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32.モテたい vs 渡さない

「は、羽音ちゃんなの……?」

「そう! やっぱりえみりちゃんだ! 嬉しい! 転生してから周りに転生者いなかったから!」


 私の両手を握り、ものすごく顔を近付けてアリスは喋りだした。


「ルイ王子って塁君でしょ!? ビックリ!」


 いきなり核心を突いてきた。


「入学式の時にユージェニーじゃない子とベタベタしてるから、もう何事かと思ったらえみりちゃんだったんだね! ほんっとビックリしたぁ!」


「羽音ちゃん……あの、ひょっとして逆ハールート狙ってる?」

「狙ってるなんて人聞きが悪いなー」

「あ、ごめん。逆ハールートを目標にしてる?」

「当然じゃん!」

「え、なんで……?」

「なんでって、そりゃあモテモテ人生のチャンスがあるんだから当然トライするでしょ! 転生して記憶が戻ってからずっとずっと狙ってたんだから!」

「狙ってるって自分で言ってるけど……」

「あ、ヤバ! アハハ!」


 あっけらかんと『モテモテ人生』を目指してると言う目の前の羽音ちゃんに少し苛立ちを感じてしまう。


「塁君のことは?」

「塁君にはビックリだよねー。まさか庇って一緒に死んじゃうほど好きだったなんて知らなかったからさ。なんか悪いことしちゃったな」


 な、な、なんだと!? 不安な気持ちも弱気な気持ちも何処かへ吹っ飛んでしまった。怒りの炎がプスプスと燻りだす。


 前途有望だった塁君は、羽音ちゃんを守るために身を挺して亡くなった。将来も努力も何もかも投げ出した塁君の気持ちを思うと涙が出そうになる。それを知ってるのに、ビックリとか、悪いことしちゃったとか、あげくモテモテ目指して塁君以外も攻略するとか、酷いよ!!


 それならせめて塁君単独ルートで私だけに『転生してやっと再会出来た運命の恋人同士なんだから邪魔しないで!』とか正々堂々言われた方がましだよ!!


 私は思わず前世でも今世でも言ったことのない言葉を吐いてしまった。


「塁君は渡さない」


「え? そりゃあ今はえみりちゃんの婚約者なんだろうけど、私が声かけてあっちが私を好きになるなら仕方ないっていうか。私ヒロインだしさ。そういうゲームじゃん?」

「ゲームじゃないよ。皆生きてて傷つくし不安になるし泣いたりだってするんだよ」

「や、やだなぁ。意地悪したいわけじゃないよぉ。ゲーム通りに進めていきたいだけだってば」


 駄目だ。羽音ちゃんにとってメインキャラ達は昨日会ったばかりの人達で、未だにゲームの中のキャラなんだ。たとえ塁君がそのうちの一人だとしても。


「私、塁君が攻略されないように頑張る」

「えみりちゃん、協力してとは言わないよ。それはそうだと思う。でも私はゲームの知識活かして攻略してくからね」

「分かった。私達はそうならないよう努力する」

「私達?」

「チーム・悪役令嬢」

「やだ、何それ」

「皆いい子達なの。好きな彼と幸せにしてたのに、今不安で心細い気持ちでいるの。全然悪役なんかじゃない、ただの恋する女の子達なの」


 私は目に涙が溜まってきた。悲しいんじゃない。なんか胸がいっぱいなんだ。


 前世の自分の想いも、今の皆の想いも、何もかもが私の胸を苦しくさせて涙が出る。


「わっ、えみりちゃん、ごめん! いきなりビックリさせちゃったよね。ほんとに意地悪したいわけじゃないからね! ヒロインの役割を全うするだけだし、公式に逆ハールートがあるんだから、私が悪いわけじゃないから悪く思わないで!」


 泣きそうな私を見て駆け寄ってきたリリーがアリスに帰るよう促してくれた。


「えみりちゃん、また明日ね!」


 その言葉に私は返事をしなかった。





 ◇◇◇





「エミリーお嬢様。ルイ殿下が馬を駆って来て下さいましたよ!」


 羽音ちゃんの件を心配したリリーが王城に急ぎの使いを出していたらしい。私が帰宅する前にアリスをサロンに通してしまったことに責任を感じているんだろう。


 でもいい機会だったと思ってる。怖がってばかりじゃ始まらなかった。今は不思議と落ち着いていて、ある意味覚悟ができた。


「エミリー、知らせを聞いて飛んできた」


 リリーは塁君を私の部屋へ通すと扉を閉めて人払いをしてくれた。


「アリス来たんやって? 大丈夫やった?」

「うん、大丈夫」

「兄さん達と揉めとる時もえみりの名前に反応しとったけど、前世の知り合いなん?」

「うん」


 私は一ヵ月以上ポケットに入れたままのセリーナからの手紙を塁君に渡した。もうヨレヨレになってしまったけど、遂に渡せた。


「なんなん?」

「見て」


 塁君は妙に落ち着いた私を訝しそうにしながら手紙を開いた。そしてその文面を見た瞬間、塁君の表情は抜け落ちた。


「これ……」

「本当はね、二ヵ月前に窓の外にあったの。言わなきゃと思ったけど、言えなかった。ごめんなさい」

「いや……」

「アリスは塁君も知ってる人だった」

「え?」

「前世でアリスって名前の知り合い一人いるって言ってたでしょ? その人だよ」

「え?」

「ごめんね、塁君。私、アリスに塁君は渡さないって言っちゃった」

「えっ!?」

「どうしても嫌だったから。塁君の気持ちも考えずにごめんね」

「え? いや、えっ!!?」


 塁君は手紙を見た瞬間無表情になったのに、今はなんだか酷く困惑していた。


 顔色が白くなったと思ったら今は赤くなっていて訳が分からない。


「また明日ね! 今日は来てくれてありがとう! 塁君もしたいようにしていいからね!」


 私は塁君に出来るだけ心配かけないよう、思い切りにっこり笑って見送った。


 塁君は馬に乗っても混乱気味だったけど、きっと突然のことで気持ちの整理がつかないんだよね。命を懸けるほど大切な彼女が転生して目の前に現れたんだもん。しかも目の前で逆ハールート狙ってるんだもんね。塁君も胸が苦しいのかな。好きな人が違う人の元に行く辛さ。苦しいよね。知ってる。


 でも、この世界で婚約者になってもうすぐ三年。私達だけで過ごした日々がある。私だって塁君が大好きだし、絆があると思ってる。塁君が傷ついても私がいるからね。だから攻略されないで。


 私は明日からの逆ハールート阻止に向けて、不退転の決意を固めた。







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