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146.一緒に生まれ変わってくれてありがとう

「ルイ、エミリー、おめでとう」

「お二人とも、やっとこの日が来ましたね!」

「エミリー嬢、ルイ殿下の手綱しっかり握ってて下さいね!」

「早く結婚したい早く結婚したいってずーっと仰ってましたからね。今日という日を迎えられて我々一同心から安堵しております」

「これで余所の国に行かれたり、我が国を滅ぼされたりしなくて済みますね」

「ものすごい国益を損ないますから一安心ですね」

「初恋が実って良かったですね」


 なんか途中途中物騒な言葉が混じってくるけれど、皆が次々と祝福の言葉をくれる。


 国王陛下御夫妻の前で私達二人が礼を取ると、陛下も王妃様も今まで見たことが無いくらい嬉しそうに微笑み、『堅苦しい礼は必要ない』と仰って下さった。


「このような婚礼は見るのも聞くのも、ましてや臨席するのも初めてだがいいものだな。まぁルイがやることだから驚かないが、我々も親としてエミリー嬢には感謝しているよ。あの無表情・無感情のルイをここまで国に有益な人間にしてもらって礼を言う。エミリー嬢、本当にありがとう。これからは私のことも父だと思ってくれ」


「エミリー、うちのやる気の無い息子を変えてくれてありがとう。母としてどうしましょうと思っていたのだけど、エミリーのおかげで立派な王子になって感謝してもしきれないわ」


「勿体ないお言葉です。私こそいつも本当に良くしていただき感謝しております」


 陛下も王妃様も五年前までのあの表情筋が死滅していた塁君の印象が強すぎるらしい。


 王子ともあろう立場の人間が学生結婚なんて聞いたことがないけれど、それで大人しくこの国にいてくれるなら全然OKってことかな。ははは。



「ルイ、書類上はこれで二人は晴れて夫婦だが、国民に発表するのは卒業後だ。その時改めて大神殿で婚礼の儀を執り行い、パレードも行う。それまでは今の生活を続け、魔法学園は二人揃って卒業するように。これはエミリー嬢のためでもある。よいな」


 陛下からのお言葉をいただくと、塁君は『勿論分かってる』と言って小さく溜め息をついた。


 卒業はそりゃあしたいけど、普通に通ってれば出来るよね? え、結婚したらそんなに公務が忙しくなるの? それで私ってば留年しそうとか思われてるのかな? た、確かにダブリ王子妃とか二つ名が付いたら王家の名誉にかかわる。まずいまずい!


 ご心配かけてすみません陛下! 座学も実技も死ぬ気で頑張ります!!



「ルイ、書類上でも正真正銘エミリーはルイの妻になったんだから、今はそれでいいじゃないか」


 クリスティアン殿下が塁君の肩に手を置いて優しく微笑む。


「まぁ、そうなんだが、兄さんなら我慢できるか」

「僕は出来るよ」

「修行僧め!」

「しゅぎょうそう?」

「何でもない」


 なんか離れたところで兄弟でやいやい言っているけど何だろう?


「エミリー、とてもお綺麗ですわ」

「本当におめでとうございます」

「エミリーちゃん、似合ってる!」


 女子達に囲まれてしばらくキャッキャしていたら、塁君が来てサッと私をお姫様抱っこした。


「ご令嬢方、俺のエミリーは連れて行く」


 二年前の薔薇の品評会後と同じ台詞で、私を抱えてスタスタとお城へ向かって歩く塁君。運ばれていく私の耳に、これも二年前と同じように『キャーッ!』『俺のですって!』『溺愛ですわ~』という声が聞こえてくる。


「今回は正真正銘俺のエミリーだ」


 私の顔のすぐ上にある塁君の顔は、満足した悪戯っ子みたいな笑顔で。


「今回は偉い人達と会わないよね」


 二年前はお城の使用人達、お城を訪れていた貴族達、偉い人達まで通りすがりにニヤニヤ見てきて、『あぁ、あの有名なルイ殿下の婚約者の』と言っていたことを思い出す。あれで塁君が私を溺愛してて、国の未来は私次第っていう恐ろしい噂が市中に広まっているって知ったんだよね。


「今回は執務室じゃなくて居室に戻るだけだから会わないな。俺としてはこのまま城中を練り歩きたい気持ちだけどな」

「まっすぐ部屋に戻ろう」


 食い気味にそう言うと塁君は運びながら私をチラッと見てきた。


「エミリー、もうエミリーは俺の妻で、部屋に戻ったら俺達はもう夫婦だって分かってる?」

「うん、分かってるよ?」

「いや分かってなさそう」

「だってさっき署名もしたし、大神官様のサインも頂いたし」

「あー、これは分かってないな。まぁいいや。後で教えてやるから」


 な、なんで分かってない認定? 分かってるよ! 寝ぼけてないよ! すごい早寝したんだから!



 お城に着くと、いつもの部屋じゃない部屋の中に入っていく塁君。元々の部屋以上に広いこの部屋は、どう見ても二人用の部屋だ。


「広いねぇ」

「卒業後に俺達はここに部屋を移す」

「卒業後なんだ」

「分かってへんようやから教えたるな。えみり、卒業までは妊娠せぇへんようにってことや。二人揃って卒業せぇ言うとったやろ」

「ぇぇえ!! りゅ、留年すんなってことじゃないの!?」

「なんでやねん!」


 に、妊娠って!! なんてこった!! まだ三年生になったばかりでそんなこと考えてもみなかった!! そうか、新婚なんだ……。妊娠したらそりゃあ欠席も増えるかもしれない……。産休育休なんか無いもんね。えええ……。


「王子妃は公務が増えるから……」

「まだ公にせんから公務も増えへん」

「ダブリ王子妃とか中退王子妃とか言われないようにかと」

「そないなこと言うやつ全員俺が相手や」


 私達二人をシーンと静寂な空気が包む。


「ぷっ」


 塁君が堪えきれずに吹き出した。


「やっぱ分かってへんかった。国王直々に留年すな言われた思うてたんや。おもろいなぁ」


 大きな大きなベッドの上に降ろされて、楽しそうに笑う旦那様を見上げる。目が合うとニヤッと笑って私に近付いてくるから思わず後退りしてしまう。


「怖い?」

「こ、怖くはない。けど、心の、準備が」

「ふふっ」


 そのまま啄むような可愛いキスを一回だけされて、塁君はただギュッと抱き締めてきた。


「何もせぇへん。妊娠避ける術なんか幾らでもあるけど、卒業までは手ぇ出さへんて約束する。来年の春、二人揃って卒業しよな」


 思わずホッとしてしまった私の気持ちを見抜くように、塁君はすぐに私を立たせて部屋の扉へ向かった。


「卒業まで時間があるから、この部屋えみりの好きなように変えてええからな」

「このままで十分素敵だよ!」

「家具でも何でも好きなの買うてくれてええよ」


 会話をしながら扉を開けると、すぐそこにリリーと侍従さんが並々ならぬ気迫で待機していた。リリーはなんか両拳を握っているんだけどどうした?


「あと五分したら強行突入しようかと」

「お前達は俺を何だと思ってるんだ……」

「健全な男子だと思っております」


 真面目な顔で返す侍従さんに塁君が思わずバックハンドでツッコむ。


「何もしてないのに何故俺は辱められているんだ」

「こちらのお部屋に来たからですね」

「俺達の部屋になるんだから見せるのは当然だろう」

「確かにそうなんですが」

「これ兄さんだったら心配しないんだろう」

「まぁそうなりますね」


 もう一度塁君はバックハンドでツッコんだ。


「小突かれてるのに何やら愉快な気持ちになるのは何故でしょう」

「それがツッコミュニケーションだ」


 私も含めて全員『????』という顔になっているけど塁君は大真面目だ。ああ……この大阪遺伝子がジーン君に遺伝して、クリスティアン殿下の夢に出てきた『世の中には二通りの人間がいる→ボケとツッコミですね!』に繋がるんだなぁ……としみじみする私。



 元々の居室に戻りながら、今日と明日、普通の土日なんだけど、プレ新婚旅行で何処にでも連れて行ってくれると言う。塁君の転移魔法で行って、夜は戻ってくるから旅支度も何もいらないらしい。


「じゃ、じゃあ聖地巡礼!」

「聖地巡礼?」

「北の地すべり対策とか、南の灌漑用水とか、あとはジュリアンの故郷とか、ゲームに出てきたところに行ってみたい!」

「あぁ、いいかもな。よし、行こう!」




 元プレイヤーの第二王子である塁君と第二王子妃である私は、ゲームに出てきた場所を一ヵ所ずつ見て回った。


 何処ものどかで災害も疫病も無く、人々が幸せそうに暮らしている温かい場所。


 その幸せを守ったのは幼い頃の塁君。この世界に転生して、ゲームの知識と前世の知識を活かして人々を救っていった私の大事な人。


 これからもしシナリオが変わっても、この国の人々に危険が迫ればその知識で皆を守ってくれるだろう。


 私達が目指していたシナリオ脱出。昨日までの最終目標は卒業パーティーでのダンスだった。


 だけどその前に結婚して夫婦となった私達。シナリオは大幅に変更になっている。ヒロイン・アリスも。クリスティアン殿下も。ローランドも。ブラッドも。ヴィンセントも。ジュリアンも。ゼインも。皆、幸せそうに笑っている。大切な人を守る人生を生きている。



 何もかも、塁君の影響で。




 五年前、薔薇園で聞こえてきた『なんでやねん』という呟きが、私達の運命を変えた。


 前世から繋がっていた私達の縁が、再度繋がって動き始めた魔法の言葉。




 私達はこれからも生きていく。


『十字架の国のアリス~王国の光~』の世界で。でもそれは、この世界に生きる全ての人々の人生で。





「えみり、俺と結婚してくれてありがとう」

「私こそ、お嫁さんにしてくれてありがとう。一緒に生まれ変わってくれて、本当にありがとう」

「何度生まれ変わってもえみりを愛してる」



 王城の一番高い塔の先端で、私達は黎明の光の中キスを交わす。


 眼下に広がるこの世界の夜明けの光景。


 私達が生きるこの大切な世界で、大切な人達がきっとこれからも増えていく。



 年内に生まれるアウレリオ様のクローン赤ちゃん、いつか生まれてくるレオのクローンみたいな男の子と、アリスのクローンみたいな女の子、ネオ君の長い宿題、だけど絶対にいつか生まれてきてくれるネオ君とアウレリオ様の赤ちゃん。


 そして誰より大切なジーン君。



 皆がずっと笑っていられる世界がいい。



 私も塁君と一緒に守っていく。大切な人を。彼らが住むこの世界を。




 愛する塁君の隣でね。







これにて第二章『幻獣の国・クローン編』完結です。

ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。

いいね、ブクマ、評価、感想、メッセージ、何もかも大変励みになりました。

心から感謝致します。



最終章『バイオテロ・レトロウイルス編』も後日投稿したいと思っておりますが、

多忙につき少し期間を空けての投稿になるかと思います。

その際も読んでいただけましたら幸いです!




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