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47.攻略キャラ集結・最強チーム

 隠しルート。


 今私の目の前にいる五人を全員攻略した時に解放されるルート。勿論解放された時に攻略した。


「神官のジュリアン?」

「そう。あいつも味方」


 アリスが聖女として認められると神殿に所属し、光の魔法で奉仕活動をする。その時に何かと親切にしてくれる若い神官がいる。金色のストレートロングヘアが似合う美形、ジュリアンだ。登場はまだ先になるけれど、セリーナが神殿に三年間もいたのなら接触してるかもしれない。


 でも塁君は神殿にセリーナがいると推測はしてたけれど、確信は無かったと言っていた。ジュリアンが味方なら教えてくれてた筈だよね。


「この世界でジュリアンは神官をしていない」

「えっ」


 あんなに神官服が似合って神々しかったのに……。


「ジュリアンは幼い頃に家族全員が流行り病で死んでしまい、神の道に入る設定だったんだ。本当はな」


 そうだ、小さい頃に一人ぼっちになってしまったジュリアン。迎え入れてくれた神殿の大神官の元で育つんだ。


「医者を志してた俺が、何が起こるか知っていて見過ごすわけにはいかなかった」

「た、助けたの……?」

「ああ。過去を語る一節で『皮膚が黒くなった家族』とあったからな。ペストじゃないかと思っていた。俺は生まれた頃から記憶があったし、魔力もあったし、訓練もしてたから、早めにジュリアンの故郷に行き、げっ歯類とノミを駆除した。念のために抗菌薬を作ってジュリアンにも渡しておいたんだ」

「こうきんやく」

「ストレプトマイシンとテトラサイクリン」

「作ったんだ……」

「構造も知ってるし、正しく理解していれば作れる」


 記憶力の良さが怖い。ローランドが眼鏡を押さえ、小さい声で『それがどれだけ難しいことか』とため息交じりに言っている。よほど塁君の遺伝学特訓が厳しかったのかもしれない。


「駆除が功を奏してペストは流行しなかった。抗菌薬を渡した時、必要なかったら今後こういう症状の時に使えと説明しておいたんだ。それで結核にかかった兄にストレプトマイシン、中耳炎の妹にテトラサイクリンを使ったと聞いている」

「ご家族も元気なんだ!」

「ああ。今も祖父母に両親、兄に妹二人、全員元気に暮らしている」

「良かった! 本当に良かった!!」

「そういうわけでジュリアンは俺の幼馴染の一人でもある。今は神官じゃなくて王家の諜報員の一人だ」


 ……嘘でしょ。あの美麗なジュリアンが諜報員とか……。全身真っ黒な服とか着て、顔は布で覆ってたりするんだろうか。ゲーム内の真っ白な神官服との対比がすごい。


 いや、でも……ありかもしれない。


 頭の中で想像した諜報員のジュリアンが麗し過ぎた。


「エミリー、なんか目が輝いてるんだが」

「気のせいだよ」


 塁君が一瞬ショックを受けた顔をしたけれど、これは元プレイヤーとしての萌えだから気にしないで欲しい。


FD(ファンディスク)は買ったか?」

「買ったけど、やりきる前に……」


 死んでしまいました……。最後の方は塁君と羽音ちゃんのことを勘違いして、毎日意気消沈して過ごしてたから乙女ゲーをする気分じゃなかった。それにルイ王子推しだったから、FDで新たに解放された攻略キャラにハマれなかった。


 しかも、しかも、嫌になるくらいバッドエンドばかりで本当に嫌になったんだよね。攻略難し過ぎだよ!


「そうか。FDに出てくる攻略キャラも味方だから」

「……あの、病み系の人?」

「今は病んでない」


 王都の裏社会を仕切る犯罪集団のリーダー・ゼイン。神殿に深い恨みを持っていて、アリスが聖女として神殿に入った後で誘拐してくる。聖女なんてものは認めないと。


 何故かというと、貧民街で孤児として育ったゼインは物心ついた時から軽犯罪に手を染めていた。そうしないと生きていけなかったから。年の離れた弟が栄養失調で弱ってしまった時、貧民街に施しを与えにきた神官にゼインは縋る。だけどその神官は『幼いうちに悪行に手を染めた者への神罰だ』と言って助けてはくれなかった。


 それでもゼインは神殿まで弟を背負って行って何度も助けを求めた。『罰なら自分が受けるから弟を助けて下さい』と頭を下げて。


 だけど何度も何度も追い返されて、遂に弟は亡くなってしまう。自分ひとりで弟を弔い、段々と周りに孤児達が集まり犯罪集団が出来上がった。しかもとびきり神殿嫌いのリーダーが率いる集団だ。


 とにかくゼインの心の闇と神殿への憎しみが凄まじく、誘拐されると高確率でヒロインは殺されてしまうのだ。


 ただでさえ意気消沈していた私にはダメージが大きくて、全然攻略する気が起きなかった。


「俺はゼインのルートも攻略してたから、早めに貧民街に行って孤児達を保護する孤児院を作ったんだ。栄養失調の子供達が多かったから、タンパク質主体の半消化態栄養剤とか麦芽糖とか作って提供した結果、全員状態が回復した。だからゼインの弟も今もピンピンしてて孤児院で働く側になっている」

「栄養剤とか麦芽糖も作ったんだ……」

「抗菌薬に比べたら全然簡単に作れる」


 塁君はゲームに出てくる病気の人達を、ことごとく救っていってたんだ。あんなに無気力・無感情だったのに、ひっそり人々を助けていた。やっぱり人の命を救おうと志した人だったんだと思うと胸が温かくなる。


「ゼインは?」

「犯罪組織の(てい)で王都を仕切る集団のリーダー。王家の手足だな」

「病んでない?」

「全然病んでない」

「ヒロイン殺さない?」

「多分殺さないけど、ムカついたら殺すかも」

「えぇっ!」

「だってあいつたまに凄いムカつくから」


 塁君の言葉に四人は苦笑いしながら若干『分かる』みたいな顔をしている。今更だけどアリス、逆ハーは無理っぽいよ……。


「まぁ殺しはしないけど悪者には容赦しないヤツだ。正義感が強いな」


 あ、あのゼインが……? 正義感?? この世の悪を全て凝縮した塊のようだったあのゼインが??


 俄かには信じがたい。真逆の存在だったのに。


「そういうわけでゼインも俺の幼馴染の一人」


 まだシナリオでは出てこない隠しルートの攻略キャラ二人。私には関係ないと思っていた。その二人まで既にこちらの味方だという。


 この場の五人だけでも充分最強だと思っていたけれど、今この瞬間、本当に最強チームだと確信した。







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