表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/217

179.ヴィーナ捕縛

 マルスは今頃最終兵器作りに専念してるだろうか。


 担任が出欠を取った時、『あぁ、今日は大事な呼び出しがあったのになぁ』なんて言ってたから、あの商会長は本当にマルスを呼び出すつもりだったらしい。危なかった。


 マルスは押しに弱いから、気の強い女に押されると余計なことを言うかもしれない。その証拠に私がちょっとキレ気味に命令すると、前世からずっとマルスは何でも言うことを聞くんだから。


 あいつが登校すると女子達がキャッキャしてウザいけど、欠席しても『あ~ん、マルスが来ないとつまんな~い』とか言っててマジでウザい。顔も頭もいいけど、マルスなんてウイルスオタクのキモい奴なのにさ。


 私はマルスみたいに歪んだ男じゃなく、レオみたいに顔も性格もいい男がいい。平民だっていうのもいいわ。貴族なんて平民を下に見て鼻持ちならない奴らなんだから。さも自分達の方が上だっていう態度が本当にムカつく。遠回しな嫌味や馬鹿にした目が、前世の同級生達を思い出させてくるから嫌で仕方ない。


 アリス先輩は聖女らしいからヒロインなのかと思ったけど、レオの婚約者だっていうからよく分からない。ここは乙女ゲームの世界じゃないのかもしれない。死ぬ前に同時進行でゲームも小説も何でもかんでも手を出したせいで、この世界がよく分かってないのはデメリットではある。分かればもっと上手くレオを手懐けられるのに。



「レオー」

「ヴィーナさん、こんにちは」


 特別クラス用の薔薇園だから入らないよういつも注意されてしまうけど、レオは絶対怒鳴ったりしないから好き。それに私を蔑みの目で見てきたりもしない。優しい愛ある眼差しでもないけれど、前世で関わってきた男達の馬鹿にしたような眼差しを忘れられない私には、レオの瞳は穏やかで十分に優しい。


「今日はアリス先輩いないんだ? チャンスが来たかも?」

「どうでしょうね」


 あれ? いつもなら『チャンスなんて来てませんし今後も来ません』なんて言ってくるのに、喧嘩でもした?


「ねぇ、私の方が年も近いし、聖女様でもなく普通の女の子だし、余程レオに似合うと思うんだけど」

「僕とアリスさんは似合いませんか?」

「うん、全然」


 これは何かあったのかも。ヤバい、このタイミングに出くわした私ラッキー過ぎ。っていうか本当に私がレオの運命の相手だったりして!


 今から攻めようと思ったところで、特別クラスの貴族令嬢達がギャーギャー言ってきた。ほんとうるさい黙ってろ。このチャンスはお前らなんかに渡さないから。


「ここは特別クラスの薔薇園ですわよ! レオ君はここの専属だと何度言えばお分かりいただけて?」

「早く出て行って下さいませ! 平民と言えどもレオ君は王家主催の薔薇品評会で最優秀賞を受賞した専門家ですのよ。貴女とは釣り合いません!」


 あぁ、うるさいメスガキども。もう少しでお前らは細胞ぼろぼろになって死ぬんだよ。死んでいくお前らの方がレオには釣り合わないんだよ。失せろ!


「皆さんすみません。僕が注意しなければいけないことなのにお手を煩わせてしまいましたね。ヴィーナさん、話すなら向こうにベンチがありますのでそちらに行きましょう」


 え? 私との話続けてくれるの? こんなこと初めて。マジでこれはいけるかも?


 エスコートしてくれたりはしないけど、レオの後ろを歩くのも初めてで新鮮。高い背、逞しい肩や腕、風に揺れる濃い金髪。この人の彼女になりたい、と強烈な欲が噴き出してくる。


 思わずレオの袖を指先で少しだけ摘まんでみた。レオは振り返ったから気付いたはずなのに、振り払ったりしないでそのまま先導して歩き続ける。


 やだ、本当にいける? 男の子は彼女が袖摘まんだりするの好きだって、ネット記事で読んだことがある。前世ではネトゲ彼氏しかいなかったから実践したことはなかったけど、本当に効果あるんだ? ふふっ。


 ベンチに着いて隣同士で座ると、レオは私の方向を見ながら話し始めた。


「ヴィーナさんは僕の何を知ってそれほど距離を縮めようとされるんですか」

「何もかも好きなの! 顔も声も体も。でも一番は礼儀正しくて穏やかなその性格!」

「ここは僕の職場ですから、礼儀正しく振る舞うのは当然のことです」

「誠実さがにじみ出てるの! 私、人を騙すような人間が一番嫌い! レオは絶対にそんなことしないじゃない!」


 そうよ、あの佐藤光みたいな人間が一番嫌いよ。経験上思わず声に力が入っちゃったけど、レオは真剣な顔で聞いている。私の言葉を、こんな風に聞いてくれた人なんていただろうか。


 ここが勝負どころなんじゃないかと私は気が付いた。きっと聖女とレオの関係に何かあったに違いない。レオはまだ十五歳だし女を見る目も養われてないよね。きっと聖女だってだけでポーッとなっちゃったんじゃないの? 初心(ウブ)そうだもんねレオは。だったら私が奪ってやる。奪われる方が悪いのよ。


 マルスのウイルステロが収まった後、私だったらレオを上に引き上げてあげられる。私が王都のトップに立つんだから女王? じゃあレオはその伴侶? いいじゃないの。テロの時は一緒に避難させてあげる。これは最強の誘い文句じゃないかしらね。あははっ!



「レオじゃないか。久しいな」


 突然、聞いたことがあるようなないようなイケボが私達の会話を遮った。


「ルイ殿下にご挨拶申し上げます」


 レオがサッと跪いて頭を下げた。ルイ殿下って言った? 第二王子だっけ。編入して二ヵ月、店から遠目で見たことはあったけど直に会うのは初めて。


 振り返るとそこにいたのは、この世のものとは思えないような四人の美形達。マルスとはレベルが違う。



「……ぅわぁ」



 一歩前に立つ銀髪の男が明らかにオーラが違う。きっとこれが第二王子。インフルエンザの薬を作ったっていうのは噓かもしれない。だってこんな顔の人間が天才かもしれないなんてある? きっとよくある王族を偉大に思わせるために作られた武勇伝の一つね。


 後ろに控える三人の男達もそれぞれタイプが違うのに全員がかっこいい。なにこれ、やっぱり乙女ゲームなんじゃないの??


 じゃあやっぱりアリス先輩がヒロイン? なにそれズルい。レオを手にいれてるくせに、そこにいるイケメン達にも好かれる気? なにそれ。なにそれ。


 怒りと嫉妬でカァッとなった瞬間、私の意識が途切れた。


 次に目が覚めるまで、意識が無かったことにも気が付かないくらいの一瞬で私は落ちてしまっていた。





 ◇◇◇





「一瞬でしたね」

「キセノンですか?」

「血流を一瞬だけ停止させて落とした」


 キセノンでも良かったんやけど、なんかこいつに手間かけるのムカついてん。脳にダメージが無いようフォローすんのもアホくさいけど、しゃーないから酸素を吸入させたる。


「ルイ殿下、思いのほか雑ですね」

「自覚はある」


 ブラッドがヴィーナを後ろ手に縛り上げてからウイルスを探すと、ウイルスは制服のポケットやなく腹に巻いたベルト型バッグの中から見つかった。


「うん、これは特定の人間の魔力で反応するよう作られてますね」


 容器を見ただけでヴィンスは断言した。間違いなくマルスとヴィーナの魔力にだけ反応するんやろ。中身が何かも調べなあかん。俺は魔力を流して中身の構造を調査した。


「右から順番にポリオ、狂犬病、エボラ、ヘルペス、インフルエンザ、ノロ、日本脳炎が入ってるな。保護魔法を五重にかけたからもう安全だ。このまま研究室に運んでくれ」

「承知しました」



 このままヴィーナを魔塔の独房へ収監すべく、ヴィンスが転移しようとした瞬間、俺らは気付いた。薔薇園の入口付近に、えみり、アリス、他の婚約者達全員がおることを。


 俺らは直接ここに来たから居場所は知らん筈やんな? 偶然にしては揃い過ぎとる。もう危険は無いやろうけど、ここの学生が捕縛される瞬間なんか見せたない、と思た時やった。



「ちょっと一発ひっぱたかせて!」


 アリスが叫びながら走ってきよった。あかん、麻酔中やないから目覚めてまうやろ!


 ブラッドがすんでのところでアリスを止めてくれた。あっぶな。あ、ブラッドはヴィーナが目覚めへんような体勢キープしてくれとんのやった……。


 頚動脈洞性失神を誘導したわけやから、脳への血流が改善すれば一分位で意識は戻んねん。仰向けで足でも上げれば改善はする。ブラッドが手ぇ離した瞬間、ヴィーナは地面に倒れて仰向けになり、反動で足が持ち上がった。あ~~……。


 俺らは目ぇ覚ましたヴィーナに絶望を味合わしてやりたい思うてた。この学園内で、ウイルスを奪われ、マルスにもほかされたことを告げたろうと。お前らの計画は阻止されたんやと。


 まさかアリスの乱入があるとは想定外やろ! 何してくれてんねん!!



「はっ!!」


 後ろ手を縛られたヴィーナは地面の上で目覚めてもうた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ