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106.諦められないネオの想い

 貴族令嬢への褒め言葉は転生してから度々耳にした。


 女性らしい立ち居振る舞いが優雅で素晴らしいだとか、婚約者のために努力する姿が健気だとか、可憐で守ってあげたくなる可愛らしさだとか。



 そして私が耳にしたオーレリア様を表す言葉達。


『凛として美しく賢くかっこいい。男の子だったら王の器だと思う程』


『颯爽としていてかっこいい。賢いけどユーモアがあり、責任感が強く美しい』


『相手が貴族だろうが平民だろうが、困ってる人がいたら助けずにいられない。優しく分け隔てない人』


 王女様を表す言葉として特に違和感を感じていなかったけれど、令嬢達への言葉と違い、『王子』を表現していてもおかしくないということに気が付いた。


 だって私でさえ『塁君みたいな人だな』って思ったのだ。『だからネオ君も二人に惹かれるんだ』って、確かに思っていたのだ。


 最初は何となくグレイスをイメージしていたけれど、オーレリア様はグレイスとはだいぶ違う。オーレリア様は確かに噂通りではあるものの、なんというかさっぱりしていて、女性特有のウェットな感じが無い。男っぽいと言われれば本当にその通りなのだ。



 私が頭の中でそんなことを考えていると、ネオ君は絞り出すようにオーレリア様に尋ねた。


「オ、オーレリア様、それは本心なのですか……? 世継ぎのことでご自分の希望を押し殺してはいませんか……?」


 動揺した様子のネオ君に、オーレリア様はふふっと笑った。



「私はね、年頃になっても月経が無くて、自分は女性として欠陥品なのだと感じていたんだ。これでは婿をとっても世継ぎが生めず、結局側妃を娶られたりすれば、我が王家の血筋が途絶えるうえに国まで余所の血族に乗っ取られてしまう。絶望的な気持ちだったよ。周りを安心させるために、毎月わざと体を傷つけて経血だと思い込ませていたから、その絶望は私だけが抱えるものだった。だから今こうして原因が分かり、自分以外にもそれを知っている人間がいる。それだけで何故か気持ちが楽に感じるよ」



 前世では初潮の遅いクラスメイトがいて、心配した母親に病院に連れて行かれたと言っていた。日本でさえそれくらいの心配事なのに、この世界でそれはどれほどの秘密だったのだろう。


「この国のためにすることがあると言って婚約者は持たなかったけれど、この秘密のせいでもあるんだよ」


 オーレリア様がたった一人で背負ってきた重圧を思うと、軽々しく慰めなんて言えなかった。


「女性として生きていくとしても子宮は無いし不妊。男性として生きていくなら健康体で子供も望める。私の人生に希望が見えたんだよ」

「やはり……世継ぎのためなんですね。ど、どうかお考え直し下さい。社会的役割は抜きにして、どうかオーレリア様ご自身が感じる自分の性をお選び下さい!」


 必死で説得しようとするネオ君に、ヴィンセントが言った。


「だけどさぁ、ネオ君だって弾かれたんでしょ? 俺のことも全力で弾き飛ばそうとしてたしさ。それなのにエミリー嬢だけ何度でも触れたんだよ? エミリー嬢溺愛のルイ殿下なら分かるけど、王女様の意識でだよ? それってルイ殿下と似たような脳の構造なんじゃないのかな」


 その言葉にネオ君は押し黙り、ローランドとブラッドは『確かに』と納得している。そしてダメ押しのように塁君も続けた。


「さっきも言ったが、こいつは俺の中にいる時、毎日手を握って話しかけてくれたエミリーに好意を持っていた。『声可愛い』『小さい手可愛い』『泣いてる慰めたい』って感情が、意識朦朧としている俺に流れ込んできていた。あぁ思い出すとまたムカつく!」


 怒り再燃で魔力が漏れ出始めた塁君を止めようと、靴を片方脱いだら塁君にバッチリ見られて魔力が引っ込んでいった。おぉ……効果ある……。



「で、ですが……脳はアンドロゲンの影響を受けませんから、性のアイデンティティーや指向は正常女性と同様に発達する筈です」

「ネオ、個人差があるんだ。アンドロゲン不応症じゃなくても性自認で悩む人間は大勢いる」


 ネオ君はどうしても納得できないようで、色々な理由をつけるけれど、どれも塁君に論破されていた。


「ネオ、私の性役割は男性で、性自認も男性だよ。今までも女の子達は可愛いと思っていたけど、今回エミリーに感じたものはそれ以上の感情だと思っているよ」


 オーレリア様は私の方を見てニッコリと微笑んだ。思わずドキッとしてしまったけれど、これは美しいからであって、ときめきではない。断じて違う。


「おいこら。俺のエミリーだ。笑いかけるな。見るな。減る」


 また塁君の魔力がチョロチョロと弱火で燻っているけれど、靴を脱ごうとする度に引っ込んでいく。いい制御方法を編み出した……。




「では今から俺は王女と共に国王夫妻のところへ行く。お前達は婚約者の元へ戻ってやれ。せっかくの自由行動日だ。エミリーは後で必ず迎えに行くから皆と一緒に回っていてくれるか」

「うん。待ってるね」

「ネオも一緒に王城へ行くよな」

「いえ……久々のご家族とのお時間ですし、僕は今日は遠慮させていただきます。シリウスの世話にも行きたいですし、仕事がありますので」

「そうか」


 ネオ君はそう言って一人塔を降りて行った。心配になるくらい肩を落としているけれど、もうこればかりは仕方ない。


 そうして私達は別行動すべく、それぞれ転移魔法で移動した。





 ◇◇◇





 二時間ほどしてから塁君が合流し、短い時間ではあったけれど自由行動日を満喫した。


 綿あめも改めて半分こしたし、メリーゴーランドも一緒に乗ったし、さっきとは別のウサ耳カチューシャも買った。エッグハントも楽しんだ。金ピカ特賞たまごは見つけられなかったけど、二等のホーンラビットファーバッグをもらえて大満足だ。


「エミリー、楽しいか?」

「うん! 塁君の目が覚めて本当に良かった! 一緒に回れて嬉しい!」

「久々にというか、初めてあんなに怒ってしまった……怖がらせてすまなかった」

「う、ううん……ボケっとしてた私が悪いよ……」


 二人で思い出してドーンと暗くなっていると、空まで暗くなってきて、突然ヒュルルルと音がしたかと思うとパーンと空に大きな花火が咲いた。


「わ、わぁー!」

「そういえばさっき国王が、研修旅行生のために花火を上げてくれると言っていたな」

「すごいね! 本当にテーマパークみたい!」


 前世では一度もデートしたことがない喪女の私。両想いの相手とこんな風にテーマパークデートするのが夢だった。その願いがベスティアリのおかげで叶った気がする。



 気が付くと周りはカップルばかりで、花火を見ながらイチャイチャしている。遠くでローランド達も婚約者とくっつきながら花火を見ている姿が見える。


 こ、この雰囲気は……と、たじろいでいると、塁君が私の肩を抱いた。


「エミリー、さっきの上書きさせて」

「う、上書き???」

「あれは俺の体だけど俺じゃないから、なんというか取られた気分で悔しい」


 さっきの魔力暴走のきっかけになった例のキスのことだよね。


「で、でも塁君の体だよ?」

「エミリー、しー」


 塁君の綺麗な顔が近付いてくる、と思った瞬間だった。



「ねぇねぇ、私の目の前でまたイチャコラする気?」



 背後からアリスが声をかけてきた。



「お、お前……いつもいつも邪魔しやがって……! お前だけレポート200倍だ……」

「げ! 大人げない!」

「大人げないのはお前だ! 今声かけてくんな!」

「私はレオもいないし一人だっていうのに」

「レオがいたってイチャコラなんかしないだろうが!」

「そ、そうなんだよね……それが大問題……」

「知るか! 邪魔すんな! クソスペースレンジャーが!」


 相変わらず天敵同士の第二王子とヒロインがギャーギャー騒いでいると、ずっとずっと遠くにネオ君の姿。


 あれ?


 隣にはうちの制服を着た女の子。


 女の子の方が積極的にネオ君の腕にしがみつき、体を寄せてネオ君を見上げている。



「あ、あの子一般クラスの子でね。ネオ君狙いだよ。ネオ君イケメンだからユニコーンのところで随分うちの女生徒達に囲まれちゃっててね。その中であの子が一番グイグイ攻めてたの」


 アリスが私の視線に目ざとく気付いて教えてくれた。


「次に恋するなら平民同士が障害も無くていいんじゃない? 私だって今となってはクリスティアン殿下攻略とか難しいの分かるもん。レオは別の意味で難易度高いけど、身分の壁が無いのは大きいよ」


 そうか、ネオ君は失恋したようなものなのかな。だったら新しい恋で失恋の痛みを忘れることはよくあることだし悪い事じゃない。


 そう思うのに、何だか胸がチリチリと焼け付くように痛んだ。







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