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2.ティーパーティーは女の闘い

「エミリー、お前に王家主催の茶会の招待状が届いている」


 私の父、テレンス・ハートリー侯爵は王家の金色の封蝋が押された封筒を私に差し出してきた。


「王家からの招待だから欠席は許されない。実質、これは王子達の婚約者選びの会だ。心して参加しなさい」

「お父様、期待なさらないで下さいね」


 結果は分かっているが一応慰めのために言っておく。



 我が家は侯爵家ではあるが、同年代に高位貴族令嬢が多い。今回も王子二人に対し、呼ばれた令嬢の人数は十数人と思われる。


 だから選ばれない人数の方が圧倒的に多い。


 父は何だか真剣な表情をしているが本当に期待しないで欲しい。




「お父様、私には招待状は?」


 妹のセリーナが拗ねたように頬を膨らませて父に迫る。


「残念ながらセリーナの分は来てないな。王子達の年齢の上は一歳差、下は二歳差くらいでお考えなのだろう」

「大人になったら五歳差なんて無いようなものですわ!」


 まだ八歳のセリーナは私よりよほどませている。


 常日頃からおかしな料理を作ってばかりいる私のことを、女として下に見ているのがヒシヒシと伝わってくる。


「お姉様じゃ相手にされないだろうけど私ならきっと選ばれるのに!」


 全能感がすごい。羨ましい。



「多分公爵家のお二人だと思うわよ」


 私はフルーツを食べ終えてセリーナに告げた。



「それが妥当なところよねぇ」


 母も小さくカットされた苺を食べながら納得している。



「出会ってしまえばきっと私を見て下さるのに!」


 セリーナはまだ不満のようだが残念ながらセリーナも選ばれない。



 ゲームでは第一王子の婚約者はグレイス・エインズワース公爵令嬢、第二王子の婚約者はユージェニー・ハウエルズ公爵令嬢だった。


 画面で見る二人は気高く美しく堂々たる風格だった。そして最高に意地悪だった。




 だけど私は思う。


 何年も妃候補として厳しい教育に耐えてきて、同じ学園に通って周りからも婚約者だと注目されて、さあ支えていこう、って時に横から搔っ攫われたら腹も立つよね。


『そんなつもりは無かった』『学友として接していただけ』『なのに彼がいつのまにか私を……!』なんて、自分は悪くないけど愛されてしまってごめんなさいみたいな微妙な状況。そのじわりじわりと落としていく感じ。婚約者に最高に失礼だ。


 堂々と『好きだから頑張ったら両想いになったんだ! 悪いか!』と言われた方がまだマシかもしれない。


 まぁ『人の婚約者に手出したら悪いに決まってんだろ!』って返されるとは思うんだけど。



 前世では片思いの相手がバイト仲間とうまくいってしまっただけで私は心が折れた。自分は何も行動できなかったにも関わらず。ちゃんと行動して好きな相手をつかまえた友達に嫉妬する権利も無いのに。彼氏でもなんでもない相手なのに。


 だから悪役令嬢が愛する婚約者を奪われる時の心の痛みを思う時、私はあの痛みを思い出す。


 『そんな男には見切りを付けて熨斗付けてくれてやればいいのに』って意見もあるのは分かる。


 でも好きだから。


『いかないで』って縋ってしまうんだ。


 婚約者として結婚まで見据えていた相手なんだから、夢見た二人の未来だってあった筈。それを突然無い事になんて出来ない。頑張ったらまた元に戻れるんじゃないかって、空回りしてしまうんだ。


 私はモブだから関係ないんだけど、そんな風に彼女達の胸の痛みに共感してしまう。もし悪役令嬢に転生していたら、私はきっと耐えられない。



 お茶会で初めて出会う彼女達と関わる気はないけれど、数年後に起こるであろう彼女達の婚約破棄に想いを馳せながら、私は出席の返事を出した。





 ◇◇◇





 ティーパーティ当日、王城の広大な薔薇園は見事な薔薇が咲き誇り、それはそれは素晴らしい光景だった。


 赤、ピンク、白、黄色、オレンジ、複色、あらゆる品種の薔薇が最適なタイミングで花開いている。庭師さん達の腕が凄い。


 それぞれの色ごとに庭園が造られ、ティーパーティはピンク色の薔薇のガーデンで行われた。ピンクは色合いも濃さも様々だからとても可愛く美しい。私達世代のご令嬢達が好みそうだ。


 この場所を選ぶあたり王家も本気なのだろう。


 招待されたご令嬢達も明らかに勝負に来ているのが分かる。中でもやはり群を抜いてオーラがあるのがグレイス嬢とユージェニー嬢だった。


『近付かない近付かない……』私は何度も反芻しながら空気となるべく距離をとった。




 植え込みと一体化している私から少し離れた場所で、ご令嬢達は数人ずつグループになって談笑している。数えると私を入れて十五名が招待されたようだが、皆さんの会話内容が怖い。


『今回の招待状の香りが〇〇店の△△というフレグランスでしたわね。我が家と同じだからきっと趣味が合うと思いますの』


 匂い嗅いだんだ。



『以前王城のセレモニーでお見かけした時に私の方を見て微笑まれましたのよ。今日は特別な贈り物を差し上げようと持参致しましたわ。私の瞳とお揃いの色石を使ってますのよ』


 それ婚約者同士でやるやつ。



『あらひょっとして貴女のお父様みたいに趣味の悪いカフリンクスですの? お止めになった方がよろしいのではなくて? 恥をかきますわよ』


 さらりと親までディスった。怖い。



『第一王子殿下も第二王子殿下も美しい銀髪ですから、お隣には濃い色は不似合いだと思いませんこと?』


 隣にいる濃い赤毛の令嬢と黒髪の令嬢に向けて言っている。言ってる令嬢はプラチナブロンド。自分は王子に似合うけどってことだよね? 怖い怖い!



 表面上はオホホウフフと仲良さげに話しているが腹の中はドロッドロだ。


『私は芝生……私は木の芽……』心を落ち着けて時間が過ぎるのを待つ。


 幸い誰にも話しかけられることもなくぼっちを極めた。





「第一王子クリスティアン殿下と第二王子ルイ殿下がお入りになります。皆様お席の前で礼をとってお迎え下さい」


 侍従長のその声に皆が熾烈な座席の争奪戦を繰り広げる。当然上座に座る王子達の周りに狙いを定めて走る走る。令嬢って走っていいんだっけ?


 私はのらりくらりと一番離れた角の席を選んだ。







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