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63.動き出す遺伝子実験

「そうだったんだ! まさか本当にレオがかれぴさんだったなんて!」


 レオまでが転生者だと知り、私はランチどころではなくなってしまった。


「初めて本気で好きになったのが玲央なの。しかも振ったつもりはなかったって言うんだから、ひょっとしたらヨリを戻せたりするかもしれないでしょ? だから頑張るの!」

「じゃ、じゃあ攻略対象者はもういいの?」

「うん、もういいや」


 ついこの間までとは打って変わって、アリスはキッパリと攻略対象者達への執着を否定した。


「玲央に振られた反動で、たくさんのハイスぺイケメンに愛されて満足したかったけど、玲央がいるなら玲央がいいんだ」


 あの羽音ちゃんが実はこんなに恋する乙女だったなんて……。


 逆ハーにこだわり過ぎで逆に不自然で、前世で何かあったのかなとは思っていた。聞いた話はかれぴっぴとか出てきてよく分からなかったけど。本当は誰か一人の本命になって、大事にされたいんじゃないのかなって思ってた。私の勘は当たった。


「レオは今年十三歳になるんだって。私が三つ年上になるけど、嫌じゃないかな。前世では私より玲央の方が六歳年上だったんだ。年下が好きなのかな」

「そんな人には感じないけどな」

「そ、そうだよね!」

「相当心の広い男やで。年齢とかは問題やないやろ」

「そうなの! 心が広いの!」

「皮肉や」

「え、どういうこと……」

「自分は年齢以前の問題やねん」

「ムカつく!」


 アリスは憮然として塁君を睨みつける。


「まぁまぁ二人とも。話を聞く限り、レオはモブの自分はヒロインには相応しくないって思ってそうだよね。だけどそれをいうなら私だってモブだし同じ立場だよ」

「俺にはえみりしかおらへんし、えみりしかいらん」

「えへへ、私も塁君しかいらないよ」

「えみりめっちゃ好き」

「…………私の相談に乗ってくれてる途中だよね?」


 脱線しつつもアリスの悩みを全部聞いて、何か力になれることがあるなら協力することにした。疫病イベントは攻略関係なく、効果が無くても光魔法を使うつもりではいるらしい。でも私は知っている。間違いなく効果が無いことを。


 アリスが一般クラスに戻った後、私と塁君はしばらく薔薇園でまったりしていた。塁君の魔法で、私達の周りだけエアコンのように快適な冷気で包まれている。


「もうすぐ夏も終わるけど、まだ病気の人達出てないよね?」

「ジュリアンが頑張ってくれてんねん。一回セリーナに目の前で料理食うてみぃ言われたらしいけど、平然と完食したったって」

「そ、それ、大丈夫だったの!?」

「あいつは毒に体慣らしとるし、俺が活性炭渡してあるから」

「炭?」

「活性炭はようさんの物質と結合する吸着剤なんや。炭自体は消化管から体内に吸収されへんから、服用した中毒物質の吸収を減少させる効果があんねん」

「それでも心配だね……」

「俺も心配やけど、今ここでジュリアン退かすわけにいかへん。被害を最小限に食い止めるには絶対にあいつが必要やねん」


 塁君は決意の固い瞳で遠くを見ている。きっとその先にはこれから起こる疫病イベント、その前段階の仕込みや人体実験までを見据えている。


「それにジュリアンが黙ってやられたままでいる筈なくてな。食わされた直後に、大量のソラニン抽出しといたもん混ぜたハーブティー飲ましたった聞いとる。流石や」

「なんかすごい攻防だね……」


 神殿の中でそんな戦いが繰り広げられているなんて……。


「今んとこセリーナは外出れるほどの状態やない。せやけどこのまま黙っとるとも思われへん」


 塁君は近付いてくる疫病イベントに危機感を募らせていた。確かにあのセリーナが具合が悪いからと言って、自分が聖女だと華々しくアピールできる機会を逃すとは思えない。


 だけど出歩けないならどうするんだろう。こっそりお医者さんを呼ぶのかな。でもジュリアンがどうにでも操作しそう。


 こっそり神殿を抜け出す? それもジュリアンが見逃す筈がない。


 流石のセリーナも打つ手無しかな?


 そんな風に思っていた私が甘かった。次の週、神殿で礼拝した人々の中から急に体調を崩す人が現れだしたのだ。


 住んでる場所も性別も年齢もバラバラで、それに気付くのに時間がかかった。セリーナが魔法を使う時、アリスみたいに光の粒子が降るわけでも何でも無いのが災いした。


 我が家でも私の畑の横を通っただけで、ジャガイモの遺伝子をいじって毒を増やしたセリーナ。


 神殿でも誰にも気付かれることなく、一瞬で礼拝客の遺伝子を焼いたのだと思われた。





◇◇◇





「これは人体実験の続きだろう。被害者の一人にメイプルシロップ尿症の者がいた。恐らくBCKDHA、BCKDHB、DBTの3つの遺伝子のうち、19番染色体長腕、19q13.2にあるBCKDHA遺伝子を焼かれている筈だ。ネルの赤ん坊は1番染色体1p21.2にあるDBT遺伝子を焼かれていた。ここに来て同じ疾患を繰り返す理由が無い。ラボノートによると18番まで実験済みだから、イベント前に19番以降も試してみているのだと思う」


 今、王城の執務室で対策会議を開いている。


 クリスティアン殿下、ローランド、ヴィンセント、ブラッドの四人は怒りに満ちた瞳で聞いていた。


「もう今すぐ捕まえてしまえばいいのでは」

「捕まえに行った者の遺伝子が焼かれるだろう。神殿の者も巻き添えになる」

「魔術師団で防御魔法を使って一気に、というのは?」

「魔術師団が出れば大事になってハートリー家も巻き込まれる」

「俺が単独で乗り込んでたたき斬ってきます」

「斬る前にブラッドの遺伝子が焼かれるし、やはり神殿の者が巻き添えになる」

「焼かれる前提で行って、捕らえた後に我々で遺伝子治療してはどうかな」

「捕まると察して自暴自棄になったセリーナが、特定の遺伝子座を狙って魔法を調整するとは思えない。手あたり次第の部位を焼いてDNAがボロボロにされる危険がある。そうなれば放射線被曝したようになって治療も出来ない可能性がある」


 こちらも安全に捕縛しようとすると準備が必要なのだ。


「神殿で捕らえるのはリスクが高い。わざとセリーナを解き放ってゼインに出てもらう。ゼイン相手ならセリーナは攻略しようとひとまず遺伝子を焼いたりしないだろう。自分が聖女となってシナリオが進むことに満足する筈だ。ゼインの隠れ家に俺も待機して、ゼイン攻略中に捕まえる」

「い、いけません! この国の王位継承順位第二位のお方が何を言ってらっしゃるんですか!」

「ローランド、お前が冷静になってくれれば俺達は負けない。お前が必要だ」

「ルイ、ルイなら出来ることは多いけれど、ルイが大切なのは皆同じだ。危険なのを分かってて行かせられないよ」

「兄さん、俺に考えがある。ジュリアンとゼインが被害に合わないうちに早急に決行する。兄さんはもしもハートリー家が巻き込まれそうになった時、尽力してくれると有難い」

「それは当然だよ」

「ヴィンス、例の魔法を完璧に仕上げておいてくれ。お前しか出来ない」

「お任せを。全身全霊をかけてやり遂げますよ」

「ブラッドも例の剣を使うかもしれない。お前の剣技が必要になる。頼んだ」

「御意」


 四人はそれぞれ塁君に頼まれていたことがあるようだけど、私はそこまで知らなくて、ただただ不安ばかりが膨れ上がる。


「る、塁君……」

「エミリー、大丈夫。俺はエミリーと幸せになるために、何もかもクリアにしていく」


 塁君は何の迷いもない笑顔で私に微笑んだ。







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