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第十二話 大反乱の責任と交渉

 大反乱が終息した現在、これに加担した関係者は縄で縛られ、セロ国王の前に晒されている。

 首謀者のシャズナが消滅してしまったので支配魔法は既に解けており、支配された人々は無害であったが、それでも何かあるといけないので後ろ手に縄で縛られ、逃亡を阻止している。

 今回の大反乱に加担した人物は戦闘に直接的に関わる兵士と研究者、間接的な傍観者も含めると約五万名を超える。

 未だかつてない規模の大反乱であったが故に、異例の対応をしなくてはならない。

 現在、彼らが現在集められている場所はドラゴ闘技場。

 これぐらいの広さがないとこれほどの規模の罪人を集められない。

 別に全員を集めなくても主要な役割を担った代表者を玉座の間に収集してもよかったのだが、反乱後の大混乱で王城内も滅茶苦茶になっていて使えない。

 ならばと、セロ国王は闘技場で沙汰を言い渡すことにして、ここを選択していた。

 

「ううぅぅ、我々は支配されて利用されただけであり、無実です」


 この場でワザとらしく自分達が無実であるとアピールしているは研究所所長カザミヤ。

 彼が得意としているいつもの詭弁で、この場を乗り切ろうとした。

 しかし、セロ国王は・・・

 

「研究所の諸君らがシャズナの支配魔法を受けていたのはよく解っている。しかし、君達の行動の結果、約四百人が犠牲になった。その責任は誰が取るのかね?」


 セロ国王の冷たい物言いにカザミヤ氏の言葉が止まる。

 セロ国王がここで述べているのは王城の城門に向かって消滅弾を放った一件の事だ。

 狙いも本命だったセロ国王の暗殺には失敗しているが、あの砲撃で死傷者は多数出ていた。

 ここで下手な言い訳をすると、殺される・・・そんな嫌な予感がカザミヤの脳裏に過る。

 

「そもそも、お前達研究所の造った支配魔法が敵に鹵獲されてこうなったんだ。この役立たず共!」


 さらに厳しい追及をするのがメルトル・ゼウラー東部戦線軍団総司令。

 高圧的な言い方が頭にきたのか、ここでカザミヤは反論してしまう。

 

「それは貴方達のイドアルカ機関が我々の開発した魔道具を横流ししたからでしょう! 管理不十分はボルトロール王国の方だ」

「何だと! 異世界人のくせに、無礼者め!」


 ロキシー・カイトが激怒した。

 他人のせいばかりにするカザミヤの態度が許せなかった。

 現役軍人の怒鳴りは所詮素人であるカザミヤを黙らせるには十分な迫力があり、いつも饒舌なカザミヤの口もこれで封じられてしまう。

 この時のカザミヤの反応は正しい。

 もし、カザミヤが(ぶん)(わきま)えず、このまま反論を続けていたのならば、カザミヤは謀叛人としてロキシーに斬られていただろう。

 ロキシーは北部戦線軍団総司令。

 一般身分の王国民を処断する権利も持つ。

 軍隊での階級制度が一般国法にも拡張されて適用しているので、この国で民主主義の常識は通用しない。

 戦争国家とはそんな非情なものである。

 この状況が拙いと思ったのか、研究所の副所長の立場であるトシオが口を挟んできた。

 

「カザミヤ所長、拙いです。ここは我らにも非があったとを素直に認めるべきです。兵器が敵に鹵獲されたときの対処を怠っていましたし、そこを追及されれば、これ以上の言い訳は難しいと思います」


 そんな自分達の責任を認めるトシオの発言により、ロキシー・カイトの怒りは幾分収まる。

 このとき、トシオを不思議な感覚で見る者がいた。

 それは所長の第一夫人のカミーラ。

 

(トシオさんのお陰で命拾いはできましたけど・・・トシオさんはあの時に死んだんじゃ?)


 彼女がそう思うのはシャズナから消滅弾の二回目の発射命令を請けたとき、それに反対したトシオを邪魔者として自分が処断した記憶を持っていたからだ。

 あの時、カミーラも支配魔法の制御下にあり、いまいち記憶は定かではないが、それでも自分がトシオを殺したという感覚は残っていた。

 その後にシャズナがハルと漆黒の仮面騎士に敗れて、そして、研究所へ王国軍の討伐隊が雪崩れ込んで大混乱になった時、気が付けば、トシオは健全なままだった。

 何かがおかしいと思うカミーラ。

 しかし、考えても解らない。

 やがて、この事は深く考えてはいけない・・・と誰かに言われたように気がして・・・やがて忘れてしまう。

 

「まあ、トシ君の言うとおりね。我々の故郷にも『製造物責任法』ってのがあるじゃない。それと同じよ。兵器とは使用者の意図によっては悪にも正義にもなる。そこに使用者制限をかけなかったのは研究所側の落ち度だと言われても言い逃れできないわ」


 白魔女ハルはそう述べて、この件は研究所にも責任の一旦があると認めた。

 ぐうの音も出ないカザミヤ所長。

 カザミヤの心には「余計な事を言うな」とハルへの非難に溢れていたが、今はこれ以上反論する事を我慢している。

 カザミヤもこの状況では自分達の分が悪いと感じていた。

 だから、いつもの詭弁が出ないのはそこにあるのだ。

 その事が心の透視で解っているハルだから、このような対応をしていたりするのだ。

 そして、ハルは既に今回の一件の落とし処を考えていた。

 

「こんな事件が起きてしまうと、もうこの王国内で研究所の存続は・・・」

「うむ、できぬな。一般国民や儂の息子達にも死者が出ておる。この大反乱はボルトロール王国の歴史始まって以来の大騒動になった。結果、誰も責任を取らないという形では終わらせられぬ」


 悲痛な面持ちのセロ国王。

 彼にしても自分の嫡男――出来が悪かったジン王子は別にしても、出来の良かった次男と三男――が騒動に巻き込まれて死亡してしまった事実は受け入れ難い。

 

「それならば、糾弾されるのは反乱を企てた組織『名もなき英傑』でしょう。我々は被害者です!」


 ここでまた声を大にしてそう訴えるのはカザミヤ所長。

 そんないつまでも自分を守る姿にウンザリしているセロ国王。

 流石にそろそろ危ないと思った白魔女ハルが口を挟んだ。

 

「カザミヤ所長、『名もなき英傑』が責任を取るのは当たり前です。だけど、セロ国王は、いや、ボルトロール人は責任を取るのがそれだけでは足らないと思っているのよ」

「いや、しかし・・・我らは利用されただけなのだ・・・我々は・・・」

「煩いわね! 子供じゃないのだから、いい加減受け入れなさい!」


 ハルが怒鳴る。

 ピシッと空気が張り詰めた。

 何かの魔法を作用させて、カザミヤ所長の詭弁が強制停止される。

 この姿に清々するセロ国王。

 国王を初めとしたボルトロール王国の幹部の心の中で白魔女ハルの評価が上がった瞬間でもあったりする。

 

「まあ・・・それでも諸悪の根源である『名もなき英傑』は確実に処断するんでしょうね?」

「当たり前だ。残党も含めてすべて逮捕して掃討する。幹部のグリッサンドがまだ捕まっていない。このグリッサンドに支配魔法の武器を横流しした者も捕らえる予定だ」


 その国王の言葉に密かに戦慄しているのはカミーラであった。

 彼女が緊張しているその理由とは、グリッサンドが元に所属していた組織『イドアルカ特務機関』に捜査の手が入るという事である。

 

(お父様が疑われている・・・)


 カミーラはそう思いつつも、そこは言葉に出せなかった。

 彼女は生粋のボルトロール人であり、流石にこの場の雰囲気を完全に読めていた。

 ここで悪目立ちをして、セロ国王の心象を悪くしてしまえば、怒りの鉾が自分に向きかねないと思ってしまう。

 だから、彼女は黙りを決めたのだ。

 そんな態度も解ってか、ハルが解決策をセロ国王に提案する。

 

「研究所組織は解体、勇者は引退させる。それでいいわね」


 この言葉はセロ国王に対してであり、当事者には了解など貰っていない。

 

「なっ! 姉ちゃん、何を!?」

「この女。一体どういう権利でっ!」


 リズウィとカザミヤがそれぞれ不服を申し出たが、ハルは彼らを相手にしなかった。

 今、彼女が会話しているのはセロ国王とである。

 

「・・・」

「・・・」


 互いに無言だが、ここで両者は視線を外す事はしない。

 重い雰囲気が周囲を支配し、リズウィとカザミヤからの不服の声もやがて小さくなる。

 幾何かの刻が経過すると、やがてセロ国王の方から視線を外した。

 

「・・・ふふ、貴殿は女傑と言ったところか、まぁいいだろう。其方の胆力と今回の働きに免じて認めてやろう。どうせ褒美を与える必要もあるのだ」

「ありがとう、王様。やっぱり話が解るわ。という訳で、今回の騒動の責任を取り、私達サガミノクニの人々は国外追放の刑ね。エクセリアに亡命させるわ」


 しかし、亡命らついては難色を示すセロ国王。


「むむ。さすがにそこまでは許可できぬ。異世界人は類稀な技術力を持つ。それをみすみす敵国に渡す訳にはいかぬ」

「ならば、その敵国と和平を結びましょう。平和協定があれば貿易もできるわ。彼らにもう兵器を開発させるつもりも無いけど、それでも有益な技術が開発できれば融通してもいいわ。互いにプラスとプラスの関係にする事も可能な筈よ」


 思いきった事を言う白魔女。

 白魔女ハルの提案内容を検討してみるセロ国王だが・・・ここは部下のアトロス・ドレインが異を唱えた。

 

「白魔女のハルさん、貴女はとても力を持つ女性である事は認めます。しかし、貴女はエクセリア国の代表ではないでしょう。安易に和平を結ぶ事など、できる訳がない」

「・・・そうね。確かに私はエクセリア国の政府の人間ではないわ・・・ないけど、国王と王妃には個人的なつながりと貸しが一杯あるのよ」


 ハルは悪戯っぽく笑う。

 その姿はどこか現世から卓越していて、気持ち悪いぐらいに正論を述べているような気にもさせる。

 

「何を莫迦なことを」


 しかし、アトロスは首を横に振る。

 確かにこの女性は魔術師として大きな力を持つが、国家の命運を決めるような判断や政治的な責任までは取れないと思っていた。

 

「アトロスさん、アナタが私の事を疑うのは至極まっとうだわ。それならば、エクセリア国の代表たる国王と王妃からその言葉を聞かせれば、納得をしてくれる?」

「・・・うむ。確かにエクセリア国王自ら和平を望むならば・・・な」


 このときのアトロスはハルが口からでまかせを言っていると思っている。

 だから、呼び出せるものなら本当に呼んでみろとの態度だ。

 しかし、ハルは本当に個人的な伝手と呼び出す手段を持っていた。

 ここで彼女は迷わず腕輪状の魔道具に魔力を込める。

 

プルルル・・・


 この世界に似合わない電子的な呼び出し音が鳴り、しばらくすると相手側から応答があった。

 

「あら、ハルさんですか? 久しぶりですね」


 品があって明るい女性の声が腕輪より聞こえた。

 姿は見えないが、その声色だけで相手が美人で品位の高い女性に違いないと解るものであった。

 

「こんばんわ、エレイナ。こちらはまずまずよ。アークと他の皆も元気にやっているわ」

「それは良かったです。ボルトロール側に侵入してから連絡が無かったものですから、夫もハルさんの事を大いに心配していたんですよ」


 そうするとエレイナの声の後ろで男性の声が「オイオイ」と言う声が聞こえる。


「あら、ライオネルも近くにいるの?」

「・・・ええ」


 少し迷いがちでそれを肯定するエレイナ。

 何か変だと思いながらもハルは会話を続ける。


「ちょっと、いろいろあって声だけじゃ面倒だから、映像に切り替えるわよ」

「わ、ちょっと待って・・・」


 何故か焦るエレイナの声だが、それよりも早くハルは映像魔法へ切り替えてしまった。

 そうすると、薄い夜着を纏う男女の姿が映像に映る。

 その映像現場は王の寝室であり・・・つまり、彼らは夜の営みの前段階の状態だったようだ。

 

「わっ! 拙い」


 ハルは慌てて、映像を別のものに切り替える。

 お花畑で子供――サハラ――が遊ぶ映像。

 その映像の中心にゴルト語で「しばらくお待ちください」とテロップが浮き出る手の込みようである。

 この映像に一部の者から笑いが零れて、不本意にも場が和んでしまったのは言うまでもない・・・

 しばらくすると、エレイナ側から「もう映して良いですよ」との許可が出た。

 再び映像をつなげると、身なりを整えたふたりの姿が映像に現れる。

 場所は王の私室のままだが、それでも為政者として最低限の威厳は保たれた格好である。

 

「突然、申し訳なかったわね」


 ハルは一応謝るが、その目の奥では笑っていた。

 

「まったくですよ。ハルさんから呼び出しある時はいつも・・・ひょっとして狙っています?」


 エレイナは抗議の声を挙げるが、それでも本気で怒っている訳でない。

 このやりとりからハルとエレイナが友好的な関係であるのは他の人にも解った。

 

「そんな訳ないでしょ! ちょっとこっちでもトラブルがあって、急遽話をつけたい案件があるのよ」

「ハルさん、こちらでもそちらの映像を確認できていますが、すごい所に居ますね」


 ライオネルがハル側の映像を見て、そんな心象を述べる。

 

「そうなのよ。ここは王都エイボルトの闘技場・・・名前は・・・いや、今、そこは重要じゃない・・・ちなみに、こちらにいられるのがセロ国王ね」


 ハルからの突然の紹介によりライオネルの顔に緊張が走る。

 敵国の国王なので当たり前の反応である。

 それを察するハルだが、敢えて何でも無いように今回の要求を短く伝える事にした。

 

「いろいろあって、ボルトロール王国とエクセリア国で和平を結びたいの」

「ほへっ?」


 この時、素で反応してしまったエクセリア国王の間抜けな顔はボルトロール王国の人々に後々まで印象に残るものであったのは言うまでもない・・・

 

 

 

 

 

 

 その後いろいろとあったが、結局、ハルの提案した和平案は受け入れられる事になる。

 異世界人がボルトロール王国で居場所が無くなってしまったことに加えて、国外追放するにしてもエクセリア国ならば身の安全が保障される事。

 異世界人はハルと同じように高い技術を持ち、国としての発展に期待できる事。

 その技術をエクセリア側だけで独占せずに、ボルトロール側にも供与を約束する事で、国家間の軍事のバランスを公平に保つ事。

 ボルトロール側もエクセリア国とは軍事的な緊張が無くなるため、何らかの利益が見込めるのだ。

 その上で、この和平には銀龍スターシュートが連帯保証人として名乗りを上げ、もし、和平が乱されるような行為があれば、銀龍から相手側に制裁を加えるとの脅し・・・

 結局、最後にはこの脅しが一番効いているかも知れないが・・・それでも互いの国王が承認すれば、それで和平は締結となる。

 

「我の国内でもボルトロール軍に対してはマイナスのイメージを持つ部分もあったりするのだが、前向き思考で和平を結びましょう」

「ライオネル殿、それは気持ちの良い判断だ。貴君の統率力に期待しよう。我らも侵略だけが進む道でない。同盟国家というのも悪くない」


 互いの国王はそうまとめて和平を締結した。

 

「それでは、我々も異世界人を受け入れる準備をしましょう。代わりにこちらからは捕虜を身代金無しの無償で釈放します。ボルトロール王国の兵は高級なワインを好むようで、捕虜扱いのままでは金がかかって仕方がないのですよ・・・ハハハ」


 そんな愚痴がライオネル国王より漏れ出たが、その冗談の意味がセロ国王には上手く伝わらなかったのは余談だ・・・

 だが、こうして白魔女ハルの働きにより、ボルトロール王国とエクセリア国に和平が成立し、異世界人達はエクセリア国へ生活の場を移す事となる。

 


次話は明日公開します。

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