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アルメリア・トウカの覚悟

 端的にいえば予想外。

 臆病なシイナ・ミツキの性格を考えればリスクある異人の精霊との契約を結ぶことは考えられなかった。つまりは、慢心だったのだ。彼女の精霊術士に対する憧れの強さを示した結果だった。

 召喚以外で精霊と契約を結ぶリスクの高さは重々承知しているはずだ。過去に契約を結び現実に残った精霊や迷い出現した精霊。確かに、術士がそういった精霊と結ぶ前例はあるがそれはより洗練された術士に限る話だ。

 召喚もなしえない。得意属性も判明していない半端な術士ともいかないミツキでは例外の契約をしたところで、上手くいくはずないのだ。

 だからこそ、彼女の良識を頼り精霊決闘の行方を彼女自身の判断に任せたがそれは誤算であった。異人の精霊の入れ知恵もあっただろうが、あまりに軽率である。

 なぜなら、目の前に目覚めたのは単なる異人の精霊の枠に当てはまらない存在だったからだ。

「な、何ですのこれは……」

 アルメリア・トウカは自らの王族たる立場を忘れ面を硬直させる。王族たる気品を忘れ繕うこともせず、目の前の光景に唖然としていた。 

 それが目覚めた瞬間、ミツキはふっと意識を埋没させてその場で倒れた。その意味は精霊に全てを持ってかれたことを意味している。

 つまり、ミツキは異人の精霊と釣り合ってなかったのだ。

 そんなことは想像の範囲内だ。だが、それ以上に目の前の存在は災厄とも言えるほどの威圧を兼ね備えていた。

 それを感じ取った黒龍・ファフニールが雄叫びをあげた。

 ファフニールはその存在に、咆哮する。威嚇とも取れる行動だが、その存在は身体をピクリとも動かさない。その存在を纏う霊晶と魔力が徐々に強くなっている。それがまるで盾のように機能して咆哮をものともしていなかった。

 すると、藍色の瞳がファフニールの瞳を一瞥した。藍色の瞳はなおこく光を宿し、強大な龍さえ見下す獰猛さを秘めていた。

 ファフニールは怯えたように一歩後退りする。その瞬間、ファフニールの頭上に異人の精霊の姿があった。

 その存在は大きく飛び上がり、身体を捻らせて拳を作りファフニールの頭部を狙っていた。

 蛇の睨みも見たファフニールは身体を動かせずにいた。頭上で優雅に舞うその存在をチラと見たところで、身体は震えに勝てずその場から逃げられない。

 たった一瞬だ。その存在が目覚めファフニールの威嚇からほんの数秒後。その存在はファフニールの頭部を鋭く殴打した。

 その存在よりも数十倍以上体格の違う黒龍は無様に地に伏す。強烈な打撃は黒龍に多大なダメージを負わすだけなく、フェルト闘技場の地にヒビを生み出した。

「黒龍をたった一撃で……、ちっ……」

 不意に口悪くなるアルメリアはすぐに冷静さを取り戻し、黒龍・ファフニールに向けて手を向けて虚空で握りしめる。すると、黒龍は白い光となってその場から消える。

 アルメリアは咄嗟の判断で、黒龍を召喚から戻したのである。精霊とて大きな傷を被い続ければ消えてなくなる。その前に、安全な場所に帰したのである。

 して、それは同時に危険が迫ることを意味していた。

 燦然と輝く藍色の眼光がこちらを向く。

 元々結んであったはずの金髪だったその存在は結びがちぎれ長い黒髪にかえ靡かせている。そこに藍色の瞳とくれば、アルメリアでさえその存在が何かであるかを感じ取れた。

「災禍の姫……」

 闘技場の観客席で待機している騎士に合点がいく。彼らは災禍の姫が目覚めることを危惧していたのだ。だが、彼らはまだこの舞台に降りる素振りはない。

 彼らがすぐさま災禍の姫に対応しない現状に怪訝になる。が、今は目の前の災禍らしき存在にどう相対するかが求められる。

「トウカお嬢様! お下がりください!」

「あれはもはや化け物……」

 アルメリア側の控え室で待機していた双子の従者が出てきてアルメリアの前に出た。

「あなたたち下がりなさい!」

 従者を思う主人の言葉に、ショートの赤髪の二人は小さな笑みを作って正面に手をやる。

「もう決闘なんて言っている場合じゃありません。主人のお体を守るのが従者の役目、どれくらい持つか分かりませんが一発くらいは防げるでしょう」

「そうです……。あれは霊晶と魔力を従えた『二使い』の精霊。災禍や神獣、銀剣と同じ魔霊……、あれに対処するには霊晶と魔力を使わなければいけない」

 双子の従者は互いに力を掌に集中させる。

 丁寧な口調で話す柔らかい瞳の従者は、魔力を込めた。

 少しトゲのある口調でいう鋭い瞳の従者は、周りに霊晶を漂わせた。

 魔霊と称された異人の精霊は藍色の眼光を二人の従者に鋭く向けられる。

 どこか息をついたような素振りをしたと思えば、それは手を虚空に向けて上げる。その先は二人の従者だ。

 魔霊は口を素早く動かして、何かを発した。すると、向けられた手の先が眩く赤く発光し始める。

「――トウカお嬢様逃げてください!」

 二人の従者の声が揃う。次の瞬間、魔霊が込めた赤い発光は炎に変わり正面に放たれた。

 辺りを熱が支配する。言うなれば爆炎だ。先ほど異人の精霊が黒龍に向けたフレイムの魔法など日にならない質量を秘めた爆炎は正面に放出され、双子の従者二人が魔力と霊晶で一緒に受け止める。

 アルメリアは二人に庇われ、その後方で魔霊の力の振れ幅に驚き動揺をあらわにしていた。

 なんとか魔霊から放たれる爆炎を防ぐ双子の従者二人だったが、その顔に余裕はない。魔力や霊晶を糧に爆炎を遮っているが、向けた掌が徐々に黒く染まっていっていた。

 ただの爆炎ではない。アルメリアはそれに気付いて、懐から自分の血液の入った小瓶を取り出し虚空にその中身をばら撒き始めた。

 撒かれた血液は淡い光に変わり、霊晶になる。そして、魔力を込めるように手のひらで虚空を握りしめ片方の手で杖を取り出し正面に向ける。

「付け焼き刃ですが……この場くらいはなんとかなるでしょう!」

 王族らしからぬ不安げな面を広げ、呪文を口上する。

 爆炎の頭上に黒い雲が出来上がり、黒い雲から柱のような物体が垂直に落ちる。その反動で爆炎は消えたが、衝撃は消えず従者二人も身体を投げ出されてしまう。

 彼女たちを支える余裕もなく、二人を視線で追う。と、フェルト闘技場の上空で傍観に徹していた闇妖精のセラが二人が地面に叩きつけられる前にクッションとなる柔らかい空気の壁を作り出し被害を抑える。

「セラ!」

「トウカ様……ここは危険です」

 セラが苦い顔でいう。彼女の視線の先には、爆炎を相殺させた黒渦をものともしない魔霊の存在であった。

 藍色の瞳は鋭くこちらを見据える。

「……セラ、二人を連れてこの場から逃げなさい」

「トウカ様は?」

「私はこの行方を見守らなければなりませんわ。この決闘の監督として、ミツキの幼馴染みとして」

 アルメリアは秘めたる言葉を口にした。

「騎士が動かない理由は大方察していますわ。おそらく、期待しているのでしょうね。災禍が収まることを……」

 観客席で佇んでいる彼らを一瞥する。彼らは警戒している様子はあるが、まだ降りてくるような素振りをしていない。

 異人の精霊の重要さも災禍の偉大さを理解した上で、彼らが危険な賭けをかしていることは想像に難くない。

 それ以上に、アルメリアがこの場所を動きたくない理由はもう一つあった。

「ええ、貴様の言う通りですわ。私は愚かでしたわ」

 アルメリアは事を嘆くよう、また自責するようにいう。

 不意に、アルメリアは鼻血を流す。鼻を手で抑え、先ほど魔力を込めた代償を感じる。

 後ろの方で、闇妖精のセナが心配そうに面を作る。が、アルメリアは心配ないと告げた。

「異人の精霊ユウナよ! 貴様がミツキを庇うというのなら最後までその態度を示せ! 私の見せられなかった未来を見せなさい」

 アルメリアは鼻血を抑えながらいう。

 薄い藍色の瞳が前を向く。その瞳には王族といった身分を押し隠した素直な思いが宿っていた。

「ミツキ! 精霊術士になりたいのならさっさと目を覚ましてその信念を見せなさい! ミツキの覚悟は受け止めましたわ。だから、私もミツキの覚悟を信じますわ!」

 ミツキが本契約を至った経緯を考えれば余程の覚悟がある事を察せる。ならば、相応の覚悟をアルメリア自身も示さなければならない。

 自分のやり方を改め、ユウナがミツキを庇った事を加味して決意を秘めて対峙する。

 騎士たちが本格的に動く前に、ミツキが目覚めユウナを制する事を信じてアルメリアは再び魔力を込める。

 精霊術士のアルメリアでは魔力を込めることはデメリットでしかなく、身体に害がある。けれども、魔力と霊晶のその両方を使わなければ魔霊となった異人の精霊とは相対できない。

 鼻血を出しながら、僅かな時間を稼ぐ。

 これこそが今までミツキを信じられていなかった報いだと思って。

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