


「……お前ら、全員、後悔させてやる……」


 セリーナの更に憎悪に満ち満ちた低い低い声が響く。そして一瞬沈黙した。これは、ハートリー家本邸で夜私の部屋を訪ねてきた時と同じ? 遺伝子を焼く魔法を今まさに使っている?


 だけど七人は想定通りという余裕の笑顔で待ち受けている。


 セリーナの体から、オーラのような、気のようなものが色が付いて放たれ始めた。黒のような、紫のような、茶色のような、何だか汚い色。あれは、魔力なのではないだろうか? 何で色付き?


 次の瞬間、塁君に向かってその魔力が伸びていった。だけど塁君の体に届く前に、跳ね返ってセリーナの体に戻る。


 セリーナは頭に血が上っていてそれに気付かないのか、魔法を止めることは無い。クリスティアン殿下、ローランド、ヴィンセント、ブラッド、ジュリアン、ゼインと順番に魔力が伸びていき、そしてまた跳ね返される。跳ね返された魔法は全てセリーナに戻って行っているのに、本人は気付いていないようで遂には笑い出した。


「ふ、ふふっ、いい、気味だ。お前ら、後悔、しろ」


「あれー? 炎の魔法はまだですかー? 早く見たいなぁー」


 塁君がまだ煽り倒す気でいる。敢えてのすごい棒読みだ。


「お前、らの、国も、めちゃくちゃに、してやる」

「わぁ怖ーい。夢に出そー」


 セリーナは鉄格子を溶かしたせいで魔力もあまり残っていないのに、怒りのあまり残り全ての魔力を使い切る勢いで魔力を放出した。


 その魔法は七人ではなく、闘技場を越えた王都の中心部に向けて複数放ったように見えた。まずいのでは。あれでは無差別に、当たった人々の遺伝子を焼いてしまうのでは。そう思った瞬間だった。


 キィン!


 ブラッドが目にも止まらぬ速さで飛び出し、両手に持った剣でひとつ残らずセリーナの魔法を跳ね返した。


 跳ね返した魔法は一直線にセリーナの体に次々にぶつかる。


 だけどセリーナ本人にはそのおかしな色付きの魔力が見えないのか、不遜に薄笑いを浮かべたまま、魔力切れでその場にばったりと倒れた。







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