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15.セリーナ

 早朝、ネルの家に行く準備をしてダイニングに降りると、塁君が眠そうな顔で先にテーブルについていた。目の下にクマが出来ている。


「おはようございます殿下。眠れませんでしたか? 寝心地が悪かったでしょうか?」

「いや、ふかふかだった。気にしないでくれ」

「目の下にクマが出来ていらっしゃいますよ」

「……俺の修行不足だ。すまない」

「???」


 よく分からないけど気にするなというから気にしないでおこう。


 二人で食事を摂っていたら足音がしてセリーナが通りかかった。私の顔を見るとビクッと体を強張らせて立ち止まる。


「おはようセリーナ! 早起きだね!」


 私が声をかけても目を見開いて呆然としている。なんでだろう?


 セリーナはハッと我に返ると何も言わず急いで部屋に戻ってしまった。昨日は会いに来てくれて素直になったかと思ったのに、今朝はまた反抗期なのかな。うん、全てホルモンが悪い。


 それにしても第二王子が来てるのにご挨拶もしないなんて。寝ぼけてたのかな? まだまだ子供だからね。向かいに座る塁君もセリーナの方も見ることもせずに優雅に紅茶を飲んでいる。


 謝ろうかと思ったけれど余計かな? 塁君、眠そうだし。セリーナには帰って来てからちゃんとご挨拶させよう、と私は深く気にしないことにした。




 私と塁君は朝食を食べ終えると早々にネルの家に向かった。馬車の中で塁君が私の右手をとる。


「えみり、これヒビ入っとる」

「え! あぁっ! どうしようぶつけちゃったのかな」


 もらってからずっと付けてた指輪の石にヒビが入っていた。言われるまで気が付かなかった。塁君の瞳の色と同じマリンブルーの石。宝物だったのに。


「ぶつけたくらいでビクともせんよう作ってあるから、えみりのせいやないって。昨日馬車の中では何ともなかったやろ」

「うん。夜かな。どうしよう」

「昨夜なんかあったん?」

「ううん。セリーナが部屋に来てくれたくらいで後はすぐ寝たよ」

「セリーナが来たんやな」

「?」

「何もされへんかった?」

「うん勿論」


 塁君は久々に無表情でじっと指輪を見ている。いつ見ても顔が良すぎる。


「えみり、セリーナに気ぃつけや。これは攻撃されたっちゅう証拠や」

「え、まさか。攻撃なんてされてないよ。何もされてない。何なら声かけても返事もされなかったくらい何もされてない」

「わざわざ自分から訪ねてきといて返事もしぃひんのやろ? おかしいやん」


 何だか段々不安になってきた。


「セリーナの魔法の属性って何?」

「炎の筈」

「どっか燃やされたりはしてへんな?」

「うん勿論。どこも大丈夫」

「あー、指輪あげといて良かったーー!」


 そう言って塁君は私の右手を握って額にあてた。目を瞑って大きなため息をついている。何だろう。何が起こってるんだろう。


「いらんことで不安にさせたなかったけど、言わなあかんな」

「な、何、怖い」

「セリーナも転生者やと思う」

「えっ」

「八取芹那。俺が大学ん時な、一遍だけあいつの講義出たことあんねん」

「講義……?」


 妹だから子供だろうと思っていたらずっと年上だということだ。ちょっとすぐには受け止めきれない。


「どっか植物遺伝子の研究しとるとこの室長だかなんかでな。一回だけ遺伝学の講義で来てん」

「すごい偉い人なんだね……」

「何で覚えとるかって言うたら見た目がな、えらい個性的やったんや」

「個性的…………あっ!」

「ピンときたやろ。バブリーメイクや」

「じゃあ、最近のあのお化粧は」

「前世思い出したからやろな」


 ドギツいお化粧も周りへの態度も、ホルモン関係なく前世のセリーナの性格だったんだ。


「ほんでな、昨夜寝ようとしとったらセリーナがネグリジェ姿で俺の部屋に潜んどったんや」

「……ひ、潜んで???」


 どういう状況だろう。ちょっと混乱している。


「あの化粧でな。多分色仕掛けしに来てん。好きにせぇ言われたけどちゃんと追い返したからな」

「い、色仕掛け!!?」

「ほんまにおもろかっただけで何もしてへんで!!」

「そこは疑ってない!!」

「そっか!!」


 まさか我が家の本邸で領主の娘が第二王子の寝室に忍び込むなんて不敬にも程がある。下手したら家門ごと罰を言い渡されるくらいの出来事だ。


「い、妹が、本当に申し訳ありません!」

「えみりのせいちゃう。俺は怒ってへんから謝らんといて」

「でも寝室に忍び込むなんて、下手したら命を狙うことも出来るわけだしとんでもないよ」


 あまりの事態に目に涙が浮かんできた。


「泣かんといて。俺は誰にも言う気あらへんし、怒ってるとしたらえみりに攻撃したことやで」


 こんな時にまで優しい。ますます涙がじわっと出てきて手で押さえるとハンカチが差し出された。


「何やったっけ。こういう時の北海道弁。目がいずい? 前言うてたやつ」

「……目がいずいからちょしたらめっぱになった」

「それや! 一個も分からへん。はは」


 『目に違和感があるから触ったらものもらいになった』という意味の北海道弁だ。笑顔の塁君はそう言って気を紛らわせてくれるけど、その気遣いにも申し訳なくてもっと涙が出てしまう。ハンカチで顔を押さえる私を、塁君はぎゅーっと抱きしめて背中をポンポンしてくれた。


「この領地で起こっとることもセリーナが関わっとるかもしれへん。次の保護魔法かけた指輪が出来るまで俺から離れんとってな」


 私はますます不安になって黙ってコクコクと頷いた。







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