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第八話 シャズナの最期?


「くっそう、軍隊石サソリだ! 散会して対処しろ!! 尾の毒には石化の作用があるぞ。石化は神聖魔法使いの解毒では防げないらしい、注意しろよ!」


 リズウィは勇者パーティのリーダらしく、全員へ的確な指示を飛ばす。

 アークもその指示に素直に従いバックステップで距離を取る。

 敵との距離は開いてしまったが、この軍隊石サソリは魔物としても強敵に分類されるため、仕方がない。

 この軍隊石サソリは辺境近くの荒野が主な生息地とされているが、人の住む領域でもボルトロール王国ハナマス地方には存在していた。

 それは過去、ハナマス王国がまだ健在だった時代に国防の魔物として飼われていた経緯もある。

 この魔物は個体としての強さも有名だが、軍隊(・・)と名が付くように組織だった連携もできるため、魔物の中でも強い存在だ。

 過去にハナマス攻略戦のとき対峙した経験より、ボルトロール軍ではこの軍隊石サソリに対処するには、一体につき五名の兵力が必要だと認識している。

 出現した軍隊石サソリの数は全部で十体・・・これをすべて対処するには裏口攻略で集められた人員だけでは心細い。

 ・・・どうする・・・

 そんな短い迷いが勇者パーティ達の中に生まれる。

 それをジルバは見逃さなかった。

 

「ようやく我の魔法が活躍できそうだ」


 ジルバは喜々としてそう呟き、独特の声音で自慢の魔法の詠唱を始める。

 

「大地の水よ。水玉(すいきゅう)となり虫共に被り、息を断て!」


 ジルバ我流の龍魔法が滞りなく発動し、特大の水球五個(いつつ)が何もない空間に出現し、軍隊石サソリの身体に(まと)わり付く。

 

グボ・・・カバババ


 水球に覆われて、その中で軍隊石サソリは藻掻くが、水球の中に完全に閉じ込められた状態であるため脱出も叶わない。

 そして、五匹の軍隊石サソリが水中で仰向けに転がり多足をビクビクとさせる。

 空気が取り込めずに窒息死した形だ。

 

「スゲェ! あっという間に軍隊石サソリ五匹をやっつけちまった!」


 リズウィはジルバの鮮やかな魔法に舌を巻く。

 この軍隊石サソリは前述したように強敵の魔物であり、その甲羅は固く、物理的攻撃や魔法攻撃も通り難いため、苦戦が予想されていた。

 それをこうも簡単にやっつけたジルバの実力を初めて高く評価した。

 今までジルバとは単なる背丈の高い大男で、どこか浮世離れした変人だという印象が強かったが、戦闘のプロとして認識を改める必要がありそうだとリズウィは思った。

 そんなジルバより次の指示が出される。

 

「アークとリズウィよ。雑魚は我に任せよ。それよりも囚われの彼がいよいよ前に出てきたようだ。私が相手すると殺してしまう可能性があるかも知れない、なので彼の対処をよろしく願う」


 ジルバの言葉どおり、敵側の陣営を見れば、槍を(しな)らせてヤル気満々のシュナイダーが出陣してくるのが見えた。

 

「解りました。ジルバさん。シュナイダーさんの確保は任せてください」

「待て、アークさん。ここで良いとこを独り占めしようたって、そうはいかねぇーよ!」


 ここでリズウィはアークと競い合うように前に出てシュナイダーと対峙する。

 

「シュナイダーさん。目を覚ましてくれ!」


 リズウィはそう叫び、アークよりも先に出てシュナイダーの目を覚まさせようとする。

 シュナイダーの剛腕から繰り出される槍の攻撃を魔剣『ベルリーヌⅡ』で受け止める。

 

バン、バン、バーンッ!


 鋼鉄の武器同士のぶつかる打撃音が周囲に響き渡った。

 体格の良いシュナイダーから繰り出される槍は一撃一撃が重くて鋭い。

 そんな豪快な攻撃を正面から受け止めたリズウィも高い技量を持つ事が解る攻防。

 しかし、パワー感満載で攻撃してくるシュナイダーには圧巻の迫力があった。

 

「リズウィ君、名誉のためだけにシュナイダーさんの槍をひとりで受けようとしては駄目だ。僕も加勢しよう」


 ここで、アークが横から助太刀をする。

 銀色の剣を巧みに扱いシュナイダーの槍の一撃一撃を撃破した。

 

「あー、アークさん。本来ならば助太刀はありがてぇが・・・今日だけは俺に格好つけさせてくれねーか!」


 遠回しに助太刀は不要だと言うリズウィだが、それが現状にかなっていないのは誰の目でも明らかだ。

 それはシュナイダーの技量が卓越していた強者であるためだ。

 リズウィひとりでも苦戦する相手であるのは明らか。

 

ガンッ、ガンッ、ガンッ!

 

 アークはリズウィからの要望を無視してシュナイダーの豪槍を受ける。

 多少の使い手ならばリズウィに手柄を譲っても良かったが、それでも今の相手は強豪シュナイダー。

 しかも、今はシャズナより支配を受けて、リズウィを本気で敵として認識している。

 一切手抜きの無い攻撃だ。

 もし、これでリズウィが死傷でもすれば、ハルに申し訳が立たない。

 そんなアークの立場も解っているからリズウィも積極的にはアークの申し出を拒否できない。

 

ガンッ、ガンッ、ガンッ!

 

 手数に全く衰えのないシュナイダーはスタミナのバケモノ。

 永遠に続くように思えた槍の攻撃だが、ここで均衡が破られる。

 

ガンッ、ボキッ!


「拙い!」


 アークの使用していた銀色の剣が酷使に耐えられず、二つに折れた。

 ここでアークに隙が生まれる、そこに更なるフォローが入ってくる。

 アークの後ろから長い鞭が伸び、シュナイダーの槍に絡まった。

 

パシンッ!


「シュナイダー、止めなさい!」


 シュナイダーを厳しくそう咎める声は姉のリューダである。

 豪傑シュナイダーも姉の声には耳を傾けた。

 

「姉者・・・どうして俺の邪魔をする。それほどまでにこの男のことが大切か!」


 ここでシュナイダーはリューダではなくアークを睨む。

 紫色に輝いたその瞳はシャズナの支配魔法が継続している証しであり、シュナイダーと言うよりもその支配元であるシャズナからの怒りを代弁しているようでもあった。

 

「シュナイダーさん、目を覚ませ! シャズナの支配に抵抗しろ。拒絶しろ。アナタが属すのはシャズナ陣営ではない筈だ」

「煩い! 他人風情に俺達ゼルファ人の何が解る。お前など、槍の錆にしてくれる。そうすれば姉者も目が覚めるだろう。シャズナ様だけが俺達ゼルファ人の唯一の希望だという事を思い出すだろう」

「それは勝手な妄想。ゼルファ王国が過去にボルトロール王国に屈してしまった事は同情できる事実だが、それでもそれは支配層がゼルファ王家からボルトロール王家に変わっただけだ。聞けば、人々が不当に苦しんでいる事もない・・・故郷の人々は本当にゼルファ王家の復権を望んでいるのか?」

「それこそ、余所者の論理。我らゼルファの事は我らが決める。不当に支配されるぐらいならば全国民は死を選ぶべきだったのだ・・・それほどまでに我らは高潔!」


 そんな短絡的思考にアークは呆れる。

 

「それこそ、ふざけるな! 自決するならば支配者層だけで勝手にやればいい」

「ふん、貴様と喋っていても平行線よ。議論するのも時間の無駄。さっさと我が槍に貫かれて死ねばいい。そうすれば、姉者も目が覚める。我らの理想と希望はシャズナ様が唯一であると認めるのだ」


 やはりシュナイダーの思考は偏っており説得できなかった。

 シャズナと同じく独善的な思考に偏っており、一方的にアークとの論戦を破棄。

 その間、リューダの鞭の絡みは緩まり、槍が自由になったので、再びアークを貫こうとする。

 しかし、時間が得られたのはアークも同じだ。

 ここでアークは懐に忍ばせていた特別製の彼専用の魔法袋よりひとつの得物を呼び出す。

 そうすると、その得物は主人の求めに正しく応じてくれた。

 

シャキーーーン!


 そんな擬音が響くぐらい周囲の空気が切り裂かれる。

 ここでアークが取り出したのは漆黒に朱一閃が走る彼専用の魔剣『エクリプス』。

 

ガアァァン!


 エクリプスの一閃により、アークに迫るシュナイダーの豪槍を軽く弾き飛ばした。

 今までとは桁違いの威力で、シュナイダーの手が痺れる。

 

「ぐ・・・何だ。その威力・・・魔剣かっ!?」


 シュナイダーは自身の経験からここでアークが取り出した剣が普通でない事を理解する。

 黒い刀身に朱の一閃が輝く魔剣は非常に目立つ存在でもある。

 周囲からの注目が集まらない筈はない。

 しかし、そんな中でもリューダは特に慌てていない。

 何故ならば、アークが規格外である事は彼女の心の中で既に確定していたし、アークには既に多くの信頼を持っていたからだ。

 

「アークさん、構いません。ここでシュナイダーをやっつけてください。そうしないと彼は止められない。これ以上誰かを殺めるようならば・・・私はシュナイダーを・・・諦めます」


 そんな意見をアークは到底承服できない。

 

「リューダさん、諦めるのはまだ早い。彼はシャズナの魔法で不当に支配されている状態。リズウィ君、シャズナを討て! ここでシュナイダーさんは俺が止めておく」


 この状況でシュナイダーをアークひとりで止める事ができれば、リズウィは手が空くだろう。

 そのリズウィに支配主の討伐を提案する。

 

「けっ、何だよ。そんな魔剣を隠し持ってやがったか・・・後でいろいろと聞くからな!」


 リズウィはアークの扱う魔剣『エクリプス』の存在がとても気になったが、それでもこの好機(チャンス)を逃すほど勇者リズウィは愚かではない。

 

「うりぃァァァァーッ!」


 リズウィは少し離れたところでニタついていたままの仁王立ちしているシャズナに目掛けて飛ぶ。

 対するシャズナも支配の柄杓を掲げて魔力を(みなぎ)らせた。

 

「勇者よ、俺に支配されろ!」


 シャズナは自信満々に支配の魔法を発動する。

 

「だから、利かねぇ~って言ってんだろーがっ!」


 リズウィは、今、支配魔法を阻害する眼鏡型の魔道具を装着している事に加えて、魔力を吸収する魔剣『ベルリーヌⅡ』を使っている。

 負ける筈が無かった。

 

「とぉうりぃアァァァァァーーーッ!!」


 奇怪な雄叫びを挙げるリズウィ。

 気合が漲っている証拠だ。

 その彼が持つ漆黒の魔剣『ベルリーヌⅡ』も主人の意思を感じ取り、最大出力でシャズナの放つ支配魔法を吸収した。

 

シュィーーーーン


 まるで魔剣に水が流れ込むようにシャズナの魔力が次々と吸収される。

 そして・・・

 

シュバーーーン!


 リズウィの魔剣『ベルヌーリⅡ』の刃がシャズナに炸裂した。

 あまりの衝撃により、掲げていた支配の杓は爆散して、シャズナが着用していた衣服もその余波で破裂して飛散する。

 そんな必殺の一撃で、シャズナの肉体も原形を留めず爆散するかのようにして破壊されてしまう。

 

「やったかっ!」


 まるで手応えのない『ベルリーヌⅡ』の感触であったが、それでもシャズナを葬ったとリズウィは感じる。

 少し離れたところで、シャズナの支配を受けていたシュナイダーが呻き声を挙げて苦しみ始めた。

 

「ぐぉおぉぉーっ! 何だこの喪失感・・・力が抜けるーーーっっ!」


 シュナイダーはしばらく姿の見えぬ敵に対して槍を振り回していたようだが、やがて力尽きて、その場にへたり込んだ。

 

「やったかっ!?」


 これでシュナイダーを支配していた魔法が解かれたと思い、シャズナを撃破できたと確信するリズウィ。

 

「リズウィ君。まだ、終わっていないぞ!」


 アークの注意を聞き、シャズナの他に反乱組織幹部クラスのグリッサンドとオラグールが残っていた事を思い出すリズウィ。

 そして、彼らに魔剣を向けるが・・・

 

「フフフ、シャズナがやられてしまったようだ・・・口惜しいが、我らはここで引かせて貰おう・・・」


 ふたりは既に光の魔法陣に包まれた。

 

「コラ、待て! 逃がさねぇー!」


 転移魔法で逃げようとするのを阻止しようと、リズウィが魔剣『ベルリーヌⅡ』に魔力吸収を命じるが・・・

 

「あれれ? 魔力吸収が発動しねぇ・・・壊れたか?」


 そうしているうちにグリッサンドの転移魔法が完成した。

 

ヒュン!


 グリッサンドとオラグールは光の粒子に変換されて転移による離脱を成功させる。

 最後まで彼らの顔がニヤけていたのが特に印象に残る。

 

「畜生、ムカつく! 糞野郎め!」

「リズウィ君、深追いするな。あそこまで完璧に転移魔法が発動してしまえば、ハルじゃないと追いかけられない」

「えっ!? 姉ちゃん、そんな才能まであるのか?」

「・・・いや、光の魔法に精通した魔術師でないと対処できないと言う意味だ」


 アークは回答に困り、そんな言い訳をする。

 転移先の座標を察知する・・・それは白魔女になったハルぐらいにしかできない。

 ここで思わず口を滑らせてしまったが、それでもハルが白魔女であるという事実はこのメンバーにはまだ秘密にしておいた方がいいと思った。

 

(研究所では自分の正体を暴露したと手紙に書いてあった。もしかすれば、リューダさんは解っているかも知れないけど・・・まだ公には秘密でいいだろう。自分が漆黒の騎士である事もまだ内緒にしている。バレてしまったのはこの『エクリプス』ぐらいだから、まだ言い訳もできる範囲だ)


 短い時間にそう考えて、あまり余計な事を言わないようにするアーク。

 

「そんな事よりも、よくやった。反乱組織の大幹部シャズナ・ロックウェルを討伐できた。ほら、シュナイダーさんの支配魔法も解除されたようだ」


 アークの指摘どおりシュナイダーに視線を向けると、彼はリューダに抱かれて介抱を受けていた。

 まだ支配魔法の強制解除のショックから立ち直れていないのか、眼が痙攣し、左右の眼球が不規則に回っている状態。

 しかし、それでも瞳に宿っていた紫色のオーラは消え去り、支配魔法が解けた状態である事を示している。

 

「うむ。やったな・・・う!」


 リズウィが安心したところで、ドッと疲れが現れた。

 

「リズウィ~、大丈夫!?」


 アンナが駆け寄り、ふら付くリズウィの身体を支えた。

 

「悪りぃ~な。ちょっと飛ばし過ぎたみてぇ~だ」


 リズウィはそう強がり、何でもないと魔剣『ベルリーヌⅡ』を杖代わりに立ち上がった。

 周囲を見渡すと、軍隊石サソリは既にジルバとスレイプ、ローラによって掃討が完了しており、ウリカンブル修道院の制圧はほぼ完了している状況。

 反乱組織『名も無き英傑』に協力していたウリカンブル修道院の修道僧達も観念しており、これで一件落着となる。

 

(シャズナ・ロックウェルは討伐され、シュナイダーさんも取り返した・・・なのに何だ? この焦燥感は・・・)


 アークは心の底で何かが警鐘を鳴らしていた。

 しかし、その理由を説明できない。

 アークはこんな時にこそ自分の勘を信じようと思った。

 何か見落としているものは無いかと必死に考えて・・・そして、ある可能性に気付く。

 

「どうして、アイツらは最後に笑っていた? どうして、シャズナがピンチの時、仲間が助けに来なかったんだ?」


 アークが気になったのはシャズナ・ロックウェルの最期だ。

 最期までニタついていたシャズナの顔。

 それは何かに期待し、そして、その何かが成功した顔のようにも思えた。

 加えて、グリッサンドとオラグールの撤退行動の早さ。

 まるで初めから用意されていたような筋書き――まるで自分が演劇の舞台の上にでも立たされているかのような違和感・・・

 

「何故だ? 何かある・・・と思うが・・・解らない・・・」


 アークは必死にいろいろ考えるが、それでもこれ以上の推測もできず、心の中にもどかしさだけが残るのであった・・・

 

 

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