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24.あかん

 久しぶりに見た前世の夢。思い出すとあの時の片思いの痛みが蘇る。ここ何年か、塁君のおかげで見ていなかった夢。


 死ぬ直前まで見たのは初めてだ。死んだ時のことは全然覚えてないから今ちょっとドキドキしてる。きっと私は電車に轢かれたってことだよね。落ちる時の浮遊感は何となく覚えている。でもそれだけ。意識が無くて本当に良かった。


 ヒロインの出現を恐れるあまり見た夢だと分かっている。またあの時のように、あっさりと塁君は羽音ちゃんの元に行ってしまうんじゃないかと不安でいっぱいだ。


 塁君は優しいから、もしアリスが羽音ちゃんだとしても、婚約者の私に悪い影響が無いようにしてくれるだろう。例えば私の不利にならないよう塁君の引責で婚約解消したり、誰か他の好条件の高位貴族令息を紹介してくれたり。


 だけどそんなの望んでない。塁君だけでいい。婚約解消になるならもう一生独身でいい。


 最悪のパターンを想定することで、いざとなった時に自分の心を守ろうとする防御本能が災いしている。最悪のパターンを考えてしまった時点で精神的ストレスでHP1だ。もう瀕死状態。今なら蚊に刺されただけで死ぬかもしれない。



 私はHP1で悶々としたまま、数日後に迫る入学式を恐れる日々を過ごしていた。





 ◇◇◇





 最近えみりの元気が無い。入学式が近いから不安や言うてたけど、俺がどんだけ安心させようとしても無理に笑てて胸が痛い。どないしたんやろ。


 思うに兄さんと白薔薇の庭園で話しとった時からやと思う。あん時えみりは泣いとった。何で四歳の茶会の話で泣いて理由が入学式やねん。関係あらへんやないか。


 あれからずっと様子がおかしい。もう兄さんに何か原因があるとしか思われへん。



「兄さん、エミリーに四歳の茶会の話をした時、何を言った?」

「参加拒否してたルイが、名簿でエミリーの名前を見つけた途端参加するって言いだしたこと」

「他には?」

「ルイが他の子供には目もくれずエミリーを探し回ってたこと。他人と話すのが苦手だったルイが色んな大人に『ハートリー侯爵は何処ですか』って自分から声をかけてたこと」

「うんうん、恥ずかしいな。他には?」


 ここまではローランドとヴィンセントがバラした内容と変わらん。


「二人になった時にルイが『エミリー嬢』と言おうとして噛んで『えみりちゃん』って言って真っ赤になってたこと」

「な、何故それを知っている……!」

「あはは、ルイの様子がいつもと違うから気になって後を追ったんだよ」


 噛んだんちゃう! 日本語で『えみりちゃん』って呼んだんや。


「あとは『俺は火曜日の』とか『いつも君のクロックムッシュを』って言っていたこと」

「……えっ!!?」


 あかん!


「当時はクロックムッシュが何なのか分からなかったけど、この間ルイがエミリーに作ってもらったと城で食べていただろう? 『思い出の料理だ』ってルイが大事そうに食べていたって伝えたよ」


 あかんてー!


「四歳のエミリーが不思議そうに首を傾げたから、ルイが『ごめん、なんでもない』と引き返してきて、また無気力・無感情に拍車がかかってしまったってこと。でも二年前の茶会でエミリーとルイがうまくいって本当に嬉しいってこと。エミリーにありがとうと礼を言った。以上だね」

「……そ、そうか」


 ……あぁ、はよ自分で言うたら良かった。


 えみりは知ってもうた。俺が火曜日のクロックムッシュしか頼まん客やってこと。




 多分あの店員がID渡してきたことも、俺が連絡したことも、店でのこと全部思い出したってことや。


 あかん。由々しき事態や。俺は多分軽い男やと思われとる。


 せやけど何でそれで泣くんやろ? はっ! 幻滅して将来が不安になったとか? う、うわ……。俺みたいな軽薄な男は嫌やって婚約解消したなったとか? うわ……マジか。考えただけでしんどい……。



「ルイ、大丈夫か?」

「分からない……。予想以上に困った事態になっている……」

「え! 僕のせいかな」

「いや、俺がいつまでもモタモタしてたのが悪い」

「何のことかさっぱり分からないけど、何でも遅すぎることはないよ。今からでもよく二人で話をするべきだ。二人は僕の理想の婚約者同士なんだからね」


 兄さんはキラッキラで笑てるけど俺は今は全然笑えへん……。何から話せばええねん。何言うても言い訳ばかりのヘタレにしか見えへんのちゃうか。せやけど何も言わな何も変われへん。


「ルイ、今からでもエミリーのところへ行っておいで。案ずるより産むがやすしだよ」

「そっ、そうだな。そうしてみる!」

「頑張れ」




 急いでハートリー家に来たはええけど、えみりは俺と目ぇ合わさへん。前世の話をしようと意を決して話しかけても、席立ったり別の話し出してタイミングを逃す。あかん、前世の話題、明らかに避けられとる。


「あ、あのな、えみり。兄さんから……」

「あっ! この間クリスティアン殿下にお借りしたハンカチを洗ってあるんだ! 今持ってくるね!」


 出て行ってもうた。あかん、兄さん言うただけで反応するわ。


 間違いなく兄さんの話が原因やって証拠やないか。どないしよ。もう俺は軽うて遊んどって知り合うたばっかりの女に連絡入れる奴や思われとんねん。


 あ、せやから入学式が不安なんか? 軽い俺ならヒロインにあっさり攻略されるんちゃうかって?


 あかん。マジでへこむ。



 ………………ちゃうねん! ほんまに俺ヒロイン好きになったりせぇへんねん!


 声を大にして言いたい。




 あー俺が悪い。


 俺があほやねん。


 他の女に連絡してもうたのはほんまや。あほやった。



 せやけど、俺はあの店に初めて行った時にはもう、えみりが好きやった。


 えみりが俺のこと知らん時から、もうとっくに俺はえみりが好きやったんや。







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