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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
前半編 第一章 黒い稲妻の勇者の冒険
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第五話 逃した魔物


「くっそう、見つからねぇーか」


 苛立つリズウィの声はここ一箇月間続いていた。

 あのリースボルトの魔物と対峙した夜から必死に魔物を探してはいるが、全く遭遇できていない。

 その後は魔物による被害報告も無く、これで一箇月以上捜索して見つからなければ、魔物は別の場所に移動したとして捜索は打ち切りとなる。

 

「ちくしょう。これだと依頼達成できねーじゃねぇーか!」


 リズウィが愚痴るように、今日見つからないとなると、王命で勇者パーティに依頼された魔物討伐は失敗という結果に終わる。

 それは褒美が支払われないばかりか、依頼主である国王からの信頼が低下してしまうのも避けられない。

 そもそも遭遇できないのだから、仕方がないとも言い訳できるだろうが・・・

 

「私としてはこれ以上被害者が出なかった、それだけで十分です」


 ここで為政者として真っ当な意見を述べるメルトル・ゼウラー。

 彼は総司令官という立場でありながら、勇者パーティの魔物捜査に全面協力するため常に同行していた。

 それは初日に約束した「この地に赴いた勇者パーティを東部戦線軍団としても最優先で支援をする」約束を守った結果である。

 真面目に職務を遂行するその姿勢は軍の総司令官というよりも官僚に似ている。

 そんなメルトル・ゼウラーに対して好感の持てるリズウィであったが、それと討伐対象である魔物を狩れなかったのは別の話である。

 

「被害は出なかったのはいいとして・・・こりゃ、王都に帰れば王様から二、三言貰っちまうなぁ。あの王様、成果に対しては厳しいから・・・」


 その言葉で顔色が重くなるのは勇者パーティの面々と今回捜索に協力してくれた東部戦線軍団の兵達だ。

 ボルロール王国人は成果に対して厳しいところがある。

 自分達が失敗したと感じれば、それは大いに落ち込むのだ。

 リズウィの予想どおり、隣を歩くアンナは悔しさのあまり額をプルプルと震えている。

 

「おい、アンナ、抑えろ。美少女の顔が大無しになっているぞ!」

「ほえッ!」


 リズウィの突然の指摘に、思わず奇声を挙げるアンナ。

 美少女と言われたのは彼女としても不意を突かれた形だ。

 そんなアンナが今回の討伐の成果を気にしているのも、リズウィには解らなくもない。

 先日、彼女の父親グラハイル・ヒルトが敵国との戦争に負けるという大失点を犯したばかりである。

 親に続き自分も失敗したとなると、他人からの心象が気になって仕方が無いのだろう・・・

 

「まぁ、無理かもしれねーが、今回の結果は気にすんな。出ないものはしゃーねー。それにあの魔物、相当に強いぞ・・・今回、俺達はあの魔物から見逃して貰ったようなものだ。もしかすれば、あの宿の庭での遭遇現場で戦っていたら俺達の方が全滅していたかも知れねぇー」

「・・・」

「成果も命あってのものだ」

「・・・そうね」


 リズウィからそんな気分転換を促すような言葉に無理矢理自分も納得しようするアンナ。

 彼女も解っていた、あの魔物が普通ではないのを。

 自分が施した魔法を一瞬にして無効化してしまう恐ろしい実力を有している。

 もしかすればリズウィが言うように、襲撃を受けたあの宿の中庭で、勇者パーティが全滅していたかも知れない。

 リースボルト内を警戒する熟練の軍属達が、この魔物に襲われて、なす術なく死亡しているのだ。

 自分達がそれに仲間入りする可能性もあった。

 しかも、あの魔物には知性があった。

 リズウィと会話し、結局、何かに納得して、自分達を襲う気は無いと言い、去って行ったのだ。

 今思えば正直助かったと思うのは事実である。

 

「あの魔物、リズウィさんと会話していましたよね?」


 後ろにいたシオンもアンナと同じことを考えていたらしく、そんな疑問を口にする。

 

「そうだ。アイツ、俺の()ぇちゃんのことを知っていた・・・そして、自分の事を神の使徒だとか・・・ホント戯言だよな。ハハハ」


 リズウィは乾いた笑いを溢す。

 魔物の吐いた言葉など全く真実とは受け取っていない。

 しかし・・・

 

「リズウィさんのお姉さんとすれば、それはフーガ一族(いちぞく)ですかね?」

「シオン、それは違う! 俺達はあんな奴らの仲間じゃない!! 俺達は生粋のサガミノクニ人だと言っているだろう!」


 ここで『フーガ一族(いちぞく)』という単語に過敏に反応するリズウィ。

 リズウィを初めとした異世界人は、ある時、このボルトロール王国へ召喚されて、そして、最近、彼らの事は『フーガ一族(いちぞく)』と呼ばれていた。

 リズウィは訳あって一緒に転移してきた同族達とはソリが合わず、別行動をしている。

 彼は同じ『フーガ一族(いちぞく)』と一括りにされるのを非常に嫌っていた。

 そんな不機嫌のリズウィを気にしないシオンは別の話題に転嫁する。

 それは彼女なりの処世術。

 ここでリズウィに違和感は抱かせない。

 

「それはそうとして、あの魔物が『神の使徒』と名乗っていたことも気になります。確かに宿で襲撃を受けた時、あの女性の魔物が着ていた服装はノマージュ教の司祭服に似ていました」

「シオン、それはアイツがノマージュって神様の使徒だと言う意味か?」

「・・・・いいえ、それは違うでしょう。ノマージュ教の教義は『平和・融和』になります。でも、あの魔物が行っていた事は捕食と殺戮で真逆でした。ノマージュ神の使徒ではあり得ません」

「そうか・・・そう言えば、ハドラ神がどうのこうのと言っていたよなぁ~」

「ハドラ神とは冥界の神で、死と欲望を司る神です。あの魔物がその神の眷属だとすれば、それはあり得るかも知れません。もし、あの女性の魔物がハドラ神の使徒だとすると・・・」


 ここで何かの可能性を思い付き、シオンは自らの考えに没頭し、黙り込んでしまう。

 

「おーい、シオン・・・駄目だ。コイツ、自らの考え事に没頭すると、しばらくこっちに側に戻って来ねぇーんだった・・・」


 リズウィはシオンの悪い癖を思い出して諸手を挙げる。

 

「シオンの推理はともかく・・・これだと、あの魔物と遭遇する可能性は低くなりそうだ」


 ガダルは現状を分析して、そんな結論を導き出す。

 

「ああ、俺もそんな気がする。あの魔物・・・一体何が目的だったのだろうか?」

「魔物に目的なんてない。あるのは自らの食欲を満たしたい、という生存本能だけだ」


 ガダルは冷静に魔物の生存本能だけに着目する。

 

「生きる為か・・・まあ、魔物と言えども生物だしなぁ・・・」


 神の眷属云々の話になりかけていたが、リズウィもそんな空想上の理屈よりも論理的な結論を支持した。

 

「あの魔物は、このリースボルトでやることは終わった、と言っていたが・・・やはりそうなると、魔物はここから別の場所へ移動したと考えるのが妥当かもな?」


 リズウィはこの魔物とはもうここでは出会えないとも直感的に感じていた。

 そして、それは現実となる・・・

 

「今日の捜索はもう終わりにします。勇者様、申し訳ありませんが、あの魔物はこのリースボルトから去ったと判断しましょう」


 メルトル・ゼウラーがそう宣言し、これでリースボルトの魔物討伐の依頼は終了となる。

 解っていた事ではあるが、それでも、その一言を聞かされた勇者パーティの面々は大きく肩を落とした。

 何故なら、これで勇者リズウィに与えられた依頼が初めて失敗することが決定的になった瞬間でもあったからだ・・・

 


今回は短いです。は無くの区切りがここなので致し方なし・・・

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