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148.バイトの特権

『入りなさい』というロビンの返事の後に静かにドアが開き、サラがティーセットを運んできた。


 こげ茶色の長い三つ編みにそばかすがチャーミングな女の子で、贈答用のラッピングをお願いするために雇った子だ。よく気が利いて、お客様が来るといつもお茶を淹れてくれる。


「サラ、ありがとう」

「こちらに置いておきますね」

「サラ、エミリー様からお土産を頂いた。皆に配ってくれ」

「わぁ、ありがとうございます!」


 ロビンから受け取ったバターケーキを持って嬉しそうに出て行くサラは、うちでバイト出来ることを学園で羨ましがられているんだとか。


 確かにうちのお給金は良い方だと思うし、ホワイトな環境を重視しているけれど、皆が羨むポイントはそこではないらしい。


 じゃあどこかって言うと、『美形が拝める』ってとこらしい。おいッ!


 せっかく自分達の在学中に特別クラス三年に美男子が四人もいるのに、滅多にお目にかかれないと嘆く女子が大勢いるんだって。一般クラスと特別クラスは校舎も別だからそうなるよね。


 特に塁君は王族なので雲の上の存在なのに、ここでバイトしてからしょっちゅう現れる上にお茶を出す時に至近距離で見れるのでサラの網膜もヤバいらしい。


 更に塁君ほどの頻度ではないけれど定期的に訪れるゼインは、来るときはフードを目深にかぶって目立たないように来る。だから周りの女性陣はその真の姿を知らない。だけど執務室にティーセットを運んできた時にフードを脱いだ姿を見てしまったサラの心臓は『ギュンッ!』って言ったのだとか。分かる。


 たまに塁君と一緒にクリスティアン殿下、ローランド、ヴィンセント、ブラッドが来たり、ネオ君やアウレリオ様まで来るものだから、サラはお茶を淹れる係は絶対に誰にも譲れない、譲らない、譲ってたまるかとハァハァしていた。怖い。


 そんなサラだけど誰かを好きになったり親しくなろうとしたりはしない。ちゃんと弁えてその一線を越えるようなことはしない子だ。それに平民ではあるもののお茶を淹れる所作もちゃんとしてて、ここで働く前に役に立てるよう練習してきたと言っていた。肝心のラッピングも丁寧だしセンスがいい。やっぱり書類審査と面接でロビンが採用するだけあるんだよね。


 短期バイト枠には一般クラスの女子が大勢応募してきたんだけど、全員の身辺調査をゼインがしてくれたから、それを勝ち抜いたサラには全幅の信頼を置いている。



「エミリー、改良する四色のサンプルを見せてくれ」


 早速塁君が改良に協力してくれるらしい。塁君だけで千人力どころじゃないから本当にありがたい。


「うん、この四色でね。こっちが子供達が描いてくれた絵なんだけど、ほら、この四色だけ薄いでしょう?」

「この絵、俺とエミリー?」

「あ、うん。とっても上手だよね」

「子供から見ても俺達はラブラブだってことだな! ふふふ、やっぱり夫婦だからなぁ! 隠しきれない新婚のオーラが出てるんだろうなぁ!」


 私達二人を描いてくれた絵を見て喜ぶ塁君は、結婚後一ヵ月以上ずっとこんなテンションだ。


「はい、色に注目」

「ふふっ、薄いピンクのドレスもエミリーに似合う」

「これもっと濃いピンクにしたかったのに濃く出ないんだって」

「それは大変だ。エミリーには濃いピンクのドレスも似合うのに。改良しよう」


 ゼインとロビンの生ぬるい視線を感じる。


「塁君の金色の飾りも黄色が薄くて金色に見えないってしょんぼりしてた」

「俺の飾りなんてまぁいい。エミリーのブロンドが淡く綺麗に塗れてて俺はこの黄色嫌いじゃない」

「私の髪の毛ももっと立体的に見えるように、ところどころ濃くしたかったんだって」

「立体的に見えたらそれはもっとエミリーが綺麗に見えるな。改良しよう」


 ゼインが口元に握った拳をあてて笑いを堪えている。だけど馬鹿にした笑いではなく、嬉しそうな、愛しそうな目で塁君を見ている。本当に塁君を大事に思っているんだなぁと伝わってきて同志感が増す。だって私も世界で一番塁君が大事だと思ってる一人だからね。



 世界で一番塁君を大事に思っているといえばジュリアンもだ。諜報員達も結婚のお祝いをしてくれて、一度に全員集まるわけにはいかないからと数回に分けて毎回別の指定された場所で祝ってくれた。


 驚いたのは部屋に入ってくるまで動物の姿だったり、よく行く書店の一店員の姿だったり、パーティーで見かけたことのある使用人の姿だったり、全員が色々な姿で集まってきたこと。部屋に入った途端変化の魔法を解いて姿を現すんだけど、皆全身黒ずくめの諜報員姿で超絶かっこよかった。なかでもジュリアンの諜報員姿は何度見ても最高に尊いと言える。


 ジュリアンも塁君が笑顔で結婚報告する姿を見て堪えきれず涙ぐんでいた。『感情をコントロールするのは基本なのにすみません』と言って目元を押さえる姿は、諜報員ではなくただの幼馴染で。


『ジュリアンもいつか結婚して幸せになれよ』と塁君に言われたジュリアンは、『俺は結婚などせず一生ルイ殿下を陰からお護り致します』と答えていた。そんなジュリアンの肩に腕を回して塁君が『いつもありがとうな』と笑いかけると、ますます瞳には涙が浮かんできて、どれだけ塁君を大切に想っているかが伝わってきた。同志が多くて心強い。


 ちなみにそんなジュリアンは、さっき塁君が執務室に入った瞬間から天井裏か何処かに潜んでいると思う。



「よし、じゃあこの割合でそれぞれサンプルを作ってみてくれ」



 塁君は四色の着色顔料の割合を細かく変えた一覧をメモしてロビンに渡した。


「かしこまりました」

「エミリー様、帳簿も見ましたがおかしな点はありません。今日はこのままルイ殿下とお戻りになられても支障ありません」

「ゼイン、本当にお前は話の分かるやつだな」

「当然です」

「エミリー、じゃあ俺達の城へ帰ろう」

「うん、じゃあ後のことはロビン、お願いね。また明日来ます」

「はい、お任せ下さい」



 私達は商会の前に停まっていた王家の馬車に乗って帰城した。商会は私以外の人間も多いので転移魔法で来るのはやめてもらっている。突然の転移魔法だと諜報員にも迷惑がかかるしね。



「ベスティアリ王妃様は順調?」

「めっちゃええ感じやで。王妃のメンタルも安定しとるし、胎児はもう音に反応するしな」


 馬車で二人になるといつも通り飛び出す関西弁。



 ベスティアリ王妃様はもうすぐ妊娠六ヵ月半で、お腹の中にはアウレリオ様のクローン赤ちゃんがいる。赤ちゃん大好きな私は今から楽しみで仕方ない。


「そういうたら、ネオが色鉛筆完成したら『ベスティアリ王国第二王子生誕記念限定パッケージ』売り出さして欲しい言うてたで」

「わぁ、願ったり叶ったりだよ」

「ちょいゴージャスな箱に入れたれ」

「宝石とか付けちゃう?」

「ええやん。限定で最上位版だけ宝石付きにしたったら貴族が買い占めるで」

「うわぁ、収益アップの予感」

「ジーンが生まれる時は数百色セットでごっつ特別なやつ作ろ」

「数百!」

「俺が愛情めっちゃ込めて調合する」


 何年後かは分からないけれど、十二色でも大変だったのに数百色とは。しかも父親である第二王子自ら調合するなんて、付加価値高過ぎて価格設定はどうするかな。蓋に国旗を刻印して通し番号入れて、塁君とジーン君の瞳の色のマリンブルーの宝石をはめ込もう。でも数百色なんて嵩張るから、十二色、二十四色くらいのもので限定版も出そう。


 最近はネオ君に感化されて、私もアイディアが湧いてくるようになった。


「今から楽しみやな!」

「うん!」


 私達が馬車の中で両手を取り合ってキャッキャやってる時、商会の前ではサラが一般クラスの同級生達に囲まれていた。









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