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41.王家主催・薔薇品評会

 今日は遂に薔薇の品評会が開催される。


 学園からは一般クラスのアリスを含めた五名、特別クラスからは攻略対象者と婚約者全員の薔薇が出品されている。私の薔薇も出品されるけれど、シナリオではアリスが賞を獲るから期待はしていない。


 塁君は品評会が終わったら私の薔薇を王城の薔薇園に植栽してくれると言うけれど、賞も獲ってないのに申し訳ないので辞退した。塁君は『じゃあ俺の部屋に置く』と言って譲らない。『だから毎日水やりしに来て』と言ってワンコのように可愛い笑顔で笑っていた。毎日はちょっと難しいから、行ける時だけ行って、行けない時は塁君にお願いすることにしよう。



 会場に入るとそれはそれは大規模で、会場も何ヵ所にも分かれていた。その全てに美しい薔薇の鉢がズラッと百鉢以上並んでいる。色も大きさも花びらの枚数も様々で、私好みのほんのりピンクの八重咲きの薔薇があんまり可愛くてときめいてしまう。何より会場中が薔薇の香りで満たされていて、何とも優雅で豊かなひと時だ。


 それでも心の半分以上はセリーナへの不安と警戒が占めている。会場に着いた時から周りの人をさり気なくチェックした。会場内でもぐるりと周囲を何度も見渡したが神殿関係者はいない。私は取り越し苦労だったのではと少し安心し始めていた。


 学園から出品された薔薇が並んでいる一画に行くと、そこにはアリスの育てた薔薇があった。さすがヒロインパワー。輝くような黄色の大輪の薔薇は、まるで黄金の太陽のようで本当に見事だった。


「わぁ綺麗! さすがだね!」

「ゲーム通りの薔薇が出てきたな」


 確かにスチルで見た通りの薔薇だった。賞を獲った後、アリスがこの薔薇を攻略対象者に捧げると、相手が誰であっても好感度が一気に上がるのだ。


 イベント達成後に現れるアイテムの一つだから、アリスもきっと一生懸命育てたのだろう。頑張るって言ってたもんね。


 ただ、薔薇は一本だけだから逆ハーで全員に渡す訳にはいかない。逆ハーなら特に好感度が低い誰かに起死回生の一発として捧げるのが定石だ。単独ルートなら誰であっても一気に好感度アップを決められて後半が楽になる。


「うふ、むふふ、ぷふふふ。私の薔薇、すごいでしょう?」


 アリスが笑いが止まらない様子で後ろから声をかけてきた。


「久しぶりだね。うん、本当に綺麗に咲いてる!」

「うふふ、ぬふふ、これでヒロイン復活だから」


 アリスはヒロインにあるまじきニタァッとした笑顔で目をギラギラ輝かせている。


「笑い方気色悪いぞ」


 またしても塁君が容赦なくツッコんだ。私だってちょっと思ったけど言わなかったのに。


「本当にルイ殿下はいつもうるさいよ!」

「まぁまぁ、これで受賞したら遂にアイテム獲得だもんね」

「ぐふふ、そうなの!」

「相手は一人だけど、誰に渡すの?」

「えへ、えへへ、クリスティアン殿下♡」

「わぁ、そうなんだ!」


 意外だった。アリスなら何とか塁君以外の全員に花びら一枚ずつでも渡すくらいのことをするかと思ったのに、ちゃんと一人に絞ってきただけで成長を感じる。


「だって婚約者がいないのもクリスティアン殿下だけだし、出会いイベント成立したのもクリスティアン殿下だけだし、私に冷たくないのもクリスティアン殿下だけだもん! それに未来の王妃になるわけじゃない?」

「打算か」

「何とでも言うがいい! 私が義姉になったら後悔するからね!」

「あっそ」


 塁君はめんどくさそうに吐き捨てた。


 その次の瞬間、隣の会場から大きな歓声が沸き起こった。『こんな色は見たことがない』『神の御業だ』『長年の園芸家の夢がここにある』等と大絶賛の声が耳に届く。


「な、なにが起こってるの? 私の薔薇はこっちなのに?」


 アリスが不安そうに隣の会場へフラフラと歩いていく。


「エミリーは行くな」

「う、うん」


 塁君の言葉を聞いて、私は何か警戒するようなことが起こっているのかと身を竦ませた。警戒するようなこと、それは高確率でセリーナなのではと心臓が早鐘を打つ。


 ローランド、ヴィンセント、ブラッドが婚約者を連れて塁君の元に集まってきた。クリスティアン殿下もグレイスとユージェニーを連れて別の会場から移動してきた。


 男性陣は一ヵ所に私達女性陣を集め、それぞれが保護魔法を何重にもかけている。


「隣に青い薔薇が運ばれてきました」


 ローランドが塁君に耳打ちした。


「なるほど、思った通り動いたな。神殿からだろう」

「はい、仰っていた通りです」


 神殿から青い薔薇が出品された? それは、セリーナの薔薇なのだろうか。


「な、何が起こってるのでしょう?」

「ここから動かないよう言われたのですけど、何だか怖いです」

「いっそ会場からもう出た方がいいのかしら」


 婚約者達は不安気に顔を見合わせ、怯えて顔色が青白くなっている。


「皆このまま此処にいてね。今此処は僕達五人の保護魔法がかかっていて一番安全だから」


 クリスティアン殿下が私達を安心させるように微笑んで、背中に庇うように隠してくれた。



 隣の会場では拍手喝采が飛び交い、品評会の審査員達が嬉々として集まっていくのが見える。観客達も次々と隣の会場へ向かって行くため、此処も含めて他の会場は閑散としていく。


 あの会場の向こうに、人混みの向こうに、私の妹がいるのかもしれない――――





 ◇◇◇





 ヒロイン・アリスはフラフラと隣の会場へ足を踏み入れた。自分の薔薇を褒め称える筈の観客も、自分の薔薇の素晴らしさを高く評価してくれる筈の審査員達も、誰も自分の元に来ない。


「な、なんでなの?」


 今回は自分で無理やり作ろうとしたイベントじゃない。シナリオ通りに時期を待って、シナリオ通りに受賞出来るだけの薔薇も育てて見せた。挨拶での好感度上げ同様、作業ゲー要素を含んだ薔薇の世話をコツコツ毎日続けた。見事にスチル通りの薔薇を咲かせたアリスは、確固たる自信を持って今日この日を迎えた。


 それなのに、目の前にはゲームで背景にさえ描かれなかった美しい青い薔薇。


「こんなにお若い神官のお嬢さんが、世界中の薔薇農家と園芸家が何百年も成し得なかった奇跡を起こすとは!」

「染色でもないのにこれほど青の強い薔薇は初めて見ましたよ!」

「今までは交配でやっと薄い紫が出るくらいだった。見事としか言いようがない」

「なんて気品のある薔薇なんでしょう。溜息が出ます」

「これはまさに王城の薔薇園に相応しいではないですか」


 審査員達の会話を聞いただけで、選ばれるのは自分の薔薇ではないと分かる。茫然としていると前からフード付きの白いローブを着た小柄な人物が声をかけてきた。


「残念でしたわね」

「!?」


 フードを深く被っていて顔は見えない。声で少女だということが分かるだけ。


「シナリオは変わったのよ。ヒロインは私」


 アリスはその言葉に頭が真っ白になって、一言も言い返すことも出来ず立ち尽くした。







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