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第三話 大反乱


「これからの戦争の形を考えるとこれまでのようにはいかない。先の戦争でエクセリア国に勝てなかった意味は大きい」


 セロ国王は王城の特別作戦会議室で各方面の戦線軍団総司令を集めて会議を行っていた。

 本日の議題は今後の軍事行動の方針についてである。

 東部、北部、南部のゴルト大陸各方面に存在していた小国の制圧は完了しつつあり、残るは西側の大国エストリア帝国と最近その帝国領の一部を割領されて誕生したエクセリア国、これに加えてゴルト大陸南西部に鎮座している宗教大国の神聖ノマージュ公国、これらの国家にどう対処するかである。

 

「エクセリア国以外は大国で歴史ある国家で軍事力も強大。今までと同じ小国を攻めるやり方では成り立ちませぬ・・・そして、この中で一番攻略が容易だった筈のエクセリア国ですら先刻失敗したばかり。我ら軍務関係者からも慎重な意見が続出している次第です」


 総司令の中で年長者である東部戦線軍団総司令メルトル・ゼウラーからは慎重な意見が出された。

 

「エクセリア国との戦争は敗北を喫したが、あれこそ想定外中の想定外。銀龍が人間の戦争に関わるなど今までありませぬ」

 

 南部戦線軍団総司令ベルク・ヴォントはそう意見具申する。

 これはある意味、西部戦線の失敗を擁護するような発言でもある。

 

「そうなると、次に勇者殿が行動を起こす王子革命軍の働きが重要になってきますな。あの勇者は凡人と違う何かを持つ気がします。いやいや、私がかつて彼に救われたからと言って身内贔屓している訳ではありませんよ」


 北部戦線軍団総司令ロキシー・カイトもそう続いた。

 その意見にセロ国王も頷く。

 

「そうだ。儂もその期待あって、彼らに再侵攻の許可を出したのだ。もし再び銀龍が戦列に加わったとしても勇者が功を焦り勝手に始めた戦争だと言い訳もできる。銀龍の出方を見るのにはちょうど良い」

「国王もお人が悪い。勇者を捨て石に使うとは」

「必ずしもそうは言っておらん。もし、勇者とジン王子が勝利を掴むならば、それなりの恩賞を与えよう。リスクある事に挑み、成果を掴み取れたのならば・・・」


 セロ国王のそんな言い方に各軍団総司令が目を細める。

 彼らとしても自分達の従える軍組織以外に国家から重用されて軍事行動をされるのは面白くない。

 だがしかし、国王の言うとおり、小国を攻め滅ぼしていたこれまでと大国を相手にするこれからとでは戦い方が変わってくるのも事実。

 そして、今回は銀龍と言うゴルト大陸で最強戦力と対峙する可能性もあるのだ。

 そこで王子革命軍からの再侵攻の申し出はある意味彼らにとっても渡りに船だったりする。

 運良く銀龍に勝てればいいのだが、この銀龍は人類の有史以来負け無しの強敵だ。

 銀龍と対峙して敗北という結果は、国家権力としてボルトロール王国と深く関わる攻撃隊ほど連鎖的に王国滅亡を導く可能性も秘めている。

 その難しい局面に王子革命軍が自ら単独で軍事行動してくれると言うのであれば、彼ら――と言うよりも国家としてメリットある行為だったりする。

 そんな背景を国王自らの言動も得る事で各軍団総司令達は納得できた。

 

 これまでは・・・・

 

ドーーーーーン!

パリーーン!!


 突如、王城に爆発音と衝撃が響いて、大きな地響とそれまで机上を飾っていた花瓶が落ちて割れる。

 

「な、何事だっ!」


 突然の衝撃に驚くセロ国王は会議室の窓より外を確認した。

 そうすると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 

「王城の門が・・・消失しただと!」


 王城の入口建屋が丸ごと消失している。

 この光景を目にしたセロ国王は一瞬のうちに事態を把握する。

 こんな事ができるのは研究所で製造した列車砲より発射された『爆縮弾』しかない。

 当然だが城内は大混乱に陥る。

 突然に襲撃を受けたのだから王城内に務める職員は右に左に大騒ぎ。

 しかし、練度の高いボルトロール王国の近衛兵だけは優秀であった。

 

「セロ国王。大規模な反乱です」


 すぐに王に現状を知らせるため、近衛兵が会議室へ飛び入ってくる。

 そして、冷静なのはセロ国王も同じ。

 

「解っておる。これは『爆縮弾』だ。研究所の開発した秘密兵器による攻撃。そして、その列車砲を現在所有しているのは王子革命軍。あ奴らめ、裏切ったか!」


 セロ国王は直ぐに全貌を把握した。

 

「そのようです。既に王子革命軍と思わしき兵達が王城に迫りつつあります」

「王城に立て籠もっても『爆縮弾』の標的となるだけ・・・ならば反撃するべき。自らが馬車に乗り、陣頭指揮をして敵と戦おう。乱戦へと持ち込むのだ。そうなれば、敵側も無暗に『爆縮弾』を撃ち込めまい。お前達、私を守る自信はあるか?」


 セロ国王は近衛兵に気概を再確認する。

 熟練の近衛兵はここで自分達の覚悟と忠誠を確かめられたと感じる。

 

「勿論、お任せください。我ら近衛兵の命に替えても御身を最後までお守りいたします!」


 この時の近衛兵の潔い返事が、周囲の総司令達の態度にも影響する。

 

「仕方ないですな。このベルク・ヴォント、指揮棒を振るだけが仕事の人間ではない事を久しぶりに証明して見せましょう」

「南部戦線軍団総司令殿だけに手柄は渡しませんよ。このロキシー・カイトも負けてられません」

「ふふふ、しばらく実戦が無くて暇をしていたのだ。この老兵メルトル・ゼウラーもひと暴れしてやろうぞ」


 各方面の総司令は次々と勇ましい言葉と共に闘気を漲らせる。

 そうなると、下の者にも不思議と恐怖感は無くなり、王国軍全体の士気は高まる。

 いい意味で彼らは戦闘国家であり、このような状況でも強い対応力を持つのだ。

 

「よし。それでは討って出るぞ! 私の戦闘用魔動馬車の準備をしろ。敵を迎え撃つのだ!」

 

 セロ国王の指示は素早く近衛兵に伝わり、彼らは王の指示に従い反撃を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 同じような喧騒は王城近くに居を構えるリューダの屋敷にも訪れる。

 

「客人方。何やら外が騒がしいので、決して屋外には出ないでください」


 何やら異変を感じた使用人がそう警告を発する。

 この時、アークを初めとした客人達は屋敷のリビングに集まっていた。

 本日、リューダは重要な軍事式典で呼ばれていたため、ひとりで出かけていた。

 そして、残されたアーク達はこの屋敷から出ないよう予め言われていた。

 アークはここでジルバに合図を送る。

 ジルバも自分に求められる事を察して感覚を鋭くした。

 

「ふうむ・・・複数の人間・・・敵意に満ちた・・・歪んだ心・・・しばらくすれば、ここに攻め入ってくるだろう」

「あら物騒ね。私、争い事は苦手なのよ。アークさん、私達を守ってくれるんでしょう?」


 シーラは白々しくそ述べて、身を寄せて甘えてくる。

 

「勿論、皆さんを平等(・・)に守ります」

 

 アークはそう応えるだけに留め、ひらりとシーラから身を離す。

 シーラの性格がだんだん解ってきたアーク。

 彼女はこうやって甘えてくる時は相手を揶揄っているだけなのである。

 彼女に悪気はない、これは彼女なりのスキンシップだと思うが、シーラの事をよく解らない他人が見れば、誤解を招くような仕草である。

 そうしているうちに外の兵士から叫び声が聞こえてきた。

 

「我々は王子革命軍だ! これからこの屋敷は我々の支配下となる。中にいる使用人並びに駐在者は無駄な抵抗をせずに投降せよ」


 大声で叫ばれるそんな高圧的な要求はこの屋敷の使用人達を不快にさせた。


「ここは一等臣民であるリューダ様のお屋敷。部外者の立ち入りを制限しております。どうかお引き取り下さい」


 屋敷の使用人を代表してミランダが屋敷より外に出て、要求してくる兵士に対してそんな毅然とした態度で対応をする。

 しかし、ここを占拠せよと命令された革命軍の兵士達も怯まない。

 

「我ら革命軍にはリューダ様も既に恭順を示している。貴様らも大人しく我々の要求に従って投降せよ。ここに匿っている者達を我々に引き渡せ」

「それはできません。客人はリューダ様の客人でもあります。リューダ様より直の許可を頂かない限り、勝手は許されません」

「リューダ様は既に我ら革命軍首領の勇者様に同調しておられる。我らの要求はリューダ様の要求だと思え。たかが使用人風情で我々に意見するなど生意気!」

「あら? いつから王子革命軍の首領が勇者様になられたのでしょうか? 勇者様は軍務担当のひとりだと聞いております。ジン王子様こそが王子革命軍の首領であられるでしょう?」

「ふん。屑王子など既にこの世におらぬわ。勇者様の怒りに触れて既に処刑されておる」

「はい?」


 ミランダは本気で驚く。

 まさか相手からこんな事実を聞かされるとは想定外だ。

 その会話を屋敷の中で聞くアーク。

 それはジルバによる盗聴魔法が作用したためだ。

 表の兵士達とミランダとのやり取りを正確に把握できていた。

 

「ジルバさん、助かりました。それにしても『王子革命軍』とは何者でしょう?」

「どうやらあの勇者君がこの国の王子を誑かせて組織した軍隊のようであるな」

「初めて聞きますね」

「うむ。我も今初めて話した。アークから聞かれればいつでも教えてやったが・・・」


 そう話すジルバはこの事実をずっと前から把握していたようだ。

 彼は人の心など容易く読めるのだ。

 しかもその能力は白魔女になったハルよりも上である。

 こんな重要な話、もっと早くに教えて欲しかったと思うアークだが、ジルバはこういうところもある。

 とどのつまり彼は銀龍であり人間ではない。

 人間同士の些細な問題――とジルバは認識している――などいちいち意に介さないのだろう。

 アークは気持ちを切り替える。


「解りました。今、教えて頂きありがとうございます。そうなると彼らは私達の敵になのでしょうか?」

「うむ、そうだ。相手も敵意に満ちておる。我らを捕らえて命を奪う算段のようらしい」

「ならば、向こうの要求に従ってやる道理はありません。そして、ここに籠城しているのもそろそろ限界のようです」


 アークは屋敷の入口にまで迫る王子革命軍の兵士がこの屋敷に雪崩入ってくるのは時間の問題だと思った。

 

「彼らは僕らに危害を加える気満々だと思われます。その意図はいまいちよく解りませんが・・・」

「大方、あの勇者にとり憑いている意思が黒幕だろう」

「ジルバさん・・・アナタもやはりリズウィ君の変化を感じていたようですね」

「うむ。どうやら彼の心には別の人格の意思がとり憑いているようだ。古い魔法――魔族が用いた呪術に近い様なものだが――に同じような技を見た事がある」

「そうですか。それは気付いた時に言って欲しかったですが、今はそんなことを追及している場合ではありません」

「そうだな。黒幕の意識はハッキリ言って我々には敵意しかない。我もそろそろ本気で暴れてやるか?」

「・・・いや、まだそこまでは・・・僕が何とかしますので」


 アークはジルバにまだ本気で暴れて欲しくなかった。

 確かにジルバが本気になれば大体の窮地を脱する事は可能かつ迅速になるだろうが、銀龍をボルトロール王国の中心で暴れさせた後の処理を考えると、まだそこまでの手段は使いたくない。

 アークは自分が漆黒の騎士になればまだ対処はできる範囲・・・そう考える。

 彼は一応この場では自分の身内しかいないのを確認してから黒仮面を装着する。

 

シュイーン!


 膨大な魔力が収斂して共に漆黒の騎士が姿を現す。


「まっ、素敵な(ひと)!」


 黒いマントを翻したその姿はさまになっており、この姿を初めて見たシーラは感嘆の声を挙げる。

 因みにシーラは一応これまでは部外者だったが、ここで不思議な力が働き、彼女ならば正体を明かしても問題ないとアークは判断してしまっている。

 だから、彼女の目前で変身したのはこれが理由である。

 シーラもアークの変身については特にこれ以上の反応を見せなかったので、自然な成り行きを保っている。

 後から考えてこれはとても違和感ある事なのだが、この時のアークは上手く流されてしまった。

 

「それでは行ってきます。少々派手に暴れます。その隙にこの屋敷の使用人達を避難させてください。あの話の内容からすると、リューダさんも敵側の奸計に嵌っている可能性が高そうです。そこも含めて対処しようと思います」

「うむ。それではこの舞台の主役の座はアークに譲ろう。我とシーラとエルフ達はこの屋敷の使用人達の命を守る事に専念しよう。それぐらいは飯で世話なっているからな」

「申し訳ありません。裏方を頼んでしまい」

「気にするな。人の世は人が解決するのが本来の姿・・・確かに我にとっては少々つまらぬ仕事だが、今は割り切っておる」


 ジルバは問題ないと発言した。

 そんなジルバの意思を確認したアークはフッと笑みを浮かべ、屋敷の中から飛び出して行くのであった。

 

 

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