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136.可愛い再会

 一人で卵粥を食べて部屋に戻り、早めに寝ようとリリーに着替えを手伝ってもらっていた時だった。私の不調に気付いたリリーが残業を申し出てきた。


「エミリーお嬢様、何だかお顔が赤いような気がしますが」

「ご飯食べてちょっと火照ってるだけだから大丈夫だよ」

「私やっぱりもう少し残ります」

「ダメダメ、今日は侍従さんとデートでしょ。私はリリーに楽しんできて欲しいからお仕事はもう終わりね」

「エリオットも知れば残れと言ってくれますよ」

「もう寝るだけだし大丈夫。明日デートの話聞かせてね。楽しみにしてるから」


 塁君はアリスが帰ってからすぐ、ベスティアリ王国の王妃様の体調管理のために不在にしている。決して王妃様の体調が優れないからではない。なんと、王妃様は今めでたく妊娠中なのだ。


 先月アウレリオ様のクローン胚は無事に王妃様の子宮に着床し、このまま順調にいけば秋の終わり頃にご出産予定。ネオ君がずっと手掛けてきた念願の研究だから、上手くいって本当に良かった。遺伝子治療の時見たアウレリオ様の赤ちゃん時代、ものすごく可愛かったけどほんの数分だった。だけど今回はゆっくりゆっくり普通に育てられるから、可愛い時期を存分に堪能できる。子供好き、特に赤ちゃん好きの私は今から胸キュン状態です。


 まだ妊娠初期なので国民には知らせていないけど、ベスティアリ国王もアウレリオ様もシンシアも毎日王妃様を心配してお部屋を何度も訪問するから、最側近は何となく気付いているみたい。勿論それで秘密を漏らすような者はいない。


 胚移植以来、塁君は毎日王妃様の様子を見に行っていて、ご出産後もしばらくは王妃様と赤ちゃんの体調管理で毎日ベスティアリに通うことになる。


 私達が第二学年になってから医学院の講義も始まって、一緒にいれる時間がグッと減ったんだけど、第三学年になったら更に減りそうなのがちょっと寂しい。でも塁君じゃなきゃ出来ないことをしているんだからちゃんと理解している。応援したいし協力したい。本当に心からそう思っている。


 でも、熱っぽい今の私はちょっと弱気になっていて、心細い気持ちに負けそうになる。なんで発熱ってのはこうも人の心を弱らせるのか。


 もう寝てしまえば寂しいも心細いも分からなくなるから寝てしまおう。だけどこういう時に限ってなかなか寝付けないんだよね。



 こんなメンタルで寝れずにベッドの中でうだうだしていると、前世のことや今世での今までのことを色々思い返してしまう。嫌なことも、楽しいことも、幸せなことも。


 ダメだな、嫌なことが浮かびそうになったら赤ちゃんのことを考えよう。ふわふわほっぺに小さな紅葉(もみじ)のお手て、ぱやぱやの髪の毛、ちぎりパンみたいな腕と足。あぁ、癒される~、あ~眠くなってきたかも~。





 ◇◇◇





『母上大丈夫? 僕が一緒におってあげるからなぁ』


 あれ? この久々に聞く幼い可愛い声。舌足らずな話し方。


『ジーン君……?』

『あっは! 君やて! なんやもちょこいなぁ』


 一年前、七色の満月の夜に見た夢。その中で出会った未来の私の息子ジーン君。忘れたことなんかない。毎日のように思い出しては私の心をほんわかさせてくれる、大切な大切な宝物みたいな存在。


 そのジーン君が何故か私の隣で頬杖をついて寝転がっている。


『なんで、ここにいるの? 今日は満月じゃないよね……?』

『母上が寂しそうやったから来てもうた』


 一年前の夢と決定的に違うのは、ジーン君と会話出来ていること。前回の夢では、私とジーン君とのやりとりは、自動的に流れていく動画の中のようだった。自分の口から出る言葉さえ自分の意志ではなかった。もう決まっている出来事のように。


 だけど今隣にいるジーン君は私の言葉に反応して返事をしてくれる。


『嬉しいな……会いたかった。ジーン君、可愛い……』

『母上、父上にもろた指輪ずっとしとかなあかんで。あれには健康補助と体力アップの効果があるんやから。熱なんてすぐ下がる筈やで』

『あ、そうか……』


 昨日バルコニーでクリスティアン殿下とグレイスの帰りを待っていて、冷えたなと思って湯船に入る時に外したっきりだった。その後すぐ眠ってしまって、起きてからも付けるのを忘れたままだった。どうしよう、昼間塁君気付いてたのかな。せっかくくれたのに嫌な思いさせたかな。


 毎朝のハグでの体調チェックも今朝に限ってしなかった。春休み初日で私が寝坊してしまったから。リリーもせっかく春休みだからと気を利かせて寝かせてくれたのだ。私が起きた時には塁君は既に執務中だった。


『取って来てあげたいけど、僕実体やないから出来ひんねん。母上自分で行けそう?』

『う、うん……まずは目を覚まさなきゃ体動かせないよね。あ、で、でも、起きたらジーン君消えちゃう?』

『せやな。僕まだ夢の中にしか意識飛ばせへんねん。毎日けっぱってんねんけど、まだまだや』

『偉いね。じゃあもう少しこうして一緒にいたいな』

『こっちの母上ともさっきまで一緒におったんやで。今は僕一人で魔法の練習中やねん』

『未来の私と塁君は仲良くしてる? ジーン君は毎日幸せ?』

『勿論幸せや。母上と父上は毎日毎日仲良しやで。僕と父上で母上の取り合いやねん。僕はこのちゃんこいめんこさを活かして母上の母性本能をこちょばしたるんやけど、なんでか父上まで僕にメロメロになんねんなぁ』

『ふふっ、ジーン君の北海道弁と関西弁のハイブリッド、可愛い』

『せやろ。北海道弁はな、母上あんまり使わへんから、北海道のじぃじとばぁばに教わってん』


 え? なんて?


 北海道の、じぃじと、ばぁば???


『ばぁばが特に北海道弁の使い手やんな』

『ジ、ジーン君、どういうこと? うちのお父さんとお母さんに教わるって、ど、どうやって?』

『せやから僕、夢の中なら意識飛ばせんねん』

『この世界じゃなくても? 異世界でも?』

『せやで』


 なんということでしょう。うちの息子が天才な件。


『あ、あのね、私と、塁君が、こっちの世界で幸せにしてますって、伝えて欲しい! 結婚しますって』

『そんなん最初に伝えてあるで? 僕、二人の息子ですーつまりお二人の孫ですーどうぞよろしくー言うて』

『どうだった? 二人は?』

『わぁーそうなのぉーなまらめんこい子でしょやー言うてくれた』

『塁君のご両親は?』

『ジーンて名前最高ちゃうかー言うて、六甲おろし歌っとった』


 ぶれない来栖家父に笑いがこみ上げてくるけれど、同時に涙もこぼれてくる。


『母上、大丈夫? やっぱり指輪取ってきて。僕また来るから、お熱下げて』

『でもまだ一緒にいたいの』

『僕母上が泣くの初めて見るからどないしたらええのか分からへん。嫌や。泣かんといて。僕母上には笑てて欲しい。あかん、僕まで泣きたなる』


 あ、まずい。ジーン君の大きなマリンブリーの瞳に涙がうるうる溜まってきた。可愛いお顔がくしゃっとなって、一生懸命泣かないよう歯を食いしばって我慢しているけれど、決壊してボロボロ涙が布団に落ちる。でも布団は全く濡れていないから、ジーン君の実体がある場所で床を濡らしているのだろう。


『泣かないで。可愛いジーン君。大好きだよ。私が泣いたのは胸がいっぱいになったから。ジーン君が私と塁君の前世の両親に、幸せだって伝えてくれて嬉しいの。涙は辛い時だけじゃなくて、嬉しい時も感動した時も出てくるんだよ』

『母上悲しくない?』

『全然。ジーン君に会えてとっても嬉しい』

『僕来て良かった?』

『うん、来てくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう』



 私の目の前にいる私と同じ色の髪、塁君と同じ色の瞳を持つ可愛い男の子は、涙をいっぱい溜めたまま、『なんもなんも』と照れ笑いした。








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