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46.見えてきた希望

「エミリー、ここまで何か質問あるか?」

「あのね、今までセリーナは遺伝子の一部を焼いてたでしょ?」

「そうだな」

「何で今は遺伝子を入れるなんてことが出来るの? それは炎属性でも出来ることなの?」

「いい質問だ」


 塁君は紙に綺麗な文字で書いて説明してくれた。


「世の中の全ての生物にはDNAがあり、俺達のいた世界では動物種なら24万種以上、植物なら7万種以上、菌類は2万4千種以上のDNAバーコードが共有されている。未知のサンプルの種を決定する時に使われるんだけどな。それくらい何処の誰でも見れる状態にある。セリーナは専門分野だから植物に関してはプロだろう。目の前に植物のサンプルがあれば、そのDNAのどこに目的の遺伝子があるのか、三年も時間をかければ分かる筈。それを導入したいサンプルに組み込むのには何属性でも関係なく、正しく知っていれば魔力だけで出来る。それは俺達も何度も実験して確認した」


 紙の上にはA、G、C、Tの4種類の文字がランダムに書かれていく。


「例えばこの塩基配列は天然痘ウイルスのものなんだが」


 CTCGAGAGTATATGTTGTTGAACGTTATTGTTTGAGAAATAG


「真ん中のAとAの間に、TGCATCAGGという塩基配列を入れ込みたいとしたら、使う属性の魔法をイメージせずに、組み込むことに魔力を使う。間違いなく正しくイメージする。そうしたらこういう感じで組み込めるんだ」


 CTCGAGAGTATATGTTGTTGA'TGCATCAGG'ACGTTATTGTTTGAGAAATAG


 紙の上では出来るけど、実際にやるにはどれだけ訓練が必要なんだろう。


「エミリーにも出来る」

「ど、どうかな」

「塩基配列が読み取れれば、大体でDNA開始コドンはメチオニンのATG、停止コドンはTAA、TAG、TGAだから、どこからどこまでがタンパク質の合成に関わる塩基配列なのか分かるんだ」

「もうその時点でよく分からないんだけど……」


 私の困っている顔を見て、塁君がものすごく小さい声で『かわいっ』と言ったのが聞こえてきた。周りは聞こえないふりをしているから余計にどうしたらいいか分からない。


「とにかくどの属性でも出来るんだ。ローランドは氷属性と風属性だがどちらでも出来たし、ヴィンセントは光以外の全ての属性で出来た。だからエミリーも出来る」


 私もローランドと同じ氷属性と風属性だけど、だからといって出来る気がしない。だって間違いなく正しくイメージするのが難しい。


「そこで注目すべきは、セリーナは植物に関しては遺伝子組み換え出来ているにも拘らず、人間に対しての病気の発生方法が塩基を焼くだけというところだ」

「間違いなく正しくイメージ出来ないから……?」

「その通り」


 塁君は紙にセリーナのデフォルメされた似顔絵を描いた。バブリーメイクをしていて、皆がその絵にギョッとしている。


 その横に漫画の吹き出しのように『植物遺伝子なら塩基配列も結構分かるよ!』と書き込み、その下に『人間の塩基配列は無理~! 習ってないも~ん!』と書いている。結構うまい。


「こんな感じだな」

「そっか、植物遺伝子の研究所の室長さんだったと言っても、人間のことまで詳しくないんだ」

「農学部か理学部出身だと思うが、基本的なことは勿論習ってきている筈だ。だが遺伝子疾患の遺伝子座までは覚えてないだろうし、原因遺伝子の塩基配列なんて余計だろう」


 塁君が前に言ってくれた言葉はそういうことだったんだ。


『植物はあいつの専門やけど、人間のことやったら俺が勝つ!』


 希望が見えてきた気がする。


「普通は原因遺伝子の塩基配列など覚えてはいないものなんじゃないんですか?」


 ローランドが塁君にツッコんだ。


「おそらく想像ですが、シークエンサーというもので解読された塩基配列をコドン表で解読していくのでしょう。きっと表示されたものを見て判断するだけで、暗記してる者はそういないと思いますが」


 確かに。私は詳しく習ってもいないから分からないけど、日本だったら機械が解析結果を印刷してくれたり、画面に表示されるだろうから、それを都度見ればいいんじゃないかな。なのに塁君はよく覚えてたよね……。


「うちはかつての父も母も暗記していたから、俺も自然にそうなった」

「ご両親も普通じゃないのでは……」

「そうなのか?」


 塁君の前世のご両親の話は聞いたことがなかった。今の話だと二人ともお医者さんなのかな? いつか聞いてみたいな。小さい頃の塁君がどんな子だったのか。


「そういうわけで今後セリーナがどう動くか予想した結果をエミリーに報告した。何が起きても想定内だから怖がらなくていいからな。俺達が対処できるから」

「そうだよエミリー。セリーナ嬢はもうエミリーの妹というより、その前の人格に乗っ取られているんだ。エミリーは姉だからなどと気にしてはいけないよ」


 塁君とクリスティアン殿下が私を見て微笑んでいる。乙女ゲーム『十字架の国のアリス~王国の光~』のメインキャラの中でも人気二柱の王子二人が。


「俺達のことも頼っていいからね~!」

「そうだ、もう事情を知っている俺達はいつでもエミリー嬢の味方だ」

「私達がどれだけルイ殿下に遺伝学を厳しく叩き込まれたか。絶対に無駄にならないよう発揮するのみです」


 メインキャラ全員集合で私の味方をしてくれている。逆ハーとは違うけれど、こんな幸せなことがあるだろうか。


 逆ハーなんていらない。たった一人、愛する人は塁君だけでいい。そして他のキャラは良き理解者として全面的にサポートしてくれる。私にとっては単独ルート、逆ハールートを超えていて、あんなに怖かったセリーナが、今はただの困った人・いつか彼らに懲らしめられる人・レベルに思えてくる。


「皆、ありがとうございます……」


 ちょっとだけ目に涙が浮かんだところで塁君が『エミリーはまだ会ってないが、まだ味方がいるんだ』と言った。


 味方? 誰だろう、婚約者の令嬢達は事情を知らないだろうし、思いつかない。


「エミリー、隠しルートは攻略したか?」


 塁君が思いがけない言葉を発した。







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