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129.シンシアはビジネスチャンスを逃さない

「うー……ん」

「あっ! エミリーお嬢様!」


 ぐっすり眠った満足感に満たされて目を覚ますと、私はナキウサギのまま、リリーの膝の上で抱っこされていた。場所はベスティアリ王城の私個人の部屋。


「あ、あれ?」

「ルイ殿下は今アウレリオ様とシンシア様と共にお話合いに行かれてます。エミリーお嬢様は二時間ほどお眠りになっていらっしゃいました」


 なんだ、まだ二時間かぁ。ぐっすり寝たから一晩眠ったくらいの感じなのに。あれ、でも二時間経ってるのにまだ魔力切れ起こしてない。体の中に塁君の魔力を感じるから分けてくれたんだ。


「それにしても可愛らしいお姿ですね!」

「リリーはいつ帰ってきてたの? 今日はちゃんと楽しかった?」

「ふふっ、お嬢様のおかげでちゃんと楽しかったですよ! 帰ってきたのはドラゴンが現れてすぐです!」

「あー……」


 そうだよね、せっかくデートしててもあんな生き物が空を飛んで行ったら避難するよね。そういえばあの場に居なかった人達はどうしていたんだろう。皆パニックになったりしなかっただろうか。


「お嬢様、ご心配いりませんよ。ドラゴンが来る直前に、魔術師団や騎士団が各地で『クルス王国の神獣が立太子の祝福のために空を渡られますが、民に危害を加えることは絶対にありません』と言って民衆を安心させてくれましたから。それでも怖がって泣く子供にはヴィンセント様や魔術師団の団員が魔法で楽しませて下さったり、ブラッド様や騎士団の騎士様達が肩車したりしてあやしていらっしゃいました」


 皆は塁君がドラゴンの姿で来る前に知って備えていたの? 私は現場でビビっていたというのに。


「それにしてもマクローリンの連中は酷いですね! それもルイ殿下が怪しく感じて、諜報員達に指示を出してすぐ取り押さえたようですよ! 野放しにならなくて本当に良かったです!」


 リリーはぷりぷり怒っているけれど、その場にいた私はどうやって指示を出したのか分からない。捕まえて尋問してあの場に連行してくるまでの素早い行動。


 気付いたらもうジュリアンと交代していたし、何か連絡手段があるんだろうか。




「そうだ、それより侍従さんから何か言われた!?」


 そういえばマクローリンのせいで、今日のメインイベントを見逃したじゃないか! 観覧車の後二人の距離とか見たかったのに!


「何かって何ですか?」

「え、そりゃあ、その」

「?」

「今後のこととか……」

「今後? 本日の晩餐でお召しになるドレスとか、明日の儀式のアクセサリーの話とかならしましたよ?」

「えぇぇ……」


 わざとはぐらかしてる感じじゃない。侍従さんは告白しなかったんだな……。


「そうだ、買い物は楽しんだ?」

「はい! ルイ殿下のご厚意で経費が下りていたそうで、記念にユニコーンのお店でハンカチを買いました!」

「も、もっと他には?」

「あ、宝石店でクルス王国のお城の使用人仲間にお土産をたくさん買いました! 小さな宝石が付いている金の栞です! これがレースみたいに透かし彫りされてて洒落てるんですよ~!」


 そうか。そうなのか……。


 ノックの音がして返事をすると塁君とアウレリオ様、シンシアが入ってきた。


「エミリー、目が覚めたか」

「塁君、さっき助けてくれてありがとう」

「いいんだ。離れた俺が悪い。俺こそ怖い思いをさせてすまなかった。本当に無事で良かった」

「ジュリアンを叱らないでね。私が止めるジュリアンを振り払って逃げたの」

「俺の無茶ぶりに応えたジュリアンを叱るわけない。いい働きをしてくれて感謝してる」


 そうだ、ジュリアンがあの場で塁君としてドラゴン二頭に真相を告白したからこそ、民衆のベスティアリ王国への負の感情も解消したんだ。


「どうやって連絡し合ってたの? 魔術師団とか騎士団にも指示を出してたんでしょう?」


 風魔法を付与した伝書用紙を送ってる様子もなかったし、モールス信号みたいな? でも何か特にトントンしてたりピカピカしてたりはなかったけどな。



『えみり、その姿もめっちゃ可愛い』



 頭の中に塁君の声が直接響いた。


「ぅわっ!?」

「こういう方法だ」

「え? え?」

「お互いの魔力を混ぜている時だけ出来る方法なんだ。念じると頭の中でテレパシーのように響く。元々は細胞に潜って遺伝子治療する時に使っているんだが、有事の際にも便利なんだ」

「今、私にも聞こえたのは、魔力を分けてくれてるから?」

「そういうことだ。今日は皆と離れて行動するから、昨日のうちにヴィンス達にも少々魔力を渡してある。ジュリアンにもな」

「初めて変化の魔法使った時も魔力を分けてくれたけど、私にはそんなの全然しなかったのに」

「有事の際だけにしようと決めてる。今日は一刻を争うと判断してジュリアンに任せてしまった。エミリーにも今後は常に魔力を渡しておく」


 そっかぁ、怒ってるわけじゃないけど、何だか自分だけ蚊帳の外みたいで寂しかっただけ。でも巻き込まないようにって考えなことも分かってる。


「エミリー、私もシンがこの姿でいる間は常に私の魔力を混ぜているから、ドラゴンに変化する前に念で『ちょっと今からドラゴンになりますけど、前から知ってたみたいに振る舞って下さい』って指示が出てたんだよ。内心は驚いていたし、面白くて最高だったよね」


 演技だったの! 本当に前から知ってるのかと思うくらい自然だった。


「それにしてもエミリーはエゾナキウサギに七色の角なんて、元生物研究部の僕の心を撃ち抜きにきてるね」

「はっ! そうだ! 角!」


 シンシアが(ぼく)()になっているのは置いといて、慌てて鏡の前に行くと、確かに私の頭に七色に光る角が生えていた。オパールのように混ざり合って、オパールよりも輝いていて、これは確かに目立つし神秘的に見えるだろう。


「こ、これは一体何……?」


 後ろ足で立ち上がって姿見に前足をついて鏡を見る私を、後ろから皆がホワワ~ンとした顔で見ているのが鏡に映っている。


 そのままチラッと振り返って皆を見ると、塁君とシンシアがバタバタと倒れていった。手元にはまたしてもダイイングメッセージ。


 仕方ないなぁ、見に行くしかない。


 タタタと走っていくと、シンシアは『歯数26本』と書き残して涙を流していた。どういうこと!


「う、上の歯が14本、下の歯が12本、犬歯は無しです……」

「知るか!」


 思わず激しくツッコんでしまった。前足でタシッとおでこを叩くと『か、かわいぃ~』とまた泣いている。怖い。


 塁君は『〇』と、丸を一個書いた状態で魂が抜けていた。


「ぜ、全部、〇……。〇だけで構成されてる……うぐぅ、胸が、胸が苦しいッ!」


 胸を押さえて苦しんでいるけど、心配する必要は無いな。目の前で丸まってムッチリほっぺを上げてニッコリしてあげると、目の前の塁君も、後ろのシンシアも、両方涙目でハァハァ言い出して頬を染めている。怖い。



「と、ところで、この角は何でかな。私変化する時七色のイメージなんてしてないと思うんだけど。そもそも必要ないこと考えながら変身出来るほどの技術が無い」

「あ、あぁ……それは多分、俺があげた指輪だ」

「えっ」

「石はマリンブルーだが、あれには七種類の魔法をかけてある」


 あの立て爪リングにはGPS、物理攻撃防御、魔法攻撃防御、魔法補助、健康補助、体力アップ、魔力アップの効果があったらしい。そういえば逃げてる時も機敏に動けていたけど、ナキウサギだからって以上にこの効果があったんだ。


「だから誰かがエミリーを捕まえようとしても、物理攻撃防御魔法で何度でも弾かれて不可能なんだ」

「そ、そうだったのぉ……」


 めちゃくちゃ怖かったのに……!


「あ、あとドラゴンなんて出てきて今後どうなるの?」


 シンシアはドラゴンの姫みたいなことになってたけど、今後の設定はどうしていくんだろう。そう思っていたらアウレリオ様が答えてくれた。


「クルス王国には神であるドラゴンの一族が住んでいて、シンはその姫だということになったよ。私が留学中に知り合って恋に落ち、身分上クルス王家の協力でハートリー家の養女になり、嫁いでくるって設定だね。ますます動物寓意譚(ベスティアリ)という国名にピッタリだよね」

「ちなみに今後はドラゴンエリアもオープンさせる予定です。男性客をターゲットにロックテイストを取り入れた商品を開発します。その際はエミリーも協力願います」

「う、うん」


 シンシアの観光戦略がもう始まっていて流石の一言に尽きる。ポカンとしていたら塁君が私を膝の上に乗せて追加提案してきた。


「年に一回シンシアが白竜になって祭りを開くのもいいかもな。世界中から本物のドラゴンを一目見たいと観光客が押し寄せるぞ」

「だったらルイ殿下も黒竜として五年に一回くらい友情出演して下さると、マンネリ化しないで済みます」

「マ、マジか……」


 そうしてベスティアリ国王ご夫妻との晩餐に出席する頃には、すっかりドラゴンエリアのコンセプトは固まっていて、ホーンラビットエリアにまで限定品として七色角のナキウサギグッズが並ぶことになっていた。








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