第九話 憑依※
反乱組織のシャズナを討った数日後の勇者の屋敷にて。
「はぁ~ 怠りぃ~」
陽光の差し込む平和な昼間だが、勇者リズウィは体調不調により自分のベッドで横になっていた。
シャズナ討伐以降の虚脱感がなかなか抜けない状況が続いていたのだ。
そこにアンナが入ってくる。
「リズウィ、どう? 体調良くなった?」
「・・・いや、あんまり・・・俺、風邪ひいちまったのかな?」
自分のおでこに手をやると確かに熱い。
体温計なる便利な物はこの異世界には無いが、それでも自分の体調が優れないのぐらいは解る。
身体の節々も痛く・・・これはインフルエンザの症状に似ているかもと思っていたりした。
「また、シオン呼んでこうか?」
「いいや、それはいい。風邪だろう、寝ていれば治るさ。それよりアンナ、俺にあまり近付くな。風邪うつるかも知らねーぞ」
「大丈夫よ。私って病魔耐性の加護があるって神殿で言われた事があるから」
「それって、抗体持ちって事か?」
「何それ!? 解んなーい」
「まあいい。それでも俺にあまり近寄らない方がいい。他人にうつしたら迷惑だからな」
リズウィは自分の症状を自己分析して風邪だと思い、アンナを遠ざけた。
「まったく、リズウィも時々訳解んない事を言うよね~。ここにご飯を置いておくから」
「ああ、すまねぇ」
「リズウィ・・・あのね。私、考えたんだけど・・・」
少しもじもじしてアンナはなかなか部屋から去ろうとしない。
「何だよ? もし何かあれば、手短にしてくれ」
「あの事よ・・・フェミリーナ・メイリールへの対処方法よ・・・」
「・・・何だよ」
そう言えばそんな事もあったとリズウィはウンザリする。
フェミリーナの妊娠の事を思い出し、今後の事を考えてみようとするが・・・
「いいや、今はいい。その件については体調が回復してからだ」
「・・・そう・・そうよね・・・リズウィの体調が万全の方が絶対都合良いから」
アンナがそう言ったことから、リズウィはあまり良い予感がしない。
「お前なぁ~、もしかして、俺と既成事実を作ればいいとか思ってない?」
アンナの顔が真っ赤に染まる。
図星だったようだ。
「フェミリーナに妊娠の事実があるならば、自分も同時期に妊娠してしまえばいいなんて思っただろう!」
リズウィは正解を言う。
「リズウィどうして解ったの? アナタってもしかして心を観る魔法とか使えるの?」
どうして解ったのかという顔をするアンナ。
これにリズウィは呆れるばかりだ。
「うっせぇ~。お前と俺が何年付き合っていると思っている。大体の思考パターンは予想できる」
「リズウィと私の考えている事は同じ・・・」
何かよからぬ想像をしてしまうアンナの顔。
美少女の顔が変な方向へ歪む。
「ええい、鬱陶しい奴。とにかくこの部屋から出ろ!!」
アンナを追い出そうとするリズウィ。
「解ったわよ。でも約束よ。身体が全快したら・・・ソレね・・・あっ、痛っ!」
去り際にアンナが躓く。
それか彼女が壁に立てかけてあった魔剣『ベルリーヌⅡ』を引っ掻けたからだ。
グワァーーン
魔剣が地面に倒れて、金属の特有の大きな音が出た。
それがリズウィの頭の中に大きく響く。
「あっゴメン」
アンナは謝るが、リズウィは頭痛で眉間にしわを寄せている。
「まったく、もう出てってくれ!」
一気に機嫌の悪くなったリズウィはプイっと毛布に包まりアンナとは逆向けになる。
「悪かったわよ。じゃあ、お大事にね・・・」
アンナもツンケンとしたリズウィの態度が気に入らず不愉快になるが、それでも相手は病人だ、早々に退散する事にした。
残されたリズウィは益々に頭が痛くなってくる。
(畜生。なんだよ。この風邪・・・頭痛収まんねぇ~じゃねーかよ!)
一向に回復しない痛みにより苛立ちは増すばかり。
ガン、ガン、ガン、ガン!
脈打つ毎に頭痛が増して、気が狂うのではないかと思えるぐらいの苦しみ。
「うあぁぁぁ~、俺はもう駄目だ・・・誰か助けを呼ばないと・・・」
リズウィがいよいよ我慢が及ばず、危ないと考えたところで頭の中に声が聞こえてきた。
「委ねよ・・・屈せよ・・・」
「何だ?・・・誰だ!・・・」
「お前はもう俺の物。諦めろ・・・俺に支配権を寄越せ」
「ぐ・・・幻聴まで聞こえやがる・・・俺はもうこれまでか・・・最後に姉ちゃんに甘えた・・・かった・・・なぁ」
そして、リズウィの意識は途絶える・・・
それから・・・どれぐらいの時間が経過しただろうか。
病に臥していた筈のリズウィがムクッと起き上がった。
彼は両手を動かし、握ったり開いたりを繰り返す。
そして・・・ゆっくり納得すると、狂ったように彼は笑い出した。
「フ・・・フフ・・・ムハハハハ~!」
傍から見れば、それは狂人の凶行のように映る。
明らかに精神が失調した人間の行動のようだ。
しかし、この部屋にはリズウィしかいないので、現在その狂行を指摘する人はいない。
「成功だ! ようやく勇者の心を支配できたぞ。乗っ取ってやった! ハハハハ」
それは普段のリズウィの声色ではない、恨みの籠る濁った男の声。
その声の主とは・・・
「勇者リズウィ。これからはゼルファ復興の為にその身体を使わせて貰う!」
そう、それはシャズナ・ロックウェルの意識。
彼は近くに置かれていた魔剣ベルリーヌⅡを持ち上げる。
鞘から僅かに覗く刀身の色は普段の黒ではなく、薄い紫色のオーラに包まれている。
シャズナ・ロックウェルの魂は正確に言うとこの魔剣ベルリーヌⅡに憑ついている。
この魔剣の持つ魔力吸収の機能を利用して、そこに寄生する形で憑ついたのだ。
こうして、今は魔剣の主人であるリズウィを支配下に置く事に成功した。
「くくく、愉快。これで王国の勇者が俺の思いどおりになるぞ!」
シャズナが愉快な気分でいるとドアをノックする音が聞こえた。
トン、トン
「入るわよ。リズウィ、大丈夫? 変な声が聞こえたから・・・」
部屋に入ってきた女性を見れば、それはアンナと言う女魔術師だ。
なんだかんだ言って彼女はリズウィのことを心配し、部屋の外で待機していたのだろう。
ここで、シャズナはリズウィの記憶も得ているので下品な悪戯を思いつく。
「ああ、もう良くなった。それよりもお前のアイデアとやらをもっと聞かせて欲しい」
「え・・・アレね・・・でも、リズウィはあまり乗りじゃなかったと思うけど・・・」
部屋を離れる時に不機嫌になったリズウィを思い出して、再びその提案をしてもいいのかと迷うアンナ。
「俺の子を作るんじゃなかったのかよ!」
「そうよ・・・そうすれば、あんなヤツよりも優先権を主張できるわ。私が第一夫人になって・・・キャ!」
リズウィはアンナが言い終わるよりも先に彼女の身体を自身に引き寄せる。
そして、その唇が奪われた。
「くくく、お前のその願い。今すぐ叶えてやるよ」
リズウィはそう言うと遠慮なくアンナに襲いかかる。
・・・
・・・
・・・
そして、アンナの願いはリズウィに憑依したシャズナによって叶えられた。
ただし、それは愛ある男女の営みと言うよりもシャズナの一方的な欲望の掃き出しの結果であったが、そんな事アンナも知る由もない。
彼女はただ乱暴に扱われて、その結果、気絶さられてしまっただけだ。
「フフフ。久しぶりの女を味わったが・・・それにしてもコイツのコレは凄いな。流石、勇者の称号を得ているだけある」
シャズナはリズウィの下半身を見てそう絶賛する。
アンナが失神するほどの刺激を与えたのはこの世界の成人男性と比べても規格外サイズのアレによるものである。
「次はこれをリューダにぶち込んでやるか」
細身のリューダを襲う姿を想像し、再び興奮を高めるシャズナ。
仕事を終えたばかりの下半身がまた大きくなってしまった。
「ロックウェル家の子種を仕込めないのは少々残念ではあるが、これはこれでリューダを虜にできるだろう」
シャズナは下品な想像を続ける。
「ムフフフ、フハハハハ~ッ!」
狂信めいた痛快な笑い声だけが勇者リズウィの寝室に響くのであった・・・
下品でスイマセン。ちょっとだけエロを書かせて頂きましたがシャズナがクソ野郎ということを示したく、このシーンを用意させていただきました。運営さん許してください・・・
さて、第六章のメインストーリーはこれで終わりとなりますが、久しぶりに次話にこぼれ話を一話追加します。これもお楽しみに。




