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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
前半編 第一章 黒い稲妻の勇者の冒険
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第六話 国王謁見と王都の日常

 貴重な黒曜石をふんだんに使い、重厚な雰囲気を演出している一室。

 敷かれた赤い煌びやかな絨毯がこの王国の豊かさを物語っている。

 ここはボルトロール王国の王都エイボルトの中心に建つ王城の中の謁見の間である。

 見事な玉座に座る老齢の人物こそセロ・カイン・ボルトロール三世、間違えることなくこのボルトロール王国の支配者だ。

 

「ふむ。勇者からの報告は解った。面を上げよ」


 その国王より顔を上げる許可の言葉が出る。

 それまで絨毯の上で跪いていたのは勇者パーティの面々である。

 先程行われたリースボルトの魔物討伐の顛末を報告したばかり。

 

「勇者リズウィよ。結局は魔物の討伐は果たせず。戻ってきたと言う訳か・・・」

「ぐ・・・そのとおりです。国王陛下」


 負けん気の強い勇者リズウィだが、ここは自らの失態を認めざるを得ない。

 嘘をついてもこのセロ国王には独自の情報網があると言われており、必ずバレてしまうのだ。

 だから、勇者たち一同は嘘を言わず、ありのまま報告をした。

 

「ふ・・・常勝の英雄、勇者リズウィも失敗する事があるのだな・・・まあ良い。遭遇できなければ、討伐のしようもないからな」


 セロ国王はそう結論付けると、これで今回の報告の会は終わりとする。

 パンパンと手を叩き、女官に今回の報酬を持ってこさせた。

 

「報酬・・・ですか?」

 

 勇者リズウィが驚き、そんな事を聞く。

 

「意外か? 私も鬼ではない。達成困難な依頼を完遂せよとまでは要求しない。貴様は私の依頼を成功させてはおらぬが、完全に失敗したと言えるほどの失点もしていない。結果的にこれまでリースボルトを悩ませていた魔物は退けた・・・それだけに着目すれば、及第点だ。勇者リズウィも家族を養う必要のある一国民である。生活費を稼げなくするほどの罰を与える必要はない」

「・・・寛大なセロ国王の御慈悲に感謝いたします」

「うむ・・・ただし、依頼達成をしておらぬから、多少の減額はさせて貰った。これも成果に見合う報酬の支払いを是とするこの国に平等に科したルールに従ったまでだ。勇者よ、許せ」

「・・・いえ、有り難きお言葉です」


 こうして、セロ国王と勇者パーティとの賞罰交渉は本当に終わりを迎える。

 リズウィも少し緊張気味だった己の肩の力をすぅーと抜く。

 セロ国王も緊張していた勇者を認識したのか、ここで別の話題を振ってきた。

 

「勇者リズウィよ。其方にやって貰いたい仕事はしばらく発生しない。これからどうしたいか、自らの希望はあるのか?」

「私は・・・西の戦場に赴き、グラハイルヒルト総司令の救出に向かおうかと思います」

「エクセリア国か・・・しかし、それは認められんな」

「どうしてですか? 敗戦した者に情けは掛けないつもりですか!?」


 リズウィは少し熱くなる。

 しかし、セロ国王は冷静にその心積もりを伝えてきた。

 

「確かに西部戦線軍団総司令は先に戦いで大敗した責任もある。しかし・・・勇者リズウィよ。其方がエクセリア国に赴くのは『危険』ただそれだけが理由だ」

「危険ですか!?」


 リズウィは呆れた。

 今まで、セロ国王の命令で西に南に戦場を駆け巡った。

 今更、危険と言われるなど呆れるばかりだからだ。

 しかし、王の言葉には続きがある。

 

「そう。それは龍の存在。彼のエクセリア国との戦争で、辺境の王『銀龍スターシュート』がエクセリア国に加担している、と情報があった。もし、本当に龍との戦闘になれば、如何に其方と言えども太刀打ちできないだろう。まだ、このボルトロール王国にとって勇者リズウィはまだまだ必要な力でもある。勝ち目のない戦闘で失う訳にもいかない」

「龍ですか!?」


 リズウィはまだ龍という魔物に対して想像力が働かなかったが、同席する勇者パーティの面々はここで驚愕の顔に染まる。

 『銀龍スターシュート』、それはお伽噺の世界の存在であり、人類の歴史よりも遥かに長く悠久の時を生きる魔物。

 過去の伝承よりこの龍の怒りを買って数々の国が滅んでいる。

 国家をも滅亡させる強大な力を持つこの魔物は早速神にも等しい存在である。

 以来、人類はこの恐怖の龍には無干渉を徹する事にしていた。

 それは銀龍スターシュートが自ら攻撃してくることはなく、必ず人間側からちょっかいを掛けた時の反撃でやられていたからである。

 

「そんな。銀龍がどうやったのかエクセリア国側についている可能性があった。下手に再攻撃を掛けると今回の戦いのように反撃を受けるばかりか、我が王国を破滅させられる可能性もある・・・よって、しばらくエクセリア国に対して無干渉で対応する事にした」


 セロ国王はエクセリア国側に銀龍スターシュートが味方に付いた可能性を想定し、再攻撃をかけないと決めたようだ。

 

「龍・・・強いのか?」


 何も知らないリズウィはそんなことを周囲に聞く。

 脇にいたアンナがそんなリズウィを小突いた。

 

「アンタ、莫迦?」


 アンナはこの場でゴルト大陸の覇者の存在をよく理解できていない勇者を蔑んだ。

 

「銀龍スターシュートは強いなんてもんじゃないわ。それこそ、神に挑むようなものよ。過去の歴史から銀龍を敵に回した国家が全て滅んでいるのよ。人間が戦ってはいけない相手、それが銀龍スターシュートよ」


 ゴルト人の心の神髄に叩き込まれた本能的な恐怖を代弁する形で、アンナがそんな説明をする。

 

「勇者はサガミノクニの人だから解らないだろうが、そこのアンナ・ヒルトの言葉どおり、銀龍スターシュートはゴルト大陸の覇者であり、力で敵う相手ではない。噂に聞けば、世界の主要な大陸には龍が一匹ずつ存在するらしく、その大陸を統べよ、と神から命じられているらしいが・・・当の龍は人の世には無関心。誰が大陸をどう支配しようと文句は付けてこない。龍が実行支配する土地さえ犯さなければ・・・今まではそう言われていた。しかし、今回はエクセリア国に味方しているようなので、状況が変わったのかも知れぬ。情報によると敵国には凄腕の謎の魔女が関わっているらしい・・・」

「凄腕の謎の魔女?」

「うむ、何でも白い仮面で顔を隠した凄腕の魔女がいるとの情報だ。そして、その相棒とされる黒い仮面を装着した剣術士。そのふたりが銀龍スターシュートを先導して戦場に連れてきたとの情報もあるが、詳しくは解っておらん」

「よし、そいつらを懲らしめれば、エクセリア国に勝てるんじゃないか?」

「それはならん。現時点では情報が不足している。もし、何かを間違い銀龍の怒りを買えば、我が王国に待つのは破滅じゃ。銀龍を侮ってはいかん!」


 戦争で現在のボルトロール王国を一代で築いたセロ国王は、珍しく恐怖に慄き、激しい口調で勇者リズウィを戒める。

 それほどに銀龍という存在を恐れているのが解る。

 

「わ、わかったよ」


 リズウィもセロ国王の迫力に負けて、思わず納得の言葉を溢す。

 ここであまりのセロ国王の慌てように敬語を忘れてしまったが、お咎めは無しだ。

 

「ともかく、エクセリア国に潜入するのは禁止・・・しかし、その手前の国境付近までならば許可しよう。我々としても有益な情報が不足している。その斥候として働くならば、許可してやろうじゃないか」

「ありがとうございます」

「出発するならば、四月になってからのほうがいいだろう。今は厳冬期、道中のアリハン山脈の山道は雪と氷で閉ざされておる」

「解りました。それでは一箇月ほどこの王都に滞在し、休息させて貰いましよう」

「それが良かろう。其方も働き詰めじゃ。久しぶりの親孝行をしてやるがよい」

「ハッ!」


 親孝行という単語に少し眉を潜めるリズウィだが、それでも発奮の良い返事を返す。

 これで謁見の間を後にした。

 勇者リズウィでもこのセロ国王とは会話は緊張するので、長い時間この場に居たくないと思っていたりする。

 こうして、勇者パーティは王城より退出し、一時解散となる。

 

「リズウィ、次の作戦は西部戦線の探索になるな。出発する時は声を掛けてくれ」

「ああ、一箇月間は休養にしよう。身体の鍛錬を怠るなよ」

「それはこちらの台詞だ。お前こそな!」


 こうして、ガダルとパルミス、シオンがリズウィ達と別れる。

 彼らは軍属でありリズウィの居住区から離れた場所に住んでいるため、ここで解れた方が都合良いからだ。

 ちなみにリズウィとアンナは同じ居住区に住んでいるため、帰りも同じである。

 そんなやり取りをリズウィは、何だか学校から友達と帰宅するみたいだなぁ、と昔を思い出していたりした。

 平和だったサガミノクニの世界、幼少期のリズウィは学校から帰宅する際に危険など生じない。

 しかし、ここは乱世のボルトロール王国。


 ここで、リズウィとアンナの後を追う不審な人影が動き出した。

 

 自分達が付けられている事など露知らないリズウィ達は王都エイボルトの大通りを歩いて帰宅する。

 王都エイボルトの街にはモノが溢れ、人通りも多く、活気がある。

 それはこのボルトロール王国が戦勝国だからだ。

 領土拡大と共に、敗戦国から得られた富をこの王都エイボルトに集め、ボルトロール人はこの世の春を謳歌していた。

 国民は階級分けされ、国にとって有益な成果を示す人間ほど高い地位と権力、富を与えるセロ国王の政策が上手く嵌り、凄まじい勢いで発展を遂げている。

 魔法動力で動くゴーレム馬車、手間がかけられた平坦な石畳の道路、整備された魔法街灯、幅広い取引で成熟した経済、どれを取ってもボルトロール人がこのエイボルトこそがゴルト大陸一だと豪語するに等しい成果を示している。

 数多くの商店が並び、軒先に出された屋台からは香しい香辛料の利いた焼き物の料理が溢れ、それを求める人でごった返す街の大通りをリズウィとアンナが慣れた様子で進む。

 人の喧騒、これにリズウィは故郷であるサガミノクニで慣れていたし、アンナもこのエイボルト出身なので特に違和感はない。

 これに慣れていないのはリズウィとアンナを尾行する集団であった。

 彼らは苦労して人を掻き分け、リズウィとアンナを追う。

 そこで生じた違和感により、リズウィとアンナは自分達がつけられていると勘付いた。

 彼らは互いに目配せすると、急に駆け出し路地へ入る。

 そのふたりを逃がすまいと尾行者も釣られて路地へ入る。

 そうするとそこは人通りが無く、袋小路なっていて、剣と魔法の杖を構えて戦いの準備を終えているリズウィとアンナが立っていた。

 

「あら、私達の尾行に気付いていましたのね?」


 尾行する集団の中から女性が進み出た。

 どうやら、この女性が尾行集団のボスのようだ。

 

「ああ、俺達を勇者パーティだと知っているようだな。一体何の用事だ・・・て、穏やかじゃねーな」

 

 女の両脇に立つ人物がここで短剣を抜いたのを見てリズウィはそう言う。

 短剣を抜いた男達を女は制し、言葉を続ける。

 

「私達はキノール王国人の末裔よ」


 キノール王国・・・リズウィは一瞬考えたが、直ぐに思い付く。

 それはゴルト大陸の南、南洋に面した国家であり、今話す女性のように肌の浅黒い色が特徴の人種が支配していた国家であった。

 過去形なのはこの国が既に消滅しているからだ。

 言わずともボルトロール王国との戦争に敗れた結果である。

 この女性も見た目は美人であり、キノール王国の貴族の娘だったのかも知れない。

 そんなことを考えながらリズウィは会話を続ける。

 

「だからどうした。戦敗国が戦勝国に対して、恨みがあるんだったら愚痴ぐらいは聞いてやるぜぇ」


 聞きようによって横柄に聞こえるリズウィの言葉。

 その台詞に顔を歪める黒美人の女性。

 

「お前達のせいで! 私の人生は滅茶苦茶になった。控えていた結婚は破談となり、お家は解散。貴族の権利は全て剥奪され、五等臣民としてボルロール王国に併合された・・・」


 五等臣民とは戦争に敗れて投降した敵国民の位である。

 ボルトロール社会では最底辺であり、奴隷にほぼ等しい存在。

 併合後、一定の猶予期間はあるが、そこで成果を示せなかった者は、役立たずの烙印を押されて、五等臣民として高い税率が科せられる。

 階級が低い者はイメージも悪いため、仕事がなかなか見つからず、厳しい立場とされるが、リズウィはそんな者達の生活をなかなか想像つかない。

 何故なら、自分がなった事は無いからだ。

 

「それは、それは、ご苦労様だな」

「キッ! 毎日、私達が物乞いのような生活させられて、莫迦にしているの! 私は貴族の娘よ。しかも王位継承権もある名家だわ」


 涙目になる女性。

 いろいろ苦労の連続の生活を強いられていた事だけは解るリズウィ。

 

「それは、それは、ご苦労様だな」


 同じ台詞を続ける。

 それ以上の言葉が見つからなかったからだ。

 自分に恨みを吐く相手など、今まで嫌ほど見てきた。

 しかし、彼女が五等臣民まで落とされたのは、それは自らが成果を示せなかったからである。

 リズウィはこう見えて今まで成果を示してきた。

 努力を形にしてきた自負もある。

 だが、この目の前の女性はそんな努力をしてこなかっただけ。

 そう思うしかない。

 そして、それは概ね事実であったりする。

 この女性は自らプライドが高く、自ら汗を流して働く事を是としなかったタイプである。

 しかし、この女性自身はそんな現実が全く解っていない。

 だから、リズウィを逆恨みするのである。

 

「く、やっぱり気に入らないわ。ちょっと勇者だからって、それは周りにチヤホヤされているだけよね。アンタの存在自体が鬱陶しいの。どうせ、周りに強い従者を付けて威張っているだけよ。この人数ならば私達でも殺せるんじゃない!?」

 

 女の言葉を合図に手下の男達が短剣を光らせる。

 

(相手にて十人・・・大方、全員戦士って感じか?)


 そのように状況を瞬時に分析して、アンナへ合図を送る。

 アンナからも、目で解ったと相槌が返ってくる。

 これぐらいできなければ、戦場で生き残れない。

 

「もし、命乞いするならば、有り金のすべてと装備を差し出しなさい。この場で私達に土下座してヒイヒイと命乞いするならば、見逃してあげてもいいですわ。オホホホ」


 高笑いするその姿は自からの勝利を確信している。

 それをリズウィは甘いと思う。

 

「破ーーッ!」


 ここで先手必勝と、リズウィは飛び掛かり、女の両脇の男に襲いかかる。

 

「面ーーーッ!」


パン、パン

 

 何かを叩く音がふたつ響き、簡単に男達の顔が二つに割れる。

 魔剣ベルリーヌⅡの刃が顔面に炸裂した結果である。

 こうして、男ふたりは血飛沫を挙げて倒れた。

 その直後にアンナによる風の魔法が発動した。

 短縮詠唱だが、もともと魔力の高いアンナの実力がいかんなく発揮されて、中級魔法クラスの竜巻が発生し、残りの男達を一斉に刈り取り、空中へ巻き上げた。

 

「「ぐわぁぁぁーーー!」」


 叫び声を挙げた男達は自分に何が起こったのかを認識するよりも早く、十メートル近く浮き上がり、そこから地面へ激しく叩き付けられる。

 

 グシャ、と何かが潰れるような音がして、男達の息の根が止められた。

 高所から落下して生命維持に重要な臓器が潰れたのだろう。

 

「へっ!?」


 未だに何が起こったのか理解できていない女だけが呆けてそんな声を出す直後にリズウィの斬った男の返り血を大量に浴びた。

 

「キャーーー!」


 今更に恐怖を感じ、そんな悲鳴を挙げてみるが、もう遅い。

 彼女は喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ってしまったのだ。

 へたり込んだ又坐から透明の液体が流れる。

 恐怖で失禁してしまったその姿に、プライドも何もあったものではない。

 

「ね、ねぇ。私が悪かった・・・もうしないから、赦して・・・」


 恐怖に慄き、ブルブルと震えるその姿は弱者を体現している。

 そんな弱々しい姿を見てリズウィは余計に苛ついた。

 

「甘い事を言いやがって、お前、俺の命を奪うつもりだったんだろう? その気概はどうした! だから、お前らは五等臣民のまんまなんだよ!」

「お願い、お願い。命だけは助けて・・・ほんの出来心だったのよ。私は反対したの。それでも従者達が勇者ひとりならば勝てるって言い張って、ほんとに使えない男達だったわ。国が負けた後、あれほど面倒を見てあげたのに!」


 女は解っていない。

 没落後も本当に彼女の面倒を見てきたのはこの男達だった。

 しかし、彼女の浪費があまりにも多く、資金繰りが厳しくなった彼らは勇者を襲う事を計画したのであった。

 その結果がコレである。

 彼女の意識が変わらなかった・・・

 今まで贅沢三昧に暮らせていたのは自分が特権階級に属す彼女の過去の実績だけであり、彼女の中身には何の実力も備わっていなかったのが真実であった。

 その本質が直感的に理解できたリズウィの顔が歪む。

 勇者の機嫌が悪くなった、と女の勘で察した。

 

「わ、解ったわ。私がアナタの女になってあげる。これでもキノール王国では上位五本指に入る美女よ。夜伽も上手いわ。きっと満足させてあげる。アナタの子を産んでもいいわ。そ、そう。それがいいかも」


 ひとりで話を完結させるこの女に、リズウィは本当に嫌気が差した。

 話の通じない別次元の人間だと結論付けた。

 

「黙れっ!」


 リズウィがここで愛剣を横に薙ぎると、女の細首が一瞬で飛ぶ。

 こうして、首なしの死体がひとつ産まれ、鬱陶しい女の言葉が止む。

 そして、その死体の近くには驚愕の表情で固まる女の頭が転がっていた。

 自分が斬られた事すら理解できていない驚きの表情のまま固まっている。

 

「うるせぇ! 実力も無いのに、男に頼ろうとする寄生虫がぁ、俺に女はもう間に合っているんだよっ!」


 物言わぬ首にそんな厳しい言葉を吐くリズウィ。

 

 ほどなくして、王都の治安維持部隊が駆けつけて盗賊達を処断する。

 それはこのボルトロール王国では日常のひとコマ。

 逆上した五等臣民が仕出かした悪辣な事件のひとつとして処理され、勇者リズウィには無能な罪人を処分してくれたと感謝の言葉がかけられる。

 いつもどおりのこのやりとりに、もう慣れたリズウィであったが、それでもこの社会がどこか間違っているような違和感が心に過る。

 本当に自分のした事が正しい事なのだろうか・・・

 少し悩んでいると横からアンナに腕を取られた。

 

「リズウィ・・・帰りましょう」


(そうだ、俺は何も間違っていない。俺は勇者リズウィなのだ・・・この国の力となり、高い実力を示さなくてはならない、成果こそすべてだ・・・)


 そんな決意を心に新たに刻み、帰路へと着く勇者リズウィであった・・・

 

 

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