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6.困ったことになった

「とりあえず婚約者選びの件は保留にさせて下さい」

「なんでなん? 俺まぁまぁシュッとしてへん?」

「(シュッと???)」


 お開きの時刻になったので私達はピンク色の薔薇のガーデンに戻ることにした。


「そろそろ着きますから日本語はここまでですよ!」

「承知した」


 急にこの国の公用語に戻るルイ殿下。


「私の手料理が口に合わなければ後悔なさるでしょうし」


 明日お忍びで我が家に訪問すると強引に決められてしまった。何度も何度も断ったが、前世の味を恋しく思う気持ちを無下に出来ず最終的に折れてしまった。


 でもご飯を食べるだけという約束なのでまだ何とかなる。口に合わなければ『この話なかったことに……』となるだろう。


 ルイ殿下は元々推しだっただけに凄く好みだ。あんなにグイグイ来られたら経験値のない私は勘違いしてしまいそうになる。でも勘違いした後で『やっぱりやめた』って言われたらしばらく立ち直れない。次に誰かモブ令息さんとお見合いしてもルイ殿下と比べてしまうだろう。そんなの相手にも失礼だし不幸だ。自分で一線を引いておかなければ。


「エミリーの料理は絶対美味しいと思う」


 ルイ殿下は自信満々だけど、過度な期待はプレッシャーになる。


「そんなの分かりませんよ」

「いや分かる」


 何故そんなに言い切れるのか。味覚は人それぞれだし怖気づいてくる。



 皆がいる庭園に戻ると一斉に視線が突き刺さってきた。


 クリスティアン殿下の隣には先程のままグレイス嬢がいるが、反対側の隣であるルイ殿下が座っていた場所には、なんとユージェニー嬢が座っていた。


 つまりクリスティアン殿下は公爵令嬢二人に挟まれて取り合いされている。両手に花とはこの事だ。


 この二人に敵う筈がない、と分かっていながら諦めきれないご令嬢達は、私を修羅の眼差しで睨んでくる。


 そりゃそうだよね……。十五人で二人の王子を争う筈が、十四人でたった一人の王子を争うことになっちゃったんだもんね。なんかすみません……と冷や汗をかきながら俯いていると、クリスティアン殿下がルイ殿下に声を掛けた。


「ルイ。見た事がないような晴れやかな顔をしてるね。そんなに良い時間を過ごせたのかな?」

「はい兄上。まるで一面の分厚い雲から太陽の光が射したような気持ちです。今日は非常に有意義な会でした」


 さっきまでの死んだ目が嘘のように、生気を宿した瞳でルイ殿下は晴れ晴れと言いのけた。その姿にご令嬢達がポッと頬を染める。


 そうなのだ。ルイ殿下はヴィジュアル最強なのだ。


「これは驚いたな。まさかルイからこんな言葉を聞く日が来るとは思わなかったよ。ハートリー侯爵令嬢、ルイは君を相当気に入ったようだ。君もルイを気に入ってくれたなら嬉しい」


 ここでまさかおかしな事は言えない。


「勿論です。大変光栄なことです……」


 と応えるとクリスティアン殿下はにっこりと微笑んで閉会の言葉を紡いだ。




「馬車まで送ろう」


 ルイ殿下が我が家の馬車までエスコートしてくれた。


 取られた手の向こう側を見ると、さっきまでの無表情無感情王子も、関西弁王子も何処にもいない。完璧なヴィジュアルで完璧なエスコートをする、史上最強の王子様がいるだけだった。


『ま、眩しい……』


 馬車に乗り込んでドアを閉める間際、私にしか聞こえない小さな声で王子は呟いた。


「ほなまた明日な」





 ◇◇◇





 我が家に帰宅し、明日のルイ殿下の訪問を知らせると驚天動地の大騒ぎだった。


「エミリー、でかした!!」

「エミリーの可愛さが殿下に伝わったのねぇ」

「嘘でしょ! お姉様が!?」


 私こそが色々と『嘘でしょ?』って言いたいくらいだ。


「明日は特別に珍しい高級食材をたくさん取り寄せよう。今日から早速料理長に特別メニューを考案させて、使用人達も特別に給仕のマナーを再教育しような」

「応接間の模様替えもしてしまいましょうね。最高級の応接セットでアフタヌーンティーを楽しんで頂けるようにデザイナーをすぐに呼びましょう」

「明日殿下が私をご覧になったら私がいいって言うと思うわ! お姉様そうなったらごめんなさいね?」


 皆一斉に話し出したがちゃんと聞こえた。


「お父様、お母様、明日は食事の用意は必要ありません。給仕も私がしますのでご心配なく。セリーナはそうなったらなったで構わないから頑張って」


「エミリーが給仕を?」

「食事は必要ないって、じゃあ何を給仕するの?」

「お姉様、強がってますの?」


 うぐぅ、あまりツッコまれると言い訳が難しい。前世の話なんて出来ない。


「とにかく明日、ルイ殿下は私の手料理を召し上がりにいらっしゃるのでご承知おきください」


「「「え???」」」


 三人ともあからさまに不安そうな、終わった、みたいな顔になっているが、もう少し隠す努力をして欲しい。ちょっと傷つく。


「エミリー。流石に初めてのご訪問なのに、エミリーの手料理というのは……些か礼を失してはいないだろうか」

「そうね。婚約が正式に決まって、婚礼も済んで、何年かしてからでもいいのではないかしら?」

「何年と言わず何十年でもいいと思う。まぁ結婚は私とするけど!」


 皆言いたい放題だ。


「殿下のご希望ですからこちらからお断りする訳にはいきません。私は誠心誠意お応えするだけです」


 私がそう言うと家族全員がガクーッと肩を落とした。漫画だったら縦線が上から降りてきてるだろう。よく分かった。私の料理をそんなにも低レベルだと思っているってことが。


 だけどやらないわけにいかないんだ。



 私は明日のルイ殿下ご訪問に向けて、下準備をしにキッチンへ向かった。







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