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196.十八年ぶりの再会

 見慣れた間取り。見慣れた家具。真新しいカーテンやベッドカバー。でも全部お母さんの好きな若草色。


 もうそれだけで胸がいっぱいで泣きたくなってくる。



『あらぁ、えみり? 会いに来てくれたのかい?』

『!!』


 声をかけるより先にお母さんが呼びかけてくれた。懐かしい優しい声。今の私は金髪に緑の瞳なのに、直ぐに気付く親の愛に胸が詰まる。


『うぅ、うぐぅ……』

『あらあら、生まれ変わっても泣き虫のままでしょや。それにしても金髪も案外似合ってるんでないの。目の色も綺麗ね。私の好きな色だわ。めんこいめんこい』

『うぅぅ、おっ、おかあさぁ~ん!』

『ほらもう大人なのに泣かないの。ジーン君がよく来てくれるから、えみりが生まれ変わって幸せにしてるのはお父さんもお母さんも知ってたのさ』


 抱きつきたいけど今の私は意識だけで実体じゃない。手を伸ばしても、その手はスカッと宙を斬るだけ。


『来栖さんとこの塁君と結婚したんでしょ? おめでとう、えみり。お母さんもえみりのウェディングドレス姿見たかったぁ。あ、でも今の姿もドレスなのね。いや~素敵ねぇ~』

『こ、今度、ウェディングドレス着て来る。ベールも、靴も、全部私の希望通りに、る、塁君が、作ってくれて。うぅううぇぇ』

『塁君王子様なんだって? 似合いそうね~!』


 キャッキャしてるお母さんに、私もつられてふふっと笑いがこみ上げる。いつもこうやって明るく家族を照らしてくれて、家を明るい雰囲気にしてくれた。朗らかで、いつも笑顔で、共働きで疲れていても、いつも私の学校行事には参加してくれたお母さん。私の作ったご飯を美味しい美味しい天才だとおかわりしてくれた。朝起こしに来ると、声をかける前に必ず私の頭を撫でてくれた。東京の大学に進学する時も、心配して反対するお父さんを説得して応援してくれた。


 ずっとずっと感謝してた。


『お母さん、ありがとう。何もかも。ずっと言いたかった。うぅ、急に死んじゃって、ご、ごめんね。い、いつでも言えると思って、言えないままだった。ずっと大好きだからねぇ。うぅぅ〜。生まれ変わって十八年経ったけど、忘れたことなんかない。お母さんが教えてくれた、うぅ、お料理も、作ったりしてるんだよ? 煮物も、塁君美味しいって、言ってくれたんだ。お、大阪ではね、タイタンって言うらしいよ』

『タイタン? ほんとに?』

『うっ、うっ、多分』


 その後もお母さんの目が覚めるまで、四代目小鉄の話、塁君のご両親との野球観戦話、お父さんが料理をするようになって結構上手だっていう話、全国のニュースやネット記事を見た人達から、今もお悔やみの手紙を頂く話をした。



 そしてまた必ず来ることを約束して元の世界へ戻った時。



「ネオのおかんは理解あんなぁ」

「結婚相手が男性で、お互い魔法で女性にもなれるって言ったら『便利な世界だねぇ』って。『世界』の発音がちょっと『せきゃー』に近いのが本当に懐かしくて」

「名古屋はちょいちょい凄いのぶっこんできよるな。ネオも鉛筆トキントキンとか言うてたしな」

「鉛筆はトキントキンだよ。トッキトキとか」

「ピンピンやろ」


 ネオ君は私より先に戻ってきていて、塁君と二人で名古屋の方言の話をしている最中だった。


「シャキンじゃないの?」

「えみりおかえり。えみりが言うならこの瞬間からシャキンに決まりや」

「えみりさん、おかえりなさい」


 二人の話からネオ君はお母さんに会いに行ったのだと察した私。分かる。私も最後に一人選ぶところでお父さんかお母さんかで迷いなくお母さんを選んでしまった。お父さんごめん。次は選ぶからね。


「どうやった?」

「すごく楽しかった。すぐに私だって分かってくれて、色んな話してきた。タイタンの話もしたよ」

「……『炊いたん』な。どんどんオリンポスに近付いとる」


 その後は塁君が大阪のお母さんに会いに行って、五分もしないで戻ってきた。


「早!」

「早いですね」

「ま、マジこわ……」



 最初は『私を守ろうとしたこと』『見捨てなかったこと』を褒めてくれたそうだけど、その後は『ジーンちゃんに方法聞いたなら、はよえみりさん連れて挨拶に来んかい!』と叱られたらしい。


「あとはジーンに行く年代についてよう言い聞かせとけてガミガミ言われて逃げてきた」


 そこで私はハッとした。もしジーン君が私達が死ぬ前の時間軸に行って、私達がどうやって死ぬのか誰かに言ってしまったら。


 当然言われた方は回避しようとするわけで、そうしたら私達は転生しないしジーン君も生まれない。だってルイ王子の婚約者はユージェニーなんだから。


「ジーンが生まれてけぇへんかったら、この魔法自体が発見されへんことになるやろ? そないなったら俺達がどう死ぬのか伝えること自体が出来ひんわけや。そうなるとややこしいことなって、どないな影響出るか分からへんでって」

「そうだよね、私ジーン君に言えばよかった。気が付かなかった」

「俺が最初に言うといたから大丈夫や。ジーンは賢いからすぐ分かってくれてん。おかんにもちゃんと言うたのに、ジーンが生まれてけぇへん未来なんか絶対認めへん言うて……異世界孫フィーバーやな。とりま『俺もそんなん認めへんからこの話は終いや! ほな!』言うて逃げ帰ってきたわ。実体やったら胸ぐら掴んで闘魂注入の勢いやで。十八年ぶりの息子相手にめっちゃ低いドス利いた声でやな……」 

「あの綺麗で聡明な来栖君のお母さんが」

「ネオ、騙されたらあかん」



 うちのお母さんもジーン君のことすごい可愛がってたみたいだから、塁君のお母さんだってそりゃあ可愛いと思うよね。実際可愛いもん。金髪にマリンブルーの瞳の関西弁と北海道弁の三歳児。


「今んとこジーンは俺達が死んで十数年後の両親にしか会いに行ってへんみたいや。話す内容も、王国での俺らの話が一割、地元の食いもんの話が二割、方言の話が七割っちゅうとこや」

「よ、良かったぁ」



 私はレオとアリスにもこの魔法を教えてあげたらいいって思ってた。勿論サラにも。だけど教えれば教えるだけそういう危険も付き纏う。


 アリスだってレオの前世の病気が早期発見出来るように忠告したくなるだろうし、そうなれば二人は別れなくてもよくて、二人とも死ななくて済むかもしれない。


 レオだってアリスが事故で死なないように運命を変えたくなるだろう。


 そしたらこの世界のゲーム通りのアリスは、誰のルートにも入れない状況でどういう選択をする? 神殿に入って奉仕活動するだけ? 読めない。



「転生者は知る権利があるかもしれへんけど、危険性を考えたら慎重にならざるを得ぇへん」


 塁君の言う通りだ。私達だけで独占するつもりは無いけれど、レオとアリスは転生しなくても死ななければ前世でも結ばれそうだし、この世界に拘らなくてもいいのかもしれない。そう思うと慎重になるしかない。



 サラとは昨日ゆっくり話をしたけれど、前世はバイト三昧の苦学生で、その時にラッピングの腕を磨いたり、お花に詳しくなったんだって。看護大学を卒業して看護師として勤務していた病院に、幼馴染の佐藤光さんが入院してたらしい。ヴィーナとマルスの被害者で、勘違いで殺されかけた男性。そしてあの二人の甥にあたるのだとか。かなり複雑な家庭だけど、光さんは優しい真っ直ぐな人だったと聞いた。


 サラ本人は左折のトラックに巻き込まれて亡くなったらしい。恐怖も痛みも未だに記憶にあるのだと。それなら死ぬ前に戻って回避したいって思うかもしれない。努力して国家資格を取得して、やり甲斐のあるお仕事をしていた日々の中、突然奪われた大切な命。いくらモブとは言っても、サラがいないこの世界にも必ず影響はある筈だから、やっぱり簡単に教えるのは躊躇われる。



「アリスとレオ、サラには時期を見て俺から話してみるわ」



 ネオ君も私も同意して、私達は日常生活に戻ることになった。




 王都の女性と子供達も家に戻り、男性陣は家族の帰還に大いに喜んだ。そして男性陣も短期間でのベスティアリ滞在か慰労金かを選べることになり、半分以上の男性は慰労金を選択したらしい。皆お仕事もあるしね、と思っていたら、慰労金の額がかなりのものだったからが理由だ。うちの国がお金持ちだから出来ることだよね。



 夏休み中なので私もサラも毎日商会で忙しくしている。塁君達も医学院が休みになっていた分、補講をしたりで忙しい。グレイス達も夏期ボランティアと婚約者との時間で充実した幸せな日々を過ごしている。



 そう、平和が戻ってきた。









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