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44.ルイ殿下の教えは令嬢達のときめきを呼ぶ

 お城に着くと薔薇園に案内され、私達女性陣は美味しいお菓子をたくさん出してもらった。


 最初のうちは皆まだ緊張感が抜けず、話もあまり弾まなかった。だけど途中でグレイスが『このケーキとても美味しいですわ皆さま!』と言ったのをきっかけに、お菓子の話で盛り上がり、途中からはやっぱり恋バナになった。グレイスのこういうところ、好きだなぁ。



 恋バナが盛り上がってきたところで、レジーナがもじもじしながら口を開いた。


「先日ブラッド様が『ルイ殿下に教わった』と言って『主語・述語・目的語・修飾語を大事にしようと思う』って仰ったんです。最初何のことか分からなかったのですけど、それからは『俺は心からレジーナが好きだ』って言って下さるようになったんです! 以前一度『好きだ』とだけ言って下さったことがあったんですけど、ちゃんと言われると私、恥ずかしいけど嬉しくて……!」


 皆がキャーッと頬を赤らめて、頬を押さえたり口を押さえたりしてときめいている。私は口に手を添えるのも忘れて、大きな口で『わー!』と言ってしまった。筋肉イケメンブラッドの直球な愛の告白に、つい元プレイヤーとして興奮してしまった。


 っていうか塁君に教わったっていうのが気にはなるけど……。



 次に口を開いたのはアメリアだった。レジーナの話の途中から『私も私も』という雰囲気が漂っていた。


「私もローランド様に言われましたわ。『ルイ殿下がそれで長い間エミリー嬢とすれ違いがあって、両想いを確認するまで遠回りしたらしい。私達にも気を付けるように言ってきた』って。それからはローランド様も『私はアメリアのことを大切に想っていますよ』って言って下さるんです。今までも態度で大切にして下さっているのは分かっておりましたけど、本当にきちんと言葉にされると、こんなにも心が満たされるのですね」


 またも皆がキャーッとなっている。いつも冷静な知的メガネイケメンローランドがそんな甘い台詞を吐くなんて。あぁ、とんでもないギャップ萌えだ。


 っていうか、すれ違いがあって両想いを確認するまで遠回り……。そうです、確かに私達です。



 そしてフローラも、頬に手を当てて真っ赤な顔を押さえながら話し始めた。


「ヴィンセント様も『気持ちを伝えたい時は、誰が誰をどんな風にどうなのか言えって、ルイ殿下に言われちゃった』と仰って。それまでも『俺は君が大切だ』とは仰って下さっていたのですが、ルイ殿下のおかげで『俺、ヴィンセント・レイノルズはフローラ・マクスウェルのことを心から愛してます』って改めて言われてしまって、私思わず泣いてしまいました」


 皆が『キャー! それは泣きますわー!』と言ってもらい泣きしそうになっている。私もセクシーイケメンの誠実な愛の言葉に、思わず感動して目に涙が浮かんできた。


「エミリーがルイ殿下とそんな風にすれ違いになっていたなんて、全然気付きませんでした」

「本当ですわ。いつも二人は私達の理想のカップルで、『王子様の初恋が実った』なんてお伽噺のようですもの。両想いじゃないとお互いが思っていたなんて驚きですわ」

「でも今は両想いだと確認できたのですね。良かったです」

「ルイ殿下は以前は無表情で怖かったですけど、今は毎日笑顔ですものね」

「あの冷たい感じが良かったのですけど、今のエミリーエミリーって幸せそうなルイ殿下も良いですわよね」

「分かります」


 皆がどんどん会話を進めていくけれど、何だかとっても恥ずかしい。皆の証言を合わせたら、私達がどういう状況だったか大体バレたと思う。


 そんな時、グレイスとユージェニーがお互い微笑み合う。


「今みたいな愛の言葉をクリスティアン殿下から聞けたら、卒倒してしまいそうですわね」

「本当に! はしたなく倒れて頭を打ってしまいそうですわ」


 心優しい甘々王道胸キュン王子様が、『僕は君のことを誰よりも愛しいと思っているよ』なんて言う姿を全員が瞬時に想像した。


『~~~ッッ!!!』


 皆が悶絶してときめいた。推せる! クリスティアン殿下推せます!


「私達、どちらが選ばれても悔いはないですわね」

「ええ、お互い三年間、努力しましたわ」


 牽制でも何でもなく、二人は本気でそう思っているようだった。薔薇園でクリスティアン殿下と一緒に水やりしている時も、品評会でクリスティアン殿下が二人を庇った時も、二人は等しく恋する乙女の顔だった。争奪戦に勝ちたいというような負けん気も、家門の名誉も関係なく、ちゃんとクリスティアン殿下に恋して選ばれたいだけなんだ。


 どちらにも幸せになって欲しいけれど、そうはいかない。


 そして思い出すヒロイン・アリスの存在。クリスティアン殿下ルートに行く予定だったみたいだけど、どうするんだろう。受賞しなかったから薔薇を渡しても効果は無いかもしれないし、聖女と見做されていないなら皆も意識しないだろう。


 聖女と認められてこそ、これから数々の奇跡を起こしていくというシナリオなのに、そのイベントさえも起きないのだろうか。


『ヒ・ロ・イ・ン・は・わ・た・し』


 セリーナがまさか聖女としてイベントをクリアしていくのだろうか。光魔法を使えないのに、どうやって奇跡を――――



 その時私の頭に嫌な考えが過ってしまった。


 光魔法が使えないのに治ったように見せた薔薇。


 これから起きるイベントは『農作物の病気を治す聖女』『人々の間に広まる疫病を治す聖女』。


 セリーナが農作物の病気も、人々の病気も作り出したなら。


 そして魔法を取り消して治ったように見せたなら。


 民衆はそれを神の御業だと熱狂するだろう。



 そして、まさか……先程のように、第一王子の婚約者にと国民が望むのでは。品評会レベルではなく、国益を左右するほどの『農作物の病・民の病』を治したとなれば国中が望み、王家も無視出来なくなるのでは。そしていずれは王妃に……?


 私は一気に血の気が引いた。


「エミリー? 顔色が悪いですわよ?」

「まだ品評会のことで緊張していますの?」

「大丈夫ですわ。ルイ殿下がついてますもの」


 皆が心配して声をかけてくれた直後、突然現れた塁君が私の両肩に手を置いた。


「エミリー、歓談中すまない。来てくれるか?」

「う、うん」

「顔色が悪いな。大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫! 元気!」

「いつもそう言うが心配だから俺が運ぼう」

「えぇぇ!?」


 塁君は椅子に座る私をガバッと抱えると、『ご令嬢方、俺のエミリーは連れて行く』と言ってスタスタとお城の中に入っていった。


 運ばれていく私の耳に『キャーッ!』『俺のですって!』『溺愛ですわ~』という声が聞こえてきて、青かった私の顔が赤くなってしまった。熱い。顔が熱い。


「ん? 顔色が良くなったな」

「だから元気なの……」

「それなら良かった! でも俺がエミリーを抱いてたいからこのまま運ぶな」


 執務室に到着するまでの長い長い王城の廊下で、使用人達も訪れていた貴族達も、何なら偉い人達までが通りすがりにニヤニヤ見てきて、『あぁ、あの有名なルイ殿下の婚約者の』と言ってくる。


「私って有名なの……」


 塁君に尋ねると首を傾げて『まぁ王子の婚約者だから?』というよく分かってなさそうな返事。


 だけど塁君が私を抱えたまま執務室に入ると、全員が一斉に紅茶を噴き出した。


「あははは、ここ城ですよ? あはははは」

「学園ならまだ分かりますが、ここにはお偉方も大勢いるんですからね」

「でも王国中がルイ殿下だからなぁって思ってますよ、多分」


 ルイ殿下だからなぁってどういうこと。


「エミリー、ルイはエミリーと婚約してから人が変わったように魔法以外も手を抜かなくなったんだ。それは優秀で、王子の肩書無しでも国中の学者達、魔術師団、騎士団が数百年に一人の逸材だと言っている程なんだ。それぞれが学園卒業後にルイの貢献を期待しているんだけど、ルイはどれもさほど興味がなくてね。父に将来何を望むか聞かれた時にも『エミリーと幸せになる』って答えて父を大笑いさせたんだよ。父も『いやぁエミリー嬢は本当にすごい』って感心しているしね。その話がじわじわと城中に広まっていって、市井にも広まったようでね。国中でルイがエミリーを溺愛してて、国の未来はエミリー次第ってすっかり有名なんだ」


「う、うわーー!!」

「エ、エミリー? しっかりしろ!」

「叫びたくなる気持ちも分かりますよ」


 私は恥ずかしさのあまり、またしても令嬢らしからぬ雄叫びをあげてしまった。







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