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184.面食いベサニー

「ゼイン、此処にいると聞いてきた」

「ルイ殿下」


 俺が転移で現れるなりサッと跪くゼインの後ろには、俺を見て顔色が一気に悪なった二人の部下がおった。


「ル、ルイ殿下……この度は、大変申し訳ございませんでした……」

「俺達のせいで、マルスを逃がしてしまい……どうか俺の命で償いを」

「おい! 誰が口を開いていいと言った!」

「す、すみません、お頭」


 部下二人が床に這いつくばって額を床に擦りつける。この二人は逃亡したマルスを監視しとったゼインの手下や。マルスを見失うたことに責任を感じたこいつらは、自決しようとしたり、マルスを探しに行っては己を顧みず無茶ばかりしよるっちゅうことで内勤を命じられとる最中や。


「お前らの失敗は頭である俺の責任だ。責任を取る時は俺の命でだ」

「ゼインふざけるな。お前の主は俺だろう? だったら結局俺の責任だ」

「何を仰いますか。大切なご命令を遂行できず、王家の手足である名誉に泥を塗る行為。これは俺だけの責任です」


 この世界の忠誠心っちゅうのはこういう時ほんまに厄介や。


「ゼインも部下達も一人も死ぬことは許可しないからな。ほんとにふざけるなよ。人間一人救うのがどれだけ大変なことか。それなのに健康なお前らがこんなことで死ぬなんて絶対に許さない。絶対にだ。俺はお前らに頼みたいことがあって来たんだ」


 そもそもこいつらがマルスを見失うてもうたのはダンとウォルトを保護するためやった。


 マルス監視中にダンとウォルト保護の命が届いたこいつらが、マルスの向かうすぐ先におった二人を見つけてくれたんや。


 保護対象が二人やったこと、必死なマルスが今にも二人に辿り着きそうやったことで、こいつらは保護を優先して二人を護ってくれた。で、安全な場所で別の仲間に引き渡して戻ったら、マルスは居れへんようなっとったっちゅうことや。


 もうそんなんしゃーないやん。俺かて同じことなるわ。


 その後騎士団でも魔術師団でもマルスを見つけられへん状況に、こいつらは日に日に責任を感じて今に至っとる。


 責任なんか言い出したら悪いのはマルスだけに決まっとんねん。故意やなく見失うた人間や、見つけられへん人間が、責任感じて苦しむとかナンセンスやで。逃げなあかんマルスが悪い。見つかったら困るマルスだけが悪いに決まっとんねん。ほんまにムカつくわ。クソウイルス野郎のせいで俺の仲間が辛そうやないか。


「ルイ殿下、ご命令は」

「マルスは王都の外にいると結論付けた。馬で一週間半で行ける範囲内で、医者がいない集落、または集落にさえなっていない極少数で暮らしている民はいるだろうか。そういう情報にかけてはゼイン達に並ぶものは居ないだろう?」


 ゼインの情報網は王国一や。情報戦を操るゼイン達にかかれば、マルスを匿いそうな女も分かるかもしれへん。


「お任せ下さい。おい、地図を」

「はい!」


 見る見るうちに地図に印が付いていく。印の横にはそこに建つ家の数、家族数、性別、年の頃、家畜とペットの数まで記されていく。ここまで把握しとるんか。敵に回したら恐ろしい奴やで……。


「マルスを匿いそうな女はいないか?」


 三人の視線は一点に集中した。


「お頭、此処に面食いべサニーが住んでます」

「あぁ、覚えてる」


 面食いべサニー? 誰やねん。


「ルイ殿下、十年前レイノルズ魔術師団長に懸想した女魔術師を覚えてらっしゃいますか」


 レイノルズ魔術師団長。つまりヴィンスの親父はチョイ悪な男前で公爵位、その上現人神(あらひとがみ)と敬われるほどの魔力を持つ。いつもめちゃめちゃモテとったから懸想しとった女魔術師なんて女魔術師全員か?くらいおったやん。


「十年前、魔術師団の新人で平民出身のべサニーという女が居たんです。この女はレイノルズ魔術師団長への常軌を逸した付き纏いで強制退団になったのですが、その後も公爵邸に忍び込もうとしたり、幼かったヴィンセント様に接触しようとしたりなど問題行動を起こし続けました」

「あの屋敷は王城並みの保護魔法がかかってる筈だが」

「はい。結果的に忍び込むことは出来ず、今度は街中で買い物中の幼いヴィンセント様に接触しようとしたようですが、その時ヴィンセント様にも一目惚れしたと」

「ヴィ、ヴィンスに?」


 なんやそれ! めちゃめちゃ地雷臭漂っとるやないかい! なんぼゲームでセクシー男前枠やったヴィンスかて、十年前は八歳のガキやで。マジか、身近にそないな濃い人材がおったとは……。


 ん? 待てや。ゲームのヴィンセントルートでチラッと出てきよるヴィンス父の愛人達の中におった女ちゃうんか? 俺が(ちっ)こい頃からあのおっさんの浮気を止め続けたから今そんなんなんか?


 ゲームのまんまにしとったら女難で揉めに揉めてそうな展開やな。まったく俺にもっと感謝せなあかんでおっさんは。


「そ、それで?」

「その場で花を買ってヴィンセント様に捧げようとしたところ、要注意人物としてべサニーを警戒していた公爵邸の護衛に阻止されました」

「だろうな……」


 その後も捕らえた護衛の一人が男前やって求婚したり、おまけしてくれた八百屋の男に惚れて女房と対決したり、相手が貴族だろうと妻子が居ようと気にせず関係を持ったらしい。とにかくありとあらゆる異性トラブルを起こして王都を追放されたっちゅう話で、俺はなんや頭痛がしてきたわ……。


 手下の一人が『ちょっと頭のゆるい女で、相手の立場は勿論年齢も状況も何も気にしないんです』言うてるけど、気にしなさ過ぎやで。


「ちょっとでも顔がいいとすぐ惚れてしまうから面食いべサニーって二つ名が付いたんです。俺らもお頭がこの家の前を通る時は顔を隠してもらってます!」

「うむ、それがいい。ゼインの顔は凶器だからな」

「ルイ殿下に言われたくはありません」


 いやいや顔だけやない。ゼインのキレ者で悪い大人オーラはカッコ良過ぎんねん。まぁとにかくマルスはこの女の所におるかもしれへんわけや。都合のええことに元々人通りの少ない街道沿い。岩場も多く周りには何も無いポツンと一軒家や。


「俺達に行かせて下さい!」

「自分達の失敗は自分達で取り戻したいです! 勿論あいつを捕まえたって、皆さんにかけたご迷惑の分にはまだまだ足りませんが……」

「お前らのおかげでダンとウォルトの命が助かったんだ。胸を張れ。マルスが何を仕掛けてきても、今の王都はビクともしない。案ずるな」


 瞳の輝きを取り戻した手下二人は直ぐにべサニーの家へ向かって行った。





 ◇◇◇





 そろそろ王都に戻ろうと思っていると、今日の昼頃王都から騎士団が大量に出てきて驚いたと女が話し始めた。


 女は毎日岩だらけの裏山の頂上付近で貴重な薬草を採取し、それを近くの集落の薬屋に売って生計を立てているらしい。裏山の頂上からはかなり遠くまで景色が見渡せると言う。この家から王都の入場門までは馬で三日といったところだ。


 今日の昼に頂上からその光景を見たと言うのなら、此処に到着するまで少なくとも丸二日。まさか俺を探している筈もないが、何かの折にヴィーナの耳に入っては面倒だ。馬が通れる道は避けて行くか。


「街道以外を徒歩で王都まで行くとなるとどれくらいかかる?」

「半月。道が酷いから」


 食料や水のことを考えるとどうしたものか。行けるところまで馬で行くか? そうすれば徒歩で一週間くらいだろうか。


「マルス、王都に行きたいの?」

「ああ」

「騎士団に会いたくない?」

「そうだ」

「うん、分かった。来て」


 若干頭の弱そうなこの女からは常に強い魔力を感じていた。だが基本的な生活魔法を使うところしか見たことは無かった。


 それなのに。


 女は外に出るとシュルシュルと人の形ではなくなり、大きな烏の姿に変化した。


「乗せられないけど、足で掴んでなら飛べる」

「変化の魔法……!?」


 魔法学園でもテキストに記載はあったが、出来る人間が少ないということで実際に習いはしなかった。俺は授業中寝てばかりいたし、魔法はウイルス作製に全振りしてたから練習したことすらない。


 この女は一体。


「うわっ!」


 その烏は俺の体をがっしりと掴んで飛び立った。










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