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第一話 ハルの邂逅録

更新再開まで少し間が空きましたので、これまでのあらすじを振り返りえるつもりで書きました。


 私はハル・ブレッタ。

 二十一歳の新婚夫婦だが、皆が羨むほどの楽しい新婚生活を送っている訳では無い。

 夫婦仲は良好だと思っているが、私達が送っているその環境が良くないのだ。

 時はゴルト歴一〇二四年八月。

 私達は狭い馬車に揺られる生活を一箇月も続けている。

 ボルトロール王国の王都エイボルトを出発してからゴルト大陸を西に向けて山岳地帯の旅を続けていた。

 一緒に旅しているのは百名ほどの集団。

 ほぼ全員が私と同郷の出身者であり、同じような境遇――つまり異世界人である。

 一台の馬車には十名ほどしか乗れないので、護衛も含めて十台以上の隊列を組んだ大旅団はこの山岳街道でも珍しいらしい。

 そして、馬車に乗る人達の雰囲気は重苦しい。

 決してこの旅を自ら望んで楽しんでいない事など明白だ。

 

「もう少しでエイドス村ね。今日はそこで休みましょう。あまり無理し過ぎると、旅慣れしてない人達ばかりだから・・・」


 私は夫にそのような提案をする。

 

「そうだね。皆、疲れている様子だ。体力面だけじゃなく、精神面がね。目的地までもう少しだけど、ここで無理しても仕方がないし、旅の路銀も問題ないからエイドス村で一泊しよう」


 夫も私の意見に賛成してくれた。

 尤も、この夫――アクト・ブレッタは私の意見を否定するなんて事は滅多にない。

 それは彼が私に対して全幅の信頼を持つからであり、言い換えれば、私は彼に愛されまくっている。

 私と夫が出会ったのは二年前。

 私達が出会ったのはゴルト大陸の西部、学園都市ラフレスタだ。

 当時の私は帝国の中でも魔女の最高学府と言われるアストロ魔法女学院に在籍し、夫は帝国騎士のエリート校ラフレスタ高等騎士学校に在籍していた。

 今考えれば、夫とは数奇な運命で出会ったと言えるだろう。

 私と夫は妙な縁で行動を共にする事が多かった。

 単に同じ時間を過ごす事で互いの絆が深まっただけと言えば、そうなのかも知れないが、私達はこうなる運命だったと信じたい。

 それほどまでに夫とは互いに深い絆で結ばれている。

 そんな私達はラフレスタの騒乱に巻き込まれた・・・私達こそその騒乱の中心だと失礼な事を言う一部の人間もいるが・・・私達がその騒乱を解決した結果、英雄的な扱いを受けてしまう。

 そして、あれよ、あれよという感じで、帝都暮らしをふたりで初めて、気がつけば、南国の神聖ノマージュ公国にいたり、辺境の中央部を突破したり、エクセリア国とボルトロール王国の戦争に立ち会ったり・・・そして、そのボルトロール王国の兵士の中に、私の同郷の者がいる可能性の情報を得た。

 私の目的は、お父さん、お母さんを初めとした転移事故で生き別れになってしまった同郷の人々と合流する事である。

 私は彼らとの接触を願い、ボルトロール王国へ侵入する。

 そして、奇しくも、その望みは意外と早く叶えられたけど・・・久しぶりに再会した弟はボルトロール王国で『勇者』をやっていて、戦争の矢面に立つような存在になっていた。

 父は転移事故の責任で精神的に追い詰められた事が原因かどうかは定かではないけど、若年性痴ほう症を発症して廃人状態。

 母はその看護に付きっきりの生活と最悪の状況だった。

 そして、王国内には『研究所』なる組織が存在していて、ボルトロール王国側に最新の兵器を供給して戦争の片棒を担いでいたのだ。

 その『研究所』には自分と同郷であるサガミノクニの人々が多く働かされている。

 嫌々働かされているならば、強引に救出して脱出させるのは容易だと思っていたが、どうやら詳しく聞くと、嫌々でもないらしい。

 これは詳しい調査が必要だと、私は自らその組織に侵入を試みる。

 上手く潜入できたが、その『研究所』で知ったのは自分と同級生だった斎藤(サイトウ)敏夫(トシオ)が第二研究室長・副所長というポストに就いており、彼が率先して新兵器を研究開発している姿だった。

 (トシくん)の真意を見極めるため、さらに接近を試みたが、ここで私は失敗してしまう。

 (トシくん)の開発した心を支配する魔道具に捕まってしまったのだ。

 心を支配されて自我を失いかける私。

 しかし、そこで運良く、白魔女の仮面を使う事ができた。

 私の開発した白仮面の魔道具の方が性能良く、トシ君の支配魔道具の影響を阻害できた。

 私は支配されたふりを続けて、研究所組織の中に居残る。

 目的はこの研究所組織が『悪』なのかどうかを見極めるためだ。

 もし、本当に私利私欲に走り、他人の事をどうとも思わない人達ばかりであったら、彼らを見捨てる覚悟だった。

 しかし、調査して得た結論は、彼らの根本は悪ではないという事。

 トシ君は一応、自分が悪事に加担している自覚はあり、異世界に召喚された他の人達の立場も考えて協力している事が解った。

 ただし、彼は魔法という技術を探求する好奇心に憑つかれていた事は否めないが・・・

 それでも私が兵器開発をやめて欲しいと懇願すると、素直に言う事を聞いてくれたので、彼は無罪であると判断した。

 その他の人々も自分が悪事に加担しているという意識は薄いものの、それでもこの研究所の活動が正しい姿ではない事は自覚しているようであった。

 研究所の所長やその周囲の一部の者だけは自ら率先してこの悪事に加担しているようだったが、それも大きな視野で見れば、この研究所全体を構成する多くの人々は悪ではないと判断できる。

 なので、私は彼らを救う事に決めた。

 さて、どうやるか・・・そんな悩みをしていると、運悪く事件が発生する。

 王都エイボルトで大規模な反乱が起きたのだ。

 反乱の首謀者は悪の組織『名も無き英傑』。

 過去にボルトロール王国に滅ぼされた小国の有志達が集まってできた大規模な反乱組織。

 それは言うなれば、いままで他国に戦争を仕掛けてきたボルトロール王国の政策のツケが回ってきたようなもの。

 本来ならば、私の知った事ではないが、その『名も無き英傑』は人道に反する行為を己の心情を優先させてなんでも実行する悪のテロ組織だ。

 今回の大反乱もその組織の幹部シャズナ・ロックウェルが、こともあろうに我が弟、隆二の心の乗っ取るという卑劣なやり方をしていたから、本当に赦せない。

 しかもその大規模反乱に利用したのは『研究所』の開発した支配魔法の魔道具が原因。

 これにより多くの人々が騒乱に巻き込まれて死傷した。

 私と夫の活躍で大規模になる反乱は何とか鎮められたけれど、無実の人々が死傷し、特にその被害者の中には王族も巻き込まれていたから責任問題へと発展する。

 結果、弟は『勇者』を強制的に引退。

 研究所職員は国外追放の刑となった。

 これは異例中の軽い処置だと思う。

 そこには私達の活躍もあったが、それ以上に銀龍スターシュートが私達の後ろ盾になってくれて王国側へプレッシャーをかけた事も効果を発揮している。

 ついでに戦争中だったエクセリア国とも講和をさせて、国交を関係修復――元々、良かった訳じゃないけど――させた。

 これにもいくつか訳がある。

 私達の追放先をエクセリア国に設定した事もひとつ、それは安全な旅程を確保するためだ。

 エクセリア国の中枢には私の知り合いが多くいる。

 私達の今後の生活で、多少の融通を聞いてもらうのにエクセリア国はうってつけの環境が整っている国である事。

 そして、ボルトロール王国がサガミノクニの人々の技術力に未練を持つ事だ。

 完全に手の届かない別国へ逃げてしまうよりも、多少連絡のつく範囲の距離感ならば、国外追放の刑も認めやすい。

 私の狙いは的中し、セロ国王はこの条件で納得してもらった。

 こうして、私達は無事にボルトロール王国からエクセリア国へ向かっているのだが・・・

 

ジリリリ・・・


 ここで各々馬車に設置した連絡用の魔道具の呼び鈴が鳴る。

 私は大方の呼び出しの内容は想像できたが、一応確認のため応答をする。

 

「ハイ。こちら一号車のハルです・・・解りました。また(・・)、二号車で隆二が揉めているのね。解ったわ」


 重い息を吐き、私は白魔女の仮面を装着する。

 

「ちょっと二号車へ飛んでいくわ」


 白魔女の変身した私は身軽に走行中の馬車の窓から飛び降りて、空中を蹴る。

 

「僕も行こうか?」


 顔だけを出した夫からはそんな言葉も出たが、私は遠慮した。

 

「大丈夫よ。今日はまだ乱闘になる前みたいだから、私だけで止められる。もうすぐエイドス村に着くから、もし、興奮しているようだったら、隆二だけを馬車の屋根にでも縛り付けとく」


 私はそう述べて、二号車に向けて飛んで行く。

 これは旅でもう何度目になるか解らない喧嘩の仲裁。

 ある意味でこの旅での日常の一幕であったりもする・・・

 


2022年9月20日

いよいよ後半戦が始まりました。更新タイミングは前半戦と同じく、毎週火曜6:00、金曜6:00になります。お楽しみに。

※R15版は、オリジナル版とのバランスの関係で次話更新は来週の火曜日となります。ご承知おきください。

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