ーーそれは運命か
学院を離れ教会へと来たユウナ。
荷車とシロを教会裏手から入り、専用の倉庫に仕舞った。
ユウナは御者台から降り立ち、シロを優しく撫でる。そして、荷車の方を一瞥した。
「……誰かいるの?」
ポツリと呟くように荷車の方に問いかける。
ユウナの勘違いじゃなければ荷車に誰かが潜んでいる気がしているのだ。すぐに布を取っ払って確認してもいいが、問いかけて自分から出てくるならその方がいい。
そう思って問いかけるが、返事はなく。虚しく言葉が空気に溶けた。
気のせいとは思えない。荷車にかかった布はわずかに動いている。隠れるならちゃんと隠れて欲しいものだが、当人にその器用さはないようだ。
小さく息を吐いて近づこうとする。すると、布の隙間から淡い小さな光の塊が抜けるように飛び出してきた。
見覚えのある光だった。学院で目にした雪のような謎の物体に酷似している。
興味が惹かれたが布の中にいる人物の方が気になって荷車に近づこうとするが、雪のような光の物体はユウナの前で急に眩いて輝き始めた。
その瞬きに、ユウナは視界をやられる。奪われた視界の中、聴覚を研ぎ澄ませる。布が擦れるような音がし、荷台から飛び降りてくるような音が聞こえる。
確実に誰か乗っていた。無策に手を伸ばして掴もうとするが、指先が何者かに一瞬触れた感覚だけでその相手は捕まえられなかった。
視界は晴れ、すぐに後ろ振り向く。そこには後ろを振り向かずに逃げようとするフードをかぶった黒ローブ姿があった。
「ま、待ちなさいよ!」
その制止を聞くはずもなく、相手は姿を消していく。
こうしてはいられないと、ユウナは本能的に追い始める。
倉庫を走って出たところで、驚いた表情で目を吊り上げるナミエに遭遇する。
「あら、ユウナ。戻ったのね? さっき、誰か走って出て行ったけど、お前の知り合い?」
「そ、その人、荷車に隠れてた人だ!」
「隠れてた?」
戸惑うナミエを他所に、ユウナは両手で感謝を示し教会外へと急ぐ。
状況に置いてきぼりのナミエは、不思議そうにユウナを見送った。
ユウナは足の速さに自信がある。他の女子に比べて運動もできるし、体力もある。相手に先手を取られたものの、目の前に黒ローブ姿の人物を捉えていた。
制止を求めながら追っていくものの、相手は止まる気配がない。距離は縮まっているため、このまま追っていけば相手を捕まえるのも時間の問題だろう。
教会を抜け、大通りを走り。路地へと入っていく。相手は人目のつかないところを選んで脱げているだろうが、路地に入ったところでユウナの手は相手のローブを掴んだ。
「待って、って言っているでしょう!」
ローブを掴んだ瞬間、フードが脱げる。
フードが脱げるのを見て、急に力が緩み手がローブから離れ下す。
「な、なんで追ってくるんですか……」
目の前に現れたのは弱々しい声で拒絶する少女。彼女はフードを戻すことなく、視線を下ろしたままこちらに体を向けてきた。
ユウナは突如、声を失う。口はポッカリと開き、藍色の目が疑わしい現実を見るかのように震えている。
ボブまで垂らした茶髪、髪先は乱れたような巻き毛だ。その面は優しく気弱で、赤色の目の中に自信のなさを秘めている。
弱々しい少女。人と会話をし慣れていないのか、目線を合わせてくれない。
ユウナが驚いたのはその姿で、ユウナの知っている人物の顔そのものだったからだ。
ユウナは不意に口にする。
「ミツキ……?」
その名を口にすると、目の前の少女は一瞬驚いたような顔をするがそっぽを向いてごまかした。
「……私はミツキなんて名前じゃないです」
「ち、違うよ……。ミツキだよ、私の知っているミツキだ!」
驚き感動するユウナ。その相手はただ当惑気味に、視線をそらしている。
異世界に来て、なんの起伏もなく出来事もなく過ごしてきた。
そして、初めて異世界に来たという意味がある。――本能的に感じていた。
元の世界の妹、美月と似た少女と出会って。




