33.嬉しすぎる!!
俺はえみりに渡されたセリーナからの手紙を何遍も読み返した。
『お姉様、ご機嫌よう。
お気づきかもしれませんが私は転生者です。
伝えておいた方がよろしいかと思ったので手紙を書きました。
お姉様の婚約者のルイ殿下は来栖塁ですね。
私は前世の彼を知っています。
彼は大切な女性を守るために自分の身を挺して亡くなりました。
彼は知らないまま亡くなったと思いますが、その彼女も亡くなっています。
当時色々と騒がれていたので知ったのです。
その相手の彼女もこちらの世界に転生しているかもしれませんね。
セリーナ』
いやいや、俺もおどれを知ってんで。
八取芹那。通称バブリー。匂わせイ〇スタおばはん。
今世で俺より五歳年下やから、俺が死んだ後五年は生きとったんやな。えみりの遺伝子焼こうとした件、バレてへん思てんな。あほが。
『彼は知らないまま亡くなったと思いますが』て。確かに知らんまま死んだけど四歳で知ったわ。何を今さら勿体ぶって言うてんねん。分かっとるくせに。
『相手の彼女も転生してるかもしれませんね』て。なんやねん今さら。
なんかこの書き方やと誤解されそうやないか。いや、敢えて誤解させよう思うてんな。この手紙の彼女本人にこないな書き方すんのがわざとらしい。
あいつのことやからろくでもない思惑はあるやろな。匂わせ得意やもんな~。二人分の朝食イ〇スタにあげたあいつに、『誰とですかー?』『彼氏とですかー? 羨ましい!』とか書き込まなあかん部下達の苦労が偲ばれるわ。ほんまは金も払っとらんからな。
まぁ、えみりは死んだ時のことは知らんかったからショック受けたやろな。せやからここしばらく様子がおかしかったんや。
好きでもなかった男が自分のために死んだなんて重いわな。分かるわ。
前世でえみりには好きな男もおったみたいやし。あの店のバイト君が言うとったもんな。
『お兄さんイケメンだから、うちの店の子達もいつもソワソワしてますよー!』
『いや、そんなことない』
『またまたー! 彼女さんとか居るんですか?』
『いない』
『マジすか! 皆喜んじゃいそうw』
『バイト君は彼女は?』
『いないんすよ。でも最近、調理担当のえみりんが可愛いなと思ってて。好きな相手がいそうなんすけど、ダメもとで告ってみたらいいすかね?』
『(マジで……?)……どうかな』
なんで俺の口数が少ないか、言うたら最初にクロックムッシュ買い取る言うた時に、目立ちたくなくて東京弁で喋ってもうたからや。
あないな時、関西弁は悪目立ちするて分かっとんねん。自覚はあんねん。
それでついあん時、俺は敵性言語を使てもうた……。
おかげでその後全然喋られへんかってん……。大阪人は『東京弁で喋ろうや』なっても五分ももたんねん。
『なんて子?』
『えみりん、あ、羽鳥えみりって子なんですけど、写真これ』
俺はさりげなくあの子の名前をチェックした。『えみ』なのか、『えみり』なのか分からんかったから。まさかフルネームが分かるとは。個人情報ガバガバやなバイト君。
バイト君は同期で集まって撮った写真を見してくれた。あー、ちゃんと見るとほんまに可愛いなぁ。
『俺いってみようかな。お兄さんに言ったら勇気出てきたw』
『(なんでやねん!) ……頑張って』
好きなヤツがおんのかー。そうかー。バイト君も狙ってんのかー。まぁ可愛いしええ子やもんな。
別に告白しようとか、どうこうしようなんてそん時の俺は思てもなかったし、クロックムッシュが旨いから毎週通い続けた。
せやけどクロックムッシュのメッセージが段々俺だけに向けとる分かって、それがいっつも可愛かったから、別れたんかなーとか、俺も押したらいけるんかなーとか色々思うててん。
『前世でも今世でも彼氏はいたことない』聞いたときの、『もっとはよ声かけとったら良かったー!』ていう後悔は忘れへん。せやから今回の人生では何遍も何遍も真っすぐ愛情伝えんねん。
あの日のIDが書いてあったメッセージカードもえみりからや思うてしもた。
その日はクロックムッシュのメッセージが急に当たり障りないもんになって、『なんでや』思うとった。毎週かなり楽しみにしとったから。ほんなら皿の脇にカードがあったんや。
夜めちゃめちゃ緊張して連絡したのに知らん女で、『誰や自分』状態やった。何でクロックムッシュの横にカード忍ばせんねん。普通作った子からや思うやんけ。便乗商法やないか。
間違ってその店員に連絡した次の週にはメッセージが『GOOD MORNING』に戻ってもうて、それを見た時の俺の胸痛・動悸・呼吸困難の胸部症状。
やってもうた思たけど、どうにも出来ひん。話したこともあらへんのに。
仕舞いにえみりは店におらへんようなった。クロックムッシュの味が変わってすぐ分かった。どんだけ悔やんだか分からへん。
今世で出会えて、俺の婚約者になってもろて、『ゆっくりでええから俺のこと好きになって欲しい』言うたのも本心や。最近避けられとった気ぃしとったし、もっと頑張らな思うてたとこや。
それやのに。
『アリスに塁君は渡さないって言っちゃった』
ああああああ、あかん!! たまらん!!!
どないしよ。胸痛・動悸・呼吸困難がまた俺を襲う。せやけどちゃうねん。前の時とは。幸せの胸部症状や。あかん。苦しい。幸せやー!
遂にえみりから愛情を言葉で返してもろた! 嬉しすぎる!!
「クリスティアン殿下、あの人エミリー嬢のとこから帰ってきてからずっとああなんですけど、ちょっと声かけてみてくれません?」
「うん。僕もさっきからずっとどうしようかと思ってるんだけど、もう少し見ていたい気もする」
「報告書をまだ全部お見せ出来てないんですから、早くまともな状態に戻ってもらいたいものです」
ヴィンセント、兄さん、ローランドが、城へ戻ってくるなり執務室のソファで百面相しとった俺を見て何か言うとる。
そうやった。皆おったんやった。はずい……。
咳払いして平静を装うて三人のところへ戻った。
「ニヤけてるの隠せてませんからね」
「……ニヤけてない」
「何か良いことがあったんだね。ルイ、良かったね!」
「……良かった」
「はいはい、こちらご覧になって下さいね。これが国内で発生してる病気と症状の一覧ですよ」
俺はローランドの報告が始まってからは頭切り替えて集中した。
それでアリスが俺の一人だけ知っとるアリスやっていうのも、気になりはしたけど一旦頭の片隅に除けた。
俺の知っとるアリス言うても、たいして俺に興味も無いやろ思たから。セリーナの手紙に関しては誤解のないよう明日の朝話そ。
その日はえみりの言葉を思い出して、俺はあほみたいに浮かれて眠りについた。




